■文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝/南 孝幸
■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
YZF-R1のパフォーマンスをリラックスして味わえる
それがヤマハ1000ccネイキッド
旧FZ1なきあと、久しぶりに登場したのがMT-10。
パフォーマンスとリラックスさの
二面性を持つモンスターだ。
ライダーの身長は178cm。 |
「この先の時代、スーパースポーツのパフォーマンスを、ラクなポジションで楽しみたいという層が増えてくると思います。そのためのバイクです。YZF-R1の性能をリラックスなポジションで味わえる、それがヤマハFZ1です」
2001年に登場したヤマハFZ1フェーザー、そのモデル取材の時にヤマハの開発スタッフから聞いた言葉だ。その時、すでに「ネイキッドモデル」は珍しくなかったものの、スーパースポーツのパフォーマンスを味わえる、と言い切ったのが新しかった。
あれからFZ1は’06年にフルモデルチェンジ、’08年には国内販売もスタートしたが、ベースエンジンとして使用しているYZF-R1が、クロスプレーンクランクシャフトを採用する’09年モデルにモデルチェンジすると、FZ1はラインアップから消滅、いずれ新型がクロスプレーンクランクシャフト仕様で登場するのだろうな――そう思われていたのだ。
けれど、しばらく出ない。R1がフルチェンジしたあと1年後かな……出ない。そうこうするうち、R1はさらにフルモデルチェンジし、現行モデル(そう、鈴鹿8耐を4連覇しているアレです)へ。その間、ヤマハのスポーツバイクには「MT」(マスター・オブ・トルク)シリーズがラインアップされ、FZ1シリーズの「スーパースポーツの楽しさをラクなポジションで」というコンセプトを引き継いでいった。
あぁ、新型でFZ1って出なかったね――そう言っていたら、登場したのだ! それがMT-10。MTシリーズの最大排気量として位置づけられたけれど、まぎれもなくこれは、FZ1の完全ブランニュー! これを待っていたファン、多かった!
しかし! MT-10はちょっとFZ1と違っていた。それはもう、このスタイリングである。NewYZF-R1のパフォーマンスをリラックスしたポジションで、という点では、このモデルは紛れもないNewFZ1だった。けれどそこに「MT」のエッセンスが加わっていた!
「MTは新しいネイキッドスポーツのカテゴリー。スーパースポーツの派生モデルではなく、つまり単なるYZF-R1のネイキッドバージョンではないんです」とは、MT-10の開発スタッフの言葉。サーキット最速を目指して作り込んだ現行YZF-R1を、ストリートでハジけさせること――それが「新しいFZ1」MT-10なのだ。
とにかく、クセが強い! なんだこの顔つき、なんだこのイカツさ! なんでもかんでも、イカツい造形を「ガンダム」って表現するのはどうかと思いますが、これ、もう完全にガンダム顔! こんな、何にも似てないバイクって、そうそうない――それがMT-10のキャラクターなんです。
いざ乗り始めてみると、MT-10に感じるのは、YZF-R1の物静かさと、MT-10のスタイリングに見えるイカツさの融合だ。もちろん、R1のどこが物静かなんだ、って意見はあると思うけれど、R1のパフォーマンスって、静かで均整がとれていて、荒っぽさを感じないスーパーパフォーマンス。対してMT-10のイカツさというのは、トルク感が際立っていること。これは、R1に対してクランクまわりのマスを重くしていることによって、ごろんごろんとネバり感が出ているからだ。
たとえばMT-10で走っていると、アクセル微開ではスーッと、コロコロコロッとエンジンが回る。R1のスーパーパフォーマンスも、こういうパワー特性の延長線上にある。
けれどMT-10は、そこからがドンとくる! 「微開」をスロットル開度1/8くらいとするならば、それ以上でドンとくる。R1は200ps、対するMT-10は160psと、出力は40psも減らされているけれど、R1では11500rpmで発揮されていた11.5kgのトルクは、もっと低い回転数9000rpmで11.3kgを発揮している。
クロスプレーン独特のドロドロドロッ、てうなりを上げるMT-10はもう、ドエラい速い! R1のドエラい速さは、前傾ポジションで、来るぞ来るぞ、キター! って身構えるパフォーマンスなんだけれど、MT-10はいきなりドン! とくる。わかりやすさは、MT-10の方が上なんだと思う。これはもう、MT-10のイカツさのままの強さだ。
