ホンダ
こちらでHonda CRF450 試乗の動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/g2ia6gDWKqc」で直接ご覧ください。 CRF450Rの開発責任者、本田技術研究所 二輪R&Dセンターの服部克孝さん。後方はCRF450RベースのHRC車。すでに全日本モトクロス選手権で圧倒的な強さを発揮。成田亮選手により第6戦東北大会までに12レース中11レースで勝利。こちらの開発者インタビューの動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/VSy7L_B6ujM」で直接ご覧ください。

 フルモデルチェンジとなった2013年型モトクロッサー、CRF450Rに試乗してきた。まず最初に言っておかなければならないのは、ボクはエンデューロレースやクロスカントリーレースにハマって今年に入って月イチペースでレースに出場して楽しんでいるけれど、モトクロス競技そのものはまったくやったことがないということ。モトクロスコースをモトクロッサーで走って遊んだことは何度かある。簡単に表現すれば、『オフロード走行は初心者ではなく、普通にこなせるけれど、飛んだり跳ねたりが多くなるモトクロスはずぶの素人』なのである。そんなライダーだから、このモトクロス用市販競技車両のトップモデル、CRF450Rに乗ってどうのこうの語る以前に、普通に乗れるのかが心配だった。

 試乗場所は埼玉県のオフロードヴィレッジ。コースは数日降雨がない日が続いた中の晴天でドライ。キックでエンジンをスタートさせ(始動性は良かった)走りだし────ああ、当たり前のようだが個人的には驚き、何も気にせず普通に走れた。この前に2013年型CRF250Rにも乗っていて、それと比べるとやはり格段にパワフルだ。後輪はグイグイと軽い車体と私を前に押し出した。

 過去にあった2ストロークモデルのような過激さはないと分かっていても450モトクロッサーだから暴れ馬のようなイメージを持っていた。けれども、そんなことはなかった。低めのギアで低速から開けていってもスロットル操作に気を使うことがなく、パワーのコントロールが容易。それでいて、開けたらヘルメットの中で「うはー!」と言ってしまう加速を見せる。

 新しいフレームなどにより徹底的にマスの集中化をされた車体と、コイルスプリングを取り払い、圧縮空気にその仕事をさせて、800gもの軽量化を果たしたフロントフォーク。前述のとおり、それで走りがどう変わったと語れる技量ではない。だけど、大きなギャップやジャンプが怖くなく、それなりにスロットルを開けていけた。コーナーでは特別なことをしなくても何の気なしに素直に曲がる。立ち上がりでエンジン回転を上げていくと突然急激に横滑りが始まるようなことはなく、後輪が滑りだしてもその感覚が掴みやすくコントロールが出来て怖くない。以前のCRF450よりひと回り小さく感じてきた。走行ペースがもっと高い人が乗ってどうかは分からない。しかしボクレベルでも「操作が難しい」と感じはしなかった。素晴らしい。だからすぐに乗るのが楽しくなっていった。

 ダート走行ビギナーだけでなく、モトクロスの入り口にいる人が最初から450を購入することは、一般的な常識で考えるとないだろう。でもこれならそんな人でも乗って楽しむことが出来ると感じた。手放しで誰でも乗れるとは言わないが、ハードルは決して高くない。
 
 実は当日、ボクのインプレッションだけでは、このモデルについて正確に伝えられないと思い、エンデューロレースのトップクラスで活躍する“ハラジュン”こと大川原潤さんにも乗ってもらった。彼が乗って感じた印象をお伝えする。
(ここまで試乗記:濱矢文夫)

2013YEARモデルのCRF450R、CRF250Rと開発スタッフの皆さんで記念撮影。 今回は強力な助っ人、エンデューロレースのトップクラスでも活躍する“ハラジュン”こと大川原潤さんにも乗ってもらった。(写真左)

「とりあえず最高に面白かったですね。過去に2009年モデルのCRF450Rに乗っていたこともあるんですが、大きく違います。スロットルを開けた分しか前に出ない、出過ぎたり足りないと思うことがないです。とても素直なエンジンのフィーリング。どの回転数からでもフラットにパワーが出る。乗りやすさに繋がっていると思います。最近は2スト250に乗ってレースをやっていますがぱっと乗り換えても違和感なく楽しんで乗れました。

 新しくなったフロントフォークを強く意識するようなことはありませんでした。昨年モデルと、今日その場に並べて比べてないですし、違いを感じることはなかった。でも、逆に考えればそれはすごいことではないでしょうか。よく動いて今までと同じ感覚で乗れながら、削るところがほとんどないモトクロッサーのフォークだけで800gも軽くなっているんですから。

 旋回性はとても素直です。切れ込んでいくわけでもないし、ニュートラル。少し前の450のような重さを感じることがない。雲泥の差です。昔の450と比べると350に乗っているみたいに動きが軽い。

 ジャンプで届かなくて平坦部分に着地してしまうと、前の450だと縦に大きく反動が出るだけでなく横に逃げることもありました。それが、ビシっと比較的綺麗に収まる。軽く跳ねるような動きの250の印象と異なり、この450は路面にビシッと張り付くような感じ。滑りそうなところでもしっかり路面をとらえる。

