VERSYS 1000 SE試乗

 
ヴェルシス。なかなかメインストリームになりにくいモデルである。しかし各社からリリースされる、アドベンチャーなどと呼ばれる大排気量長距離ツアラー群に対するカワサキの答えがこれだ。アドベンチャーモデルとはいくらか毛色が違うが、乗るとそのカワサキらしいフィーリングに納得する。

■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/

 
イノシシ年の年男

 ”V”の発音が基本的に存在しない日本語において「ヴェルシス」という車名がちょっと覚えにくいと思う。「ベルシス」と呼ばれることも多いはずだ。国内仕様がしばらく存在しなかったことも日本市場に定着しにくかった一因かと思うが、ヴェルシスブランドはまず最初2007年、パラツインの650が登場しているからその歴史はすでに12年。イノシシ年の年男(男?)なのだ。しかもこうしてモデルチェンジも繰り返しているのだから、一定の支持層がいるはず。アドベンチャー系モデルとしては珍しい4気筒(ニンジャ1000系)を搭載したヴェルシス1000は2010年に650と共通するデザインイメージで登場し、後にこのニンジャ顔へモデルチェンジすると同時に機能面もブラッシュアップしてきた。今回乗ることができたのはその最新型、しかもアクセサリーフル装着の最強ツーリング仕様である。

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充実の装備

 機能面に触れておくと、基本的にはニンジャ1000を下敷きにしていると考えて間違いない。フレームもエンジンも細かな部分以外では共通で、その骨組みをベースにストロークの長いサスペンションやよりリラックスできるライディングポジション、タンデムも快適なシートなどを装着し長距離ランをサポートしている。さらに電子制御サスを始めとする各種最新電子機器を搭載し、カワサキははっきり「アドベンチャーモデル」とは言わないものの、いわゆるカワサキ版アドベンチャーと言える。各社ともにアドベンチャーモデルへの力の入れようはSSモデルへのそれと同様にレベルが高いため、まさに最先端のカテゴリーと言えるだろう。
 カワサキはそこに敢えて4気筒で挑み(BMWもS1000XRという4気筒アドベンチャーを持っているが)独自の世界を追求。多少のオフロードはこなせるだろうけれど、「だって道のほとんどはオンロードじゃないか」という開発者の声が聞こえてきそうだ。オフロード性能も追及する大型アドベンチャーモデルも多いが、そもそも大きく重く、そこまで踏み込んだオフロードを走るのはライダー側に求めるものが大きくなりすぎるんじゃないか、と常々感じていた筆者としては、カワサキのチョイスは正解に思える。4気筒で前後17インチという成り立ち以外では、各種最新の充実装備はライバルと同様なのだから。

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楽しみにしていた試乗

 650の方は何度か乗ったことがあり、これが非常に好印象だった。軽くて速くて快適で、本当に良くできたモデルだと今でも思う。特に初期型はキノコみたいな形をしたライトで、個性や愛らしさもあり個人的には魅力的に感じた。
 後にモデルチェンジし、デビューした1000と同様の風の谷のガンシップみたいな顔になったが、それでも個性的に思え興味をひかれた。ちなみに今は650もニンジャ顔である。スタイリングの移り変わりはともかくとして、1000の方は未試乗だったため、650のあの良さが1000でも表現できているのだろうか、あのサイズになってもヴェルシスの魅力は同様なのか、と前から気になっていたのだ。
 カワサキの考えるビッグアドベンチャー、ビッグツアラーとはなんなのか。ニンジャ1000という優秀なツアラーに加えZX14Rというハイスピードスポーツもラインナップする中、どんな立ち位置なのか……。電子制御サス等が装着されたこの最新SEモデルでやっと試乗が叶ったのだった。

