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初夏の闇が白らみかけた時刻だった。北陸自動車道、有磯海SA付近。GPz1100のギアを2速下げた。マシンは一瞬後ずさりするような挙動をみせながらシフトアップと共にグングン車速を増した。道路が平均台のように見え始めた。 |
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1984年の夏、馴染みのバイク屋を拝み倒して借り出した空冷4発で帰省する途中だった。東京を夜半過ぎに出発し、中央自動車道から国道20号、松本から148号にスイッチし白馬を抜けて日本海へ。当時は北陸自動車道がまだ全通しておらず、親不知の難所はトラックの後ろになり、睡魔との闘いになっていた。ようやく高速に乗り富山平野を縦走するストレートが絶好のカンフル剤になったのは言うまでもない。 |
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当時、僕たちを熱くさせたこんな数値がある。GPz1100・235km/h、GSX1100S・231km/h、CB1100R・229km/h。我が国の一般公道ではおよそ非現実的な数値とはいえ、リッターバイクの限界性能はバイク乗りが集まれば格好の肴になる。思えばNinjaがGPz1100を抜いたとき、新しいスーパーバイクの時代がやってきたのだ。 |
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デビューから7年を経た今日でも、Ninjaの人気は衰えていない。ZZRによって更に新しい時代が開かれても、Ninjaが街から消えることはない。そこにはなにかKawasakiのビッグマシンを愛するライダー諸兄諸姉の特有な気質が潜在しているように思う。 |
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「1000RX以降のKawasakiには違和感すら覚える。丸みのあるフォルムと滑らかなエンジンフィール。完成された性能よりも野心見え見えな荒削りさが好きだ。何よりNinjaには空冷時代から一貫して崩さなかったZ独特の感触が残されている」と。 |
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某バイクショップの主は面白いことを言った。 |
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唐突な話だが、浜田省吾がタレント・歌手部門の長者番付3位になった。桑田佳祐、松任谷由美に続いてである。甘いラブソングが主流の歌謡界で、彼は週末毎にあてもなくバイクで海岸通りを彷徨う少年を歌う。午前4時に眠れなくてバイクで出かけてしまう少年の気持ちを歌う。彼の歌を聴く度に必ず思い浮かぶのが週末の第三京浜だ。いや、第三京浜に行ったときに彼の歌を思い出すと言った方が正解か。土曜深夜、保土ヶ谷に続々と集まるバイク乗り達。ひと頃の空冷Zオンリー、刀オンリーといったカラーも今や色褪せ、あらゆるジャンルのあらゆるバイクとバイク乗りがやってくる。自慢のカスタムマシンを見せたくて、またある者は他人の装いを垣間見て談義の花を咲かせようと集まってくる。 |
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かような光景を劇作家、東本昌平氏は「夜の舞踏会」と称したが、なんともうなずける表現だ。100円のカップコーヒーと290円の天そばのなんともつつましい舞踏会だ。 |
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例えばZ1がKERKERも勇ましく飛び込んでくると気になってしょうがない奴。両サイドにローソンレプリカを並べられた途端すごすごとトイレに消える奴……先頃でNinjaはZの今様と古色をつなぐキャラクターと書いたが、そうであってもNinjaオーナー達はその両極に対して断ち切れない憧れを抱いているように思う。Aを取るか、Bを取るのか。NinjaはAかつBというスタンスになろうか。 |
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1991年5月。交通量もまばらな西湘バイパスの下り線をGPZ900Rは快適に飛ばす。タンクサイド、カウリングのいずれにもNinjaのネーミングはなく、スピードメーターは180km/hまで。1984年から数え8代目にあたる国内モデルだ。 |
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輸入車という形ながら’89年にホンダのゴールドウイングが先鞭をつけたオーバーナナハンの国内導入も、’90年に国内仕様第一弾としてヤマハV-MAXが登場、以後スズキVX800、ホンダパシフィックコースト、ヤマハFJ1200Aと続き、このGPZ900Rでやっと4メーカーが出揃った。前車達より早く渡航していながら里帰りは一番遅くなってしまったわけだが、このあたりもなんとなくKawasakiらしい…… |
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充実した足周りにも増し特筆ものが数値上ではデチューンされたことになるエンジンフィールだ。ただ一言、扱い易い。すなわち遊び易い=楽しい。フルパワーのトルクの谷と山を知る人は、実にあっさりとした味付けに驚くはずだ。ギクシャクしない、ドンとこない。それでいてトロくない。回せば900という排気量を納得させる力量も失っていない。
7年前、一つの時代の頂点を極めたNinjaも里帰りと共に変容した観がある。最速への道はたのもしい後輩達にまかせておけばいい。自分の役割は少しでも多くの人にビッグバイクの楽しさと喜びを知ってもらうこと。 |
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[VOL.1 「第二のZ1を作れ GPZ900R・Ninja開発ストーリー」]
[VOL.2 GPZ900R大全 その1 A1~A6(1984~1989)]
[VOL.3 GPZ900R叙情的インプレッション]
[VOL.4 GPZ900R大全 その2 A7~A11(1990~1998)]
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