燃料は「カセットボンベがいいね」と君が言ったから3月上旬はサラダ(CG)記念日

ホンダ

5分では解らないかもしれないけど、まずはホンダ小型耕うん機の歴史

 ホンダ独自の調査による推定では、我が国で家庭菜園やガーデニングなどなんらかの形で土いじりをしている人は約3000万人! 日本人の10人に3人は土いじりをしている計算になる。とはいえ、この数字には鉢植えオンリーというような、チマチマ、もとい、ささやかな土いじり人口も含んでいる。小型耕うん機ユーザーになりそうな3坪以上の土地で土いじりをしている人はといえば、約1200万人もいるという。日本人口の約8%以上、さすが農耕民族日本人のDNAを実感する。狭いながらも楽しい家庭菜園。最高の土壌を作るべく、よりよい道具が欲しくなるのが道理だ。趣味だから、きゅうり1本当たり500円、トマト1個当たり800円の高コストでも全く気にしない。
 家庭菜園は増加しているが、プロの農家は減少と高齢化が進んでいる。国家百年の計を考えると大問題だが、農業政策まで論じる余裕も知識もないのであっさりと割愛する。プロ農家でも大型農機をもてあまし気味で、小型機への移行が進んでいる。ダウンサイジングの波は農機とて例外ではないのだ。かような事情が現在推定200万台規模といわれる小型耕うん機市場を活性化させている。少子高齢化の日本では珍しくさらに拡大する余地がある有望なマーケットなのだ。と、知ったような状況分析をしてみたが、大筋では間違っていないはず。

 小型耕うん機といえば、農機マニアじゃなくても名前くらいは聞いたことがあると思う「こまめ」。登場は1980年で、以後20年間一度もモデルチェンジをせず(正確には’83年に70ccから90ccへ排気量アップによりF200からF210へと進化したが、外観はほとんど変わらず)、日本、北米、欧州で55万台以上が販売されたベストセラー小型耕うん機だ。
 と、これは農機新聞や農経しんぽうを見るまでもなく、そこそこ有名な話。実はこの初代こまめよりも前の1974年に、ホンダは女性専用のティラー(小型耕うん機のことを指すらしい)として、こまわりF20を発売している。「死刑!」の決めゼリフの変態少年警察官を思い浮かべてしまうインパクトのあるネーミングなのだが、小型とはいえ一般的な耕うん機スタイルを脱しておらず、後のこまめに比べれば爆発的人気には至らなかった。しかし、家庭菜園や小耕作地の機械化という「一台の耕うん機にとっては小さな一耕しだが、小型耕うん機市場にとっては大きな種まき」となったことはかのアームストロング船長さえ御存知ない。
 このようにホンダは30年以上も前から小型耕うん機市場に着目し、種をまき、せっせと耕し続けていたのである。
 ちなみにホンダの汎用機は累積生産台数は1億台を突破し、今年60周年を迎える。リーマンショックでの落ち込みも急速に回復し、昨年は612万台を販売したそうだ。さすがはホンダ、あっぱれである。

 


F20
女性用ティーラーとして登場したこまわりF20。空冷2ストローク単気筒 49.8cc 1.65ps 1155×525×935mm 26kg 69000円 さらにこれより前の1966年に登場したF25は、折りたたみ式ハンドルで車のトランクに収納できる小型軽量タイプの元祖。本体はワンタッチで脱着可能で、汎用エンジンとしても使用できる多機能型だった。ちなみにF25は、世界初の空冷4ストOHCエンジンを搭載したエポックメイキングな耕うん機でもある。ホンダコレクションホールに展示されている(はず)。※スペックはエンジン型式、総排気量、最大出力/回転数、全長×全幅×全高 乾燥重量 発売当時価格の順(以下同)。


F200
初代こまめF200。空冷4ストローク単気筒SV 76cc 2ps/4200rpm 1060×585×960mm 25.5kg 78000円 パワーアップのためF210へ進化し、その後ロータリーこまめ、果樹園こまめ、セル付こまめ、茶園用こまめなどのバリエーションと派生版のこまめパンチ(107cc)、ミニこまめ(34cc)など小さいながら盤石のこまめ一族を築き上げた。


