DAKAR2013 ホンダの挑戦 チームメンバー達のダカール・後編

HONDA

松井:話を戻しますが、ラリー中、マシンのアップデートもどんどん進んだのですか。


山崎:今年はそれほどでもないです。将来的にどんどん進むでしょう。

松井:ビジョンとして市販バイク、キットバイクを出すとか? その性能はどのぐらいを目指すのか。完走、入賞、上位争いですか。


山崎:バイクの仕様はお客様が決めるべきものだと考えます。例えば今年、昨年までならレストデイにエンジンの交換が当たり前だったのに、今年は殆どのライダー、メーカーがエンジン交換をしてこない。来年はエンジン交換なしで走ることが期待値です。メンテナンスもプライベーターはしたくない訳ですよ。となると、そうした部分をしなくても済むバイクを提供する。それが市販車へのフィードバックという我々の使命です。それが目標であってビジョンです。
 例えばトップテンのライダーのタイム差は1時間以内に10人ぐらい入っている。何年か前は数時間だった。それが今はワンミスで差がついてしまう。こうした傾向は強まるでしょうね。
 このマシンに乗っていればメンテナンスの必要度も低く性能もいい。レースを楽しめますよ、と。初期投資以外の部分にコストを掛けることなくする事です。そうした良くできたバイクをベースにしたワークスマシンでレースをすれば良いわけです。そうすれば日本人ライダーも出てくれるでしょう。

松井:同じ1月のレースでも、EXP-2の時代は、冬のサハラがラリーの舞台でした。今は夏の南米、アタカマが舞台、そうした季節の違いは大きいですか。


山崎:確かにパリスタートは寒かったですね。今回、気候的に寒いということはありませんでした。昔サハラでは道がないので飛行機での移動がありましたが、南米では一般道を多いときで800キロぐらい移動します。むしろ、その方が大変でした。
 大変という反面、毎日景色が変わるから、楽しみ、というのもありました。冒険心、アドベンチャーというのは変わらないですね。気温差は少なくなったかもしれませんが、標高はゼロメートルから4800メールまであります。移動距離も長い、見たこともない風景が出てくる。
 それに移動をするサポートカーにもGPSがついていて、最高速も制限されますし、サポートカーが速度違反をすると、ライダーにペナルティーが科せられる。ライダーだけではなく一体感、チームワークというのは必要ですよね。参加意識はメンバー全員がライダーと同じように持っていたと思います。

松井:移動は楽しまれましたか? 皆さんはいかがでしたか?


森:見たことのない景色、山々が5000、6000メートルというのが続く景色をみながら、標高の高いところでは高山病になるスタッフもいたり。また、沿道で見物をする人がものすごく多く、連日70万から80万人という人が沿道で見ている訳です。その人達がレーサーではなくてもサポートでも分け隔てなく声援を送ってくれる。ああ、ダカールラリーに参加しているんだ、という気持ちになりました。


宮崎:サポートカーがガソリンスタンドに入って停まっただけで、子供達がワッと集まってきて、サインをしてくれ、写真を撮ってくれ、と。本当に俺たちで良いのか? と。白いかわいい服を着た子供がここにサインをくれ、と言われて、こんな服を汚してお母さんに怒られないのかな、と思ったり。

松井:国による熱さのちがいは?


山崎:1位はアルゼンチン、2位はペルー、3位はチリでしたね。アルゼンチンは圧倒的に熱い。熱狂的です。お国柄でしょうか。アレは行かないと分らないかもしれません。


野口:沿道の箱根駅伝状態が百数十キロ続く……。


宮崎:ビバーク地でも夜遅くまで多くの人が見物していましたね。


山崎:見物人の数は桁違いですね。ビジネス化している部分もあると思いますが、あれだけ人が動くと金も生みますよね。国もお金を払っているし、ASO(ダカールラリー主催者団体:アモリ・スポル・オルガニザシオン)もお金を儲けている。上手いですよね、主催者も。


森:各地の観光局とタイアップして、ビバーク地には毎晩多くの出し物も用意されていました。それだけ、向こうの地域もビジネスチャンスとしてとらえているんでしょうね。毎晩何かのショーや踊りとか音楽とか流れていましたし。一度も観には行けませんでしたが(笑)。


山崎:日本人のチームが出来たら面白いですよね。ライダーはこうした人がいますよ、我々はバイクを出しますよ、色々なメディアはこんなカタチで雑誌やテレビが動きますよ、とダカールへの参加が出来れば面白いですよね。

松井:ダカールの熱狂を伝えるにはそうした手段も必要ですね。


山崎:動画もずいぶん出回っていますが、もう一歩踏み出せれば良いですよね。

松井:2014年のラリーに、皆さんは現地に行く予定ですか?


