幻立喰・ソ

幻かと思ったら……早ガッテン承知の助の危険

 いつもシャッターが下りている立喰・ソ、時々見かけます。色褪せた看板を見るたびに胸がきゅんとなったら、それは恋かもしれませんが、心筋梗塞の疑いもあるのでお医者さんに相談しましょう。近所にある町医者のおじいちゃん先生の診断は、いつでもほぼ「軽い風邪ですな。暖かくして寝ているように」ですけれど。
 恋でも、心筋梗塞でもない貴方は、幻立喰・ソ人です。胸を張って足を上げて「ほら、私って幻立喰・ソな人だから」と宣言し、周囲の人を困惑させましょう。困惑してくれる人がいないあなたは、常に小声でつぶやきましょう。多くの人が狼狽してくれるはずです。

一見すると現役立喰・ソですが、残念ながら幻立喰・ソとなってしまった遺構の数々。

 という傍迷惑なことなどみじんも考えず、心を広く持ちましょう。そう、北海道のように。ことさら広い北海道は、そばの収穫量が日本一なのです。長野だと思ったでしょ? 長野は第二位ですが、5倍近くの差があります(データは2010年度)。昨今そばの作付面積が増加し、おまけに大豊作で供給過剰となり、今年は価格が下落しているそうです。ガソリンと違って小売価格には反映されにくいのですが、とりあえずどんどん食べて消費しまくりましょう。
 それではソ消費に貢献する購入量が日本一はどこでしょう? こんどこそ長野! じゃないかと総務省統計局の家計調査(宇都宮vs浜松餃子戦争の源になったあれです)を紐解きます。ところが、こともあろうかなかろうか「生うどん・そば」、「乾うどん・そば」と、兄弟のようで実はまったく縁もゆかりもないアカの他麺(社会主義系の麺ではなく)であるソとウを十把一絡(ある人は「十羽一唐揚げ」と書きました。言い得て妙です。鶏嫌いの私はぞっとします)にしています。まるでCBR400R(最新)とCBR400R(エアロ)を「同じじゃん」と言い切るような、超お役所仕事です。この結果、生は高松市、乾は秋田市が第一位になっています。要潤でなくとも、誰が見ても高松は讃岐うどん、秋田は稲庭うどんの購入量に決まっています。さすが日本三大うどん。購入量がソとはケタ違いに大量ということでしょう。ちなみに三大うどんのあとひとつ、水沢うどんの前橋市は生12位、乾9位です。昨年のMotoGPにおけるドゥカティを見るようで、もうちょっとなんとかならんのかという気になる順位です。ちなみに本命だったソCITYの長野市は生8位、乾18位、北海道(札幌市)に至っては生42位、乾43位と、まるでハリスWCMみたいな順位で納得いきません。外食部門に目を移しても、これまた「日本そば・うどん」と同一ジャンルになっているので、高松市が第一位です。他県が「ふ〜ん」と冷静でも、頑なにうどん県、うどん駅と言い張るだけの事はあります(すべて2010〜2012年平均ランキング)。

 と、ここまできて、ウだけにびっくり水を差すようで申し訳ないのですが、実はこのデータ、県庁所在地と政令指定都市だけを対象としており、うどん県の100倍ウを購入している隠れ日本一が深く静かに潜んでいる可能性も否めないのです。あきらかに特定都市をアシストしているような「しゅうまい」「カステラ」「牡蠣」「うなぎの蒲焼き」「緑茶」「ちくわ」「しじみ」等は細かく調査しているのに、立喰・ソには無関心。「そんな些細なことはどうでもいい。標高が高いから」と思っているのか、長野市がこの仕打ちによく黙っているものです。

 ということで、人口に対して立喰・ソ率が高そうな市を見つけました。北海道は道央と道北の境目あたり、でも7:3で道北寄りかなという、クリステルなT市です。人口43,170人(2010年現在)のこの町の中心、JR函館本線T駅周辺に立喰・ソが6軒もあったのです。立喰・ソ比は7,195人に1軒。これが多いのか少ないのか、実はかなりの立喰・ソ率と言えそうです。
 東京都で最も人口が多い世田谷区の場合、人口865,203人(2013年5月現在)に対し、かなり多めに見積もって立喰・ソは50軒(実際にはこの半分以下だと思いますが、データがないので)として、約7,485人に一軒ですから、T市はサザエさんの世田谷に肉薄する立喰・ソ率です。と例まで出しておきながら、水を差すようで申し訳けないのですが、世田谷区は都内屈指の立喰・ソ不毛地帯だったりしますから、あまり参考になりません。危うく「母さん助けて詐欺」のようにダマされるところでした。これを逆手に取った「父さんは助けてくれないの? 詐欺」が流行しないことを願いつつ、もうちょっと使えそうなデータを探してみました。
 特急も停まるT駅の一日あたりの平均乗降者数は3,300人(少ない! と思ったあーた、北海道一の札幌でも9万人以下ですよ。ちなみに同じJR北海道の石北本線上白滝駅に至っては、たった1人です!)。対して東急三軒茶屋駅は122,782人(2010年)。三茶のまわりには多めに見積もっても立喰・ソは10軒くらいでしょう(実際はもっと少ない)。ということはT駅周辺にいかに立喰・ソが密集しているか分かっていただけたこととお慶び申し上げます。

