暖かい季節の長期連休ならばバイクは何をしても楽しい。真価が問われるのは乗りにくい環境となった時だ。それは季節的なものであったり、もしくは生活環境に起因するものであったり……。所有する理由、乗り続ける理由に対する説得力。CBの持つそんな面を実感したオフシーズンの入り口だった。
■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
短い時間を濃密に
すっかり寒くなりました。バイクに長距離乗るには、少なくとも関東圏では厳しい季節になってきましたね。
当連載も3回目、そもそもこのCB1000Rの開発者が「このために設計したんです」という、伊豆箱根日帰り200キロほどのコースを楽しんだ第1回目、そして「そうはいってもやっぱりバイクはツーリングしてナンボでしょう?」と山陰まで泊りがけ2000キロ超のツーリングをして、意外な汎用性を確保していることを確認できた第2回目。
そしてこの最終回を迎えるタイミングはすっかり寒いわけで、こういったモデルをこの季節にどう楽しむのが良いか、と思いを巡らせてみました。というのも、これだけ冷え込んでくると、正直な話、あまりバイクに乗りたいという感情は強くならず、クルマでぬくぬくしてた方が良いんじゃないか、なんて思ってしまうじゃないですか。特にこういったプレミアムなバイクを購入する層としては、四輪車も相応の快適な車種に乗っていることでしょう。雪がちらつき、路面凍結が心配になってくると、バイクの出番が減ってくるのは仕方がないことに思います。
そんな時に思い出した先輩の意見がありました。常日頃から移動の手段としてバイクに乗っている僕は、どんなバイクにも一定の実用性を求めており、バイクに対する判断はそういった基準がベースにあるのですが、ほぼ100%趣味ユースとしてバイクに親しんでいるその先輩曰く「バイクに乗る時間なんて限られているから、実用性なんて重視しない。燃費なんていくら悪くたっていいし、特性だって過激な方が良い。時間を確保することが難しく、たまにしか乗れないから遠くに行くわけではないし、その短い時間がいかに濃密になるかが大切なんだ」
なるほどです。そういう考え方があったのか、とその時は了見を広げられた想いでした。そしてこの厳しい寒さの中CB1000Rに乗るとなると、確かに長い時間を乗りたいわけではないし、ちょっと乗っただけで満足感を得たい、とその先輩の意見を思い出し納得したのです。
タイミングが大切。出鼻をくじかない性能。
夏の間かなり乗り込んだCB1000Rは、前回のレポートで報告した通りオドメーターは8000キロをまわり、そろそろタイヤ交換した方が良いかなという状態だったため、その後それを実行しました。新しいタイヤにしたらシャープなハンドリングが復活して更なる人車一体感を得られ、やはり消耗品の管理は大切だな、などと実感。しかし「これは気持ちが良い!」と走り回る気にさせてくれた秋晴れの日はわずかで、途端に寒い冬になってしまい、正直なことを言うと最近あまり乗っていなかったのです。移動はもっぱらクルマ、バイクに乗るなら防風性の高いアドベンチャーモデルを選んでしまい、CBに乗るにはちょっとしたエネルギーが必要に感じてしまっていたのですね。
そんな中少しでも暖かそうな日を見つけ、「ようし!乗るぞ!」と心を奮い立たせガレージから出してくると、不思議とその気になるものです。しばらく乗っていないからこそ改めてモダンでカッコ良く見えて、「あれ、しばらく乗ってなかったのはもったいなかったな」なんて反省してしまいます。
エンジンをかけると、当然ですが現代的なインジェクションモデルですのでひと月ぐらい乗っていなくてもセル一発。チョークも何もなく即始動し、アイドリング領域でもわりにハスキーな音量を奏でてくれます。そのストレスフリーさが「乗ろう!」という気持ちを増幅させてくれ、エンジンがかかった瞬間に寒さはどこへやら、すっかり楽しみになってしまいました。
忙しい大人にとってこれは大切なことでしょう。思い立った時にいつでもスッと乗れることは、貴重なタイミングを逃さずに楽しませてくれるわけで、これも大切な性能です。いざ乗ろうという時に始動しないとか、調子が悪いだとかですと出鼻をくじかれますからね。まぁ近代的なバイクは皆こうであるわけで、大変に助かります。
とはいえ寒いですから、そんなに遠くには行きたくありません。ガチガチのライディングウェアではなく、カジュアルに、ちょっとおしゃれな都内のスポットでも巡ってみようかな、というスタンス。まさに先述した先輩のバイクとの付き合い方ですね。