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驚いた「カワサキ感」

 ニンジャ1000やそのノンカウル版のZ1000はとても速いバイク。ルーツをたどればZX-9Rまでさかのぼれるエンジンではあるものの、現代的な技術と味付けでとてもモダンな乗り味及びエンジンフィーリングになっている。基本を共有するヴェルシスも同様かと思えば、そうではなく驚かされた。
 マニアックな話で申し訳ないのだが、この車両に興味を持つ読者、もしくは購入を検討する読者は50代以上と考え、旧い車種を挙げさせていただきたい。ヴェルシス1000のフィーリングは、カワサキ空冷2バルブ最強を誇った、GPz1100と瓜二つだったのだ! 筆者も「え? そんなバカな」と自分の感覚を疑ったりもしたのだが、乗り込むほどに確信した。これは紛れもなくGPz1100なのだ。
 紛れもなくといっても、基本的にはエンジンの話ではある。確かに親しみやすいライディングポジションや柔らかめのサスペンション、快適なシートや細めのニーグリップなども旧車に通じる部分もあるが、「こりゃGPz1100だ!」と最も感じたのはやはりエンジン。低回転域からズルズル、もしくはジュルジュルと重さを伴って回り、そのままあまり大きな変化が起きることなく回転は上昇、ストレスなく回っていくものの、どうにも速度がのっている気がしない。ところがスピードメーターを見ればやっぱりちゃんと速度は出ている。振動は少ないのだが、全回転域で満遍なくその少ない振動が続き、一定の速度帯だけでハンドルがビリビリするとかそういうことがない。いい意味で全てがフラットでドラマがない、ツーリングバイクとしては理想的な出力特性なのだ。まさにかつてのカワサキが、GPZ1100や後のZZRシリーズなどで得意とした特性であり、「カワサキ感」溢れる乗り味に感動してしまった。最高出力もGPz1100と全く同様の120馬力なのも偶然とは思えないほどである。

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中性能をサポートする高性能

 こんな出力特性のため、正直に言って「速い」という感じはない。アクセルを大きく開けてもまるで5速ミッションかのような息の長い加速をしていくため、キビキビ感は少なめと言える。どこまでも穏やかで、意図的な性格付けをしたという印象がなく、素直にいいものを作り上げた結果優秀なツアラーになったという印象。あくまで長距離をストレスなく走破するための味付けと言えるだろう。さらに今回はフルパニアも装着されていたことで、高速域では走行風の流れが気になりそんなに飛ばそうという気にもなれない。やはり淡々と距離をこなすのが得意な、英語でよく言われるところの「マイルイーター(静かにマイルを食べていく優秀なツアラー)」というわけだ。
 しかしそうはいっても120馬力、車両重量はアクセサリー品がない状態で257キロである。ABS、トラコンは当然装着し、しかも車体姿勢を認識するIMUも搭載することでこれらの精度を高めると同時に「KCMF(カワサキコーナリングマネジメントファンクション)」なるものまで搭載されている。そして電子制御サスにクイックシフター……。まさに全部乗せの状態で最新の技術がてんこ盛り。エンジン特性そのものは特別「高性能」という感じでもないのだが、長距離ランをサポートする各種補器類は紛れもなく最先端の「高性能」である。

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長距離ツアラーに贈る

 近年のカワサキはスーパーバイクでの成功やスーパーチャージャーモデルの登場などでエキサイティングな印象もあるかと思う。しかしヴェルシスの試乗では、そもそもカワサキが何を得意としていたのかを思い出させてくれた気がする。淡々と長距離をこなし、公道で起こりえるあらゆる状況を涼しい顔でいなしていく。かつての水冷GPZ900Rニンジャや空冷GPz1100、そしてZZR1100シリーズなどが次々と頭に浮かんでくる乗り味であった。
 高速道路を積極的に使い、しゃかりきに飛ばすのではなく、静かに、確実に距離を稼いでいきたいような、長距離ツアラーライダーならばこのモデルの真の魅力に惹かれることだろう。
 
(試乗・文:ノア セレン)