 
 そんなT市に密集する6軒をざっと紹介しましょう。例によって現役店はイニシャルです。
 一番手は駅待合室にあるソ(名称不明)。いつも人がまばらで常に暇そうで、主がいないと思ってのれんをくぐると、ごろんと横になっているくらい暇です。残念なのは取材拒否というか、昔、ネットで嫌な目にあったとかで撮影禁止なのです。人づてに聞いた話では、メニューにない商品をネットに掲載され迷惑したとか。こんな暇そうなのに? と思いますが、よほど腹に据えかねたのでしょう。主の心の底までは分かりません。私を怒鳴りつけた例の某店店主も、そんな経験があったのかも知れません。まあ、こころがスーパーナローな私は一生忘れませんけど。
 国道沿いに僅かな距離で並んでいるのは、暗い話から一転し、気さくなおっちゃんが見事な技で具のない天ぷらを揚げる全品240円均一のSと、その先で全品280円均一M。ほとんど常連さんで、一見さんには理解不能な注文が繰り出す相変わらずの繁盛っぷりで嬉しい限りです。
 国道が交わるその名も銀座通にあるBは閉まっていました。単に定休日だったのかもしれませんが、店頭のお品書きの値段がすべて消されていたので、幻立喰・ソになってしまった懸念も残ります。
 がら〜んとした空きテナントだらけの駅前ビルでがんばっていた花霧(閉店時は花いち食堂)は、昨年11月惜しくも幻立喰・ソになってしまいました。
 最後の1軒は、駅の横にあるバスターミナル前にIという看板が出ているソです。いつも(昼間は)シャッターが下りていて看板もかなりヤレていますから、とっくに幻立喰・ソの遺構だと信じて疑いませんでした。いくらなんでもこの小さな町に6軒は供給過剰だったのか……と、一度も口にも目にも、もちろん鼻に耳にもできなかったIのソに、忸怩たる思いを馳せたことでした。

花霧 花霧
花霧 花霧
T駅前の再開発で誕生したその名もスマイルビル。スマイルどころか、ご多分に漏れず地方都市を容赦なく襲うドーナッツ化現象で悲しいほどがらがら。1階のかなり広い面積を占めていた花霧(上の写真下段右以外すべて2007年10月撮影)。太めのそばにダシの効いたまろやかなおつゆの出色の逸品でした。しかも、かしわ、たぬき、きつね、月見、冷やし、天ぷら(しかも写真上右のように、北海道一般仕様の具無しではなくたまねぎとかニンジン入り)が全品230円均一、全部入ったスペシャルでも380円という涙ものの価格設定でした。いつの頃か花いち食堂に変わりましたが価格は据え置き。しかし残念ながら昨年11月で幻立喰・ソ入り。お知らせの貼り紙はいつ見ても悲しくなります。(上の写真下段右は2013年4月撮影)
T駅のソ B
T駅待合室内にある立喰・ソ(左・店名不明)は、カウンターに撮影禁止マークが貼ってあります。気づかずソの写真を撮っていたら主にマークを指差されましたが、件の某店某オヤジのごとく怒鳴ることはありませんでした。右は銀座通にあるB。定休日と思いたいです。(2013年4月撮影)
S M
T市の両雄は、240円均一のS(左)と280円均一のM(右)。花霧も230円均一でしたし均一価格はT市名物でしょう。「どうせなら価格も全店で揃えたら」思うのは素人考え。そんなことをするとヤミ立喰・ソカルテルと疑われ、原発事故で、指導管理はするくせに責任はとらないダメ省庁っぷりがばれてしまった旧通産省がしゃしゃり出てくるかもしれません。こんなに安くていい店が二軒もあるなんて激しくうらやましいです。(2013年4月撮影)
S ソ
見事に具なし天ぷらを上げるSのおやっさん。件の某店の某オヤジとは異なり「ナンボでも撮ってくださいな」と快諾していただいたのですが、あまりの見事な仕事っぷりに震えてブレブレ写真で申し訳けない(見え透いた言い訳)。北海道立喰・ソの天ぷらといえば写真右の天ぷらそばのような、ほぼ具のない揚げ玉の集合体が一般的です(これは北海道I駅前の名店Kの天ぷらそば。そういえばここも均一価格だった)。食べているうちに溶け出して揚げ玉が流氷の如く表面を覆うわけです。するとおつゆに油膜ができ厳寒期でも(もちろん夏季もですが)温度が下がらずおいしくいただけるという寒冷地仕様なのです。それはいいのですが、溶けるとたぬきになるのに、たぬきもメニューにラインナップされているのが北海道立喰・ソの七不思議(あとの六つは募集中)。(2013年4月撮影)

