JAIA Ducaati Scrambler Café Racer

 
人気のあるDUCATI Scramblerシリーズの中にあって、セパレートハンドルで、最もグリップ位置が低いレトロカフェレーサースタイルのその名もずばりのCafé Racerに乗る。
“スクランブラー”なのに“カフェレーサー”という面白いネーミング。アップライトなポジションから、前傾姿勢になり、空冷Lツインエンジンを積んだスタイルと走りをお伝えしよう。

■文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:ドゥカティジャパン http://www.ducati.co.jp/

 
あまり難しく考えない。

 カフェレーサーというと、昔の英国走り屋文化が発祥のカスマイズから───というくだりが出てくる。確かにルーツはそこにあるのかもしれないけれど、今は一種のスタイルとして知られている。その歴史を知らないとフィロソフィーや本質が理解できないという話ではない。

 現代のストリートで走りを純粋に楽しむ人が選ぶとしたら、スーパースポーツや、そのエンジンをベースにアップライトなポジションにしたストリートファイターなどになる。クリップオンハンドルにカウルを装着したのが“スタイル”となったカフェレーサーは、速く走ることから開放され、もっと自由を手に入れた。DUCATIには過去に同名の機種があったけれど、それとも別だ。口角泡を飛ばして、由来や歴史を強調するものではないだろう。

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ライダーの身長は170cm。

 
スタイルを楽しむ文化。

 最新の走りを追求した装備や成り立ちでストイックに堪能するのとは違う、もっとカジュアルで、もっとストレートにカッコよさを追求したのが現代のカフェレーサー文化。DUCATI Scrambler Café Racerはまさにそういった機種である。ロードモデルをアップハン、アップマフラーにしてオフロード仕様を作ったのがスクランブラーというジャンルだけど、これも今やスタイルのひとつ。

 ということで、スクランブラーとカフェレーサーはストリートカスタマイズから盛り上がったというところで同じカテゴリーと言える。それだからScramblerをベースにこのCafé Racerを作ったDUCATIにのやり方に納得し共感できる。そんな難しく考えなくてもいいんだけれど、簡単に言えば、走りだけでなく、おしゃれなスタイルにも重きを置いたストリートバイク。

 上半身が起きたリラックス姿勢で操れる自由な乗り物というScramblerと違い、背筋が前に倒れたポジションは、ワイルドでストイックという印象。革ジャンが似合う(革ジャン以外でも似合うけどね)。嬉しいのは足着きがとても良いことだ。身長170cmで股下が短い私の体型でも両足裏が地面にベタつき。スリムな車体と、シート形状もあってシート高805mmという数値から想像した足着きよりもいい感じ。フロントフォークに近づけられたヘッドランプに張り付いたようなカウルで、頭でっかちに見せないところがいいね。

 バーエンドミラー、ワイヤースポークホイール、ゼッケンプレートになっているサイドカバーなどで、クラシックレーサーの雰囲気を出しながら、モダンな手法でスタイリッシュにまとめられている。ブラックエンジン、ブラックサイレンサー、ブラックフォーク、ブラックリムなど足周りもブラックアウトして、色のついたトレリスフレームとボディだけを浮かび上がらせる見せ方は上手だ。

 よく「おしゃれは足元から」と言われるけれど、いなせでカッコイイ印象は、こういうディテールのこだわりが大切だと思う。ちなみに#54は50年~60年代に活躍した、グランプリレーサー、Bruno Spaggiariが付けていたゼッケンナンバーだそうだ。DUCATI Lツインマシンの特徴である細い車体はそのままに、通常のScramblerより低いハンドルになっていることで、よりコンパクトな感触。事実としてフロント18インチのICONと比べれば、17インチだから小さくなっているのもある。そしてライダーの体と車体が近くなるポジションなのでバイクとの一体感も強まった。