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とても自然なライディングポジション。飛ばし気味に走るとエンジンからの熱気はある程度感じるが、それも良くマネジメントされていると思う。シートは大変快適で、またタンデムシートも特筆もの。グリップヒーター、ETC2.0も標準装備。足着き性は車格を考えると良い方だと思うが(ライダー身長185cm)、足を降ろしたい位置にステップがある印象で、ステップの前か後ろかに足を着くのか悩ましいところ。
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ニンジャ系と同様のイメージとなった前周り。灯火類は全てLEDになり、サイドカウル部にはリーンしていくと自動的に点灯するコーナリングライトも装備。現車には純正アクセサリーのフォグランプキット、ラジエタースクリーンが装着される。カウル先端部は2つに分かれていて、カマキリの口のような印象が特徴的。 電子制御式倒立サスペンションにモノブロックキャリパーやABSと近代的な装備。タイヤはブリヂストンのツーリングタイヤT31を純正装着。アクスル部に装着する部品は純正アクセサリーの「アクスルスライダー」だ。 リアホイールはニンジャ1000やZ1000の6インチ幅よりも一つ細い5.5インチ幅を採用し、それに伴いタイヤは180幅となっている。チェーン引きも特徴的なエキセントリック式とせず一般的なものを採用したのは、旅先の限られた工具でも対応できるようにするためだろう。
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ニンジャ1000と基本的には共通のエンジンだが、こちらは最高出力が120馬力に抑えられその分ツアラー的味付けを追求。カワサキ初の電子制御スロットルシステムも採用するが、「あえてケーブル感を残している」というのがカワサキらしい。アシスト&スリッパークラッチも採用したことで非常に軽いクラッチ操作が可能だ。
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分割に見えて実は一体型のシートはリアボックスが装着されていても簡単に着脱でき好印象。ETC別体器へのアクセスももちろん良好だが、バッテリーへのアクセスが良いのもポイント。なお純正アクセサリーではハイシートも用意されている。 センタースタンドは標準装備。ツアラーにはありがたく、特にアクセサリーのボックス類に荷物を収納する時はバイクが直立していると大変助かる。なおステップやハンドルはラバーマウントされており微振動をライダーに伝えない工夫もみられる。
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快適なタンデムのためにかなり低い位置に設定されているタンデム用ステップにはゴムも張られている。別体式ヘルメットホルダーを装備しているのもカワサキらしく大歓迎だが、パニアケースがついているとちょっとアクセスしにくいか……。 出口が2本に分かれているサイレンサーは、良く消音されておりとても印象が良い。排気コレクターとプレチャンバー内に三元触媒を備え排出ガスのクリーン化も実現。 手動で無段階に上下できるスクリーンやナックルガードにより防風性を確保。グリップヒーターと共に、冬場のロングランもサポートしてくれるだろう。
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電子制御化が進むとスイッチ類が難解になることが多いが、ヴェルシスについては取扱説明書を引っ張り出さずとも何とか操作可能だった。特にリアのプリロード調整などが手元のボタン一つで簡単に調整できたのが嬉しい。バーエンドの大きなウェイトがいかに快適性を追求しているかを物語る。 カラー液晶になり、かつ様々な技術が進んだことで特に外国車では個性的なメーターが増えているが、国産ではヴェルシスはかなり進んでいる印象。情報量が豊富で、かつリーンアングルや前後の重心位置まで示してくれるという、ギミック的な要素も有。
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Z1000の17L、ニンジャ1000の19Lを上回る、21Lタンクでロングツーリングをサポート。それでいて跨ぎ部分がスリムになっているのはエンジン上部を通るフレーム構成のおかげもあるだろう。またがると見た目の巨大さに対して意外とコンパクトだ。 純正アクセサリーとして用意されている、左右のパニアケースとトップケース。ワンキーシステムと合わせて購入することでメインキーで全てのケースが開けられるようになる。
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■Kawasaki VERSYS 1000 SE(2BL-LZT00D) 主要諸元
●全長2,270×全幅950×全高1,490mm(ハイポジション1,530mm)、ホイールベース:1,520mm、シート高:820mm、車両重量:257kg ●エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、排気量:1,043cm3、ボア×ストローク:77.0×56.0mm、最高出力:88kW(120PS)/9,000rpm、最大トルク:102N・m(10.4kgf-m)/7,500rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、燃費消費率:25.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、17.6km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:21リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後180/55ZR17M/C 73W ●メーカー希望小売価格 1,868,400円(本体価格1,730,000円)

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