 先日、LCCと鈍行列車と有給を駆使しまくって噂の旭川ゲソ丼&立喰・ソ攻略作戦を敢行しました。ライダーにお馴染み、大盛のHCや、最近名前が判明したTU、ホントにこれが店名なの? のSSやMDを無事訪問し、耳からゲソ、鼻からソ、目からおつゆが出そうな状態で帰途の途中、20時過ぎにたどり着いたT駅で30分ほど列車の乗り継ぎ時間がありました。閉まっている時間ですが、せっかくなのでSやMを見ておこうかとぶらぶら歩き出しIの前を通りかかると、シャッターが上がって電気が灯り、のれんも出ているではないですか。
「!?」マジですかマジすっか、ありえね〜なんですけど、ですけど。
 昼間でもほとんど人が歩いていないのに夜だけ営業してたんですか。ひょっとしてキツネとかタヌキとかその辺うろうろしてましたかと、素直にびっくりぎょうてん。前記のようにソ満一発触発状態(関特演直前のソ連と満州国境の緊迫した状態ではなく、ソが満タンで逆流大惨事寸前の状態)でしたし、もしかして、たぬきそばときつねそばしかなくて、はっぱのソを食べさせられたら(はっぱと言っても職質で発見されると一転してブチ切れそうな人がセカンドバックの中に忍ばせているアレではなく、由緒正しい枯葉の方)と怖じ気づいて入れませんでした。次にT市を訪れるまで、幻立喰・ソにならないことを節に願っております。

 この手の隠れ幻立喰・ソは、都内板橋区でも確認されています。先入観で物事を判断するのがいかに危険な事であるか、立喰・ソ道の奥深さを実感し、北の大地をあとにしました。翌日、札幌でなぞかけのような立喰・ソを発見しましたが、それはまた別の機会に。

I I
たいへん失礼かと思いますが、どうひいき目に見ても幻立喰・ソにしか見えません(左)。それが夜になったらご覧の通り(右)。立喰・ソ道は奥が深いんです。(2013年5月撮影)

■立喰・ソNEWS

●キワモノで終わるのか?
それともロングセラーに化けるのか?

 誰もが知っているペヤングソースやきそば。ある人は四角い顔の桂小益を、またある人は志の輔師匠と山田隆夫を、マニアは井筒監督を思い浮かべることでしょう。大盛、超大盛もコンビニでよく見かけます。赤いパッケージの激辛も時々見かけますが、黄色いパッケージの激辛カレーや、マンガとタイアップした濃厚ソース味ヴァンガードとなるとあまり見かけません。ラーメンのペヤングヌードルもマニアックです。そんなマニアックなペヤングに新たに加わったのが青いパッケージの焼き蕎麦。やきそばではなくて焼き蕎麦です。

焼き蕎麦

 
 テレビコマーシャルもやっているイチオシ商品です。しかし焼き蕎麦ってなんですか? そもそも焼きそばって言葉自体、よくよく考えると不思議な言葉です。焼きうどん、焼きラーメンは字の如くですが、焼きそばのそばはそばと書いても蕎麦でなし。あえて言えば焼きラーメンと言うべきことから考察すると、中華そばの流れでそうなったのではないでしょうか。今までありそうでなかった焼き蕎麦とは? 百聞は一見にしかず早速食べました。
 むむむ! この味はなんと表現すればいいのか、味わったことのない不思議な味。結構このみでクセになりそうです。幻ペヤングになりそうな雰囲気も漂っていますので、箱買いしておきたいです。ちなみにペヤングの公式サイトはCMギャラリーなどなど、必見です。


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在600店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べただけではたいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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