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■試乗・文:河野正士 ■写真:ドゥカティ
■協力:ドゥカティジャパン http://www.ducati.co.jp/

 昨年のEICMAで発表された「Diavel 1260(ディアベル 1260)」およびそのスポーツバージョンである「Diavel 1260 S(ディアベル 1260エス)」。2010年にデビューした初代「ディアベル」から数えて初めてのフルモデルチェンジであり、その内容はほとんどすべてを一新するほどのビッグチェンジとなった。またカーボンやチタンといったマテリアル変更による上級モデルは存在したものの、ドゥカティの方程式を用いたSバージョンの設定はディアベル史上初となる。ここではその詳細とともに、スペイン・マラガで開催された国際試乗会でのインプレッションを紹介する。

こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/eZ8OxKuYr20
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シート高は780mmとなっているが、シート頂点の形状、シート前方の削り込み、さらにはステップ周りなどライダーの足の内側が触れる部分を吟味し形状を決定。写真でも分かるとおり、ほぼ両足のカカトまで地面に着くことができる。テスターは身長170cm、体重70kg。(※写真の上でクリックすると大きな画像で見られます)

 今回の国際試乗会の舞台はスペイン・マラガ。イベリア半島南端のジブラルタル海峡に面したリゾート地であり、背後には渓谷や山脈を背負ったヨーロッパ有数のワインディングスポットだ。そこにはスピードの乗る高速コーナーや奥がきつくなったブラインドコーナーのほか、細かな切り返しが続くS字コーナーも多数あり、道幅の狭いそれらのコーナーはうねっていて、車体にはいろんなパフォーマンスを、ライダーにはいろんな動きを要求する場所だ。今回試乗した新型ディアベルは、前後にオーリンズサスペンションを装着したスポーツバージョンの「ディアベル 1260 S」であり、ドゥカティはそのテストの場所として、あえてマラガを選んだ。

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車体に押しつけられるようにデザインされたヘッドライトは、まさにドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」をモチーフにしたもの。フロント周りにボリューム感を集中させるデザイン手法は、初代「ディアベル」から継承された。

 筆者もすっかりと忘れてしまっていたが、ディアベルの開発キーワードは“メガ・モンスター”だ。初代「ディアベル」の発表時にそのコンセプトを知ったが、その見た目とプロモーション的理由から“ハイパフォーマンスクルーザー”や“スポーツクルーザー”というコピーが広まったのだった。しかし今回の国際試乗会でドゥカティは、プレスカンファレンスの冒頭に“メガ・モンスター”のキーワードを改めて強調。それを元に、初代ディアベルはスポーツネイキッド/スーパースポーツ/クルーザーという各カテゴリーモデルのデザイン的要素、パフォーマンス的な要素を抽出し、新しい価値観を持ったバイクを造ろうと考えたのだ、と。そして新型「ディアベル1260」は、そのデザインもパフォーマンスも進化させたのだ、と。

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フロント周りの迫力あるボリューム感に対し、リア周りはスリム&コンパクトが「ディアベル」のキーポイント。フレーム同様、シートフレーム周りは一新されているがリアシート周りのイメージは継承されている。そして迫力の240サイズのリアホイールもディアベルのアイコンだ

 進化した部分。それはエンジンから、フレームから、外観から、そのほとんどだった。エンジンはドゥカティのアイデンティティであるデスモドロミックL型2気筒エンジンの可能性を広げた、エンジンの回転数に合わせて吸排気のバルブ開閉タイミングを変化させる、テスタストレッタDVT1262。先に、兄弟モデルある「Xディアベル」に搭載されたエンジンだ。DVTの機構そのものは「Xディアベル」はもちろん「ムルティストラーダ」ファミリーが搭載するそれと同じだが、その可変バルブタイミングを含めた出力特性を「ディアベル1260」専用に造り込んだ。またエンジンそのものをスタイリングの重要なポイントと位置づける初代ディアベルからのコンセプトを受け継ぎ、ウォーターポンプの位置を変更することで、そのポンプはもちろんラジエーターへ向かう冷却水用ホースが目立たないように設計されている。

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「ディアベル 1260」は試乗したサンドストーングレイのボディにブラックフレームのカラーのみ。前後オーリンズサスペンションなどスペシャルパーツを装備した「ディアベル1260S」にはスタンダードモデルと同カラーに加え、写真のブラックボディにレッドフレームのカラーもラインナップする。

