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■文:中村浩史 ■撮影:森 浩輔
■協力:SUZUKI http://www1.suzuki.co.jp/motor/

スズキ・カタナってモデルは
数あるバイクの中でも1~2を争うほど有名で
バイク乗りでなくても、知っている人は少なくない。
なにに乗ってるの? スズキのカタナだよ――。
これからは、あれ?どのカタナ?
そうやって言われるようになるのかな。

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ライダーの身長は178cm。

 ついに出た、ホントに出た、いやー、出ちゃったのか――。それが僕の正直な心境だった。
 あちこちで何度も書いているから、知ってくれている人もいると思うけれど、僕はカタナ乗りだ。1990年型のGSX1100Sカタナ、通称「アニバーサリー」をベースに、ユニコーン・ジャパンでリビルド&レストアした「ヘリテイジ」と名付けられたコンプリート車を買って、もうすぐ20年。最近はガレージから持ち出す回数が減っちゃっているけれど、まだちゃんと実働コンディションで保管してある。車検は……半年前に切らしちゃったなぁ。
 
 カタナは数奇な運命をたどって来たバイクだ。1981年に輸出専用車として、決して大げさではなく衝撃的なデビューを果たし、世界的なヒットモデルになったカタナは、日本に「逆輸入車」として里帰りし、はじめは希少モデルとしてバイク乗りたちの憧れのオートバイのひとつになった。
 後に国内モデルとしてGSX750Sが発売され、GSX750S(S2)、GSX750S(S3)も誕生。GSX1100Sカタナは数度のマイナーチェンジを経ても大きく姿を変えることはなく、幾度かの生産終了とのアナウンスも乗り越え、1994年には国内モデルも発売された。
 2000年には「ファイナルエディション」として1100台が生産され、これでGSX1100Sカタナは終了。途中、GSX1100Sカタナのフォルムで’91年にはGSX250Sカタナ、’92年にはGSX400Sカタナも発売され、結局’81年から’00年まで、毎シーズン継続生産されたわけではなかったが、カタナはスズキが誇る一大ブランドとなり、約20年ものロングセラーとなったのだ。
 
 あれから、また約20年。にわかにカタナの周辺が騒がしくなったのが2017年のEICMA(=ミラノショー)だった。イタリア・エンジンズエンジニアリング社が、GSX-S1000をベースに作り上げたショーモデル「KATANA3.0」を出展、その時にはまだ、ほー、よくできた新しいカタナオマージュだな、くらいしか思わなかったんだけれど、そののちに、このKATANA3.0がスズキ本社の目に留まり、市販化に向けて動き出すとは思わなかった!
 いわばこれは、かつて1980年のケルンショーで、ターゲットデザイン社のデザインでGSX1100Sカタナのプロトタイプが登場した時によく似ていた。実はそれがドイツのバイク雑誌「モトラッド」の企画で、ターゲットデザイン社が製作したMVアグスタをベースとしたデザインスタディ車「レッドラプトール」に、スズキが目をつけてから始まったプロジェクトだったからだ。
 
 KATANA3.0のデザインは、デザイナーのロドルフォ・フラスコーリからスズキ本社に移管されることになり、スズキの手で現実的な市販モデルへの手直しが行なわれ、2018年のインターモトに、市販前提車「KATANA」として出展されることになる。実はインターモトとは、かつて「ケルンショー」と呼ばれていたもので、そういえばGSX1100Sカタナが初公開されたのも、1980年のケルンショーだった。スズキは何としてもインターモトに間に合わせたかった、と語ったとかなんとか。

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 紛らわしいからあらためて言うけれど、僕が持っているカタナはGSX1100Sカタナ、2019年式カタナは“KATANA”と表記しますね。
 KATANAに乗るまでは、わりと複雑な心境だった。正直に言うと、カタナって名前をまた持ち出してきたかとか、カタナって名前にするならもう少しカタナっぽくしてくれたらいいのに、って感情があって、まぁそれはそれで子どもっぽくて自分が嫌になる(笑)。でも、GSX1100Sカタナのオーナーの多くは、正直そんな感情を持ってたんじゃないかな、と思う。もちろん、そんなことを超越して、これが今のカタナだよって人も多かったし、これぞ賛否両論、てことなんだな、と思っていた。
 まわりの友達や仕事仲間も、よーく聞いてきた。「新しいカタナ、どーだろーね」と。そうすると僕は『いいんじゃない? あれが現代のカタナなんだよ』とかなんとか言ってたものだ。まぁそれはそれで子どもっぽくて自分が嫌になる(笑)。
 
