何も難しいことはなく、クラッチを繋ぐとスルスルっと走り出した。スロットルを開けて、ギアを上げて加速。Ninja250譲りの直列2気筒エンジンは、ドリブンスプロケットを2丁増やして二次減速比を加速型にした、というくらいしかカワサキの公式HPには詳しい説明はないけれど、印象は結構違うもんだ。
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
街を駆け抜ける
Ninjaのように高回転までぐんぐん回していかなくても、低中回転域の加速だけでも街中では十分に進んでいける。デュアルパーパス的に使えるツーリングモデルというキャラクターと特性を良く合わせたなという印象。ノロノロ走っているときでもクラッチレバーをニギニギとしたくなるようなギクシャクも出ない。
エンジンだけでなく、フレームやサスペンション、ホイールなども手伝って、出だしから加速していく時にスムーズなフィーリング。ソフトで、交通量が多いから意外といろんな舗装状況のある街での乗り心地が普通にいい感じ。フロントに19インチサイズのホイールを履いて重心も高めというのもあり、交差点でも軽い動き。怖いと思うような場面がなく、リラックス感が持続する良い意味でのゆるさも持ち合わせている。
ハンドルグリップの高さは身長170cmの私でおへそより高い位置で、横幅は肩から約こぶし2個くらい外といった感じ。バーハンドルで力点が遠いおかげで、操作に必要な力が小さくすみ、状態を保持するのも簡単だ。815mmというシート高はこの身長だと高すぎず低すぎず。残念なくらい短足なのもあり、足の裏が両足べったり地面に届くことはないけれど、力が入れられる拇指球のあたりまでしっかり接地。片足ステップ載せだったら、余裕だ。赤信号で停止して足を届かせるためにお尻をずらしたくなったことは1度もなかった。ホイール外径を上げ、最低地上高も上げていながら、足着き性も考慮している。
嬉しいのはワイヤーが繋がっていることを疑いたくなるくらいクラッチレバーの操作が軽いことだ。使う回数が増える街中ではありがたい。どのくらい軽いのかを、最近のヤング風に「神ってる」と表現したくなるほど。視界が広く遠くまで見渡せ、飛び出してきそうなクルマや歩行者を発見しやすいなど状況を把握しやすいのは、背筋が立ったアップライトなポジションの恩恵である。
高速で巡航する
街から抜け出すために高速道路に飛び乗った。制限速度内では直進安定性やスタビリティに不満は出てこない。路面の継ぎ目やうねりもいなして進む。エッジの効いた特徴的な造形のフェアリングとウインドスクリーンの恩恵はきっちり感じられる。前から向かってくる風をすべて防ぐとは言わないけれど、高速域でもヘルメットや肩をやさしく撫でるような風力まで低減してくれた。オフロード的なツバ付きヘルメットでも風で後ろや横に持っていかれるようなことはなく、いたって平和な世界が続く。
シートから燃料タンクのニーグリップ部分へと面が連続してつながっているのもあって、はさみやすい股の感覚。後ろすぎないステップ位置もあって姿勢を保つのが苦にならない。膝の曲がりがきつくない自由度の大きい下半身。移動が長時間になってきたら、座る位置を後ろにずらし、ピリオンシートとの段差部分にお尻を当てるなどして座面との接点位置を変更してリフレッシュ出来た。
中低速での加速を意識したセッティングになっているとはいえ、基本は248ccの高回転型エンジン。追い越し加速などでは、さすがにどの回転域からでもそのままスロットルを開けるだけで気持ち良い加速とはいかないので、躊躇なくギアダウンした。タコメーターの針を8千回転以上に放り込むと望む加速が手に入る。やってはいけないけれど、制限速度以上での巡航もこなせる実力者。メーター読みの最高速では、この排気量の国産アドベンチャーではナンバーワンだろう。この余裕のある高速道路での走りは、Ninjaの2気筒エンジンを使ったメリットのひとつだ。
程よい快適性と走りの安定性。それに加えて燃料タンクの容量が17Lもあるから、一気に距離を稼ぐような旅でも楽にこなせそうだ。ツーリングモデルとして必要な条件をちゃんと満たしている。
