5月には日本を走り出すKTMの新作、790DUKE。エンジニアから聴いた790DUKEの造り方と、一般道での印象をお届けします。
■試乗&文:松井 勉/濱矢文夫 ■撮影:KTM/依田 麗
■協力:KTM JAPAN http://www.ktm-japan.co.jp/
ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
駆け足で見るDUKEの歴史。
3月に行われたメディア向け試乗会において、最初に紹介されたのはDUKEシリーズの歴史だった。歴代のモデルが会場に参集し、現車を交えて紹介されたのだ。1994 年に登場した620DUKEこそそのはじまりである。言わばそれはKTMがロードバイクセグメントへのアプローチの歴史でもあった。
水冷単気筒LC4エンジンを搭載した初代DUKE。エンデューロ・モトクロス用に開発されたLC4エンジンにバランサーシャフトをぶち込み、80年代後半からヨーロッパで爆発的人気を誇ったスーパーモトスタイルのバイクを、ロード寄りにリチューンしたバイク、それがDUKEだった。
オフロードバイクに前後17インチのロード用タイヤを履かせたスーパーモト系モデルより、サスペンションストロークを短くしライト回りなどフェイスにDUKE独自の「スタイル」を与えたのがその正体で、ライディングポジションなどはどちらかというとオフ車そのもの。乗り味もそれに近いものだった。パンチのあるLC4エンジンが持つパワフルさは細かいコトを忘れさせる爽快さがあり、左キックの始動などマニアックなディテールそのまま。個性派として記憶されるDUKEだったのである。
口の悪い人はそれをあり合わせ、とも表現したが、DUKEの進化はそれをなにするもの、と続く。扱いやすさを加えるため、LC4エンジンにスタータモーターが装着され、620から640へ。よりパワフル+快適性も加味した新世代LC4搭載の690 シリーズへとバトンを渡す。その690DUKEは2018年、日本へのデリバリーはお休みとなるそうだ。生産中止になった、というわけではなく電波関係のレギュレーション対応に時間がかかるため、だそうだ。
DUKEシリーズは単気筒シリーズの他、2005年には水冷Vツイン搭載のLC8 990エンジンを搭載したSUPER DUKEの登場で広がりを見せる。言葉をかえれば近代KTMが本格的ロードバイクに進んだのがこのバイクから、ということもできる。暴れん坊なストリートファイター、というイメージのSUPER DUKEだが、実はクセがなく乗りやすい。パワフルさを扱いやすく享受できるまとめあげはなかなか。その後に登場する990SUPER DUKE Rは、パワーを絞り出したエンジンがややピーキーで、前後にハイグレードなWPサスを搭載したが、攻めないとしなやかに走れない腕白だった。そんなSUPER DUKE系も学習と発展を続け、現在の1290シリーズにスイッチする。
また、DUKEの中で2011年からはじまったインド生産のスモールデュークがKTMの世界を広げたのはご存じのとおり。125、200、250、390があって、現在は125、250、390が日本にデリバリーされている。
こうして歴史を俯瞰すると、DUKEのエントリーレベルと690や1290モデルの間が欲しい、と思うひとは少なくない。今回、790DUKEをKTMが出す狙いはまさにそこなのだ。
もっと幅広いライダーにDUKEを。
排気量として690と1290の間を埋める、という任務が一つ。同時に、ハードボイルドな1290 SUPER DUKE Rが持つ孤高のバイクとしての嗜好性、700㏄単気筒という世界でも超が着くほどマニアックな690DUKEというポジションニングより、もっとシンプルに、カジュアルにDUKEの世界を、というのがホントの使命のようだ。
この790DUKE、車体の造り方もコレまでのKTMとはアプローチを替えてきた。まずKTMがこれまで定番としてきたフレームスタイル、クロモリチューブを使ったトレリスフレームから、クロモリチューブ製ながらブリッジタイプのフレームを採用したのだ。
