カワサキモーターサイクルジャパン

 メタリックダークグリーンと呼ばれる塗色に包まれたW800は、W650時代と同じスタイルでそこにあった。ぱっと見、シリンダーの色が黒からシルバーに変更されるなど、細かな差異はあれど正真正銘“W”だ。車体各部に惜しみなく使われた鉄の部品。タンク、サイドカバー、そしてフェンダーの丸みなど、鉄ならではの表現力でその美しさを描き出す。

 クロームの質感や手に伝わる触感は樹脂では真似できない部分だ。ミネラルたっぷり。喜多方の古い町並みに、よく似合う。

 そのタンクを見ても、深いグリーンに明るいグレー(しかも縁はぼかし塗装風)を合わせ、ラバーパッドとクロームのエンブレム、その周りを金のピンストライプで引き締める、という実は賑やかな構成をもつにも関わらず、しっかりと着こなしているのは、オール
ドスクール風スタイルの完成が高いからにほかならない。。

 例えばハンドル周り。’70年代からカワサキ車が使っていたカタチやレイアウトを踏襲したそれは、フロントブレーキマスターや、ミラーのカタチに至るまでしっかりとカワサキの時代性を考慮したもの。エンジンのケースカバーやホイールのリム、ドラムブレーキのパネルなどアルミにバフを効かせた部品使いなども、しっかりした主張をする。

 エンジンをお復習いしておこう。W650時代(といっても排気量は675㏄だったけど)の72.0mm×83.0mmのボア×ストロークから、77.0mm×83.0mmとボアを5mm拡大。排気量を773㏄に増大させている。

 燃料供給をキャブレターからサブスロットル付きF.I.へと変更。最高出力は35kW/4800rpmとW650と変わらないが、最大トルクは54Nm(5.6kg-f/m)/5500rpmから62Nm(6.3kg-f/m)/2500rpmと、より低い回転で分厚いトルクを生み出すことに成功している。もちろん、シリンダーが直立したバーチカルツインであることや、先代同様、OHV風味のシリンダーヘッドスタイルを踏襲するため、ベベルギアとリングギアでオーバーヘッドカムを駆動する拘りはそのまま。

 走り出す前にずいぶんと盛り上がれるバイクなのだ。では実際に路上へ。

こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/vyQF6W0Si7Q」で直接ご覧ください。

 サイドスタンドにもたれたW800を起こす時、「ああこうだった」とW650を思い出す。フロントからリアまでまんべんなくちょっと重たい’70年代風な懐かしさはそのままだ。アルミフレームや、17インチのワイドラジアルを履いたビッグネイキッドでは出せないこのよっこいしょ感。これが“W”の扉でもある。

 エンジンの始動性は、F.I.だけに申し分ない。排気音も650時代よりも排気量が増えた分、音質が太くなった印象だ。650時代でいえば“ローハンドル仕様”のみが用意された800。そのポジションは、車体の中央にある感じのステップ、ほどよい高さのシート、そして狭すぎず、広すぎずのハンドルバーで、とても自然なポジションだ。

 1速でクラッチをそろりとつなぐと、650同様アイドリング付近でするりと発進をしてくれる。その低い回転からぐいっとアクセルを開け、360度クランクエンジンが低回転から力を絞り出すような鼓動感を味わうのが“W”流だ。その乗り味は全くかわっていない。

 しかし、2000回転以下の低い所での力感がキャブ時代の650とはやはり異なる。明らかにトルクフル。迫力満点の音を出すわけではないが、マフラーからはき出される排気音もどこか、ブリブリブリ、と快音に聞こえるから不思議。ショートシフトで2500rpmまでを多用して乗れるのも“W”ならでは。しかもその充実感が2段階ぐらい上がっている。

 市街地での乗り味もまた“W”だ。フロント19インチ、リア18インチに履くタイヤは扁平率の高い細身で大径。この前後輪と車体のアライメント、ハンドル周りの慣性マスが生み出す操舵感は、フロントフォークがころんと切れる感じ。個人的には650時代のアップハンドル仕様が“W”の特性にとてもバランスしているようで好きだったが、ローハンドル的なW800でも、分厚い低速トルクを背景に少し右手で駆動力をあてがってやれば、バランスさせることも難しくない。巧くのりなよ、意外と簡単だから、と諭してくれるのも“W”らしいところだ。

