好調な売れ行きで2018年上半期の話題をさらったカワサキZ900RS。発売から約1年が経ち、出かけた先や街中でも、普通に見かけるようになった。250ccを超える小型二輪車クラスで昨年の顔とも言えるこのネイキッドスポーツの魅力はどこにあるのか。あらためて検証してみよう。
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:鈴木広一郎
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
その昔一世を風靡したゼファーシリーズとは違う。
丸いヘッドライト、ティアドロップの燃料タンク、サイドカバー、テールカウルなど、ひとつひとつの要素が独立して見えるトラディショナルな外観だけど、’90年代に誕生して多くの人に愛されネイキッドブームの立役者となったゼファーシリーズとはまったく違う成り立ち。
コンパクトな水冷4気筒948ccエンジンにダイヤモンドタイプのトレリスフレーム、倒立フォークのフロントサスペンションにモノショックのリアサスペンション。外装以外は現代的で、レトロ感はまるでない。ゼファーはダブルクレードルフレームに空冷4気筒エンジン、正立フォークのフロントサスペンションに2本ショックのリアサスペンションと、外装だけでなく、各部もZ1を代表とする古い空冷Zを彷彿させるものだった。
新しさと古さが絶妙にバランスしている。
カラーリングなどからZ900RSの外装も空冷Z時代を意識はしているけれど、個々を見えればカタチはまるで違う。でも往年のZらしさを感じてしまう。丸い燃料タンクの前側、フレームのネック部分にある樹脂カバーや、サイドカバーに苦労を感じるけれど、現代的な車体に、復刻ではない新たなデザインながらトラディショナルな雰囲気に仕上げているのは見事だ。
昔とは違うけれど、誰が見ても“Kawasakiだ”と感じさせるスタイル。現代的な車体とエンジンに懐古的なスタイルの組み合わせは、ここ最近増えたネオレトロと呼ばれるカテゴリーの定番レシピだ。しかしカワサキは、過去のモデルにとらわれず昔っぽく仕上げた変化球的な方法を取らなかった。今も根強いファンがいる’70年代に発売された自社の歴史的スポーツモデルのスタイルとカラーのイメージを、こねくり回さず素直に持ってくる潔い直球勝負をしてきた。このやり方が実に巧みだ。そのまま過去のカタチを複製しようとしていないのに、どこか懐かしく思わせる。古い空冷Zファンが目くじらを立てないくらい別物ながら、その雰囲気をまとっているさじ加減を褒めたい。魅力の重要な部分にこのルックスがあるのは間違いない。
タイトではなく自由度が高いライディングポジション。
またがって最初の印象は意外にも小さく感じたこと。ニーグリップする部分が細めで、古いデザインに見えてもシート座面は今風に角がなく抵抗なくまっすぐ足が伸びる感じ。シート高は800mmで、身長170cmの私で両足かかとまでベッタリ接地とはいかないが余裕はある。足を着いて車体を左右にゆすってみると思ったより軽い。サイドスタンドを出して止めている状態から車体を起こしサイドスタンドを収納する時も、よっこいしょ的ではなくひょいっとやれる。この感じ方は人それぞれだが、仕事柄いろんな機種に乗ってきた経験から言えば、リッター近い排気量の機種としては軽い部類だ。体感的にはひと昔前の400cc4気筒と変わらない。
モダンな車体からポジションはタイトでスポーティーなものだと想像するかもしれない。ところが、ペグの位置は低めで、膝の曲がりに余裕がある。ハンドルのグリップ位置は、立った上半身でもおへその位置より高く、適度な絞りでライダーに近づけられている。椅子のように座って、自然に前に腕を出せば手が届く。体が小さい人だけでなく、大きな人でもゆとりのあるポジション。ここから分かるのは、しゃかりきに飛ばす仕様ではないということだ。
やりすぎていないストリートモデルとして至極真っ当なさじ加減。
このことは走っても裏付けられた。最高出力111PSで最大トルク10.0kgf・mの4気筒エンジンを積んでいるから、当然ながら“遅い”なんてことはなく、スロットルを開ければ開けるだけぐんぐん加速する。低中回転域でも豊かなトルクがあって、回転が上昇していくに連れて一次関数のグラフのように右肩上がりで増していく。あるところから急激に立ち上がることはない。スムーズながら力強く加速に繋がっていく様は2気筒エンジンでは味わえない醍醐味。
スロットルを戻してから開けていく時にガクっと急に前に押し出す動き、いわゆるドンツキが少々あるのは確かで、唯一気になる部分だが、危険や気持ちが支配されるほど不快になるほどまではない。コーナリングの立ち上がりでそれが気になる場合は、トルク変動を小さくするために1速高いギアを選び回転数を下げる。こうすると穏やかになって気にならない。ビンビンに回して走らなくても低中回転域のトルクのおかげで、上りながらのつづら折りでもスロットルだけで普通に登っていけるから困らない。同時に立ち上がり加速は弱まるが、常にそういう走りをしたくはならない速さより気持ちよさにこだわったハンドリングだ。
軽快なフットワークながらも、フロントタイヤに荷重がかかりぐんぐん旋回するようなものではなく、倒立フォークに17インチだけど、リーンする車体にフロントが付き合って倒れるようなネイキッドモデルらしい気持ち穏やかな特性。そして目を三角にしてコーナーを攻めるほどバンク角も深くない。だからといって、どんくさいというわけではないのでお間違いなく。
ブレーキもしっかり効いて、爽快にワインディングを駆け抜けられるスポーティーさはちゃんと持ち合わせている。カワサキならばZ1000などのスーパースポーツのネイキッド版となるストリートファイターより速くコーナーを抜けることは弱いが、幅広い技量のライダーが車体をリーンさせて曲がっていく楽しさを味わいながら軽快に走るのが面白い味付け。ブラインドコーナーの先にどんな状況があるか分からない公道では、このくらいの方が対処しやすく結果安心で安全だ。ビギナーからベテランまで違和感なくコントロールできるだろう。これはストリートモデルとして至極真っ当である。
人気が出たのは不思議なことではない。
コンパクトな車体にゆとりのある自然なポジション。適度にパワフルなエンジンとモダンな足周りで軽快ながら、少し穏やかでトリッキーではないハンドリング。誰もがどのペースで走っても戸惑うことなくこなせる程よくスポーティーな走りと、いまだに人気の高い空冷Zのイメージを利用しながら新しいけど懐かしいという上手にまとめた外観がバランスしたまとまり。伝統的にこういうのはカワサキが得意とするところ。
これがZ900RSの人気の理由だと思う。やりすぎていないのがとてもいいのである。
(試乗・文:濱谷文夫)
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