山崎:(皆のほうを見て)行くんじゃないですかね……。


森:行きたいですね……。


野口:自費でも行きたい。それぐらい苦しかったけど楽しかった。

松井:HRCの社長、鈴木哲夫さんは、2月8日に行われた“2013年Hondaモータースポーツ活動計画発表会”前の取材会で、「草食系なんて言われているけど、若い人たちがダカールでは本当に頑張ってくれた」と話していました。


野口:二輪専門誌でその記事を読みました。

松井:今回はダカールラリーという現場でしたが、仕事の中ではこうしたスリリングな場面も実は珍しくないものですか?


野口:僕は去年の6月までプライベートでも海外に出たことがなかったんです。所属部署の上の人に「これが海外初めてだから楽しみなんです」と話をしていたんです。それがブラジルだったのですが、帰国して報告の電話をすると「来週からモロッコ出張よろしくね」と言われ「え!モロッコですか……」と。去年の6月から6回海外出張に出ているんですが、まさかそんなに急に海外に行くようになるとは思いませんでした。人生が180度変わりました。

松井:森さんは?


森:旅行が好きなので、ペルーも二回目でした。でもモロッコの暑さはびっくりしました。食事などは問題ありませんでしたが……。


宮崎:私の場合、アルゼンチン現地法人用のキットバイクを持ち込んだテストがあってダカール関連のテストはそれが初めてでした。モトクロスやロードレースでの海外経験がありましたが、ダカールのようなスタイルの海外は初めてでした。



一直線の道。標高が高いアンデス山脈を超す日には「雲が近い」ということを実感したという。サポートクルーはパーツを乗せたカミオン2台、写真のリッジライン、ライダーが宿泊するキャンピングカーなどに分乗して移動した
一直線の道。標高が高いアンデス山脈を超す日には「雲が近い」ということを実感したという。サポートクルーはパーツを乗せたカミオン2台、写真のリッジライン、ライダーが宿泊するキャンピングカーなどに分乗して移動した。


サン・フランシスコ峠の碑の前で記念撮影。5000メートル近くある高地。こうした場所を通過するのも南米ダカールの特徴だ
サン・フランシスコ峠の碑の前で記念撮影。5000メートル近くある高地。こうした場所を通過するのも南米ダカールの特徴だ。


サポート隊の大移動は舗装路だけとは限らない。ダートの道では延々ホコリの中を走る事になる
サポート隊の大移動は舗装路だけとは限らない。ダートの道では延々ホコリの中を走る事になる。


まるで素堀のようなトンネルを抜け、砂漠地帯を貫く道を行くサポートチーム
まるで素堀のようなトンネルを抜け、砂漠地帯を貫く道を行くサポートチーム。


飛行機で移動するクルーもいる。その飛行機はまるで輸送機。通勤時間帯の路線バスのような混雑した様子が分かる
飛行機で移動するクルーもいる。その飛行機はまるで輸送機。通勤時間帯の路線バスのような混雑した様子が分かる。


キャンプ地、ビバーグではスタッフはテント泊、ライダーはキャンピングカーでの生活を送った
キャンプ地、ビバーグではスタッフはテント泊、ライダーはキャンピングカーでの生活を送った。


ペルーのビール(ダカールパッケージ!)、チリのワインとともに楽しむ夕食
ペルーのビール(ダカールパッケージ!)、チリのワインとともに楽しむ夕食。


ショコラ、オレンジジュース、パスタ、スクランブルエッグの朝食
ショコラ、オレンジジュース、パスタ、スクランブルエッグの朝食。

松井:ロードレースはどんなレースだったのですか?


宮崎:スーパースポーツを担当していたので、そのクラスのレースと、NSF250Rも私が所属する部署で作ったのでテストをさせてもらっています。そちらは全日本ですが。

松井:ダカールに行きたい、という研究所の人は増えるでしょうね。


宮崎:オレにも行かせてくれ、という人が増えて欲しいですよね。そのために帰ってきてからラリーでの出来事、レースのこと、レースだけじゃないその他の事も含めてこんな事があったよ、というのを部署で発表したんです。

松井:心に火はついているんじゃないですか。


野口:僕達が死にそうな顔して仕事をしているのを見ていると、二の足を踏む人もいるかもしれないですね。



キャンプ地には簡易トイレ、簡易シャワーのボックスが並ぶ。ゴミはもちろん、分別。アフリカ時代の満天トイレではない!


キャンプ地には簡易トイレ、簡易シャワーのボックスが並ぶ。ゴミはもちろん、分別。アフリカ時代の満天トイレではない!
キャンプ地には簡易トイレ、簡易シャワーのボックスが並ぶ。ゴミはもちろん、分別。アフリカ時代の満天トイレではない!