JSB1000 report

■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝

いよいよレース・シーズン到来! そしてHRCが10年振りに復帰!
日本最高峰の戦いである全日本ロードレース選手権JSB1000は、2018年シーズン、レース数は8戦と変わらないが、2レース制のラウンドが増えて13戦で繰り広げられる(全日本ロード選手権自体は全9戦だが、第5戦の筑波ではJSB1000は開催されない)。第1戦は4月7日~8日のもてぎ。熱い戦いが始まる。

 なんと言ってもホンダワークスチーム「Team HRC」の10年振りの復帰が大きな話題を集めています。監督は元ホンダワークスライダーで、ロードレース世界選手権で活躍、’02年のMotoGP第2戦でバレンティーノ・ロッシに勝利、鈴鹿8時間耐久では最多となる5勝の記録を誇る宇川徹です。’05年に現役引退を発表、本田技術研究所に入社。スターライダーに会社員が務まるのかと意地悪な意見もありましたが、宇川の実直、真摯な姿勢は、レースを離れても変わらずで、今回「レースの勝ち方を知っている」と監督に任命されたのです。
「強いホンダの復活が僕の使命」
 宇川は力強く語りました。
 ライダーは、昨年、悲願のタイトルを獲得した高橋 巧です。

 今季の戦いを検証する前に、その高橋がタイトルを決めた昨年のレースを振り返ってみたいと思います。最終戦MFJ-GPは、2017年11月5日に三重県鈴鹿サーキットで行われました。最高峰クラスJSB1000は、それまで絶対王者のYAMAHA YZF-R1を駆る中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が5年連続、通算7回のチャンピオンに輝いていましたが、ノーポイントレースが響き、自力でのタイトル決定は消滅、「最多勝を狙う」と挑みました。6年振りのチャンピオン交代劇となる戦いだったのです。

 最終戦は超スプリントの8周のレース1と、20周のレース2が行われました。ランキングトップはSUZUKI GSX-R1000の津田拓也(ヨシムラスズキMOTUL)で、6ポイント(P)差の2位はHonda CBR1000RR SP2の高橋(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)の戦い。タイトル決定となれば、互いに初の栄冠です。

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Honda CBR1000RR SP2の高橋 巧(MuSASHi RT HARC-PRO. Honda)が、JSB1000初制覇するのか、が最終戦の見どころだった。 YAMAHA YZF-R1を駆る中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)は、年間最多勝利を狙った。

 10月末の豪雨の影響で、鈴鹿サーキットは土砂崩れが発生し復旧作業を進めて、最終戦開催にこぎつけました。その影響か、いつもよりもグリップが悪いというコメントが多く聞かれたのですが、それでも晴天となった走行初日、高橋が2分6秒台(コースレコードは2分5秒台)と好発進。2日目も高橋がトップタイム。津田は調子が上がらず9番手へと沈むのです。この日、強い風が吹き、気温が下がり、津田も高橋巧も転倒があり、緊張感が増しました。
 ノックアウト方式で行われた予選は、全車参加のQ1と上位10台で争われるQ2で、それぞれ2つのレースのグリッドが決まります。中須賀は自身の持つレコードには届かなかったものの2分5秒台を叩き出しました。
「タイトルの重圧のない戦いは久しぶり、ライダーとして勝つことだけに集中する」と不敵な笑み。
 野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)も5秒台に入れて来ます。9番手までが6秒台に入れる好走を見せました。Q2でも中須賀の速さは際立ち、唯一の5秒台。高橋は4&6番手。津田は8&9番手となります。
 
「予選日は路面温度が低く、想定していたセットとタイヤのマッチングが思うように行かなかった」と高橋は悔しそう。
「いろいろと試しているが、今季で、一番乗り心地の悪いマシンになってしまった」津田は、レースウィーク中、長いミーティングを繰り返していましたが、答えが見つからずにいるようでした。
 中須賀は、昨年から変更されたタイヤのホイールサイズ16.5から17インチへの対応に悩み、前半戦は、まさかの転倒が続きましたが、後半戦では対策を進め連勝中。高橋は開幕2連勝を飾ってポイントを稼ぎ、津田は未勝利ながら、安定して上位フィニッシュを続けて来ました。
 高橋には6年振りのホンダ、津田には10年振りのヨシムラのチャンピオン獲得の重圧が、それぞれにのしかかっていました。
 
 夏後半から秋へとかけて雨が続き、晴れのレースが待ち遠しかったファンは、青い空の下で熱戦を見守ることになりました。冷たい風が吹いていましたが、ドライコンデションでの集大成となる戦いでした。
 決勝朝のウォームアップランでコース上にマシンが止まり、赤旗が提示され、1周減算、レース1は7周。スタートから飛び出した中須賀が驚異的な速さで優勝を飾り、それに高橋が続きました。津田は8位となり、高橋巧がランキングトップへと逆転、「これで気持ちが楽になった」と言う高橋巧は、レース2(20周)で、2列目から絶妙のスタートでホールショットを奪うとレースをリードします。終盤に中須賀がシケインで高橋のインを突いて首位を奪い、中須賀はダブルウィン。2位に高橋巧、津田は5位で、高橋巧の新チャンピオン決定となりました。

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中須賀は、圧倒的な速さを見せてレース1、2を制してダブルウイン。 高橋にとっては初めての、そしてホンダのライダーとしては6年振りのチャンピオンとなった。

