2003年に登場したZ1000。スーパースポーツ、ZX-9R用のエンジンを専用チューンした水冷4発を積むストリートファイターだった。エンドが4本となるマフラーは、空冷Zを想起させる音を奏で、それ自体に熱が加わると飴色に変色するステンレス製。造り手から「ガンガン回してアナタの色に染めなさい」と挑むようなメッセージが込められていた。 その乗り味は、コンパクトなボディーにパイプハンドルという組み合わせから想像するより、はるかに前傾ポジション。シートもキュッと高い。そしてエンジンは、低中速チューンしたものの、5000rpm以下でアクセルを大きく捻っても期待するほどトルクは生み出してくれない。逆に8000rpm以上の美味しいエリアを使いこなすには、ふわりと浮き出すフロントを抑えるのにアップライトにすら思えるパイプハンが恨めしい。 それにカッチリとした車体が乗り手の動きをハンドリングに反映するような鋭さだった。乗るなら常にファイティングポーズをとり続けるようなスパルタンさが持ち味だった。 |
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正直、ここまで割り切った走りならZX-9Rで良いじゃないか、と思うほどのヤンチャさにちょっと手を焼いた記憶がある。 初期型から乗る度にZ1000は乗りやすく進化していた。マイルドになったのではなく“走る楽しさを、緊張感なく味わえる”という方向性だ。そして今回、最新のZ1000を走らせ、その思いは爆発した! | ||
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2010年のモデルイヤーで現行型へとスイッチしたZ1000は、それまでの鋼管フレームからアルミダイキャストフレームへ、エンジンも953㏄の4発から1043㏄へと変更されている。つまり全てがフルチェンジをしたにもかかわらず、初代Z1000から2代目、そしてこの3代目に受け継がれたイメージは一目でZ1000と解るものとなっている。 低く構えるビキニカウル、存在感のあるエンジン周りに質量をまとめ、エネルギーを凝縮しているような力強さ。その対極的にテールに向けてしずくのようにスーと力が抜けてゆくアッパーのボリューム感。 もちろん、ボトムは190の太い後輪や左右に配置された4本出し風マフラーが視線を低い位置に力強く集めるなど見所は満載。 遠目に見ると、オレンジのピリオンシートがまるでレーサーレプリカからフルカウルをはぎ取ったかのようなイメージだ。 |
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カムチェーン側から見たエンジン。クラッチカバーやのっぺりしがちなカムチェーンサイドにも内部構造を思わせる造形が。クランクエンドの変形ヘキサゴンも個性的。エンジンを新たなキャラクター意匠に使う秀作。 | ペタルディスクを使うリアブレーキ。リアアクスルのチェーンアジャスターはカワサキの流儀にのっとりエキセントリックカムを使う。6インチの深いリムはオレンジ色のステッカーにより彩られる。 | |
そのZ1000に跨がる。シート高そのものは決して低くはないが、シート形状が絶妙で内股を外に広げられる感覚はない。ハンドルバーは肩幅と同等、後退したステップと合わせてしっくりとくるポジションだ。 |
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市街地に走りだす。アイドリング付近からしっかりとトルクが沸きだし、易々とストリートにこぎ出せる。ちょっと大袈裟にいえばビッグネイキッドのようなイージーさなのだ。3000rpm以下で充分な駆動感を得られるのが嬉しい。右手の開度が少なくて走る感覚がZという一文字から想起される迫力のある走りそのもの。 市街地でのハンドリングはフロント周りが低くスポーティな車体でありながら、重さや切れ込みを感じる事が無い。低速でもスポーティな気分になる一体感なのだ。 Uターンではハンドルの切れ角を意識する場面もあるが、切れずに困る、ということは一度も無かった。 フレーム周りとタンクのスムーズな造形と、ステップ周りのまとまりがよく、下半身とバイクのコンタクトが取りやすい。それ故に、前傾姿勢もさほど気にならず走れる。ポジションの良さ、エンジンの扱いやすさ、そして軽すぎず、重さもない車体の取り回しの良さが三位一体となって街中すら退屈しない。
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Z1000のスタイルアイコンにもなっている角形メガフォンスタイルのマフラー。エンドは4本出し風。スイングアーム下まで伸びるサブチャンバーを備え、排気系全体の諸元を整える。 | φ41mmの倒立フォークはフルアジャスタブル。インナーチューブを覆うフェンダーと連なるカバーの意匠も斬新。ペタルディスクとトキコ製ラジアルマウントの対向4ピストンキャリパーを備える。 | |
