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「食えるなら なんでもいいよ 立喰・ソ」
唐突な一句に、軽い憤りを覚えたでしょうか。それとも「季語が入ってない、季語が!」と、激おこぷんぷん丸でしょうか(2013年ユーキャン新語・流行語大賞ノミネート)。
飴ニモマケズ、風邪ニモマケズ、懲リモセズ、前回の続きです。 幻立喰・ソになってしまった鹿角花輪のあじさいに尻子玉を抜かれ、身も心も立喰・ソモードになってしまった赤ら顔のおっさんは、キハ112-120のカミンズ社製直列6気筒14016ccターボチャージャー付のDMF14HZAディーゼルエンジンに負けないくらい「立喰・ソ食べたい食べたい食べたい」と低く唸っておりました。二昔前なら大きな駅には必ずといっていいほど駅そばがあったのですが、それも今や遠い日の幻……東北の山中を走る花輪線で立喰・ソ頭になっても願いは叶いません。
立喰ソと切っても切れない関係の駅そば。立喰ソ研究のジャンルでも「駅そばこそ立食ソなり。駅そば以外は認めない」という駅そば原理主義者はいそうですが、「駅そばだけは認めない。駅そば粉砕まで闘うぞ、駅ソ粉砕、駅ソ粉砕、えいえいおー!」という極左テロリストは聞いたことがありません(密かに地下活動するのが究極の極左ですから、いるかもしれませんが)。
駅にあるから駅そば。改札内はもちろん、駅の敷地内であれば駅そばです。 では駅前にある場合は? 誰もが疑問を投げかけることでしょう。でも心配ご無用。「駅前そば」というお店もちゃんと存在します。ただし、実例は思っているほど多くないようです。まあ、わざわざ駅前と名乗らなくても、駅前にあればそれだけで駅前そばなのですから。
例えば駅の外にあっても「駅のそばやさん」を名乗る立喰・ソもありました。しかしこのそばは蕎麦ではなく側ということだったのかもしれません。つまり「駅のそば(側)のそばや(蕎麦屋)さん」。今ならば「なにこコレ〜っ、うける〜ぅ」とか「まじ、ありえないんですけどぉ」と、ばずっちゃったかもしれませんが、あっという間に幻立喰・ソになってしまったのは残念なことです。
それはさておき、駅にあっても駅そばと言えるのか言えないのかというパターンがあります。例えば看板にはラーメンとしか書かれていない場合や、明らかに食堂や喫茶がメインであるにも関わらずそばも扱っているケースで、かけそばが200〜300円だったり、立食いだったりセルフスタイルだったりすると困惑度もさらに倍。大都市ならともかく、駅前にほとんどなにもないような地方都市の駅中にぽつんとあったりしたら、心情的には「これは駅そばでいいんじゃない」と愛しさと切なさと心強さが〜さらに増幅されること間違いなし。
などとつらつら思いつつ秋田犬で名をはせる大館で花輪線から奥羽本線に乗り換えて北を目指します。もちろん駅そばには出会えません。 寂寥感を乗せたクモハ701-21はMT65を唸らせて闇の中を走り続け大鰐温泉駅に滑り込みました。ふと横を見れば銀色の弘南鉄道の電車が。そういえばと思い出したのが中央弘前駅の店名不明の駅そば(展開上のご都合主義)。駅そばと言うよりも呑み屋さんというほうがぴったりですが、呑み屋さんならまだやっているかもしれません。一縷の望みを託し弘南鉄道へダッシュ!
青森県を走る弘南鉄道大鰐線中央弘前駅の中にあったそのお店には、独特の書体で書かれた達筆なお品書きはあっても店名の表記は見当たりません。ゆえに店名は長らく不明でしたが、昨今では諸先輩方の調査研究によりどうやら「どってん」が店名ではないかといわれております。どういう経緯でこの店名になったのか、大いに興味をそそられるところですが、今となっては残念ながら永遠の謎(=調べる気がまったくないともいう)。
初訪問は2012年の冬でした。「いらっしゃいませ お気軽にどうぞ」とありますが、あまりお気軽に入れるような雰囲気ではありませんでした。せっかくここまで来たのですから、えいやあと扉を開ければいきなりカウンターには酒瓶がずらーっと並び、小上がりには地元の常連さんらしいおっちゃんがすでに出来上がっていました。駅そばどころか駅ス(スナック)状態。 でも、カウンターの中にいたおばちゃんも、できあがったおっちゃんも、一見さんに冷たい視線を向けることもなくニコニコと親切でした。が、ネイティブな津軽弁は難解で、話しかけていただいても曖昧に返事をするばかり。遙か異国の地にいるような不思議な感覚でした。
で、肝心のそばはというと、ざる、天ぷら、山菜、そして幻津軽そばの4品のみ。幻? おっ幻ですか。これは見逃せません。しかも「スピードメニュー 3秒津軽そばうどん」という貼り紙も。 注文してからたっぷり5分くらい経過してから到着しましたが、たぶん気のせいでしょう。
そんなことをつらつら思いつつ(もちろんご都合主義的回想)、元東急7000系は、東横ののれん街のロゴが入ったままのつり革を盛大にゆらゆら揺らしながら、結局私ひとりだけを乗せて終点の中央弘前駅に到着。もし大鰐で心変わりしなければ無人電車。無人電車といっても無人運転ではなくちゃんと運転手さんは乗っていましたから無人電車ではありません。小走りで改札を出て右を向いたら……あれ〜? そこにあるはずの店名不明の駅そばというより駅スナックか駅ラーメンのお店はもぬけのから……どって〜んと腰を抜かしたことは他言無用に願います。
●幻立喰NEWS2018 アズマ残影の夏
今年の夏は本当に暑かったですね。今となってはあの暑さも夏の日の幻のよう。2017年12月20日、多くの常連さんに惜しまれながら幻立喰・ソになってしまったアズマ。そのアズマの解体工事が始まったのがそんな夏の盛りでした。以下本誌相談役AB君からの現地レポートです。 「今朝(8月24日)、一由経由で、元アズマを覗きましたところ解体中の建物の全容に、まこさんとふたり、おおおおっっと声を出してしまいました。ここは元、鉄工所だったらしいです。溶鉱炉のような装置?とか、ボルトの文字や、屋上には従業員の詰め所らしきペントハウスまでが、かつての大広告看板を取り払ったことで剥き出しになり異様な姿を晒しておりました。どおりで、二た間に仕切り分けられた店舗の中央部にあった不可解な突起とか、明らかに無理栗に設えた天ぷら揚げの設備などの理由が解ったような気持ちになり、スタンドそば店の成り立ちの奥深さに感嘆の声をあげてしまった次第です」
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