エンジン形態学

BMW

 伝統のフラットツインは、1923年にR32がデビューして以来、今日まで生産され続けている。はたして、ドイツ陸軍と密接な関係にあったBMWは、ナチス政権時代にアウトバーンにおいてOHVフラットツイン+スーパーチャージャーの750ccが、100ps/6000rpmの性能数値をもってして、256.06km/hの世界最高速を記録している。さらに1936年に500ccのフラットツインはDOHC化されて108ps/8000rpmとなり279.503km/hと、その記録を塗りかえているのだ。
 気が付いて欲しい事実がある。OHV750ccで100psとすると、500ccならば単純計算で67psが可能だ。さらにそれをDOHC化して108psならば、そのコスト高はかなりのものとなる。どうせならOHVのままでスケールアップしたほうが、容易にパワーが求められる。という、ドイツ合理主義のもとに、今日に至るまでフラットツインは依然としてOHVユニットを利用し続けている、ということなのだ。
 たとえば、1976年AMAスーパーバイクシリーズで、R90S改造レーシングマシン=ノーマル補強フレーム+ハイカムシャフト・エンジンがヨシムラZ1よりも速い! という結果があり、その年BMWのフラットツインはそのシリーズでチャンピオンシップを手中に収めている。OHVフラットツインが、DOHCインラインフォアのZ1よりも優れている───というのは、今から考えれば信じ難いことであるかもしれないが、それは明らかな事実だったのである。
 このことこそが、その合理主義と徹底した職人気質を持ったメーカー・BMWが生み出した、不世出のユニットたるべきフラットツインの底力、と解釈できるのだ。