つづら折りを軽快に走る
フロントに19インチのワイヤースポークホイールを履き、タイヤはIRCのオフロードバイク用のオンロードスポーツバイアスタイヤ、PROTECH GP-210。絶対的なグリップ力はそれほど高くないけれど、よく動くサスペンションと相まって、接地しているのを掴みやすいからワインディングでも思い切って走れた。楽しみながら攻めていくと、容易にステップバーの裏を擦ってしまうのはご愛嬌。リアのサスペンションはしなやか動いて、旋回してスロットルを開けていくときのトラクション特性もなかなか。ぐんぐん曲がっていくようなスポーティーさまではいかないが、右へ左へ車体を倒してライントレースするように曲がって行く気持ち良さがある。常に制御下にいてくれていて、ちゃんと操作していれば大きく裏切るようなことがない。
土の上を踏みしめて進む
デュアルパーパスツーリングモデルだから、街中、高速、ワインディングで感じたオンロードモデルとしての走りだけでなく、ある程度のオフロード走行も想定している。フロントにオンロードで小回りの効く17インチでも、オフロードで威力を発揮する21インチでもなく、その間を取ったワイヤースポークホイールの19インチを選んだのがミソだ。
同じサスペンション性能だったら大きい径の方が凸凹道での走破性は確実に上がるが、そうするとワインディングなどでの動きが大らかになる。乗ると中庸である19インチは良い選択だと思えた。オンロードだけでなく、オフロードでもなかなかやれるってこと。オンロードスポーツよりホイールトラベルが大きく、グリップの低いダートでの凹凸のいなしも許容できる範囲で、積極的にスロットルを開けながら走行することも可能にしてくれる。オフロードで必要不可欠な腕と足の関節でサスペンションを補助できるスタンディング姿勢もとりやすい。
意地悪にわざと滑りやすい砂利の上で急制動してみた。フロントフォークがフルボトムするまでぐっと減速していき、タイヤがロックするかなって思う少し前からABSが働きながらもズズーっと滑るが、そこから何事もなく安定して止まれた。だからこのABSはダートでも著しく邪魔に思うことはない。逆にダート経験が浅い人にとって強い味方だ。高すぎることはないオフロード性能とABS設定の相性も良い。
土、砂利、段差、草原などを走っても、突然グリップを失ってズサーっと転ぶようなことはなく、雨中や雨後の土だと厳しいタイヤパターンだけど、ドライなら、かなり荒れたところでも入っていける。これなら旅の行程に林道を入れてもまったく問題はない。オフロード経験が浅くとも問題なく走り抜けられるコントロールしやすさ。山の上にあるキャンプ場へ続くような少しのダートならお茶の子さいさいだ。虎の尾を踏むような恐る恐る行くようにはらないだろう。少なくとも私はそうだった。
VERSYS-Xから広がる楽しみ
今や250ccから400ccクラスにもアドベンチャーモデルが増えた。このカテゴリーは、大排気量デュアルパーパスツーリングモデルから歴史がスタートしたけれど、いくら高性能でも、大排気量モデルの場合、ダートも含めてそれを乗りこなすにはかなりのテクニックを必要とする。その分、この排気量ならば重すぎず、小回りも効いて、どんなライダーも操りやすい。幅広いライダーにおいて、本当の意味でのデュアルパーパス、マルチパーパスという使い方ができるのはこのサイズだと思う。
その中でも、これよりオフロード性能が高いものもあるし、オンロード性能が高いものもある。しかし、どこかが出れば、どこかが引っ込むのが世の常だ。そこでVERSYS-X 250のどちらにも偏っていないバランスの良さが大きく光るのである。実際のシチュエーションに照らし合わせても、ある場面での飛び抜けた性能より、まんべんなくバランスさせた方が使い勝手は良いに決まっているじゃないか。
(試乗・文:濱矢文夫)
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