リアサブフレームは、1290同様、フレームその物を外観意匠としているアルミダイキャスト製を採る。790ではこのことでインナースペースを有効利用。ライダーシート下のエアインテークボックスに繋がるインテークホールを両側に設ける等、その機能美にも神経をつかっている。それと同時に、騒音規制やエンジンの特性造りに欠かせないエアボックスのサイズの容量を大きく取ることも可能にしているのだ。
その他、前後に採用されるKTM門下のWP製フロントフォークとリアサスペンションを使うこと、オープンサイドデザインのスイングアームとすることなどDUKEらしさはそのまま。
足回りでニュースなのは、マキシスと共同開発したタイヤを装着することだ。開発者は「大きなプロジェクトだった」と表現する。マキシスと言えば、オフロードでは二輪、ATV、S×S、四輪ともにメジャー系と言えるブランドだ。ロード系スポーツラジアルのアフターマーケット用はリリースされているが、OEMタイヤはまだレアケースだろう。
スモールDUKE他、小排気量からのステップアップ組が用途として欠かせないデイリーなタウンユースも視野に入れた790DUKE。メンテナンスコストも抑えたい、また、KTMとしてもOEM先のブランドを多くしたい、という思惑もあったそうだ。なにせここ5年で年産台数が多くなったKTMにとって、安定した部品納入先の確保は課題だったという。
また、同様の理由から、ブレーキ回りのパーツにはスペインのJ1製パーツが選ばれた。テストした車両には、レバー、レバーホルダー、マスターシリンダー回りも同様にJ1が選ばれていた。OEM先を増やしたい、というエンジニアの言葉から解釈すれば、生産されるタイミングによりこのあたりのブランドが変わる可能性も有るわけだ。
初トライの並列2気筒。
799㏄の排気量を持つ790DUKE用エンジンはKTM史上初となるパラレルツインだ。Vツインエンジンの呼称、LC8に対して、コチラはLC8cとなる。水冷・8バルブ・コンパクトを意味する言葉通り、なるほど、エンジンはコンパクトさがウリとなる。フレームに搭載される姿は軽くシリンダーが前傾しているが、吸気系はシートの下にエアボックスを備えるスタイルをとる。
エンジン内部の特徴は、鍛造ワンピース、75°位相クランクの採用により、並列2気筒ながら、爆発間隔はLC8のVツインと同様となる不等間隔爆発を採用している点だ。
クランクケース内にセミドライサンプとされるオイルバスを持ち、姿勢を問わない確実なオイル供給を可能にすると同時に、クランクケースボトム形状をフラットにすることが可能になった。
ピストン、コンロッドは鍛造製となり軽量さと強度を確保。また、鍛造一体成形後にコンロッド大端部を割る製法とし、大端の真円度を最適にする手法も採られている。また、適所にDLCコーティングを施し、フリクションロス低減にも配慮。これにより高回転まで低い振動レベルで回転させられるという。
振動対策として採用される2本のカウンターバランサーは、その一本がクランクシャフト前側にあり、ウォーターポンプを兼ねる構造に。そしてもう一本が吸排気カムの間に置かれ、排気カムがその駆動を受け持っている。吸排気カムも鍛造製で重量低減をしている。また、カムフォロアー(ロッカーアーム)を介してバルブを押すことで、カム山そのもののサイズも抑えることができている。
クランク軸、メインシャフト、カウンターシャフトの軸配列も前後長を詰めたものとし、全長、全高ともに抑えたコンパクトさを実現。確かに、横からこのエンジンを見ると、800㏄というボリュームには見えない。
電子制御アイテムは、最上級モデル、1290同等に装備。
790DUKEの魅力はメカニカルな部分はもちろん、ライダーが触れる、目にする場所もしっかりと最新版が与えられている。
フルLEDヘッドライト
