森:正直、何とかギリギリのところでまとめ上げた、今回は色々と寄せ集めで作った所もありましたから。様々な改善の余地があります。
松井:寄せ集めバイク(失礼!)で7位、という結果については?
森:正直、もう少し高い所を狙っていました。モロッコラリーでのステージ優勝や、モロッコでのトラブルを解決していけばダカールもいけるのでは、と思っていました。ただ、ダカールも1日、2日目、と段々にそう甘くないぞ、となってきました。
山崎:森の続きになりますが、モロッコでのトラブルを対応して解決しました。ダカールの時も日程的には厳しいながらも車検を受けて、スタートまでに全部やり切ったんです。それで100%やり切ったな、と。これはいけるはずだと、と思っていたんです。ただ、南米での事前テストが出来ないし、実際始まってみると、僕達が想定したよりも厳しかった。ですから燃費も予想よりも悪かったし、予想外の事が起こっている。今回、ダカールの期間中、14日間の内、前半11日間は何かしらのトラブルが起こっている。そのくらい、モロッコラリーを通じて我々がイメージしたダカールよりも現実のほうが格段に厳しかった。それが分ったんです。
そこまでは完璧にやり切っていた。寝ずに頑張ってスタートまできました。でもスタートしたら準備段階で考えていたダカールよりもはるかに厳しいものがあったと。成績は悔しいです。スタートしたら勝つつもりでいたものが、これはちょっと厳しいね、どうも違うね、と。それを二週間勉強して来たんです。だから終わったときは悔しくてしょうがないですよ。
松井:もしそうしたトラブルがなければ……。
山崎:何か壊れる可能性があったとします。それが100個あったとしても短いレースでは起こらないかもしれない。でも、ダカールでは2週間以内に必ず起こる。100個壊れる可能性があれば100個全部潰しておかないと必ず起こる。直さないと次に行っても必ず起こる。そういった部分、過酷なんですよ。だから全部直さないと勝てない、そういうレースである、という認識です。現在、僕達の認識はとても厳しいです。
例えば、通常はない外的要因によりセンサー配線部に不具合が出てセンサーにトラブルが出てしまう。そんなこと普段では考えられません。でも自然の摂理というか、2週間走っているといろいろな事が起こる。だから、それを全て潰して次に勝つ積もりで臨んでいる。そういう覚悟がないと出来ない。ということなんですよね。勝つつもりでやるなら、これでもか、とえげつなくやらないと勝てない。
そこまでやればおのずと感動もある訳です。適当に済ませると適当な感動しかないですから。人材もそうです。ここで突き詰めれば本物ですよ。チームのみんなはそんな事を思いながらやっています。だからこそ、来年は勝ちたいねと。表彰台を独占したいよね、と。
宮崎:私も表彰台の上に登りましたが喜んでいる姿なんか見せられない、と。後ろのほうで手を上げていましたが、悔しくてしょうがなかった。なんとかゴールできたことで安心もしましたが。
かつて創業者の本田宗一郎は「人間のすることだから、100%を目指しても1%やそこいらはミスをする。だから、絶対に不良品を出さないためには、120%の良品を目指さなければならない」と言いました。ダカールではそれが150%位。その位の信頼性を持たせ、さらに性能も上げないと大きなトロフィーはもらえないと思っています。
山崎:今回のトラブルは、ガス欠にしても、あんな所のセンサーが切れるのだって予想外だった。でも弱いところ、弱いところ、を突いてきますよ。
宮崎:楽観的に考えれば、神様が「まだまだだよ」と頭を叩いてくれた。ダカールは甘くはないよという意識でいます。
山崎:今はそうした事を全て潰していくつもりでいます。でも、来年の今頃を予想すると「何であんな事がおこったんだ」となっているかもしれない。それが人のモチベーションであって、だからやられてもやられてもまたレースにでていくんですよね。我々も向上しますが、競合他社も仕上げてきますから。それこそ30分間に20人が入るようなレース展開になるかもしれない。
だから、メンテに時間を取られるようなら、勝負にならないかもしれない。
松井:今年のダカールで驚いたのはKTMがエンジン交換を前提にしていなかったこと。Hondaが参戦した事でエンジン交換をして15分のペナルティーが科せられることすら避けてきた。
山崎:壮大なゲームですよ。主催者はラリー中盤のレストデイの前に難易度の高いコースを作ったり、勝負を掛けようと思ったステージが運悪く雨でキャンセルになったりとか、予測が非常に難しい。色々な弱みを狙ってやってくるし(笑)。それを乗り切るチームワークは必要だし、優秀なスタッフも必要です。
松井:そうした罠に捕まらないようにするには何が大切ですか?
山崎:素直なことでしょうね。全て受け入れることでしょう。自分達の実力もまだまだだったね、KTMは素晴しかったね、と受け入れないと前に進めないですよね。勉強しましたよね、そうしたことを。
宮崎:何処まであきらめないかも必要ですね。これでもか、これでもか、とやらないと駄目。その点、このメンバーは大丈夫だと思いますが。それでもまだ足りなかった。
山崎:しつこさは必要だよな。
松井:壮大な草レースだけに相手が大きいというものありますよね。