 
ちょうどいい塩梅のエンジン。

 空冷2バルブL型デスモドロミック2気筒エンジンはショートストロークの803cc。シャキシャキとした歯切れの良い音とともに軽く吹け上がる。ピックアップが良くスロットルが開けるのが快い。はっきりとした加速が続くのは8千回転くらいまでかな。とにかくスムーズに回り、回転数によるトルク変化は小さめ。グラフにするならフラットに近いカーブを描く特性に違いない。ガンガンに回して乗るより、しっかりトルクがあるので、気持ち早めにシフトアップして走った方がスマートだ。非力でもどかしいなんてない申し分のないパワーでも、強烈という印象にならない力加減だから、恐れず積極的にスロットルを開けてグイグイ進ませられる面白さ。

 
ちょうどいい塩梅のハンドリング。

 あまり前に座らず、シングルシートの後ろ側、反り上がったヒップストッパー部分の存在をお尻で感じるくらいの位置に腰を下ろしていると、コーナーの侵入でフロントにかかった荷重から旋回しながらリアへの荷重に移行するのが滑らかで曲がりやすくなる。ICONに比べ、ハンドルグリップ位置が前に出て、より前かがみになることで増えた荷重を上手く利用して機敏な回頭性。3.50、5.50というリム幅の前後17インチホイールにピレリのディアブロロッソ3を履いたハンドリングは軽快なフットワークだけど軽快すぎず。一連の動きにセンシティブになるところはなく安定したもの。舗装路の路面変化に対する許容範囲もなかなか。

 スポーツだけど、スポーツすぎないこの走りを表現するのは難しいけれど、動きは、前後17インチを履いたミドルネイキッドモデルに近いか。ポジションや重さ、サイズなどは違うが走り方が似ている。ブレンボのモノブロックキャリパーを使ったブレーキは流石に強力で、この車体と足周りには十分。Lツインエンジンの特性と、リンクレスでも突っ張ったフィールがほとんどないリアサスペンションのおかげで、トラクションを得やすく、スロットルを早めに開けていける。

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他のScramblerとは違う味で魅力的。

 Scramblerシリーズの乗りやすい良いところを受け継ぎ、別のフィーリングを味わえるように仕上げている。素材と仕込は同じで、味付けが違う料理。スタイルだけ、後は知らないと割り切っておらず、走りにはDUCATIらしい個性と味わいがあるけれど変な癖や、わざとらしく鼻につく演出をせずに、素直に楽しめる走りを持っている。SRなどをカスタマイズして乗り回し、バイク好きだけどバイクオタクにならなかった人たちが次に乗る機種としてもってこいだ。ビギナーにも敷居が高いなんてない。背中を押して急かされるようなところがないから、自分の好きな走りに合わせやすい。
 
(試乗・文:濱矢文夫)

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DUCATIのアイデンティティと言えるデスモドロミック機構を採用する空冷2バルブL型2気筒エンジン。Scramblerシリーズとしてはおなじみ。803ccで54 kW (73 ps) @ 8,250 rpmの出力。最大トルクは67 Nm (6.8 kgm) @ 5,750 rpm。トランスミッションは6段(6速がオーバードライブ)。スリッパークラッチも装備する。ダイヤモンドタイプのフレームは鋼管トレリス。エキゾーストマフラーは、テルミニョーニ製。 Scramblerシリーズの中で最も低いグリップ位置。セパレートタイプのハンドルはアルミ製。欧州メーカーに共通する、小柄な日本人にとってはやや開いた印象になる。バーエンドミラーは意外なほど後方視認性は良かった。右側にオフセットされた小さいモノクロ液晶画面のメーターはギアインジケーター表示もする。タコメーターは下側半円に沿うようにバーグラフが上がる。
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ヘッドランプはLEDでデイライト・ランニング・ライト機能もある。なんとレンズはガラス製だ。ウインカーもLED。13.5L容量の燃料タンクはシリーズ共通のティアドロップ形。シート高は805mmだが、細いのもあり、その数値から得られるイメージより足着き性がいい。 フロントフォークはKYB製のインナーチューブ径φ41mmのアップサイドダウンタイプ。ホイールトラベルは前後ともに150mm。ブレンボM4.32 4ピストンのラジアルマウントキャリパーと外径330mmディスク。ボッシュ製コーナリングABSも付く。なんともフロントフェンダーは小さい。
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