 フレームはステアリングヘッドからリアフレーム一体型のピボットプレートへと繋がったトレリスフレームの前モデルから、エンジンをフレームの一部として使用することで、2つのシリンダーからステアリングヘッドまで伸びるシンプルで軽量な、「Xディアベル」と同じフロントフレームのみに変更。スイングアームピボットと車体側リアサスペンション取付プレートを兼ねるコの字型のアルミ鍛造プレートと、鋳造リアフレームを分離した。スイングアームは前モデル同様の片持ちのアルミ製だが、スイングアーム長を56mmも短くした新型とした。またリアサスペンション位置をスイングアーム下から上へと移動。このリアサスペンション搭載位置は「Xディアベル」と同じだが、Xディアベルはスチール鋼管を組み合わせたスイングアームとベルトドライブを使用していること、さらにはリアホイールトラベルが20mm増えたことでリンクレシオを変更している。

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エンジンは初代「ディアベル」から、最高出力で7PS、最大トルクで0.6kgアップ。最高出力の発生回転数こそ高回転側によっているものの、そこに至るまでの低中回転域でパワー/トルクともに大きく上回っている。したがってエンジンを回さずとも車体がグッと前に押し出すチカラが強まっている。その低中回転域の力強さはDVTエンジン・シリーズ最強、と個人的に感じた。先にDVTエンジンを搭載した「Xディアベル」とはエアクリーナーボックスの形状や排気系が異なるため出力特性も異なる

 スイングアームが短くなった理由は、エンジンの搭載位置を40mm車体後方に下げたことに起因している。初代ディアベルでは、前後長が長いエンジンをできるだけ車体前方に搭載し、フロント荷重を稼ぐことでドゥカティらしいスポーツ性を高めようと試みた。しかし新型「ディアベル1260」のDVTエンジンをしっかりと管理するために、ラジエーター位置を冷却効率が高いエンジン前へと移動した。それにより、エンジンは搭載位置を車体後方に移動したのだ。この実現には新型フレームの採用も大きく影響しているという。
 
 このエンジン搭載位置変更が「ディアベル 1260」の進化の肝になっている。分かりやすく言えば、ライダーと一体感を増す車体造りが行われ、それにより快適性とともにスポーツ性が高められているのだ。
 
 初代「ディアベル」は、スーパースポーツ系のエンジンのパワフルさが爆発していた。そのエンジンを、ライダーをやや後ろに載せる車体と240サイズのリアタイヤを使ってスポーツさせようと、エンジンを可能な限りフロントタイヤに近づけた。しかしそれは、ライダーとエンジンの間にわずかながら距離を作り、それによって離れた場所にある重心をライダーがコントロールしなくてはならず、それが得も言われぬ重さとなっていた。

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試乗会途中に設けられたランチスポット。「ディアベル 1260」には3つのライディングモードとコーナーリングABS、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、ローンチコントロール、クルーズコントロールといった最新のエレクトロニクスを標準装備。Sバージョンにはクイックシフターも標準装備する。

 しかし新型「ディアベル1260」は、その重さが消えている。エンジンが40mm後退し、エンジンの重心がライダーにグッと近づいたことが、その大きな要因だ。さらには初代ディアベルに比べキャスター角を立て、トレール量を減らすなどしてフロント周りのアライメントを変更していること。DVTエンジン搭載により低中回転域のトルクが太くなり、扱いやすくなったことによっても軽快さを増しているのだ。
 
 この軽快さには車体の徹底した軽量化も、大いに効いている。DVTエンジンとしたこと、そしてエンジンをフレームの一部として使用することでエンジン自体の剛性を高める必要があり、その結果エンジン単体で7kgの重量増となったにもかかわらず、車重は33kg強増にとどめている。重くなったエンジンをライダーに近づけ、ライダーから遠く離れるパーツを軽くする。その効果は絶大だ。
 
 またリアホイールトラベルの増量と、そのセッティングもスポーツ性と快適性の向上に大きく影響を及ぼしている。リアホイールトラベルは初代「ディアベル」から10mm、同じリアサスペンション構造を持つ「Xディアベル」からは20mmも伸びている。そのなかでサスペンションをしっかりと動かし、車体を路面に押しつけているのだ。

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燃料を含まない装備重量は233kgと決して“軽量”という車体ではない。しかし重心バランスやエンジンの出力特性、さらにはサスペンションセッティングによって、その車重をさほど意識させない。それは走っているときはもちろん、サイドスタンドから車体を起こしたときや取り回し時も同様だ。

 このしなやかさ、乗り心地の良さ、パワフルさ、そしてスポーティなハンドリングは、どこかで感じたことがある。そしてその“どこか”は、日本メーカーが得意としている“ビッグネイキッド”だったことに、試乗途中に気がついた。いままでドゥカティの刺激的なエンジン特性とシャシーの特性は、そのイメージとは相容れなかった。しかしデスモドロミックエンジン特有の高回転域のパンチはそのままに、低中回転域のトルクを豊かにしたDVTエンジンを採用し、その特性をさらにディアベルの特性に合わせて造り込んでいること。またエンジンの重心位置を変更しながら、素直で快適で、それでいてスポーティなシャシーを造り込んだことで、ビッグネイキッド的なフィーリングを造り上げていった。グリップ、シート、ステップが造り上げるゴールデントライアングルは初代「ディアベル」からほとんど変わらず、それでいてネイキッド的なごく自然なライディングポジションであることも、ビッグネイキッド的フィーリングに起因しているだろう。
 