 2009年モデルに乗っていた時はタイトターンの極低速のところからスロットルを開け始めるとエンジンがストンとストップしてバランスを崩すことが多く苦労しました。だからコーナーではものすごく気を使って乗っていたんです。レース中エンストして、鬼キック。さっき抜いた人にまた抜かれるし体力を消耗して大変でした。個人的に新型はエンジンのかかりもいいし、極低速からの開け始めでエンジンが止まらないのがいいですね。450は振り回して乗るより、丁寧に丁寧に乗るのがいちばん速く走れます。スロットルも丁寧に開ける。このモデルは開けてもしっかりサスが入り込んで前に進む力になっている感じです」
(この項試乗記:大川原潤さん)

■大川原潤 プロフィール■
1972年1月8日生まれ、血液型O型、出身地:埼玉県所沢市、所属チーム:MONDOMOTO&ROCKERS、マシン:FUSABERG TE250、戦歴:2000年/Baja2000 クラス5位、2006年/BAJA1000 クラス1位、2008年/全日本エンデューロ選手権ナショナルクラス 3位、JNCC AAクラス 13位、2009年/全日本エンデューロ選手権インターナショナル 11位、JNCC AAクラス 10位、2010年/ISDE メキシコ大会日本代表にて参戦 シルバーメダル、全日本エンデューロ選手権インターナショナル 10位、JNCC AAクラス 8位、2011年/全日本エンデューロ選手権インターナショナル 10位、JNCC 参戦中、全日本エンデューロ選手権インターナショナルクラス 参戦中、現在ランキング6位。
フレーム完全一新のモデル・チェンジで数えると4スト・モトクロッサー、CRF450Rの第2世代に。アルミツインチューブフレームとしての世代で言うと第6世代目になるとか(2ストのCR時代から)。このCRF450Rをベースとしたワークスマシンが、すでに今年の全日本モトクロス選手権に成田亮選手とともに出場しており、第6戦東北大会までに全12レース中11勝という圧倒的な強さで、基本性能の高さは折り紙付き。(写真の上でクリックすると大きな画像が見られます)

■車両解説■

 CRF450Rは、2001年11月の発売以来、毎年のように戦力アップが図られて今日に至っている。初登場翌年の2002年8月発売の2003年モデルでは、バルブタイミングおよびリフト量を変更、フレームもツインチューブのリアアッパーブラケット、ダウンチューブ、ロアチューブ剛性をアップ、フロントフォークストローク量アップ。2004年モデル(2003年7月発売)では、ピストン形状の見直し、点火時期特性、排気系の変更、キャブセッティングの変更、車体ではツインチューブフレームのエンジンとの結合剛性見直し、フロントフォークスライドバルブ内面の機械ホーニング実施、バネ下部品の軽量化など。2005年モデル(2004年9月発売)では、メインフレームのチューブ断面を縮小、ダウンチューブの形状変更、エンジンハンガーを一体成形するなどの見直し。エンジンでは、吸気エアフロー系を見直し、ピストンへのオイル供給方法の見直しなどが行われた。

 2006年モデル(2005年8月発売)では、エンジンとラジエター搭載位置を下げ低重心化を図るとともにマスの集中化。エンジン面では各部の熟成。2007年モデル(2006年8月発売)では、フロントブレーキに新設計のリンク式マスターシリンダーを採用。エンジンではシリンダーヘッドの吸排気ポート形状やキャブを熟成、エキゾースト管長の短縮などを行った。2008年モデル(2007年9月発売)では、ホンダ独自の“プログレッシブステアリングダンパー”を採用、前後サスの見直しと合わせて高次元での操縦安定性を実現。エンジン面でもギアポジションセンサーを新たに追加、各ギアでの最適な点火時期コントロールを可能に。

 2009年モデル(2008年10月発売)は、エンジン面での大きな変更があった。市販モトクロッサーにもついに燃料噴射装置、PGM-FIが投入されたのだ。これに合わせてエンジン各部を再設計、燃費向上と出力アップを図っている。また、車体周りでもフレームを見直しすとともに、18mm延長したスイングアームを採用することで加速重視の新ジオメトリーを実現した。実質的にこの年のモデルチェンジにより、CRF450Rは第二ステージに発展したといえるだろう。2010年モデル(2009年9月発売)は、CRF250Rの年で250にもPGM-FIが採用されている。450ではPGM-FIやオートデコンプシステムの熟成、フロントフォークのオイルシールの見直しなど細部の改良の年となった。2011年モデル(2010年11月発売)はMFJの新レギュレーション対応のための新設計マフラーの採用のほか、ECUセッティングやインジェクター変更、新形状エアクリーナーボックス採用、前後サスのセッティング見直しなどがおこなれた。