 実は馴れるとこれほど街中を易々と泳げる設定もない。800になってアクセルちょい開け時のトルクが厚い分、650より楽に操れ、しかも“W”らしい気分を簡単に引き出せる。

 また、街中では特にリアブレーキの操作感、制動感が光った。じんわりと踏力に合わせて立ち上がる減速感は特上の部類に入る。そのせいでフロントのブレーキのタッチや制動力に不満はないものの、もうちょっとリアの美味しいタッチに合わせて欲しいなぁ、とわがままを言いたくなるほどだ。

 信号の少ない田舎の道をツーリングペースで流してみる。車の列が前にあろうが、1台だけのマイペースだろうが、W800は意のままに風景の中を進んで行く。減速するまでもない広いカーブを流す時、そこからアクセルを合わせて加速する瞬間は、W800の極み、ここにあり! と思ってしまう。気持ちが良い。例のブリブリブリという加速を低い回転、高いギアで楽しむのは“W”冥利に尽きる。

 ワインディングでは、さほどバイクを寝かさなくても綺麗にラインをなめるように旋回してゆく“W”らしい走りを楽しめた。柔軟だが、こうした場面ではしっかりとした受け止めをしてくれるフレームで、ハンドリングはまろやかだがスポーティな味付けだと思う。ライダーが曲がる方向に加重でもすれば、思い通りに前輪に舵角があたり、バイクが綺麗に切り抜ける。

 ペースを上げてみても“W”は、かなりのコーナリングパフォーマンスを発揮してくれる。17インチを履くスポーツバイクのようにブレーキを残しながら旋回に入ったり、肩に力が入ったりしていると軽くすねた顔の旋回性しか見せてくれないが、ライダーが上半身をリラックスさせて、W800の動きを阻害しないように操れば、一体感のある気持ち良い時間を提供してくれるのだ。

 基本的に何処でも乗りやすく、走るのが楽しいW800。ビンテージ風味を今に伝える学芸員的存在でもあり、ファッショナブルで新しいバイク感も持っている。カワサキが用意する様々なオプション、カフェスタイルを提唱するキットなどを装着すれば、自分スタイルに仕上げることも楽しい“W”だ。

 650時代から大きく変わったか、と言われれば確かにエンジンの力は増えたし、その恩恵でバイクが軽くなった印象もある。しかし“W”らしさは見事そのまま。この乗り味、輸入車を含めても確固たる個性を持っている。“W”って面白い。喜多方の古い町と道で、“W”はそう教えてくれたのである。

OHC4バルブのヘッドを持つモダンなツインだが、クランクシャフトの回転数の1/2に減速が必要となる大きなカムスプロケットを嫌いベベルギアで駆動する方式を採用した第二世代“W”エンジン。バフ仕上げ、クローム仕上げが混在し、晴れた日には風景がエンジンのあちこちに映り込む。F.I.周りの処理もぬかりなし。サイドカバーも鉄製だ。 細身、大径のタイヤのグリップ力と良くバランスしているディスクブレーキ。かじりつくような制動力は見せない代わりに安心して握り込める操作性が魅力。レバータッチがもう少しふんわりすれば尚良し。
キャブトン風マフラーは“W”を表現するもう一つの顔。リアスイングアームは楕円パイプを使う。リアショックはあえてカバーレス。リアのドラムはじわっと制動力を伝える上質なブレーキだ。 タックロールスタイルのシート。先端が細身で足つき性はとても良い。780mmとシート高は適度。肉厚感ありのシートは疲れにくかった。
多くの要素を放り込んでいながらまとまりの良さは驚き。タンクラバーの出っぱりも意外とあるが、タンクそのものはティアドロップ型でキュートに絞り込まれている。 ライトステー周りも重厚感ある鉄パーツを使う。低速でごろっとハンドルが切れる特性はフォークのオフセットと、鉄パーツの重みが生み出すもの。19インチホイールはそれでも内側にゴテンと倒れるような急進的な切れ込みは見せない。
薄く大きなメーター類。インジケーターランプは回転計に、速度計の中には液晶の多機能表示を組み込み。計器類は、文字のレタリングにも他にはない拘りを感じる。 クロームのリアフェンダー上にあるテールランプ、ライセンスプレートホルダーもしっかり鉄製。素材の質感をバイク全体で整えている。


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