LEDターンインジケーター
LEDテールランプ
TFTフルカラーモニター
こうしたものに加えて……
バイクの走行状況を把握するためのリーン・アングル・センサーは、トラクションコントロール(MTC モーターサイクル・トラクション・コントロール)などとも協調するのはもちろん、旋回時を把握して制御をするコーナリングABS、モータースリップレギュレーションと呼ばれるエンジンブレーキコントロールも装備する。メカニカルなスリッパークラッチは、後輪が路面と良好なグリップを発揮することが作動用件として上げられる。雨等で滑りやすい路面では急激なエンジンブレーキ時に後輪がロックして、スリッパ−クラッチの作動確保が難しい。そこで、グリップの範囲を超えた場合に備え、前後の車輪回転差をモニターし、スロットルバルブを操作することで過度なエンジンブレーキで後輪がシフトロックするのを防ぐのを目的としたデバイスなのだ。
また、クイックシフター+と呼ばれるシフトアップ、ダウンに有効なクイックシフターを装備。
目的はライダーの手をグリップに留めるため。
オプション装備ながら、スマホ、ヘッドセット、そしてバイクを結びメーターパネルに電話、ミュージックプレイヤーなどを表示するKTM MY RIDEを選択することが可能だ。ヘッドセットとスマホだけが繋がっていても、やはりメールやSNSからの着信音、電話の着信音が入れば気になるのが人情。ナビもスマホで、という人が増えている今、使う、使わない、必用、不要の是非ではなく、装備として選択できるのがデフォルトになるのだろう。操作はハンドル左側のスイッチから操作ができるというものだ。
ライディングモードももちろん、搭載。
790DUKEはライディングモードも搭載する。スポーツ、ストリート、レイン、トラックとシーンに合わせた4つのライディングモードが選択でき、それぞれのモードで、トラクションコントロール、スロットルレスポンス、エンジンパワー、そしてアンチウイリーの効き具合が変化する。
また、トラックモードではスリックタイヤの装着を視野にトラクションコントロールの介入度を9段階から選択できる。
もろもろモードなどを変更できるメニュースイッチは左側に集約されている。また、それらスイッチは夜間でも解りやすいよう透過照明がついているのも嬉しい。
跨がると800のクラス感を感じさせない。
790DUKEを正面から眺める。フロントフォークの間から印象的なヘッドライトがつき出す。低く構えたフェイス、タンクサイドから伸びるスポイラーも斜め下向き。左右一文字につきだしたウインカー、タイトなハンドルバーなど、上方へのボリュームが少なく、コンパクトに見える。その質量感は390と並べても同様に見えるのではないか、と思う程だ。
サイドビューは1290 SUPER DUKE Rと同等のホイールベースを持つことから、サイズ感はある。しかし、ブリッジタイプのフレームが縦方向への積み重ね感を出さないので、タンク回りを中心に低く構えたスタイルなのだ。
これは跨がっても一緒だった。とにかくタンク後部、大腿で挟むあたりが細い。そのスキニー具合は正直驚いた。まるで250みたいなのだ。
そのタンク幅に合わせたシート前端の幅も狭く、シート高825mmという高さも感じないほど足付き感がいい。感覚だが、シート高が780mmぐらいのバイクに感じるほどだ。これは、コンパクトなエンジンが質量を感じさせないことからくる、車体の軽さ感もあるだろう。
やや後退したステップに足を載せても、スイングアームピボット周辺がタイトで一体感がある。この一体感醸成がしっかりできている。リラックス、というか気構えずに乗れるDUKEなのだ。
スムーズなエンジン、音で奏でる鼓動感。
音で奏でる鼓動感? ナンダそれ? を説明します。エンジンを始動すると、KTM製の75°Vツインとほぼ同様の音を奏でるLC8c。振動が少なくスムーズさが印象的。それでいて、不等間隔爆発らしいバサバサっとしたサウンドに思わず体がそれを鼓動感として受け取る、という意味です。振動が鼓動に感じる、という意味ではありません。