 ついに、そのKATANAに乗る機会がやってきた。
 まずは、まじまじと眺めたなぁ。ベースはGSX-S1000、そのコンポーネントを大きく変えずに、カタナ・スタイリングを載せたパッケージだ。うん、それもGSX1100Eをベースにカタナ・スタイリングを載せたGSX1100Sカタナと似通っている。
 カタナの最大の特徴であるヘッドライト周りは、うまく処理してあるなぁ、という感じ。カタナそのままではなく、あのカタナカウルがさらに洗練されて、新しく進化している感じ。ヘッドライトもLEDになっているしね。
 タンクまわりは、タンク容量12Lこそちょっと寂しいけれど、フレームレイアウトやエアボックススペースを考えると、うまくカタナ的に処理されていると思う。これも新しさを加えたニューカタナデザインだ。
 けれど、シートから後はいけない。いけない、って言ったら怒られるけど、ええい、正直に書いちゃえ。
 シート、短い! カタナのエッセンスを継承するんだったら、ロングシートで、テールレンズも角ばってる感じで、そのパッケージを新しく昇華してほしかったなぁ、と思う。スイングアームマウントのリアフェンダーも、スズキのチャレンジなんだろうけれど、他のモデルで挑戦してほしかった。カタナという名前にするならば、カタナデザインをきちんと継承して、その上で新しさを加えてほしかったのだ。ヘッドライトとかタンクデザインがそういうテイストにまとまっていたから、なおさら惜しいなぁ、と思う。バイクの前半と後半のデザインがちぐはぐに見える――もちろん、これは僕の主観だから(笑)。

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 ただし、いざ乗るとKATANAは、ホントにいい。当たり前だ、ベースはスズキのヒットモデル、GSX-S1000なんだから、いいに決まってる。GSX-S1000との差は、ライディングポジションやサスペンションセッティングで、1000ccとは思えない、コンパクトでクルクル回るスポーツバイク、ってポイントはそのままだ。
 エンジンは、GSX-S1000のまま。さらに低回転域での扱いやすさを出すために、スロットル部分のワイヤー引きを楕円形にして、開度が小さいときにはさらに小さく、開度が大きいときにはGSX-S1000同等になる仕組みだ。
 さらに、GSX-S1000でも採用されている、ローrpmアシストとスリッパークラッチ、ワンプッシュセルスターターなど、ビッグバイクのハードルの高さを感じさせないパッケージとしてある。ローrpmアシストは、長めに半クラッチを使わず、わりと無造作につないだ方がスムーズだった。
 ただし、クラッチはチョイ重い。ここは、重いと感じる時には、アフターマーケットからクラッチレバーやクラッチ側のカムレバーが発売されるはず。アップハンドル化した影響もあるのだと思う。

 ハンドリングは、GSX-S1000とはちょっとフィーリングが違う。これは、ライディングポジションがアップライトに変更されたことで、ハンドルポジションが左右に広がったのと、フロントに乗る荷重が変わったのが影響しているはずだ。
 普通に街を流すときには、GSX-S1000よりも軽快に感じる。リアサスは、KATANA専用にセッティングされていて、GSX-S1000よりもソフトに動きやすくなっているよう。比較は、厳密に乗り比べていないから正確ではないかもしれないけれど、それでもKATANAがソフトによく動くバイクなのに変わりはない。コーナーとは呼べないほどの曲がり角をスパッと曲がる時にも、意識してフロントを縮めて自然な舵角を探ると、きわめて自然に仕上げてあるのがよくわかるのだ。
 高速道路を使ったクルージングは、KATANAの真骨頂だ。トップギア6速で80km/hは3300rpm、100km/hは4200rpm、120km/hは5000rpmくらいで、直進安定性がピタッと決まって、平和なクルージングが味わえる。欲を言えばファイナルはもう少しロングでいいから、6速100km/hを4000rpm以下でこなせるといいな。これは、スプロケット交換で解決するだろう。
 気になっていたウィンドプロテクションも、GSX1100Sカタナよりひとまわり小ぶりで低いスクリーンでも、きちんと整流してくれるのがよくわかる。GSX1100Sカタナ同様、カウル、ヘッドライト、スクリーン全体で整流しているのだろう。

 ワインディングでは、GSX-S1000よりもアップライトなポジションが大きな武器になる。アイポイントが高いから視界が広く保て、余裕があるワインディングランを楽しめる。高いハンドルを抑え込んでフルバンク、って動きもGSX-S1000同様に充分こなせるもので、運動性もGSX-S1000同様、すこぶる高い。なんたって、コンパクトな車体で150psクラスの扱いやすい出力があるのだから、良く走るのは当たり前なのだ。

 KATANAで1日走り回って約300km。12Lタンクは200kmくらいをめどに給油した方がいいし、ロングで走りたい時には少し煩わしいけれど、スポーツスターやVmaxだってそうじゃない? これはスタイリング優先だもの、しょうがないのだ。
 KATANAに乗っていて気づいたことがある。このバイク、よーく声かけられるね。僕のGSX1100Sで出かける時もそうだけれど、KATANAはそれ以上だ。
「これってカタナですか?」「カッコいいねぇ」「兄ちゃん、いいバイク乗ってるな」「これが新しいカタナですか」と、掛けられる声は様々。そういえばGSX1100Sで出かける時も、休憩やパーキングでよく声を掛けられる。
 街乗りをしていて、ガラスに映る自分を、つい見ちゃう。次の信号待ちでも、つい。その次でも、つい。
 これ、GSX1100Sカタナの時もそうなのだ。自分が大事なバイクに乗っている、カッコイイバイクに乗ってるんだから、カッコ良く、スタイリッシュに乗りたい――そう思わせてくれるバイクなのだ。
 これが、カタナだ。やっぱりこれは、カタナなのだな。
 