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ツーリングペースのオープンロードではビギニングから良く動いてくれる前後のサスペンションと、ダンロップのD210の相性も抜群で乗り心地がよい。 この角を丸めたような乗り味には、φ41mmのインナーチューブを持つフロント倒立フォークと、フレーム全体の剛性バランスのしなやかさも効いているのだろう。流す分には鉄フレームのビッグネイキッドのような柔軟な乗り味を楽しめる。 こんな領域でエンジンを4000rpm程度に保って息の長い加速を試みると、これまたビッグネイキッドじゃないか! というようなタメのある加速を引き出せる。 また、そんな道でのハンドリングは、190-50ZR17 というプロファイルやD210の性格もあるのだろう。流すような走りではほどよい手応え感を楽しめて、これも“ビッグバイクに乗っている”という味わいを伝えてくる。 |
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カーブに向けて減速の入力をすると、ラジアルポンプのマスターシリンダーとトキコ製のラジアルマウントキャリパーとペタルディスクのコンビは絶妙。意のままのブレーキングを引出しながら、安心して握りこんでいけるレバータッチで自信を持って速度を調整できる。 効く、効かないよりスポーツバイクはレバーを握るのが楽しいか、楽しくないかが重要だ。その点、Z1000のそれはまさにファンだ。 ギャップの少なくなかったワインディングで、前後のサスペンションと車体のいなしは絶妙。路面からのキックバックでカチカチなところがない。手に来るゴツゴツがないから恐くない。ご機嫌でマイペースを楽しめる。正直、初代に乗ったとき、ツナギを着て本気で攻めないとこのバイクとは心が通じないかも、と撃沈されただけに、個人的にZ1000の今の方向性は最高にクールだと思う。 ワインディングで生きるミドルレンジのパワーとトルクは、流すようなペースでは手応えのあった旋回性にスパイスを効かせ、グイっと曲がる旋回性を生み出してくれた。ワンディングで使う領域のトレッド面の接地感やグリップ感も大満足。連続する切り返しでも操作にリニアに反応する車体と共にしっかりと路面を捕らえてくれた。 |
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ヘラで切り取ったような造形が持ち味のテールセクション。シートはスーパースポーツ系よりも肉厚。座り心地も悪くない。また、テールエンドカウル内側にタンデムグリップを備えるなど芸の細かさはさすが。キャンディバーントオレンジ×メタリックスパークブラックではビリオンシートがオレンジに。 | ||
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オレンジ色のレンズの奥にバーグラフ状の回転計、デジタル表示の速度計、トリップ、オド、時計などを備えるメーターパネル。4段階に角度調整が可能なことも特徴の一つだ。 | ||
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一言でいえばビキニカウルなのだが、細かく見るとメーターバイザー、左右のパネル、へッドライトとその上下、という風に複雑なコンビネーションを見せる。ラジエターサイドパネルにターンシグナルを備えるなど、顔立ちをしっかり見せる造りになっている。 | ||
Z1000はあらゆる場面で高い満足度を持って乗り手を魅了するバイクだった。乗り手の「さあ、走ろうぜ」をしっかり受け止め、場面、場面でいくつもの理想的な走りを見せる懐深さ。感情的に言えば、ここまでされると、もう楽しくて降参である。技あり、カワサキ。気持ち良くその忍法にやられたのが何よりも嬉しかった。 |
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エンジン形式:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1043 cm3 ■内径×行程:77×56 mm■圧縮比:11.8 ■最高出力:101.5 kw[138 PS]/9,600 rpm■最大トルク:110 N・m [11.2 kgf ・m]/7,800 rpm■変速機形式:常時噛合式6段リターン■全長×全幅×全高:2,095 ×805 ×1,085 mm■ホイールベース:1,440 mm■最低地上高:140 mm■シート高:815 mm■車両重量:218 kg■燃料タンク容量:15 L ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C 58W・190/50ZR17M/C 73W ■車体色:メタリックスパアークブラック、キャンディバーントオレンジ×メタリックスパークブラック ■価格:1134,000 円 (ブライト扱い 参考価格)※最高出力は欧州仕様 |