このエンジンはとにかくスムーズ。クラッチの操作力も軽く、その繋がり感も解りやすい。モニターに映し出されるグラフタイプの回転計を見なくても右手の開度と後輪が蹴り出す感覚でバイクを把握できる印象なのだ。
動き出して低い速度で走り出す。せいぜい40km/h程度で移動開始だ。その速度でもミッションのシフトストロークが適切で、低い速度でもクイックシフターの操作感が良い。スムーズなのだ。試乗コース序盤、速度抑制のバンプが連続する場所を通った。フロントタイヤが通過する瞬間、カツンと手首にキックバックを連想したが、フロントもリアからもそれがない。減衰圧もスプリングレートやバネの動き方もしなやか。
ハンドリングは低速から一体感がある。安定感があり、ソフトに感じるサスと相まって操りやすい。ブレーキのタッチも悪くない。リアブレーキペダルの踏面がコンパクトで内側に追い込まれているKTM 流なので慣れるまで意識してつま先を内側に追い込む必用があったが、しばらくしたら慣れてしまった。
高台にあるホテルからスタートした試乗ルートは高速道路をめがけて山道を下ってゆく。鋭すぎないハンドリング、それでいて乗りだし数分でしっかりとタイヤのグリップ感を伝える曲がり方ゆえ、恐くない。
市街地ペースですでに素性の良さが解る790DUKE。見た目同様、そこに800クラス、という誇張がない。むしろ400ツインモデルにのっているような一体感がある。タタタタ、と軽快に回るエンジン。右手を大きく捻ることがなければ、そのパワーは本当に従順でおしとやか。スムーズな回転フィールもそれをしっかりフォローアップする。
高速道路でもネイキッドツアラーとして淑やかに。
高速道路で東を目指した。合流レーンで加速しながらシフトアップを続ける。5000rpmあたりでシフトを繋いでも充分な加速力がある。試しに引っ張っても、そのエンジン特性は極めてフラットトルクなタイプで、ドバッ、グワッと刺激したがるキャラではなまったくない。振動の少なさがここでも光る。乗りやすい。
言葉を換えれば、シフトダウンして全開にしても増速感は想像通り、回転が高い分、増速時間が短い、というもの。遠距離がめちゃくちゃ楽そうな性格だ。
その時の乗り心地も良好。長いカーブを曲がって行く印象も寝かした分、求めた旋回性があっさりと手に入ると感じた。
なんだか、乗りだしてまだ15分も立っていないのに、790DUKEのフレンドリーさにもてなされ、半分は理解できたような気分になれた。
ワインディングでも安心して楽しめる。
そんなウォーミングアップをしながらテストルートは次第に山岳路のワインディングに。センターラインがある対向二車線の道を駆け上がり、景色の良い場所まで標高が上がると、道は狭くなりブラインドカーブが多い道になった。
適度に加速、減速、そして旋回というリズムをとりながら走る。タイトターンでは1速まで落とすほど狭く急な上りもある。それでも持てあますことなく走れる。ああ、KTMはこれを目指したのね、と腑に落ちた。
初体験のタイヤ、ブレーキパーツに走り出す前は不安もあったが、全体のチューニングがしっかり採られていることが解ると、こうした道を走るのが楽しくてしかたがない。なるほど、390や690ほど単気筒のクセをカバーしなくていいし、1290ほどなだめすかして走る必用もない。程よいパワー、充分な加速、程よい旋回性。ブレーキとサスペンションの減衰圧のバランスも上々、乗りやすい。ワインディングによくある、減速して向きをかえ、そして加速という走りが決まるのだ。
嬉しいのは、上りでも下りでも同じように冷静に790を良いペースで走らせ続けられること。見知らぬ道だ。ついついブレーキングが遅れることも。それでも、前につんのめる感を出す前に修正ができる。サスペンションの余裕や、腰高感のない走りと曲がり方に助けられているのだ。
サーキトではDUKE Rの登場に期待?!