「乗れる時間をそんなに確保できるわけでもない(そしてこの季節は寒くて長く乗ってなんていられない)。だからこそ、短い距離で高い充実感を」です。しばらく乗っていなかったことと気温が低いことから、タイヤの空気圧だけはチェックしてから走り出しました。
求めていたものは「うわあ!」性能
休日の朝の都内はガラガラ、じゃあ首都高をぐるっと一周してから都内をブラブラ、コーヒーでも飲んでこよう、とまずは純正装着のETC車載器にカードを押し込み、これまた純正装着のグリップヒーターを最強にして走り出します。キンと冷えた朝の空気があえて選んだジェットヘルの隙間から頭の方まで進入してきて、気持ちよさと共に少しの後悔も。ピーコートも船上では一定の防風性を持っているはずだけれど、バイクの速度域では決して暖かくはないですね。
季節の移り変わりを全身で感じながら首都高に上がります。しっかりと温まったエンジンはしばらく乗っていなかったことなど全く気にする様子もなく変わらず元気ですし、新しくして間もないタイヤもこの低い気温にもかかわらず路面からのフィードバックが豊か。段差や大小のカーブが続く首都高をしなやかなサスペンションがスタンッスタンッといなしながら「あ、そうだった、リッタークラスのハイパフォーマンス車なのにCBは優しかったんだ」なんて思い出します。大排気量車はある程度構えて乗るイメージもありますが、CBはいい意味でその「構える」という行為が不要なんでした。車格はコンパクトですし、ひとたび開ければエキサイティングな運動性能を持っているのに、ライダーがのんびりと走らせたいと思ったなら、唐突なことは一切なくフレンドリーに付き合ってくれるのです。
入り組んだC1環状線でCBとの一体感を確認した後、ひらけた湾岸線では久しぶりにアクセルを思いっきり開けます。うわあ! こんなに速かったっけ! ……クラシックタイプのジェットヘルではとても開け切れません。しかしその一瞬の刺激が、高性能なリッターバイクに乗っていることを実感させてくれます。あの先輩が言っていたことはコレか。たまにしか乗れないからこそ、思わず口から「うわあ!」が出なければいけないわけですね! CBは久しぶりに乗ってもすぐに一体感が得られる付き合いやすさに加え、アクセルを開ければいつでもこの「うわあ!」がしっかりとある。なるほど、これが大人のリッターバイクの楽しみ方か、と納得です。
走る歓び・所有する歓び
高いスピード域だとどんどん体が冷えてしまいます。CBの性能を思い出させてくれた首都高を離れ、前夜はイルミネーションでにぎわっていたであろう、静かな朝を迎えた丸ノ内エリアへと舵を切りました。お洒落な街並みや石畳の路面などヨーロッパのような雰囲気にCB、写真を見てもらえればそのマッチングに納得でしょう。乗った時の性能だけでなく、最先端の街に置かれても確かに放つ存在感。ヨーロッパ的な町並みにはやはり外国車が似合いそうだ、という考えを完全に覆してくれる無国籍感。
何か過去のモデルのオマージュでもなく、何かのデザインに合わせたわけでもなく、CBは独自の世界をしっかりと持っているように思います。そしてその存在はこれまでの連載で走ってきたツーリングのメッカ、伊豆箱根ではもちろん、山陰への長距離ランでも、そしてここ丸の内でも、変わらず輝いていることに気づかされます。
短時間での満足感や、所有することの歓び。近年の大型バイクはこういったことを重視して作られているように思います。価格帯を含めて、購買層はあの先輩のようにあまり時間のない、大人のライダーだと考えると当然ですね。そんなマーケットに対してCBはとても高い次元で応えてくれていると思います。久しぶりに乗ってもすぐに馴染め怖さがないだけでなく、いつでも「うわあ!」を持っていること。そして丸の内、丸の内ですよ!? でも確かに放つ存在感。
これまでの連載では僕のように一定の実用性なども重視する視点で書いてきましたし、実用性、パフォーマンス、付き合いやすさなどのバランスの良さをレポートしてきましたが、プレミアムな楽しみ方という視点から見てもCBは優秀でした。これならあの先輩も納得してくれるように思います。
3回目で一つの区切りとなったこの連載ですが、CBはまだウチのガレージにあります。冬の間は穏やかな日を見つけて、「今だ!」と出かけ、CBの魅力を定期的に思い出したいと思います。
(文:ノア セレン)