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二輪・四輪とは別のホンダの顔、「汎用」改め「パワープロダクツ」は世界各地で活躍している。 欧米ではレジャーに、新興国では大切な業務用として、親しまれ、そして確固たる評価を得ている。 そんなホンダパワープロダクツの、各地での活躍や取り組みを紹介しよう。
ホンダの汎用機器、今ではパワープロダクツと呼ばれる商品群と、その背景にフォーカスする当企画だが、今回お話を伺った直井千昌さんの経歴を聞いて、ホンダって昔から独創的で面白い会社だったんだなぁ、と改めて思わされた。 直井さんの入社は1986年。直井さんはホンダ関係者によくあるような「バイクが好きで」や「F1のホンダファンだから」といった理由ではなく、大学時代に培った英語力を生かした、国際的な仕事をしたいという気持ちでホンダを選んでいる。当時「ホンダホンダホンダ! シーティ!」というフレーズのホンダシティのテレビCMがあったのだが、それがきっかけだったという。
「東京で大学生をしていて、正直言って車にはあまり興味がなかったですし、ホンダに対して憧れや思い入れもなかったんです。あえて言うなら、プレリュードという車がカッコ良くて、あんな車で彼氏が大学の正門前まで迎えにきてくれたら素敵だな、と思ったぐらいですかね。そんな時にあのシティのCMはとても印象的でした。キャッチーなフレーズで、車にあまり興味のない私でもホンダという会社はなんだか他と違うな、と思いました。そんなきっかけで海外への展開も積極的なホンダが就職先候補になりました」
めでたく採用となったのは男女雇用機会均等法が施行される1986年の4月だったため、まさにこれから女性が企業の中で世界に羽ばたこうとする第一世代とも言える。我々からするとついついホンダと言えばバイクや車、技術やレースという視点があるが、そういった視点を持っていない女子大生にとっても、興味深い会社に映ったというのが面白い。 ちなみにその当時は「女性社員が初めて新興国に行った」などという事がニュースとして取り上げられるほど珍しかった。女性の働く環境が大きく変わろうとしていた時に、ホンダはいち早く対応し、そして直井さんはそんな環境で“ただ自分の目の前にある仕事をしっかりやらないといけない”とチャレンジしていった。
営業部長である直井さんに伺ったのは、国内外のパワープロダクツ市場の動向や地域別での活躍、及びOEM事業についてだ。国内でのパワープロダクツと言えば刈払機や発電機、耕うん機や船外機が思い浮かぶが、世界中で活躍するホンダパワープロダクツには、どんなものがあるのだろうか。 大きく分けて、先進国、新興国、それぞれでの家庭ユース、業務ユースと4つのカテゴリーで考えるのが分かりやすいだろう。欧米を中心とした先進国では芝刈機やレジャー用の船外機を使うことがメインであり、対する新興国ではインフラ未整備地域で活躍するポンプや発電機などを業務用に使うことがメインのようだ。
「北米や欧州といった先進国の主力商品は芝刈機です。特にこういった西洋型文化のある地域では家の前に芝生があって、それを綺麗に刈り込んでおくというのがスタイルですね。芝生がステキなお庭があるというのはステータスですし、特にその面積が広い北米では子供のころから芝刈りをしてきたという人がとても多く、芝のメンテナンスは文化として定着しています。こういった地域では後ろから押して芝を刈る歩行芝刈機、またより大きな面積を持っている所では乗用タイプの芝刈機がよく売れています」
そんな中でもホンダ商品は効率的かつ綺麗に芝を刈る能力はもちろんのこと、芝刈機の後ろについている、刈った芝をバッグに集める「バギング」という能力に優れる事、そしてエンジンメーカーとしての誇りでもある信頼性や始動性の良さなどから、数ある芝刈機ブランドの中でも高いポジションに位置しているという。
「最近では様々なメーカーがありますが、その中でホンダ製品は少々割高だったりもします。芝刈機を扱うショップでは一番良いところに展示してあり、芝刈機の中ではプレミアムな存在と言えるでしょう。それだけにホンダの芝刈機にはステータス性もあり、ホンダの芝刈機で芝を刈っているのを見せびらかすような、そんな風潮さえあります」
プロに選ばれることも多く、ユーザーが良い製品を選ぶ“月刊コンシューマーレポート”というランキングでは、ホンダの芝刈機は14年連続でトップを獲得。確固たるポジションを築いているホンダの芝刈機だが、「ライバルに対して少し値が張るという事もあってか、最初は安い他社製品でいいや、と他へと流れてしまう人もやっぱりいらっしゃるんですけどね……いつかはホンダ! という憧れではなく『最初からホンダを使って〜!』 って思っちゃいます(笑)。ベーシックなモデルでも使ってもらえればその性能に納得してくれるはずですから!」と、営業部長は自信を覗かせる。
このほか船外機などマリン製品も欧米ではよく使われている商品。日本では湖は少なく川も急流が多く、また気軽に係留できるマリーナも少ないためあまり一般的なレジャーではないが、特に北米では湖や川で遊ぶというのはメジャーなアクティビティー。芝刈りも一種のレジャーと捉えれば、欧米でのパワープロダクツは8割が家庭のレジャーユースで使われていると言える。また発電機も主力商品の一つ。ハリケーンなどの災害も少なくなく、停電も珍しくないため発電機は一家に一台が普通であり、キャンピングカーで出かけるのもポピュラーなのでキャンプの場面でも発電機が活躍している。