 したがって、その乗り方も街乗りからツーリング、そして時折ワインディングでスポーツするという、日本的バイクライフにもフィットする。だからこそ、いままでドゥカティを経験したことが無かったネイキッド好きライダーに、是非ともトライしていただきたい。ワタシのように「う~ん、なるほど」と顎を手で擦る仕草になること、間違いない。

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ドゥカティ独自の可変式バルブタイミング機構付きの新型エンジン、ドゥカティ・テスタストレッタDVT1262を搭載。「ムルティストラーダ」では車体右側クランクケース付近に装着されているウォーターポンプを、シリンダーの間に移動。それにより美しいL型エンジンを見ることができる。ラジエーターをエンジン前にセットしたため、初代「ディアベル」に比べエンジン自体は40mm後退して搭載。そのエンジン位置変更が主な理由となり、新型スイングアームは56mm短くなったが、ホイールベース自体は20mm長い1600mmとなっている。
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2つのシリンダーからステアリングヘッドに伸びる短いトレリスフレームが「ディアベル 1260」の新型フレーム。エンジンをフレームの一部として使うことで、フロントフレームのみとなった。そのかわりエンジン単体は7kgの重量増。DVT機構のほか、クランクケースやシリンダーの強度を高めたためだ。初代「ディアベル」はステアリングヘッドからスイングアームピボット周りまで伸びる大きなトレリスフレームだった Sバージョンが採用するφ48mmフルアジャスタブルのオーリンズ製フロントフォークと、ブレンボ製M50モノブロック・フロントブレーキキャリパー。スタンダードモデルはφ50mmフルアジャスタブル・フロントフォークとブレンボ製M4.32モノブロック・フロントブレーキキャリパーを装備する。
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リアサスペンションはスイングアーム上へと移動。「Xディアベル」と同じレイアウトとなるが、リンク比を変更し、「Xディアベル」からホイールトラベルを20mm延長した。また初代「ディアベル」ではリアシートフレームとスイングアームピボットが一体型の鋳造パーツだったのに対し、新型「ディアベル 1260」は鋳造のリアフレームと逆凹字型の鍛造ピボットプレートに、役割に応じてパーツを分け、そこで軽量化と剛性バランスを整えているという。
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前側ウインカーはラジエターカバーに縦に配置。筋肉質なボディデザインは、マッスルカーやコミックに出てくるヒーローなどからインスピレーションを得ているという。
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シャープでスリムなテール周りを実現するため、シートカウル内にはテールライトのみをセット。ウインカーは、スイングアームから伸びるナンバーホルダーにセットされる。また右写真の、シートから突き出たT型のパーツはタンデム用グラブバー。シート下のレバー操作で簡単に収納が可能で、未使用時にはシートカウル内に収納され、グラブバーの存在が分からない。
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リアには初代「ディアベル」から受け継がれた240サイズの極太タイヤを装着。ピレリと共同開発した新型タイヤ/ディアブロ・ロッソⅢを装着。Sバージョンにはマシン仕上げの前後ホイールを標準装備する。 ムルティストラーダなどにも採用されている赤いバックライト付きハンドルバー・コントローラーを装備。出力特性が変化するライディングモードの操作や、標準装備されるクルーズコントロールなども、このボタンで操作する
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スポーツ/ツーリング/アーバンの3つのライディングモードに合わせ、ハンドルバーにセットされた3.5インチTFTカラーディスプレイに表示されるメーターのデザインや表示内容が異なる。
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●Diavel 1260〈1260 S〉 主要諸元

■水冷L型2気筒テスタストレッタDVT 1262エンジン ■排気量:1,262cc ■最高出力:117kW(159ps)/9,500rpm ■最大トルク:129Nm(13.1kgm)/7,500rpm ■ミッション:6速 ■乾燥重量:218kg ■シート高:780mm ■ホイールベース:1,600mm ■ライディング・モード、ボッシュ製コーナリングABS EVO、DTC EVO、DWC EVO、クルーズ・コントロール、DPL EVO、ハンズフリー・システム、バックライト付ハンドルバー・スイッチ、3.5インチTFTカラー液晶ディスプレイ、フルLEDライティング・システム、ウインカー・オートキャンセル機能等を標準装備 ■メーカー希望小売価格:2,285,000円〈2,680,000円〉



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