F220
現行の2代目こまめF220。空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 57cc 1.4ps/4000rpm 1115×585×975mm 27kg 94800円 陳腐化するどころか20年経っても売れ続けた初代だが、環境対策もありフルモデルチェンジ。その開発物語はこちらで。耕うん機界のスーパーカブ的存在として、今でも人気上昇中。

5分もかからずに理解できるサラダCG誕生に至る経過

 2001年、こまめがフルモデルチェンジし、2002年にプチなが登場。そして、2003年には革新的なフロントロータリー機サラダFF300を加え、車軸ローターの入門機プチなFG201、こまめF220。車軸ロータリーのパワフル機FG400/500スーパーパンチ、本格的リアロータリーのスーパーラッキーFU750、ラッキーボーイFU400など、猫の額から300坪クラスまで対応の幅広いラインナップが整った。テレビコマーシャルの名作「Do you have a HONDA?」シリーズの耕うん機アイドル編(憶えてる?)が放映された年でもある。「赤いのはトラクターではなく、ホンダの小型耕うん機」と誰もが思った大躍進である。だがしかし、中原理恵も唄っていたように、無い物ねだりの子守歌は世の常、人の常、いいかげんにしろよナベツネのごとく、ユーザーは思った。
「便利で楽しいけど、ガソリン買いに行くのがめんどくせえ〜」
 たしかにバイクや車のようにガソリンスタンドへ自走で行くことはあまり考えられず、仮に行ったとしても満タンでせいぜい2リットルでは、ちょっと申し訳ない。

 1974年4月から汎用機一筋の研究開発を行なってきた汎用魂の塊、歴史ある朝霞東研究所(現在は汎用R&Dセンター)の職人たちは、職場の親睦会でバーベキューをしていた。職人である彼らは、焼き加減にもこだわった。どこそこのカセットボンベがあーだ、こーだと遊びも真剣だった。そして思った「これで耕うん機が動かせたらおもしろいのでは?」と、以上99パーセントが筆者の妄想でしかないが、手頃な燃料としてカセットボンベに注目したことは間違いない。

 

 入門機として定評あるプチなFG201をベースに、なべやバーベキューに大活躍のLPGカセットコンロ用ブタンガスを燃料としたピアンタFV200を開発し2009年3月に発売した。「これこれ、こんなの待ってたんだ」と購入した人は累計24000人以上、しかも初めて小型耕うん機を購入したという層が92%という絵に描いたような新規市場を耕すヒット商品となった。
 だがしかし、消費者をなめてはいけない。今度は「カセットボンベで、モワパワー! モア作業幅! モア耕作面積!」と、ふたたびないものねだりを言い出したのである。のび太に応える青い猫型ロボットのように、またまた旧朝霞東研究所が英知を結集、フロントロータリーで大人気のサラダFF300をベースにしたカセットボンベ仕様のサラダCG(FFV300)が登場するに至った。

 


FVV200
ホンダ初のカセットボンベを燃料にした小型耕うん機のピアンタFV200。それまでの赤から白一色になりインパクトも充分。カセットボンベ1本で連続運転最大約60分。写真は移動車輪付きスタンドとキャリーボックスを装着した状態。空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 49.4cc 1.5ps/5000rpm 1055×485×990mm 20kg 104790円

FVV300

こちらで動画が見られない方、もっと大きな映像で楽しみたい方は、YOUTUBEのサイトで直接ご覧ください。
今回の主役が最新作のサラダCG(=カセットガス)FFV300。市販されているカセットボンベ1本で約150坪、最大約50分の作業が可能で、ピアンタの約5倍というたのもしい兄貴分だ。空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 57.3cc 1.2ps/4800rpm 1465×465×1015mm 54kg 199500円  

