幻立喰・ソ

第91回「西口出たら目の前の…」

 
 関東と関西、なにかにつけて比較されます。が、「はっきりシロクロつけようじゃねえかorやんけっ!」というようなことでもなく、むしろ楽しんでいるのではないかとさえ思います。とはいえ何かあると、応仁の乱だの、ぶぶ漬けだのと言い出すめんどくさい某地域もありますから、一概に楽観視してはいけません。

 立喰ソに関しても、ご存知のように関西はウ、関東はソが中心です。店頭表記も関東は「そばうどん」、関西は「うどんそば」というようにわかりやすい違いがあります。本コラムのずさんで大雑把な調査(第54回参照)でも実証されています。某有名カップうどんでさえ関東風と関西風がありますから、今さら声高に言うことでもありませんが。

 といいながら、誠に恐縮ですが話を進める上で大きな疑問が行く手を阻むのです。その名は「都そば」です(現役店なので伏字にするのがルールですが、そうすると話にならないのでご都合主義で実名です)。関東ではなじみが薄いかもしれませんが、関西では40店舗以上を展開する一大立喰ソチェーンです。かつて関東にも各所にあったのですが、2018年現在残るはわすか3店舗という絶滅危惧ソです。こんな状態ですから、都そばは関西発祥なのかと思っていました。そしたらなんとまあ、真逆の関東発祥だったという驚愕の事実が師匠の聞き込みによって発掘されました(ためになる師匠のコラムはこちらでどうぞ)。

 関東で絶滅寸前なのに、ウ文化の関西で隆盛を誇る立喰ソとは、なんともすごい話です。立喰ソの七不思議のひとつ(あとの7つのうち、何個かは過去にでっち上げたような気もしますので、気になってしょうがないという方は、バックナンバーをひっくり返して探してください。見つかってもなんの役にも立たないということだけは永久保証付き)。



都そば


都そば
大阪界隈ではおなじみ都そば。関西なのにうどん表記が見当たらないのはすごいといえばすごいかも。(2017年12月撮影) 京成の駅のオフィシャル駅ソ的だった都そば。かつて千葉県の京成津田沼駅にあった都そばは、うどんの表記がありました。(2013年12月撮影)

 
 今回は都そばの話かといえば、さにあらず。関東圏ならば幻立喰ソになってしまった都そばがいくつかありますが、関西圏で幻立喰ソになってしまった都そばまでは、さすがにカバーできていません。それどころか40店以上ある都そばの所在地すら、情けないことに把握しておりません。関西方面の判明している一般店の立喰ソですら、まだ1/5も訪問できていませんし。


 星の数ほどある未訪問店のうち、関西遠征時に通過、乗り換え、下車することが多いのは、大阪環状線、近鉄大阪線と奈良線、地下鉄千日前線のクロスする鶴橋駅です。西口改札真正面にあったのが、西口うどんです。「あった」と過去形で、実名ですから残念ですがら幻立喰ソ(おいおい、都そばはどうする……)なのです。


 鶴橋といえば、大阪環状線の駅メロが「ヨーデル食べ放題」なくらいですから、超有名焼肉タウンです。昭和集ぷんぷんな鶴橋市場に商店街も賑わっております。ゆえに鶴橋駅で降りると、目の前の西口うどんをスルーしてしまいまして……それにいつも満員とはいかないまでも、そこそこ人が入っていましたから、「こんなに繁盛しているんだし、次でいいか」と目の前を何度も通りながらスルーしまくっていました。



西口うどん


西口うどん
夜ではありません。ガード下なので昼でもこんな感じの西口うどん。6年あまりでのれんの色は変わっていますが、他はほとんど変わっていません。(左2011年9月、右2017年2月撮影)

 
 先日、大阪に出向いたおり「今日こそは西口うどんを食べる!」と意気込んで改札を出ると、シャッターが降りているではありませんか。あれれ? たしか無休だったはずなんだけど臨時休業……かな。しかし、やはり例の貼り紙が……


当店は平成30年1月29日(月)の
営業をもちまして閉店いたしました。
45年の永きにわたり、ご愛顧を賜り
誠にありがとうございました。
平成30年1月30日
株式会社 鶴橋駅デパート


 毎度毎度、全く進歩のない繰り返しで大変に申し訳ないのですが、またまたやってしまいました。運がいいのか悪いのか。最近このように一足違いでアウトっ! が多いような気が……きっと、立喰ソ神のお導きということです。



西口うどん<br />


貼り紙
あれれれれ? シャッターが降りてます。(2018年2月撮影) 意気込んで訪問してみたら、例の貼り紙が……。(2018年2月撮影)

 
 鶴橋駅デパートというのが正式な名称だったのかどうかはさておき、調べてみたらかつては駅に直結したデパートがあったそうです。専用の改札口もあったそうです。そういえば鶴橋駅のブックオフには、駅直結の改札口があって不思議に思っていたのですが、デパート時代の名残だったんですね。へえ〜。
 ちなみに駅に直結というか駅ビルに内蔵されたステーションデパートは中小都市にたくさんありました。最近は耐震化工事などもあって、駅舎の建て替えがどんどん進んでいますし、駅自体ドーナッツ現象に取り残され閑古鳥が泣いている状態です。人がたくさん行き交う都市圏では、不動産会社化が進行する鉄道会社系が取り仕切る、駅ナカへと華麗なる変身を遂げていますから、駅デパートも絶滅危惧デです。



鶴橋駅


ステーションデパート
鶴橋駅にあるブックオフの改札口。初めてみたときはかなり驚きました。(2017年2月撮影) かつて主要地方都市の大きな駅には必ずといっていいほどあったステーションデパートも絶滅危惧デ。(2007年6月撮影)

 
 西口うどんは幻立喰ソになってしまいましたが、JRのホームにはJR西系列の麺家、近鉄の改札内には鶴橋庵、駅前の千日前通りには都そばがあります。だから鶴橋はまだまだ立喰ソパラダイスです。ですが、薄暗いガード下に「どどんっどんどんっ」と、重く響く103系やマルーンの近鉄電車(私鉄の車両形式はわからないです……すみません)のジョイント音と、ほんのりただようだしの香りとのれんの向こうから漏れる明るい照明。長年当たり前であった正統派昭和立喰ソ風景がまたひとつ消えてしまいました。未食のなのに、西口うどんの在りし日の姿は脳裏にしっかり焼き付いています。何度も目の前を通っていて、やっと食べに行ったら数日前に閉店。こんなに情けなく間抜けなパターンも、そうそうないかと思います。ただただ深く静かに後悔するのみであります。

●幻立喰NEWS2018 八甲田と津軽、東北急行二大役者のそろい踏み!

第87回でお送りいたしました青森駅に、新店舗が出来ていました。その名もそば処津軽。八甲田のちょうど反対側、駅を出て右すぐです。ということはですよ、青森駅に東北の名列車「八甲田」と「津軽」が揃いました。うひゃ〜! そんなことで喜ぶのは昭和鉄だけですが、新店開店はとてもうれしいじゃないですか。2017年7月15日の開店で、ソだけではなく、牧場直送のソフトクリーム(限定で持ち帰りのみ)もあります。土日も営業しているので、サラリーマンも訪問しやすいです。上野から急行八甲田なら約11時間、津軽だと14時間近くかかったのに、今では新幹線はやぶさに乗ればわずか4時間ちょっと、日帰りもできます。大井競馬で当てた1億5千万円の使い道に困っているので(正しくは、一度でいいから困ってみたいですが)、グランクラスでかけそばを食べに行きたいです。木曜定休ですからご注意を。



津軽


八甲田

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。やっと1000店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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