カスタム・ビルダーが興したブランドがモーターサイクル・メーカーに。英国「MUTT MOTORCYCLES」がこのほど、日本での展開を始めた。同社がラインナップする125・250ccモデルはカスタム・ビルドが持っていたイメージの敷居を下げ、多くのライダーはもちろん、予備軍に対しても興味を抱かせる仕上がり。手が届きやすい価格も特徴だ。
■試乗:高橋二朗 ■撮影:依田 麗
■MUTT MOTORCYCLES http://www.muttmotorcycles.jp/
小排気量で本物のカスタムスタイルを有すること
「MUTT MOTORCYCLES」は英国バーミングガムを拠点とするカスタムバイクブランド。ビンテージ・モデルをベースにオーダーメイドでカスタムを行ってきたビルダー集団だが、2016年に125ccのバイクを200台製作。市場で好評をもって迎えられる。そして2019年、MUTTは世界12の地域で販売を展開。日本もその一つだ。日本での正規輸入総代理店を務めるのは、日本フォード撤退後のフォード車のアフターサービスや、二輪車ではノートン、モトモリーニなどの輸入総代理店業務も行っているピーシーアイ株式会社。
125cc・6モデル、250cc・4モデルでのラインナップの中、今回、最もベーシックなモデル的位置づけにある「MONGREL 125」を試乗する機会に恵まれた。
初めに申すと私、大変恐縮だがカスタムバイクの世界にはまるで疎い。免許を取り始めの少年時代は自分好みのハンドルやミラー、ウインカーに交換する程度のレベルだったが、当時はすでにヤマハSRなどをベースとしたカスタム文化は日本にも定着しており、そんなカスタムバイク達がページを飾る雑誌を見ては憧れてはいたものの、今ほど改造規制は緩くない時代でもあったから、夢のまた夢のような世界でもあった。
最近では河野正士さんの海外カスタムバイクショーのレポート(「ホイールス・アンド・ウェーブス 」や「ザ・バイク・シェッド・ロンドン」など)を見るたび、モーターサイクル発祥の地でもある欧州ではすっかり文化として根付いていることを実感させられた。ビルダーはアーティストであり、彼らによって仕上げられたバイクは作品であり、見る人の感性を刺激する宝飾品のようなもの、という意識が少なからずある。詳しいことはよくわからないが、簡単に言ってしまえば、MUTT MOTORCYCLESはその作品を身近にしてしまったモデル。今の若い世代を刺激するバイクなのかもしれない。
ライダーの身長は173cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
で、MONGREL 125。「数多のビンテージマシンのクラシックスタイルを受け継いでいます」というモデルで、前後同サイズのタイヤや短いフェンダー、そしてマット調の塗装など、ストリートカスタムのお手本的雰囲気に仕上げられているのは私にもわかる。ちなみにMUTT MOTORCYCLESはほとんどのモデルのヘッドライトに網状のガードが取り付けられてるのは、かつてのスクランブラーマシンのよう。同じ125ラインナップの「HILTS 125」は世界的に有名な1963年公開の映画「大脱走」でスティーブ・マックイーン演じるヒルツが有刺鉄線を飛び越えるマシンにインスパイアされたモデルだ。
タックロール風のシートはやや硬めだ。シート幅があり、サイドカバーの張り出しが大きい分、足着き性は若干スポイルされるのは否めない。昨今のバイクとは逆行した作りだが、そこがスタイルありきのカスタムバイクなのだろう。身長173センチの私にとっては車体全体がコンパクトなこともあり、不都合はない。低くワイドでほぼ一文字のハンドルバーが、シンプルな装備の中でも存在をアピール。ハンドルスイッチ類やマスターシリンダーなどのディテールは国産バイクなどに対しやや見劣りする部分もあるが、このバイクに関してはとやかく言うのは野暮。操作性に関してはまったく問題はない。
空冷単気筒のエンジンはインジェクションの採用によって簡単に目を覚ます。メガホン型のマフラーからは力強いサウンド。最近は再び騒音規制が世界基準の緩いものとなったが、その中でもやや大きめの音だが、個人的には不快なものではなかった。エキゾーストにはO2センサーが取り付けられ、混合比がコントロールされる現代的なものに。
4.00-18という同サイズのタイヤを前後に履く。カフェレーサーやアメリカンモデル向けに開発されたというティムソン製のクラッシクパターンが特徴のタイヤで、角ばった形状のためか特にフロント側はコーナリングで最初に違和感を感じたが、その後は慣れた。運転しているとタンクの存在感に気づく。ラバーのパッドが膝に吸い付く印象。ブレーキは強力というわけでも、コントロール性がいいわけではないが、制動に関しては必要にして十分と言える。今回の試乗で意識させられることはなかったが、MUTT MOTORCYCLESの125シリーズにはコンビブレーキシステムが標準装備となっている。
カスタムバイクというと扱い難い、使い勝手が悪い、というイメージ(自分だけ?)があるが、MUTTがリリースするバイクに乗った印象ではほとんど感じられなかった。価格も手ごろで、若者の感性を刺激しそうな佇まい。ライディングしている時も普段とは違う感覚が得られたのは言うまでもない。バイクを操縦するというか、身に着けるという感覚なのかも。このスタイルを見て「バイクに乗りたくなった」という人もいるかもしれない。そんな起爆剤になるのではないかと思われたMUTT MOTORCYCLESであった。
(試乗:高橋二朗)
サテンブラックとシルバーフィニッシュが施されたMONGREL 125はビンテージマシンのクラシックなスタイルに。全体の雰囲気に大きな影響をもたらすヘッドライトガードはMUTTのほぼ全車に装着されるアイコン。125モデルはMONGRELの他、全6モデルをラインナップ。 ※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。 |
ワイドなタックロール風シートの感触は見た目の印象とは裏腹に硬め。小ぶりなテールランプはLEDを採用することで視認性は高い。 |
「MUTT」のロゴ入りスピードメーターは母国のマイルと併記。スイッチ類含めた各操作系も扱いにくさはない。短めのサイレンサーは歯切れのよいサウンドを発していた。 |
フロントフォークのインナーチューブやブレーキローターを除き、ブラックアウトされた足周りやエンジン。雨天時などは辛いが、短めのフェンダーがスタイリッシュ。 |