ハンドル

カセットボンベ

ARS
工具不要で折りたためるハンドル。2段階の高さ調整も可能。走行(というか移動)用3速、作業用2速を設定。デフロックレバーの切り換えで旋回もらくらく。いろいろと見慣れないレバーやスイッチがあってむずかしそうだが、まったくそんなことはないのでご安心を。 カセットボンベは専用のケースに入れて、ここにスライドさせロックして、コックをひねるだけの超かんたんセッティング。ホームセンターで売っている安いけど、かっちりとボンベが入らないような安カセットコンロの数万倍以上に簡単。 内側のツメは正転、外側のツメは逆転するホンダ独自のARS(Active Rotary System)は硬い土もなんのその。耕した土のクリーミーなことといったら。野菜達の喜ぶ顔が目に浮かんだら……お医者さんに相談だ。それはさておき、ARSはサラダとリアロータリーのラッキーシリーズに標準装備されている。

None

None
オシャレな若奥様に軽トラはちょっと…そんな心配はご無用。人気の軽NBOX+に余裕でオシャレに収納。サラダは自走式だから非力な若奥様でも大奥様でもらくらく収納。渡り板はオプション設定。

FVV300とFF300

FVV300とFF300
ベースとなった赤いガソリン仕様のサラダFF300とツーショット。ガソリン仕様のFF300は2ps/4800rpmとスペック上でもパワフル。169890円。手間いらずのカセットボンベかパワフルなガソリンか大いに悩んで選んでください。ちなみにガソリン仕様には、さらにパワフルな78ccのサラダFF500もラインナップ。4.5ps/3600rpm 217350円。

ピアンタ FV200-JG

FVV300とFF300
ピアンタFV200-JGはボディをフレッシュオリーブグリーンに、ハンドルグリップにテラコッタ(イタリア語の焼いた土に由来する名詞で素焼きの植木鉢やそのような茶褐色)を採用したカラーバリエーションモデル。2012年3月追加。 ガソリン仕様のFF300の特別色は「サラダグリーン」のFF300LG。レギュラーモデルではなく春、秋シーズン生産モデル。「特別色は『土や若葉にとけこむ色がいいね』って君が言ったから春、秋シーズンはサ・ラ・ダ(FF300LG)記念日」と一句詠みたくなる色合いだ、実篤。

リード

スーパーカブ
サラダを使わない日は気軽にバイクで畑へ。クラス最大容量を誇るリードのラゲージボックスには10kgサイズの市販の肥料袋が2つも入る。新型スーパーカブもオシャレな木箱でドレスアップ。新4(車)+2(バイク)+2(サラダ)輪生活はステキだ。

5分どころか動かした瞬間にわかるはずのサラダの実力

 ホンダの小型耕うん機には車軸ローター、リアロータリー、フロントロータリーの各方式が用意されており、用途に合わせ選択できる。その3タイプで一気に耕す貴重な機会に恵まれたので、簡単にインプレッションしてみたい。
 

 こまめ、プチな、ピアンタ、パンチエックスに採用されている車軸ローターは、車輪のかわりに車軸にツメを付けたタイプで、小回りが効くし小型なので持ち運びや収納も簡単。パンチエックスはさすがにきついが、ピアンタ、プチな、こまめは1人で楽に持ち運びが出来るコンパクトな手軽さと、小回りが魅力。
 リアロータリー式は、プロ仕様に採用されていることから想像が付くように、太い車輪と大きなツメで、パワフルかつ安定し、楽に作業が進む。ただし、安定しているということは小型機といえども大柄で、それなりの重量もある。いわゆる家庭菜園クラスのような狭い場所では使いにくい。
 実際に耕してみるとその違いは一目瞭然。リアロータリーのラッキーは、ハンドルに手を添えているだけで勝手に耕してくれるのに対し、車軸ローターで思い通りに耕すには、ちょっとしたコツがいる。しかし慣れてしまえば小型軽量さが大きな武器になる。 
 そして、サラダに採用されているフロントロータリー。これは車軸ローターの手軽さと、リアロータリーの安定感の両者のいいとこ取りをしたイメージだ。フロントロータリーのサラダは、ほどほどの大きさで扱いやすく、タイヤがあるので安定感もバツグン。回転部のツメが足元ではなく、フロント部分にある安心感も高い。もちろん車軸ローターでも、リアロータリーでも、サーカスまがいのよけいな事でもしない限り自分の足がツメに当たるようなことはないのだが。