もちろん、MT-10はただ荒々しいパワーを売りにするモデルじゃない。R1が「サーキット最速」を謳っていることで犠牲にしてきた、ストリートの走りやすさや、ツーリングの快適性もカバーしている。
街乗りでは、自然とアクセル操作も穏やかになるし、その時にのみ(笑)MT-10は優しい。R1ゆずりの軽量さとフットワークの軽さ、サスペンションの動きは街乗りをイージーにするものだし、僕は空冷4気筒ネイキッドのXJR1300よりも、軽く振り回せるMT-10の方が快適だった。
さらにツーリングでは、一定スピードで走る=これもアクセル開度一定なわけだから、ここでもMT-10は優しい。トップ6速のクルージングスピードは、80km/hで3500rpm、100km/hで4400rpm。その時のサスペンションの動きも穏やかで、たとえば同じ回転域でも、アクセルを開けるスピードをきちんとセンシングしているのがMT-10なのだ。たとえば4000rpm――アクセルをガッと開けたときの力の出方はガツンとくるもので、アクセル開度1/8の力の出方は、ソフトで穏やか。これを、怪物の二面性とでも言おうか。
さらにMT-10にはパワーモード切り替え「D-MODE」も搭載されていて、3種類のエンジン特性を味わうことができる。この差も、モードごとにハッキリ違いがわかるもので、それぞれの楽しさ、それぞれのモードに適した走り方がちゃんとある。いちばん穏やかなモード3でも十分にドエラい速いのは言うまでもないね。
注目は、国産モデルでは珍しい「クルーズコントロール」が標準装備されていて、4速以上/107km/hまでスピードをセットできること。クルーズコントロールっていうのは、あるスピードで設定すると、あとは右手でアクセルを開けていなくとも一定スピードをキープするもので、高速道路の移動なんかでは、アクセル開度を一定に保っていなくてもいい分、すごくラク。1000ccの160psエンジン、100km/h一定で走るためには、ほんの少しのアクセル開度をキープしていなければいけないわけで、その開度を一定に保つと、意外と握力も使うし、それが疲れにつながることがあるから、高速道路の移動ではありがたいことこの上なかった。
MT-10のもうひとつの側面が、R1には及ばないまでも、スポーツハンドリングの楽しさだ。これはもう、R1をベースにした最大のメリットなんだと思うんだけれど、まずは軽量さを軸にする運動性が、これは旧世代のFZ1をはるかに超えるほど楽しい。車体剛性が高く、ホイールベースが短いのがR1フレームのキャラクターだけれど、これをべースに、より低いスピード域で、より少ない荷重で動くサスペンションを組み合わせて、思いの通りに走れる瞬間が多いのだ。
エンジン特性と車体設定がきちんとシンクロしていて、アクセルで進み、曲がり、ブレーキで止まり、曲がる。これはR1直系のスポーツ性なのだろうな、と思う。
総じて、MT-10はすごくレベルの高い、個性的なスポーツバイクなんだと思う。ただし……やっぱり、あのイカツいスタイリングは好き嫌いが分かれるだろうな、と思う。あのイカツさ大好き! って人と、同じくらいいる「大嫌い」な人。僕も、ちょっと苦手かな。もちろんこれは、個人的なことですからね。
MT-10のパフォーマンスを持つXJR1300的スタイリングのバイクがあればいいな。またMT-10のパフォーマンスの、SRがあったっていい。
ヤマハだったら、出来ると思うんだ、うん。期待しているひと、多いと思う。
(文:中村浩史)
マフラーはYZF-R1とほぼ同一。サンレンサー前のヒートプロテクター内側には消音チャンバー、排気バルブがセットされ、排気音はかなり静か。サウンドはYZF-R1そのもの。 | YZF-R1ではフルカウルで隠されているフレーム周辺のボディパネルはMT-10デザインのハイライト。サイドパネルやラジエターシュラウド、ヘッドライトステーの処理が美しい。 |
ヒップストッパー付きの前後一体式シート。乗車位置のカドがきれいに落とされていて、足着きはシート高の数字(=825mm)よりは上々。ヘッドライト&テールランプをはじめ灯火類はLED。シート後方やシート下端にはあえてボルトを露出させ、オプションのサイド&トップケース装着をしやすくしている。シート下は補器類でぎちぎち、スペースは小さい。 |
左タンデムステップ部分にキーロック式外部ヘルメットホルダーもきちんと。サイド&トップケースを装着しなくとも、前後の使いやすい位置に荷かけフックを装備。前部はタンデムステップステーにフックを、後部はウィンカーステーを使うと積載はしやすかった。 |
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