そんな乗りやすいイメージのままカナリア島ではサーキット走行も体験した。直線とシケイン、そしてヘアピンで繋いだ2キロ弱のサーキットだ。全開加速、フル制動、低速ターン、というなかなか体験できないタイプのサーキットだったが、タイトターンで鋭い旋回性を見せる、というほどではなかったが、そこが不満にも思わなかった。
そんな思いのまま、今日、筑波1000での試乗に臨んだ。エンジンのキャラクターや操作感の良さはあの日のまま。唯一違うのは深くバンクしたまま旋回時間の長いコーナーや、ブレーキングを残しながら走るサーキット乗りになると、ややアンダーステアを強く感じることがあった。それを嫌ってブレーキングを手前でまとめる走りをするのだが、一度ブレーキを解放してやらないと旋回性が上がってこない。アクセルオフで車体がやや沈み込むので早めにアクセルをパーシャルにするため、もう一車身手前からブレーキングを開始したり、と、コース攻略を他のDUKEよりも綿密に採る必用があった。390や250DUKE、1290も含めて、メッツラータイヤを履くモデルはそのあたりのクセも殆ど無く、苦労する790を追い回す場面も。シティー、ワインディングでの好印象は790の持ち味だと思うので、走行会もしっかりカバーするDUKE R的バリエーションも期待します。
誤解なきよう。サーキットでも、タイヤを替えることや、ボクの場合、リアのイニシャルプリロードを1段上がるだけで改善できる部分もあったので、調整範囲でもある。その辺はライダーの好みや、経験豊富なショップに相談してみて欲しい。
この790DUKEは、READY TO RACEというポリシーを掲げているKTMの作品だ。その素質はストリートでこそ光る一台。なるほど、スモールデュークからのステップアップに持ってこいだ。Ninja250やCBR250Rなど、アジアンメイドの日本ブランドから乗り換えても、すんなり溶け込める乗り味だと思う。また、排気量的にライバルとなるモデル、価格的に比較したくなるバイク等々、雑誌的な企画が頭をかすめるが、コイツはコイツ。そんなフレーズが思い浮かんだ。それほど峠道、高速道路での身のこなし、市街地での乗り易さが光ったからである。
(試乗・文:松井 勉)
ヘッドライトユニットはLEDのランニングライトに囲まれたデザイン。 | タンクを取り囲む樹脂製のスポイラーは新しいデザインだ。燃料タンク本体はスチール製。サイドから見ると、前下がりで低く構えた印象なのがよくわかる。ボディーカラーはオレンジ、ブラック2色がある。 |
アルミダイキャスト製のサブフレーム。それ自体がサイドカバーのような造形としてデザインされている。内側のスペースを有効に使える。サイドにエアインテーク口が左右に設けられている。 | φ43 mmのインナーチューブを持つフロントフォーク。ブレーキディスクはφ300mm。ラジアルマウントされるキャリパーは対向4ピストンだ。 |
テールランプもLED光源を使ったもの。 | 多くの並列2気筒よりもコンパクトさで優位に立つKTMのLC8c。ケースとシリンダーを一体としたほか、ケースの小ささも解る。横から見るとKTMのエンデューロバイクに見える程コンパクトだ。 |
ここからは、濱矢文夫さんによるサーキット試乗編です。
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
第一印象は、シングルエンジンのように見える、LC8cと呼ばれる水冷4ストロークDOHC8バルブのパラツインのコンパクトさに対する驚きだった。横から見るとデザイン的な要素と伸びて見えるスイングアームからホイールベースがかなり長そうに思えたが、実はシングルエンジンを積んでいた前の690DUKEと較べて増えた長さは10mm以下。チェーンアジャストの範囲を考えると、差はほとんどないと言っていい。試乗場所になった比較的小さいサーキットの筑波コース1000が絶好の場所だと思えるサイズ感だ。
