幻立喰・ソ

第21回 矢の如し・立喰・ソ

「光陰矢の如し」。
 光陰の光は日、陰は月の意でつまりは月日。「月日が経つのは矢が飛ぶように早い」ということ転じて「だから毎日しっかりしなさい」ということです。
 最近特に月日が経つのは非常に早いと感じておりますが、諸兄のみなさまはいかがでしょうか。
「楽しい時間は早く、苦痛の時間は長く感じる」とも言います。毎日が楽しくて楽しくてしょうがないのかといえば、それほどでもないようにも思います。が、平穏無事に一日が終わる、これは幸せでありがたいことです。人生もまた矢の如しでしょうか。

「矢? ちょっと考えれない(もちろん「ら」抜き)っすね」
 平成キッズに軽くスルーされそうですが、矢の速度ってどれくらいなんでしょう? ウィキ先生はすぐに教えてくれます(ちなみに「ミスター・バイク」についてはさすがの先生も御存知ないようです、残念)。形状や射手によって差はありますが、瞬間最高速度は秒速90m。時速にすると324km/h。MOTOGPマシン級です。
「GPマシンは目で見れる(再び「ら」抜き)んっすけど、矢は見れねえっす。矢、パなくない? マジヤバしょ」
 それはどうでしょう。RC212Vくらいの大きさの矢があれば、ね、見えるでしょ。

 せっかくなので、バイクの一般的な量産市販モデルで考えてみましょう(何を?)。
 時速100マイル(160km/h)に届いたのは1930年代の半ば、200km/hの大台になんとか乗せたのは約30年後、1969年のCB750Four。300km/hを越えるのはそれから30年後、1999年のハヤブサ。ということは2030年には400km/hオーバーの市販バイクが誕生するはず。
「400km/hいらねー。っていうかバイクの免許持ってねーし」という寂しい悲しい時代ですから。
「父と息子とバイク」を読めよと諭しつつも、400km/hバイクが誕生することはかなり難しいでしょうね。400km/Lバイクの方が可能性は高いかもしれませんよ、ブルース。

 そんな速さの王様といえば光。かのアインシュタイン博士が「光りよりも速いものはない」と断言しました。がそれは覆されました。今や「ひかり」よりも速い「のぞみ、みずほ、はやて、はやぶさ」がびゅんびゅん走るアインシュタインびっくり時代です。という鉄オチではなく、「ニュートリノ」とかいうやつです。「え? 86にリトラ仕様が出るの?」というボケはともかく、ニューがあるならただのトリノもあるのかどうか、そもそもそれが何なのか、何度電気先生に教えてもらってもまったく理解できない物体(で、いいんですか?)が発見(で、いいんですか?)されたとか。でも、実験したらどこかのケーブルがゆるんでいて実証できなかったみたいなことが新聞に書いてあったような気がしますから、やっぱり今のところは光が一番です。その記事を読んだおかあさんは井戸端会議で嘆きます。
「うちのダンナ、夜はニュートリノなのよ」。

 きれいにオチがついたところで本題です。
 早いといえば、つい先日開店したばかりだと思ったら、もう幻立喰・ソの仲間入りしてしまった矢の如し系立喰・ソ、「内藤新宿そば」が今回のおともだちです。
 第15回(2011年5月更新)の立喰・ソNEWSで新店舗として紹介させていただいたばかり。ゆりかごから墓場まで約半年……もっと短い生涯の幻立喰・ソもあるでしょうけれど。それはまたということで。

 最近のメジャー化により質の低下……が懸念される新宿の想い出横町。飲み屋さんばかりでなく立喰・ソも不動の人気店で盛業中のKと、マニアックに人気な一茶がありました。一茶は第11回でお伝えしたように、残念ながら階段になってしまいました。その後釜といいますか、正確にはたぶん2軒くらい隣(まったく正確じゃないです……)に突如出現したのが「内藤新宿そば」でした。突如登場と言っても小田原の一夜城のように出来た訳ではありません。たまたま通りかかったら発見したということです。諸先輩方の関連ページで調べたら2011年2月頃にすでに開店したとのこと。ちなみに「内藤新宿」とは、ナイト新宿でも、思い出ぼろぼろと歌う新宿でもありません。詳細は例によってウィキ先生にお尋ねください。