 そして今回のフルモデルチェンジだ。開発コンセプトは『MX Revolution ~モトクロス革命~』さまざまな走行シーンで自由に操れる新世代のモトクロッサーをテーマに、車体面では、新設計第6世代のニューアルミツインチューブフレーム、フロントフォークエアサスペンション、新設計スイングアームなどを採用。高いマスの集中化を実現し、ハンドリング性能を高次元で実現している。デュアルマフラーの採用も新排気音規制への前倒し対応とともにマスの集中化にも貢献している。

 エンジン面では高速域の出力をキープしたまま低・中速トルクの大幅な向上を図っている。圧縮比を上げるためのピストン形状の変更、混合気の充填効率を高めるシリンダーヘッドポート形状、バルブタイミングの最適化、クラッチやトランスミッションの耐久性向上などだ。

2012年モデルに対してヘッドパイプとメインパイプの結合部を下方に移動させることで、ヘッドパイプ周りの剛性をさらに最適化。ジャンプの着地時などに必要な剛性を保ちながら、コーナリング時の今まで以上のしなりを利用することで、前輪の接地感からくる車体の状態をより感じる取ることが出来るようになった、という新アルミツインチューブフレーム。(画像の上でクリックすると大きな画像が見られます)
リアクッション上部とメインパイプ、ピボットプレートそれぞれをより近づけたレイアウトとして剛性をアップ。デュアルマフラーを前提として設計されたリアフレームは、従来よりもリアフレーム上下パイプ間の角度を大きく取ることで、各ガセット類の軽量化を図りながら、ギャップ通過時などに車体リア周りが左右に振られることに対して十分な剛性を確保。 リアスイングアームは形状を見直し、従来よりも縦剛性を大幅に上げつつ横剛性を適切に保つことで、しなやかさと路面をしっかりとらえる剛性感を両立し、コーナー脱出時のトラクション向上による、より高い速度でのコーナリングに寄与しているという。
より前方にレイアウトされたデュアルマフラー。マスの集中化にも貢献。サイレンサーの菱角断面形状は、リアタイヤのクリアランスとライダーの自由度を確保した形状とし、軽量・コンパクトさとマスの集中が一目で感じられるデザインに。 フロントにはカヤバ製のエアサスペンションフォークを採用。フロントフォークのスプリング反力の発生機構を、従来のコイルスプリングから圧縮空気によるものへと一新。1台あたりで800gの軽量化にも貢献している。また、コイルスプリングを廃したことで、コイルスプリングとスライドバルブ内壁との摺動により発生していたフリクションを取り除くことが可能になり、作動性が向上し、路面追従性が増したことでより良い旋回性を得ることが可能に。
コイルスプリングの廃止により生まれたフォーク内のスペースを有効活用することにより、ダンパーサイズをφ24mmからφ32mmに大径化し、乗り心地の向上にも寄与している(写真上左が従来型、右がエアサス)。また、従来のようにハード/ソフトといったスプリングの交換によらず、封入エア圧の調整により、容易に反力の調整が出来るため、コースや路面状況の変化に素早く対応することが可能となった。封入エア圧だけでなく、オイル量の増減でも調整が可能。またはその両方を調整することでも反力の特性を変化させることが可能だ。さらに、エアを抜けばフルボトム状態まで車高を下げることが出来るため、トランスポーターなどへの車載性も向上している。
エンジン面では、頭部形状を変更し圧縮比を12から12.5へと高めることで出力向上を実現する新ピストンを採用。ピストンスカートには従来の樹脂コーティングに対し、より摩擦低減効果の高いモリブデンショットピーニングを施している。吸排気ポート形状は、ワークス活動で培われた混合気の充填効率に対するノウハウを投入。流量、流速、ポート経路の最適化を図っている。 高速域の出力を維持しつつ低中速でのトルク特性を大幅に向上させるために、吸排気やトランスミッションなどの各部を新設計。低速域で10%以上のトルクアップと同時に、中速域のほぼ全域にわたって最大トルクを発生するフラットなトルク特性を実現している。
■Honda CRF450R(PE05) 主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,191×827×1,271mm、ホイールベース:1,492mm、最低地上高:330mm、シート高:953mm、車両重量:111.0kg、燃料タンク容量:6.3L●水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ、排気量:449.7cm3、ボア×ストローク:96.0×62.1mm、圧縮比:12.5、燃料供給装置:フューエルインジェクション(PGM-FI)、始動方式:プライマリーキック、最高出力:NA、最大トルク:NA●5段変速、1速1.800、2速1.470、3速1.235、4速1.050、5速0.909、一次減速比:2.739、二次減速比:3.692●フレーム形式:アルミツインチューブフレーム、サスペンション:前倒立テレスコピック、後スイングアーム、ブレーキ:前シングルディスク、後シングルディスク、タイヤ:前80/100-21 51M、後120/80-19 63M●価格:871,500円
同時に発表発売された2013年モデルのCRF250R。こちらはマフラーの内部構造を新設計し、ドライバビリティの向上と高い消音性能を実現している。倒立タイプのフロントフォークの仕様変更、新パターンのフロントタイヤと、内部構造の見直しを図ったリアタイヤが採用された。10月2日発売(受注期間はCRF450R同様、8月3日から12月10日まで)、724,500円。写真左は大川原潤さんのCRF250Rのライディング。


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