ブリヂストンから新しいツーリングタイヤがT30発表になり、2月1日から順次発売されることになった。一足先に気になる新作を体験したので、その感想をお伝えしたい。
ブリヂストンのツーリングタイヤというと、BT023という定番的に幅広く使われてきたタイヤがある。T30はそれとどう違うのか。コンセプトは、ツーリングタイヤの必要条件を満たしながら、よりスポーツ性を高めた、ワインディングでの楽しさを上げたもの。ツーリングタイヤの必要条件は、ドライグリップだけでなく、ウェットグリップ、操安性、さらに大きな要素としてライフがある。それらを総合してバランスの取れた性能が必要になってくる。さらに適合する車種の数と幅が広く、ユーザー数のボリュームも大きいから販売数を考えるとメーカーにとってとても重要な商品である。花型のように見えてしまうハイグリップのサーキット&スポーツ向けタイヤより力を抜いて作る、なんてことは絶対にない。
T30は、サイズバリエーションも豊富だ。BT023にもあった、パニアケースなどを装備したツアラーなど重量車専用に開発されたGTスペックだけでなく、新たにHレンジモデルも加わった。フロントとリア共に17インチの2サイズ。ZZR400など昔の中型ツアラーにも使えるから嬉しい。
試乗会場は伊豆サイクルスポーツセンターで、5kmの周回コースと、一般道を使って行われた。乗る前に、単体で置かれたT30を見ると、フロントもリアもBT023より溝が少ない。特に端っこ。エッジ部分にまで溝が伸びていたBT023と違い、エッジ手前で終わっている。バイクがバンクした時の接地面積を増やしていることが明らか。よりスポーツ顔になった。
5kmの周回コースでは、まったく同じバイク2台の、片方は新型T30、もう片方は旧型と呼べるBT023を履いた乗り比べ試乗。最初に乗ったのはCB400スーパーフォア。BT023から乗った。周回コースの道幅やレイアウトはサーキットというより一般道に近いもの。この日朝のコンディションは気温が低く、前日の大雨で場所によってウェットパッチが残っていた。いきなりスッテンコロリン→イテテ→全力でごめんなさい、とならないように用心しながら、走りだして、徐々にペースを上げていった。
感じたのはBT023でも充分な走りが出来ること。確かにペースを上げて、真っ直ぐ進もうとする高い運動エネルギーを、どすこい!と旋回に移るような走りに向いているようなグリップではないけれど、急で変な入力をしなければフルバンクさせても問題なく走れる実力を持っていた。
次はT30の番。こうやって比べるとコーナーリングでの安定感がこちらの方が上だというのが分かった。旋回性もT30の方が軽快だ。エッジ部に向けて断面がゆるやかにラウンドし続けるBT023に比べ、寝かしていくにつれてより扁平になっていることもあって、車体がバンクした時、BT023より面で路面をとらえている感じがして安心していられた。いじわるにバンクしたままブレーキ操作をした時の挙動の落ち着きと、ライダーに伝わってくるタイヤが路面を掴んでいるインフォーメーションも良好。グリップ力により信頼が高まるので、結果ペースを上げて走れてしまう。自然にスーっと向きが変わり、コーナー立ち上がりでスロットルを開け始めるのがBT023より少し早くなった。
乗り換えて、今度は大型ネイキッドのCB1300SF。今度もBT023→T30の順。より重量があるバイクになったことで、軽快性も実感できた。フロントタイヤの重量がBT023より軽くなってジャイロ効果が軽減されたこともあり、ブレーキングしながら倒れこんでいく動作がさらに小気味よい。
この後にパワーのあるZX-14Rでも乗り比べたけれど、概ねこの印象は変わらない。このメガスポーツでフルバンクしてヒザを擦りながら走っても不安はなかった。この恩恵は単純にスポーツ性能が良くなったというだけでなく、グリップレベルが千差万別ある一般道ではいろいろなシチュエーションで効いてくると思う。
実際、コース試乗が終わってからT30を履いたBMWのF800Rで伊豆のワインディングを走ってみたけれど、ローリング防止でレコードラインが入った路面や、工事、埋め戻しでの段差など荒れた路面でのスタビリティも問題なく、好感出来る性能を意識しながら楽にバイクをコントロールできて楽しく乗れた。
試乗後、なぜこのコンセプトのツーリングタイヤが登場したかを考えてみた。理由はバイクの高性能化だろう。最近はスーパースポーツでなくても、動力性能とコーナーリング性能(足廻り、ブレーキ、車体性能)が立派だ。特に大型車においてはツーリング向けながら、それら性能が底上げされ、ワインディングや高速で、スポーツモデルを追い回せる実力を持っているのが増えた。意図するかしないかは別に、高めのペースで走ってしまうことが多い。スーパースポーツモデルとツーリングモデルの性能が被る部分が大きくなった。もっとスポーツという流れになるのが納得いく。
それでも、飛ばさないからその部分よりライフや価格にこだわりたいという人もいるだろう。ご安心を。BT023は新型登場でもカタログから消えないそうだ。T30の方がBT023より7%ライフが短いという。さらにオープン価格だけど、旧型になるBT023よりT30の価格が低くなるなんてまず考えられない。事実としてユーザーは自分のバイクと、好みの走りに合わせて選択する自由が広がったことになる。バイクに乗って、日常から逃げるように遠くの場所へ旅するのは楽しい。それと同じくらいバイクで右へ左へコーナーリングするのも楽しい。BT30は今のバイクに合ったオールラウンドタイヤだ。
(文:濱矢文夫)
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