「おっ、こんなところに新店が」と、発見はしたものの、この界隈は一杯やりたくなるお店ばかりで「そのうち入ればいいや」とスルーしていたのです。それがあの日は虫の知らせか、躊躇することなく店内に入りました。
 ん? 虫の知らせ?? 虫嫌いな人がたくさんいるのになんで虫がわざわざ知らせに来るんですか?「あれは、虫のしらせだった」とよく聞きます。よく使いますが、実際どんな虫が、どのようなカタチで告知したのか具体的な話は聞いたことがありません。私のイメージは吉田戦車画伯描くところのカブトムシが、「だんなさん、大変なことになってます」と、耳にしがみついてる図がしっくりきます。ちなみにあの日、私にささやいたのは腹の虫でした。といっても回虫ではありません、念のため。
 開けっ放しの自動ドア(こういう状態でも自動ドアって言うんでしょうか?)をくぐり抜けると、右側のカウンター内にひょろひょろっとしたアンガールズの田中さん(ちなみに田中さんは立喰・ソが好きで、品川駅のえきめんやによく行くらしいです)のような人がぼそぼそと小声でたぶん「いらっしゃい」と言いました(※諸先輩のサイトには、やたら声のデカイ店員さんがいたと書かれていました。同じ人なのか別人なのか、それとも単にのどの調子がイマイチだったのでしょうか?)。

内藤新宿 内藤新宿
「立喰・ソ」。あれは5月の夏が近い蒸し暑い日のことでした。(2011年5月撮影) 「幻立喰・ソ」。春まだ浅き3月。内装と半端に残る看板が寂寥感。(2012年3月撮影)

 
 厨房側と背中合わせにもカウンターがあり、無理をすれば12〜3人は座れそうですが、6〜7人もいれば息苦しい狭い店内には先客がいました。
 厨房側のカウンターにアメリカン風御一家と出来上がりつつあるおっさん、背中合わせに激しく汗がしみ出したぶーでーヤングとがりがりメガネくんの2人組という、出来れば、いや、出来なくともいっしょにソをつるつるしたいとは思えないメンバーがいらっしゃいました。
「赤! 赤! 赤!」左180度急速転舵、迷わず回れ右しましたがヤンキー級原潜の反応は俊敏でした。「オラっ! 早く食え」ダディは、だらだら食べている雷威我(らいがー・やんちゃ盛りの小3。すべて推測)をこづき、茶髪+ピンクT+ニットミニスカで完全武装のマミーも、美囉来(みらくる・3歳 もちろん推定)の積載位置を椅子からセクシーな美脚上に変更し「どうぞ」とにっこり。不意打ちの連続雷撃を喰らわされては、さらに180度まわれ右するしかありません。
 厳しい世界で生きていらっしゃるのでしょう。見かけで人を判断してはいけませんという、見本のような方でした。その隣で出来上がったおっさんは、見かけで判断しても問題ないでしょう。マンガだと大金持ちか大会社の会長だったりしますが、私は電機会社の課長でもないし、釣りもしないので問題ないでしょう。
 左ヤンママ、右おっさん、背面ぶーでーという近年希に見るフォーメーションに落ち着くと同時にアンガ田中はつぶやくように言いました。
「食券買ってくださいね」
 もう、座る前に言ってくださいよ。ヤンママのセクシーなふとももや汗まみれのぶーでに接触しないよう慎重に席を立ち券売機の前に立ち、さて、なににしましょ……えええええっ! いきなり目に飛び込んできた「かけ(そば・うどん)200円」のボタン。ボタンが目に飛び込んできたら、えええええっ! どころか痛くてたまりませんが、なんのひねりもないありふれたつまらない揶揄的表現としてかんにんしてください。大新宿の西口ガードのすぐ横の一等地で一杯のかけそばが200円。あまりの驚きで昼なのにビール300円のボタンを押してしまいました。

 かけ以外もやや安めの設定で、もり270円、ざる300円、月見330円、わかめ340円、コロッケ350円、山菜/きつね/たぬき360円、とろろ/かき揚げ/いか天370円、カレー南蛮400円、かき揚げ玉子430円で、大盛は100円増し。ごはんものは、いなり140円、おにぎり120円、ミニかき揚げ丼/ミニいか天丼/ミニとろろ丼/ミニカレー丼250円、玉子かけごはん150円。
 単品のトッピングは玉子60円、かき揚げ/いか天/山菜/とろろ100円、きつね/たぬき90円、コロッケ80円、そして日本酒/焼酎(そば湯割り)100円、ビール300円、おつまみ200円というラインアップでした。

 と、ここで頭に大きな? が点灯した貴方は、一級の一休さん。一休さんといっても、国鉄戦後三大事故のひとつ、三河島事故でお亡くなりになられた春日三球師匠の相方のクリモト一休さんではなく、恐れ多くも足利義満将軍に対し「屏風から虎を出してちょんまげ〜」と言い放ち、笑って許してくれる太っ腹な将軍様だからアニメにまでなったものの、その場で切り捨て御免されても不思議ではない怖いもの知らずのとんちぼうやの一休さんです。

