■文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
バイクって、いろんな人が乗るものだ。
免許取りたての人、ベテラン、小柄な女子、大柄なおじさん。
それらすべての層を満足させるのは難しいから
メーカーはターゲットを絞ったバイクづくりをする。
Vストロームはそこが潔い、目的がはっきりしたバイクだった。
ライダーの身長は178cm。 |
ちょっと物足りなかった。街乗りしていて、3000~4000rpmの、いわゆる常用回転域。40~50Km/hで走っていて、パッと加速したい時にスロットルを開けても、いったんタイムラグがあって、回転がスロットル開度に追いついてくる感じ。トルクは出ているんだけれど、もっさり穏やかにエンジンが吹け上がる。
おかしいな、同系エンジンのGSX250Rはもうすこし元気だったのに――これが、Vストローム250に初めて乗った時の、偽らざる心境。しかしこれが、スズキの狙いであることがのちにわかるのだった。
バイクって、いろんな人が乗る乗り物だ。キャリアで言えば、きのう免許を取ったばかりの人も、はるか昔に乗っていたけれど降りてしまっていて、しばらくぶりにカムバックする人もいる。そして僕みたいに、免許を取ってからずっと、なんかしら乗り続けているような人もいる。
体格だってそうだ。僕の体格はちょっと小太り身長178cm/体重80kg。身長150cmそこそこの人もいれば2m近い人だっているし、体重だって50kgから100kgオーバー、女子も、男子もいる。若い人も、おじさんだっておばさんだって、バイクに乗る。
そんな多種多様な対象に向けて、メーカーはバイクを作っている。やっぱりこれって、すごいことだ。だからここから、スポーツ向けに特化したり、街乗りが快適な狙いとしたり、ターゲットを絞っていく。
さてVストローム250。このモデルは、スズキのアドベンチャーモデルブランドである「Vストローム」シリーズの、1000/650に続く250ccバージョン。ロードスポーツGSX250Rをベースに、スタイリングをアドベンチャー方向にモディファイしたモデルだ。
本格的なアドベンチャールック、センタースタンドやナックルガードが標準装備なこと、そしてパニアケース装着も簡単なことも理由か、スズキ久々の軽二輪ヒットモデルとなっていた。発売してしばらくは、人気に納車が追いつかないバックオーダー状態になっていて、ABS標準装備モデルが追加発売された今、ようやく納車ペースも落ち着いてきたようだ。
実はこの「アドベンチャー」ってカテゴリーの中も細分化している。Vストローム250のライバルと見られているのは、ホンダCRF250 RALLY、カワサキ・ヴェルシス X 250 ツアラー、それにキット装着車のツーリングセロー、BMWのG310GSといったところか。その中でもツーリングセローとCRFは別カテゴリー、ヴェルシスとG310GSがVストロームの仲間ってことになる。それは、生まれがオフロードモデル発祥か否か、ってことだ。
CRF250 RALLYはもちろんCRF250Lを、ツーリングセローはセローをベースに生まれたもので、ヴェルシスはNinja250が、G310GSはG310がベース。だからGSXをベースに生まれたVストロームと同じ仲間ってこと。得意な用途も、アドベンチャーという言葉から連想されるような「オフロードも含むツーリング」というより、オンロードメインのロングツーリングの方が得意なのだ。
そのVストローム、パッとまたがるとまず車重がズッシリと来る。ベースとなったGSX250Rよりも10kgほど重く、ヴェルシスより14kg、G310GSより20kg近く重い。これがまず、Vストロームのキャラクターのひとつだ。
走り出してみると、冒頭に記したように、スロットルのレスポンスが穏やかで、回転の吹け上がりも決してシャープではない。良く言うと穏やかで、悪く言うとモッサリ。特に4000rpmくらいまで、スロットルの開けにワンテンポ遅れてついてくる印象で、この回転域でのトルクは出ているけれど、機敏に動くモデルではない。
これがロードスポーツGSX250Rとなると話は別で、スロットルレスポンスも吹け上がりもかなりシャープ。つまりVストロームは、あえてこの出力特性を与えられているのだ。
もちろん不満ばかりではない。こういうエンジン特性にマッチする走り方、それはツーリングだ。Vストローム250に乗ってハッキリわかったことは、スズキはこのモデルを、可能な限りロングツーリングにターゲットを絞ったのではないか、ってことだった。
ゼロ発進から、どんどんシフトアップして行ってクルージングスピードに乗せてみる。ニュートラルからギアをローに踏み込んで加速、スロットルを開けながらスピードを乗せていって、2速、3速、4速。加速している最中、やはりスピードの乗りはシャープではないけれど、少しずつスピードが乗って、6速6000rpmに届くと、スピードが80km/hに達する。