試乗
東武動物公園のとなりにある新しい村で行なわれた体験発表会。圃場(畑)では、車軸ローター、フロントロータリー、リアロータリーの各方式を体験できる貴重な機会が用意された。私のような初めて動かした内燃機が耕うん機という強者の耕うん機評論家(自称)はともかく、一度にいろいろな方式を体験すると違いがはっきりとわかる。こういう機会はなかなかないが、耕うん機を広く知ってもらうためにも一般向けに開催していただきたい。

良い例

悪い例
まっすぐに耕すコツは、バイクの一本橋と同じように視線を遠くに置くこと。車軸ローターやリアロータリーの場合、どうしても足元が気になるが、フロントロータリーのサラダならば、その点も安心。モデルになってくれたのは、耕うん機初体験のホンダスマイル。デフロックを切り換えての華麗なターンは動画で!

FG201

F502

FU400
最小の入門機「プチなFG201」 空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 49.4cc 1.2ps/7700rpm 1050×475×995mm 17kg 70140円 家庭菜園クラスならばこれで充分。耕うん機のロードパルを狙った初代の思想は受け継がれている。 車軸ローターの強力機「パンチエックスF502」 空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 163cc 4.9ps/3600rpm 1340×655×1080mm 51kg 139440円 ハッキリ言って家庭菜園ではもてあますCRF450Fのようパワフル機。118ccのF402もラインアップ。 リアロータリーの「ラッキーボーイFU400」 空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ 118cc 3.5ps/3600rpm 1310×560×1050mm 70kg 161490円 リアロータリー機では最も小型ながら安定感はバツグン。なんとなくXL500Sを思い出す。

 気になるガソリンとカセットボンベの違いだが、価格面ではガソリンの方が安い。給油や保管の手間を考えれば圧倒的にカセットボンベが有利。耕した印象はフロントロータリーのサラダの場合、スペック上でも明らかなようにガソリン仕様のFF300の方がパワフルに感じた。だが、作業に差が出るような差ではなく、心理的なものといっていいレベルだ。白い車体から受けるやさしいイメージも多少影響しているかもしれない。
 車軸ローターのプチなとピアンタを比べた場合だと、ピアンタのほうがマイルドで扱いやすい印象を受けた。
 総合的に考えると家庭菜園のような使い方であれば、カセットボンベの利便性に軍配が上がると思う。いわゆる一般的な10坪あるかないかの家庭菜園クラスならワンシーズン1本で足りる。シーズンオフもカセットボンベを抜くだけで安全確実に保管できるメリットも見逃せない。ちなみに長期間保管する場合は、ボンベを抜いた状態でエンジンのガスを使い切ること。

  
 急激に欲しくなってしまった賢明な貴方、あわててドリーム店に行ってもホンダカーズに行っても、残念ながら売っていない。全国のホンダ汎用製品取り扱い店(農機特約店約230拠点)へどうぞ。といっても、農業のプロ以外はあまりよく解らない。一般的には特約ホームセンター(約700拠点)に行くのがいい。

 
 さて、わがままなユーザーが次に望むのはなんだろう。電動化? それともスマホと連動するようなデジタル化? ルンバ的な全自動化? 実はアナログなキャブ+レシプロが主流の汎用エンジンゆえに発展の幅は大きいが、かつてバイクが陥ったような電子化や高性能化には進むことはないだろう。地に足の付いた技術で、耕うん機のようにゆっくり確実に市場を耕していくに違いない(と、うまくまとめたつもり)。

[こまめ36歳、小さな大変革へ]