走り出して最初に感じたのは、少し前に座っているようで、ハンドルのグリップ位置が近く、そしてやや広い上半身ポジションから、スーパーモタード的な部分があった690DUKEとの血の繋がりだった。やや前傾になる上半身は自由度が大きく、細くてフィット感の良い下半身はぎゅっと車体と一体化しているよう。ステップ位置も後ろすぎず高すぎず、膝の曲がりも適度。身長が高い人でも窮屈な思いはしないだろう。
その足の余裕からステップ位置が高いと感じず、ストリートならちょうど良くてもコースならリーンアングルは足りなのではないかと思っていたけれど、徐々にペースを上げて行くと、ハングオフで無理なく内側に出した膝の方が先に接地した。やはり、細い車体というのが効いているのだろう。ペタンと素直に倒れ込んで、深くリーンすることをためらわずにすむから気分がいい。
パラツインエンジンはパルス感がありながらスキップするように車体を前に押し出す。日本仕様は欧州仕様と基本同じスペックだ。カタログ数値の違いはあるが、それは日本で型式認定を取った時の誤差ともいえるもの。乾燥重量169kgという数値と、マスの集中化のたまものか、シングルエンジン時代を彷彿とさせるフットワークの軽快さが光る。運動エネルギーの小ささは、減速でも効果があり、減速開始時期を先程まで乗っていたより軽い小排気量モデルより少し奥にしても、強力なブレーキもあり簡単に速度が落とせた。フロントフォークを縮ませて前のめりになりながら、フロントタイヤのグリップがダイレクトに伝わってくる、その時の所作もいたって安定していて、その状態でコーナーへ飛び込んでいく。
思うように動けて自分の体からタイヤが生えているような気持ちになった。最初の右ヘアピンも思ったようにコーナーリングが決まる。向きが素早く変わり、スロットルを開けるタイミングが早い。75度クランクピンオフセットによる不等間隔爆発と、しなるように動くリアサスペンションのおかげで、トラクション性がとてもよく、タイヤグリップを失いにくく無理なく前に出ていった。低回転域からフラットに近いトルクが出て、高回転で厚みを増しながら速度がグンと伸びる。よどみがなく、レブリミット付近まで素早く吹け上がる。手に余らない程よいパワーを使い切れて小気味いい。
試乗に与えられたのは1時間で、前に別のライダーが同じ時間でふたり乗った後の3枠目だった。この790DUKEと共同開発したというマキシスのタイヤは、それほどハイグリップではないライフも含めたバランスタイプで、この頃には滑り出しを感じていたが、それでも怖くなく、逆にその状態を楽しめるくらい。意外と石橋を叩いて渡るタイプだから、その気持ちに驚く客観的な自分。それほど、思うようにコントロールできるオートバイだ。
「レイン」「ストリート」「スポーツ」「トラック」と4段階あるライディングモードを、最初は「ストリート」で乗った。ここで遊ぶにはこれでも充分スポーティーに感じたが、「スポーツ」にするとスロットル操作に対する出力の出方にリニア感がさらに出て、面白さも増量。乗り味を調査する試乗であるというのをうっかり、そしてすっかり忘れて、ひたすら走りに集中した。アップだけでなくダウンも可能なクイックシフターが、この忙しいコースでは大いに助かる。「トラック」モードにして、ABSやトラクションコントロールの制御を切ったり入れたりしながら試すと、もうプライベートで練習走行に来ている気分。遊んで申し訳ない。
KISKAによるKTM特有の個性的で尖ったデザインから、乗り味も尖っていそうだと思う人がいるかもしれない。実際のところ走りにキレはあるけれど、790 DUKEは想像以上にフレンドリーである。これなら街中やワインディングでも愉快なオートバイライフがおくれそうだ、なんて思ったのは革ツナギとヘルメットの中にしこたま汗を書いて遊んだあとだった。
(試乗・文:濱矢文夫)