「芝刈りは子供のころからのお手伝いであり、芝生のクオリティはプライドの一つでもあるためヒトの手による芝刈りが一般的な北米に対し、欧州では最近ロボット型の芝刈機も普及し始めています。ホンダではミーモという機種ですが、欧州はこの新しい芝刈りのスタイルを受け入れる人が多いようです。先進国に共通することですが高齢化が進んでいますので、芝刈りもロボットに任せてもいいという考え方になってきたのでしょう。これまでの芝刈機も扱いやすい小型のものが好まれるようになっていますし、電動化というのも一つの流れです」
対する新興国でのホンダパワープロダクツの役割はまだまだ業務用がメインだ。中でも非常によく使われているのは水を汲むためのポンプ。農業の場面では水路が確立されていないような場面で川などから水を引くために使われる。また新興国の多くでは雨季と乾季があるため、乾季には水を運び、雨季には水を汲みだすために活躍する。こういった気候の地域において水の移動はとても多く、例えば大きな工場のトイレで使うような、上水でも下水でもない水は大型のタンクローリーで運んでくる。このタンクローリーにはやはりポンプが積まれ、川などから水を汲み上げてくるというわけだ。さらに工事現場などでも水が必要だし、インフラ整備が追い付いていない地域でも水の確保は優先度の高い課題。水を運んで来るにも、運んで行くにも、とにかく優秀で信頼性の高いポンプが必要という事だ。
もう一つの主力商品は汎用エンジン。タイやベトナムなどで日々の移動手段として活躍するロングテールボートと呼ばれる船がある。これは船外機ではなく汎用エンジンを搭載し、長いシャフトとプロペラをつけて動かすというもの。 シンプルな構造でどんな汎用エンジンとも接続は可能だそうだが、「ありがたいことにホンダの汎用エンジンを選んでくれる人が多いのです。ライバルメーカーに対して高価ですが、信頼性や始動性はもちろん、部品の安定供給、修理などアフターサービスが充実しているため長く使えるのが魅力ですし、ホンダのエンジンは手放す時でもブランド力があるので高く売れるということもあるのだそうです」という。 移動のための個人所有はもちろんのこと、水上マーケットなどで長時間使う人もいるため、信頼性だけでなくバックアップ体制も大切であり、これもホンダ製パワープロダクツの魅力というわけだ。
もう一つホンダがファンを集めている魅力は「マッチング」に対する姿勢だという。OEM供給される汎用エンジンは様々な使われ方をするのだが、例えばトウモロコシの茎を切り刻むというような特殊な機械の動力源などといった用途でも活躍している。こういった時に、接続される機器とのマッチングというのは大切なことであり、ホンダパワープロダクツは、ここには特に力を入れている。
「現地では様々な機器とホンダの汎用エンジンがマッチングされて使われるわけですが、その組み合わせがうまくいっていないとトラブルの原因になりますし、ホンダ汎用エンジンが活かしきれないことも考えられます。ホンダではこのマッチングにとても力を入れていて、現地の方と共に様々な仕様を決めていきベストを探るようにし、かつ最終的なテストまで一緒にやることで確実な製品となるようサポートしています」
このようなホンダの姿勢により、新興国では船に使われる汎用エンジン同様多少割高でも、ハード・ソフト両面からホンダ製品を選ぶメリットがあるという事だ。 先進国ではレジャーに、新興国では大切な業務用として、それぞれブランド力をもって魅力的な商品を展開している世界におけるホンダパワープロダクツ。では営業部長・直井さんの考える、今、イチ押しのパワープロダクツとは?
「やっぱりロボット芝刈機のミーモですね! 私は東京に住んでいて畑もないですし、芝生とも無縁でしたが、ミーモがあれば芝生の庭を持っても良いか!? と夢を広げてくれた製品です。欧米ではミーモの外側のカバーを家の壁の色に合わせてカスタムしたりする人もいますが、そういった楽しみもありますね!」
夢──ホンダドリームはパワープロダクツの世界でも確かに存在したのだ。 次回はこのミーモについてレポート予定である。
2018年5月18日から23日まで埼玉県のメットライフドーム(西武球場)で開催された国際バラとガーデニングショウ。今回で20回目を迎え、延べ430万人が訪れた本格的なバラとガーデニングの祭典であり、ホンダは2004年から毎年出展している。今年はバラと草花に囲まれて郊外でカフェを始めたセカンドライフをテーマにブースを展開。自家栽培の野菜畑にはカセットガスを燃料とした小型耕うん機ピアンタFV200とサ・ラ・ダFFV300、雑木とバラの庭にはナイロンコードカッターの刈払機UMK425HとブロアHHB25などが配された。芝生の庭ではロボット芝刈機Miimoがデモンストレーションを行い、室内でも使用できる蓄電器E500や最新の乗用芝刈機HF2417などのパワープロダクツ製品などが展示され、パワープロダクツ製品のあるライフスタイルを提案した。普段パワープロダクツ製品と接点の少ない来場者は「これは何?」「いくらくらいするの?」「どこで買えるの?」と興味津々の様子であった。
「安心して任せられる」高い安全性、「簡単に使える」操作しやすさ、「快適に過ごせる」高い品質と耐久性をコンセプトに開発され、2013年から欧米で発売が開始されたロボット芝刈機Miimo。日本では2017年から発売されている。芝を細かく刈り、芝の根元へ落とすため、刈ったあとの芝の回収も不要だし、充電も自らステーションに入って行う全自動なので、最初のプログラミングさえしてしまえば、365日24時間、芝生を最適の状態に維持してくれる。
[第1回 パワープロダクツ事業本部 奥田克久さん|第2回|第3回 しばふるプロジェクトとMimo HRM520へ]