NC700シリーズの“ニューミッドコンセプト”で、それまでのホンダ・エンジンの常識といえた“高回転、高出力”指向と決別。まったく新しいエンジン・ポリシーを打ち出したホンダ。今回発表された新エンジンは、それに続く第二弾なのか、それともまた別の新たなコンセプトが提示されるのか、注目の発表会だった。
結論としては、ホンダが考える次世代のエンジン・ポリシーは、ブレることなく、環境性能と扱いやすさ、この2点に技術の焦点が収斂されることが確実となったといえるだろう。もちろん、これまでのホンダのもうひとつの大きな特徴でもある“高品位の作り込み”というバックグラウンドがあってこそであるが。
「エントリーユーザーにも扱いやすいように、最も使用頻度の高い、低・中回転域の特性を重視し、最大出力回転数を9,500r/minと設定しました。このエンジン特性に適した水冷、直列2気筒エンジンを選択。9,500r/minまでの全域で吸入効率を高めるため、最適なバルブサイズなどを選定。ボア×ストロークは、φ67mm×56.6mmを採用しています。また、クランクは、180°位相クランクとし、カップルバランサーをシリンダー背面に配置することで、振動低減と同時にコンパクトでスタイリッシュなエンジン外観を実現しています」(ホンダリリースより)
本田技術研究所二輪R&Dセンタースタッフの皆さん。右から“次世代スポーツ400ccエンジン”搭載予定機種開発責任者の飯塚 直さん、エンジン設計の永橋慶樹さん、エンジンデザインの市川 学さん。 | “次世代スポーツ400ccエンジン”のカットモデル。シリンダー部分のスリムさがよく分かる。 |
昨年海外で発表されたニューCBシリーズの500ツインエンジンをベースに、コンロッド、クランクを変更することにより、ストロークダウンし、国内の中型排気量枠に合致させる手法を取っている。ちなみに海外仕様の471ccエンジンはボア×ストローク、67×66.8mm。そしてさらに海外仕様の最高出力35kWは、8,500rpmで発生する、とされている。また、海外仕様のエンジンはタイで生産されるが、400は多くのパーツをタイから輸入するものの、最終組み立ては国内の熊本製作所で行うという。
それでは具体的に、どんなエンジンなのか、細かい部分を紹介しておこう。まずは吸排気系から。
「吸・排気の高効率化を目指し、吸・排気バルブの大型化とバルブステムを細軸化し、エアクリーナーから吸気ポートをストレートな形状としています。さらに、吸・排気系の徹底的な解析により、最適な管長や口径を選択することで、低・中回転域で扱いやすく、高回転域ではスポーティな特性としました。また冷却系は、CAEシミュレーションによる高効率な冷却水の流動解析を行い、ウォーターポンプを小型・軽量化すると同時に、高出力時にも充分な冷却性能を確保しています」(リリースより)。
環境性能面では、スポーツモデル用エンジンとしての基本性能は確保した上で、より高い目標を達成するため、各部に様々な技術を投入している。
「動弁系は、バルブ往復部の軽量化やバルブ挟み角、ポート形状、燃焼室形状選択の自由度の高いDOHCを採用しました。DOHCの採用により性能はもとより、スポーツバイクとしての商品魅力向上にも貢献しています。また、ローラーロッカーアームの適用によりフリクションを低減させました。バルブタペット調整方法は、バルブシムタイプとすることで、ロッカーアームの軽量化とともに、バルブスプリング荷重を低く設定することが可能となり、フリクションの低減にも寄与しています。さらにカムチェーンには、ピンにバナジウム表面処理を施したサイレントカムチェーン(SVチェーン)を採用することで、フリクション低減に加え防塵性にも対応しています」(リリースより)
高回転、高出力を指向しないからといって、最新のテクノロジーを無視するということではない。それはピストン、コンロッドなどに投入された最新技術の数々でもよく分かる。
「ピストンには、CBR600RRと同等のボアサイズφ67mmを選択し、CAE技術を最大限に活用することでピストン剛性と強度バランスの最適化とともに徹底的なピストンの軽量化を図っています。またスカート部には粗条痕をつけることにより油膜保持性を向上させることでフリクションを低減。ピストンピン/コンロッドにはCBR600RRに採用しているAB1処理(保護性酸化皮膜形成を目的として、イソナイトの窒化処理後に使用するAB1塩浴処理)及びパルホスM1-A処理(リン酸マンガン系化成処理)を組み合わせ、フリクション低減により、燃費向上に寄与しています」(リリースより)
クランクは180°位相クランクを採用。そしてクランクケースはトランスミッション室へと続く開放空間として構成され、ピストン往復時に発生するポンピングロスの低減を図っている。また、シリンダースリーブもシリンダーの歪みを最小限に抑えるため、“遠心鋳造薄肉スリーブ”という製造方法を採り入れ、CBR600RR同様、ボア間を7mmに近づけ、エンジン全体の軽量化、コンパクト化に貢献している。オイルポンプの“内部リリーフ構造”というのもCBR1000RR譲りの技術だ。これによりフリクションの低減とともに、エアレーション性能を向上させることが可能となりオイルパン形状の簡素化が図られたという。
環境対策面では、エミッション対応装備として、“AIシステム”をシリンダーヘッドにビルトインしたほか、エキゾーストパイプ内にO2センサー、キャタライザーを装備し、平成19年規制(WMTCモード)に対応している。騒音対策面でもプライマリーおよびバランサーギアにはノイズの少ないセラシギアを採用、CAEによるピストン形状の解析からピストン打音の低減まで気を遣っているのだそうだ。ちなみにバランサー周りのイメージは、ちょうどCBRの4気筒を半分に割ったような感じなのだとか。新エンジン・ポリシーに移行しているとはいえ、「技術のホンダ」のDNAがなくなってしまうワケじゃない。どんな面に最新技術を投入するか、の違いだろう。
新エンジンを搭載したニューCBシリーズの登場に期待したい。
ウォーターポンプ周り。冷却水の流動解析を行って小型軽量化、そして充分な冷却性能を実現。 | 吸・排気ポート周り。吸排気バルブの大型化とステムの細軸化を行い、エアクリーナーから吸気ポートまでをストレート化。 |
ローラーロッカーアームを採用。バルブタペット調整方式はバルブシムタイプ。 | サイレントカムチェーン周り。ピンにバナジウム表面処理を施したサイレントカムチェーン(SVチェーン)を採用。 |
ピストンスカート部に粗条痕をつけることで油膜保持性を向上。フリクションも低減している。 | クランクケース周り。トランスミッションとの隔壁を開放し、ポンピングロスの低減を図っている。 |
エキゾーストパイプ内にO2センサーとキャタライザーを装着。国内の排出ガス基準規制値をクリア。 | 従来の直列2気筒エンジンのバランサーを見直し、エンジンと完成車重心位置の近くにバランサーを配置。 |
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