 ぽくぽくぽくち〜ん。すきすきすきすきっ〜ちゃらららら〜♪

 かき揚げそば(370円)に玉子(60円)を入れたら430円。月見そば(330円)にかき揚げ(100円)をトッピングしてもちゃんと、かき揚げ玉子そば(430円)と同額になります。これは当たり前。
 一般的な立喰・ソの価格設定は、かけをベースに単品価格単純にプラスするか、やや安めに設定しお得感を出すのですが、この価格設定はその逆。例えば月見そばは330円です。かけは200円ですから、単純に引き算をすれば玉子は130円ですが、単品は半額以下の60円。コロッケそばも350円-200円でコロッケ単品は150円のはずが80円。以下同様にたぬき/きつねも160円のところ90円、とろろ/かき揚げ/いか天170円のところ100円と、単品で注文した方が安い70円となります。ならば普通に頼むよりも、かけ+トッピングの方が安くなるじゃんと挙げ足を取ろうとしましたが、券売機に「かけにはトッピングができません」と表示してありました。
 せっかく200円というびっくりプライスで提供してくれるのに、親の心子知らずというか、大将の心、客知らずで申し訳ないです。

 しかしそれでも問題がひとつ。山菜そばとたぬき、きつねそばは同じ360円なのに、単品になると山菜は100円でたぬき、きつねは90円という設定のため、たぬきorきつねそばに山菜をトッピングすると460円、山菜そばにたぬきorきつねをトッピングすれば450円というダブルスタンダードが成立してしまいます。

 などとつらつら考えながら、もりそばをつるつるいただき、「そば湯ください」とお願いしたら、小さな声で「今度用意しておきます」と……立喰・ソにそば湯がある方が希ですが、焼酎(そば湯割り)という張り紙があったのでついつい調子に乗った私が悪いんです。ですが「今度用意しておきます」という答えも、どうなんでしょうか。
 その昔某ファミレスで海老ドリアを注文したら、肥満の桜えびくらいのかわいいんだか、みにくいんだか微妙な海老が4切れしか入っていなくて「おいっ! 海老が入ってこその海老ドリアだろっ、店長を呼べっ!!」と、言っていることは至極正論なのでありますが、その方が明らかにその筋の方に見える風貌であったからか、逆上した店員が「暴力には屈しないぞ!」と訳のわからないことを叫んで大騒ぎになったことを思い出しました。その結末は恐ろしくて書けません。

内藤新宿
激安びっくりのかけではなく、もりそばを食べました。なぜかけでもかき揚げでもなくもりそばを食べたのか? 今となっては永遠の謎ですといいますか、だってこんなに早く幻立喰・ソになるなんて思わないでしょ。練りわさびではなくきちんとすりおろした生わさびがたっぷり付いていて、つけつゆはかなり辛めの設定。江戸を忍ぶ「内藤新宿」の名にふさわしい江戸っ子仕様でした。

 と、一回だけしか行っていないのに、とてつもない大きな思い出を作ってくれた小さな内藤新宿そば(さすが想い出横町)。どんな理由からなのか、中途半端に看板と内装を残し、幻立喰・ソになってしまいました(※でも、思い出横町公式サイトにはまだ掲載されているのです。実はこっそり営業中だったりして?)。

 あの場所でかけそば200円はりっぱでした。日本酒100円、焼酎100円も激安でした。ただ、酒類に関してはやり過ぎだったのかもしれません。あの狭い店内で安酒をちびちび飲まれて長居されたら……光陰矢の如し一直線です。
 もし立喰・ソを起業しようと思っている素敵な方がいらっしゃいましたら、酒の取扱には十分な注意が必要ですよ、アンガ田中似の大将が微笑んでいるような気がしました(もちろんウソ)。


■立喰・ソNEWS

●姫路っ子、おおよろこぶ。

兵庫県を走る山陽電鉄といえば、立喰・ソファンに有名なのが「山陽そば」。その西端にある山陽そば姫路店(山陽姫路駅の改札横の奧の方。改札外)と飾磨店(飾磨駅の神戸方面。改札外からもアプローチ可)、そして喫茶サンロード姫路店(山陽姫路駅改札出て右。これはもちろん立喰・ソではありません)が3店合同初企画「とく得スタンプセール」を平成24年4月18日まで開催中。参加各店でスタンプカードをもらって、利用する度(山陽そばは300円以上)にスタンプを押してもらい、6個集まれば、なんとそばかうどん(300円相当)またはコーヒーか紅茶が一杯無料でもらえる。姫路っ子には堪えられない大サービスじゃないか! 

スタンプカード スタンプカード

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在500店以上を制覇したものの、データ化されていないのでたいして役に立たない。そば好きから、立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


[第20回|第21回|第22回][バックナンバー目次へ]