 高橋 巧はJSB1000に挑み始めたのがCBR1000RRデビューシーズンで、戦い続けて9年目で新型となり悲願のタイトル獲得でした。自らマシン開発テストをさせてほしいとホンダ陣営に掛け合い「マシンの仕上がりの良し悪しも自分の責任だ」と重責を背負うことで逞しさを増しました。トレーニングも強化し、落とすところなどない体重を5~6キロは削ぎ落とし、開幕には、よりシャープになった姿で現れ、意気込みを示していました。
 鈴鹿8時間耐久では「このマシンを誰よりも知る自分のセットで戦う」と決断し、Moto2の中上貴晶やMotoGPのジャック・ミラーを牽引。ワールドスーパーバイクへのスポット参戦も実現しました。
 ライバルの中須賀も、高橋に対して最高の賛辞を送りました。
「今年は高橋がチャンピオンになるべく戦って来たということ。タイトルを争えなかったのは残念だが、心から高橋を祝福する」
 高橋は、自分のレース人生を、己の力で切り開き、タイトルを引き寄せたのです。
 
 高橋は3歳からポケットバイクに乗り始め、桶川塾や、アメリカのダートトラック修行に出かけ、14歳で全日本昇格、15歳で世界グランプリを経験、18歳で全日本250のチャンピオンに輝き、19歳(2009年)からJSB1000にスイッチ。鈴鹿8時間耐久では3度も優勝を飾っていますが、全日本JSB1000のタイトルは初。
 そして今季、念願のホンダワークス復活で、ヤマハワークスと熾烈な争いを繰り広げようとしています。
「高橋には一皮むけてもらいたい。そして、僕が世界への夢を叶えたように、世界へと飛び出してほしい」
 と宇川は語っています。

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MuSASHi RT HARC-PRO.はJSB1000で高橋 巧が、J-GP2で水野 涼がチャンピオンとなった。 10年振りの復帰となるHRCの監督は宇川 徹。「強いホンダの復活が使命」と力強く語る。

 ホンダ陣営は、昨年のJ-GP2チャンピオンの水野涼が、高橋の後を継いでMuSASHi RT HARC-PRO. HondaからJSB1000を戦います。清成龍一、高橋裕紀は引き続きMORIWAKI MOTUL RACINGで飛躍を誓います。さらにヨシムラにいた濱原颯道がHonda Dream RT 桜井ホンダから参戦。日浦大治朗がHonda Suzuka Racing Teamからフル参戦。秋吉耕佑は新チームau・テルルMotoUP RTから挑み、アジアロードレース選手権で活躍するザクワァン・ザイディがHonda Asia-Dreamから初となる全日本参戦を開始します。
 
 ヤマハワークスは、中須賀が王者奪回を狙います。野左根の成長も楽しみ。また、昨年のST600チャンピオンの前田恵助がヤマハの育成チームYAMALUBE RACING TEAMから参戦を開始。
 ヨシムラはリベンジに燃える津田、そして、カワサキで活躍していた渡辺一樹がチームメイトとして加わりました。さらにチームカガヤマの加賀山就臣(スズキ)が参戦。浦本修充はスペイン選手権へと旅立ち、J-GP2で活躍していた生形 秀之(エスパルスドリームレーシング)が本格参戦。
 Kawasaki Team GREENは昨年新加入ながらランキング3位に食い込んだ渡辺一馬とルーキー松崎克哉が引き続き参戦。この他、年間エントリー27台が凌ぎを削ります。

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昨シーズン後半、連勝したヤマハワークスの中須賀は王者奪回を狙う。 MORIWAKI MOTUL RACINGから参戦する清成龍一(右端)、高橋裕紀(右から2番目)はさらなる飛躍を目指す。

 今季、ヤマハワークスに加え、ホンダワークスチームが復活。チームグリーンは、ワークスとは宣言していませんが、それに匹敵するカワサキのチーム。モリワキ、ヨシムラと強豪チームが揃います。レース界の雄、ホンダの復活を賭けた戦いは、それを阻止しようと牙を剥くライバルたちの力も引き出すことになります。そして、これらの有力チームに認めてもらおうと切磋琢磨する新鋭たちの闘志に火をつけることにもなるのです。この攻防を見逃す手はないな、と思うのです。
 開幕戦は栃木県ツインリンクもてぎで、4月7日、8日開催です。

■全日本ロードレース選手権 2018年レースカレンダー

第1戦     4月 7~ 8日 ツインリンクもてぎ/栃木
         JSB1000(2レース)、J-GP2、ST600、J-GP3
第2戦(2&4) 4月21~22日 鈴鹿サーキット/三重
         JSB1000のみ(2レース)
第3戦(2&4) 5月12~13日 オートポリス/大分
         JSB1000のみ
第4戦     6月16~17日 スポーツランドSUGO/宮城
         JSB1000(2レース)、J-GP2、ST600、J-GP3
第5戦     6月30日~7月1日 筑波サーキット/茨城
         J-GP2、ST600、J-GP3(各2レース)
第6戦(2&4) 8月18~19日 ツインリンクもてぎ/栃木
         JSB1000のみ
第7戦     9月 1~ 2日 オートポリス/大分
         JSB1000(2レース)、J-GP2、ST600(2レース)、J-GP3
第8戦     9月29~30日 岡山国際サーキット/岡山
         JSB1000、J-GP2、ST600、J-GP3
第9戦(MFJ-GP)11月 3~ 4日 鈴鹿サーキット/三重
         JSB1000(2レース)、J-GP2、ST600、J-GP3