この時のフィーリングがいい。少し回転が上がりすぎるきらいはあるけれど、柔らか目のサスペンションと重めの車重が安定感につながって、ものすごく平和なクルージングができるのだ。
シートは厚め、多少のスロットルの開閉では車速もあまり変わらず、一定スピードでの~んびり流すことができる。シートが厚いこと、ボディが大柄で車重があること、サスペンションが柔らかいこと、スロットルにシャープについてこないこと――ストリートで不満だったいくつもの項目が、ことごとくツーリングに合っていたのだ。
クルージングも、100km/hに届くスピードだと、エンジン回転数が7600rpmまで上がってしまうから、もう少しエンジンがうなることになる。Vストロームは、6速80km/hでずっと走りたい――そういうバイクなんだと思った。
欲を言えば、80km/hの時のエンジン回転数をもう少し下げてみたい。これはドライブorドリブンスプロケットを変えれば済むことで、ファイナルレシオを少しロング目に振ってみたい気がする。GSX250Rの純正ドリブンスプロケットに交換するとリアが1丁ロングになるから、まずはそこから試してみたい。もちろん、そうすると街乗りでのシャープさがまた削がれるんだけれど、ここは割り切ることだ。Vストロームは、6速80km/hでずっと走り続けるバイクなのだから。
極力、このスピードレンジを守って距離を伸ばしていくと、トリップメーターはたちまち300kmを越え、400kmに届き、心配になって給油すると、400kmで12.5Lほど入った。つまり、実測燃費は約32km/L。Vストロームの、250ccにしては大きめの17Lタンクだと、フルタンク500kmを越えていく。これはスゴい!
少しワインディングも走ったけれど、大柄な車体とライダー込み250kgオーバーの重量はとにかく安定していて、軽量モデルにありがちな、フロントがフラフラするような動きがまったくない。これは、特にライディングキャリアの浅い人は大歓迎するハンドリングだと思う。110mmサイズの80扁平の17インチタイヤの特性でもある。
コーナリングも、バイクをすこし寝かせるとハンドルが自然に少しだけ切れて、自然に曲がっていくような感覚。ここからペースを上げたり、ハードブレーキングを併用しても、大きくハンドリングのキャラクターは変わらなかった。これもやはり、ロングツーリングバイクのために作り込んだハンドリングなのだろうと思う。
アドベンチャースタイルだとはいえ、オフロードへの適応性はそう高くない。なにせ純正装着タイヤはサイズもパターンもロードモデルGSX250Rのままで、GSXよりもサスペンションストロークを長めに取られているだけだから、これはオフロードを走破するというより、オフロードに踏み込んでもやや安心、くらいにとどめること。
もうひとつ記しておきたいのは、価格のこと。スズキは伝統的に値付けにもかなりがんばっていて、Vストローム250のABS付が60万2640円、まだ併売されているABSなしは57万240円。多くのユーザーが納車時に装着するというトップケースは、取り付けステー込みで3万3480円だ。
ちなみにライバル勢はというと、CRF250 RALLYが70万2000円、ヴェルシス X 250 ツアラーは68万9040円、ツーリングセローはABSなしで61万9920円。値段も、バイクのひとつの魅力なのだ。
物足りない、と思うのは僕の感想。そう思うのと同じくらいに、いやもっと多くの人が「これでいい」と思うはずだ。
街乗りでキビキビ走らないな、と思ったらクルージングで気持ちがよかった。
Vストローム250は、そんな「のんびり旅する」バイクだった。
(試乗・文:中村浩史)
GSX250Rと同一サイズの17インチホイールを装備するのがVストローム250のハンドリングキャラクターを決定づける。ちなみにヴェルシスが19インチ、セローとCRF250 RALLYが21インチを採用するのはオフロードの走破性向上のためだ。 |
2019年モデルではサイレンサーガードの形状が変更された。サウンドはかなり静かで物足りないほど。ブレーキは前後ともペータル形ディスクで、現在はABSありとなしが選択できる。リアサスは車載レンチでプリロードを7段階に調整できる。 |
前後一体式シートはクッション厚があって、柔らか目のサスペンション設定と合わせてかなり乗り心地ふかふか。グラブバーはトップケースベースも兼ねて、かなり頑丈なつくりだ。ヘルメットホルダーはシートを外すと現われるフックを使用。 |
パニアケースベースとなっているプレートが荷かけフックに使用できる親切設計。リアのトップケースベースにもフックが設けられていた。純正パニアケースは装着用プレートが6480円、パニアケースが左右で4万8600円。 |
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