 それともうひとつ、大事なこと。ヒストリーやレジェンドを聞くにつれ、カタナというオートバイに乗りたいと考えるファンは少なくないと思う。例えば若いファン、当時ずっと買えなかったけれど、今なら手に入るかもしれないおじさんたちも。
 そういった「新しいカタナファン層」がカタナを買おうとすると、やはりハードルは高いのだ。中古車市場で手に入れて100万円、それをきちんと整備してもらって50万円、それでもトラブルがつきまとい、けれど補修パーツも多くはない。金額はあくまでも一例だけれど、そんなケースは絶版車業界でたくさん転がっている。
 だからこそ、スズキは新たなKATANAを生み出した。これから10年20年、ずっと乗れるKATANAを。
 
(文:中村浩史)
 

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足周りは基本的にGSX-S1000と共用パーツで、サスペンションはセッティングを専用設定。ブレーキはφ310mmローターにブレンボ4ピストンキャリパーを組み合わせ、オプションでGS650Gを思わせる赤キャリパーも入手可能。サスペンションはφ43mmのKYB製倒立で、プリロードと圧側減衰力を調整できる。タイヤはダンロップロードスポーツ2。
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エンジンはGSX-S1000と共通。コントロール性向上のため、スロットルグリップ形状を変更し、アクセル開度ゼロからの開き始めを緩やかにし、開度が大きくなるにつれて同じだけインジェクション側も開く仕組み。発進時や低回転走行時には、ややインジェクション側を大きく開けて、回転の落ち込みやエンストを防ぐ「ローrpmアシスト」機能も採用している。
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マフラーはGSX-S1000同様にショートとして、コンパクトなデザインに仕上げている。サイレンサーはブラックアウトし、ここもカタナっぽい? 1100Sカタナは現在は施工じたいがむずかしいブラックメッキでした。 ショートテールカウルをさらに強調すべく、スズキで初めてのスイングアームマウントのナンバーステーつきリアフェンダーを採用。ここは賛否の分かれるところだが、KATANAに新しいデザインを注入したかったスズキの意欲と理解したい。
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やはり1100Sカタナのイメージを強く抱かせるヘッドライトまわり。プロトタイプとして出展された、フラスコーリデザインのKATANA3.0からモディファイを受け、より1100Sカタナ風味が強くなっている。ヘッドライトはLED。 インナータンク+タンクカバー構造として、エアボックススペースとの兼ね合いで、ガソリンタンク容量は12Lとやや少なめ。ボディカラーは写真のシルバーとブラックで、シルバーボディ+赤SUZUKIロゴの色味も1100Sカタナを踏襲。
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ショートシートは、やはりタンデムの快適性は乏しく、ツーリングの際には荷物の積載性も良くない。シート下にもほぼスペースはなく、用品ショップではETC車載器を搭載するにも苦労しているようです。フック式ヘルメットホルダーを採用。(※写真をクリックするとシートを取り外した写真が見られます) 荷かけフックがないため、シート裏にコードフラップを内蔵。タンデムステップ裏にある2か所と、このシート裏フラップ2か所を使用して荷物を積載する。けど、やはりシート前後長が短く、タンデム同様、荷物の積載には不向きかも。(※写真をクリックするとタンデムシートを取り外した写真が見られます)
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フレームもGSX-S1000と共用なため、ステアリングヘッドが低く、アップライトポジションにするには、この大アップハンドルが必要だった。メーターはKATANA専用で、ギアポジション、瞬間&平均燃費、オド&ツイントリップなどを表示。
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ヘルメットホルダーはシート下のフックにDリングをひっかけてシートを閉めればロックできる構造。荷物の積載は、タンデムステップ裏の荷かけフックとシート下のフラップを使用して前後左右の4点で使用すればいい。
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■SUZUKI KATANA(2BL-GT79B)主要諸元
●全長×全幅×全高:2,130×835×1,110mm、ホイールベース:1,460mm、シート高:835mm、装備重量:215kg●エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、排気量:998cm3、ボア×ストローク:73.4×59.0mm、最高出力:109kW(148PS)/10,000rpm、最大トルク:107N・m(10.9kgf-m)/9,500rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、燃費消費率:23.8km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、19.1km/L(WMTCモード値 クラス3 サブクラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:12リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン、タイヤ:前・120/70ZR17 M/C(58W)、後・190/50ZR17 M/C(73W)●メーカー希望小売価格:1,540,000円


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