昨年11月にイタリア・ミラノで開催された世界最大のモーターサイクルショー、EICMAミラノショーで発表された「BMW G 310 GS」の市場投入準備が整った。それを告げるジャーナリスト向けの国際試乗会がスペイン・バルセロナで開催されたのだ。ここでは、そのリポートをお届けする。
■試乗・文:河野正士 ■写真:BMW Motorrad
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/FtnSZy3SGtQ |
「G 310 GS」は、先に日本上陸を果たしたBMWの小排気量ロードスター「G 310 R」のプラットフォームを流用している。エンジンはECUのマップや二次減速比を含めG 310 Rのまま。フレームやスイングアーム、フロントフォークをクランプする三つ叉周りのアライメントにも変更点はない。大きく異なるのは足周りとポジションだ。「G 310 GS」は、オフロードでの走破性を高めるためフロントに19インチホイールを採用。リアはRと同じ17インチながらタイヤハイトを変更している。また前後サスペンションは、KYB製に変更。サスペンションの外観はRと共通ながら、フロントフォークはリーディングアクスルタイプとなり、前後ともにサスペンショントラベルを180mmに伸ばしている。それにより車体姿勢が変化し、それにともないキャスターアングルやトレール、ホイールベースも変化している。
2016年のEICMAミラノショーで発表された「G 310 GS」。その兄弟モデルである「G 310 R」が6月に日本上陸を果たしたばかりだが、この「G 310 GS」は11月1日から日本での発売が開始される。 |
ポジション周りは、Rに比べやや広く、そして手前に引かれた新しい形状のバーハンドルを採用するほか、ステップ周りを変更。またシート位置を高めたことで、ロードスターモデルからアドベンチャーモデルに相応しいライディングポジションへと変更されている。それによりライダーの目線が高くなり&姿勢が起きたことで頭の位置も起き、よりリラックスしたポジションが実現している。
今回の試乗は街中0.5割、高速道路1割、オフロード0.5割、その他全部ワインディングというルート。ワインディングは道幅が狭く、ブラインドコーナーのほか切り返しが連続するコーナーを延々と走った。勾配もきつく、登りではシフトチェンジを繰り返し、レッドゾーンが始まる1万回転付近をキープしていないと、全開で飛ばす同グループのジャーナリストたちにあっという間に置いて行かれる。その上り坂が尾根を越えて下りに変わったときの状況は、皆さんも容易に想像がつくだろう。そんな状況で「G 310 GS」の懐の深さをじっくりと味わうことができた。レッドゾーン付近を常用した登りのワインディングでは、8000回転からレブリミッターが効く1万回転を少し越えるあたりまで、エンジンは非常に力強い。ライバルになるであろう250ccクラスには2気筒エンジンを搭載するモデルも有り、それに比べるとエンジンの伸びやかさでは劣るものの、パワー感はそのライバルたちと十分に渡り合えるだろう。
レッドゾーンまでエンジンをしっかりと回して走る、ロードスポーツ的な走行にも「G 310 GS」はしっかりと応えてくれる。 |
また下りのワインディングでは、フロントにより大きな荷重が掛かるブレーキング時や、進入で目測を誤りコーナー途中でさらなる減速やライン修正を必要とするときにも、不安を感じる場面が少なかった。これはバランスが取れたフレーム剛性とともに、「G 310 GS」用にセットアップされた前後サスペンションによるところが大きい。G 310 Rに比べフロントで40mm、リアで49mmもストローク量がUPしたサスペンションは、GSの名前に相応しい威風堂々としたスタイルとともに、快適な乗り心地とオフロード走行における走破性を高めるセットアップが施されている。オフロードに焦点を当てたロングストロークのサスペンションは、同時に加減速時の車体の前後動(上下動というべきか)が大きくなりがちだが、「G 310 GS」はそのバランスがじつに良かった。ワインディングでは加減速時に車体が大きく動くことなく、またわずかながら走ったオフロードでも(フラットダートだったが)、オンロードバイクのサスペンションのような底付感も少なく、ついついアクセルを開けたくなる。このあたりのさじ加減は、永年アドベンチャーカテゴリーを牽引してきたBMWならではと言ったところだ。
ワインディングにおける安定感の高さの要因は車体にもある。G 310シリーズは、一般的なバイクのエンジンとは異なり、前方吸気/後方排気/後傾シリンダーの単気筒エンジンを採用している。そのことでエンジンを車体前方に配置することができ、フロント荷重を稼ぎながらマスの集中化を図り、スイングアームを長く採ることができるのだ。「G 310 GS」はその特性を活かし、フロント48:リア52という理想に近い重量配分を実現している。「G 310 GS」をはじめとするシングルシリンダーモデルの開発プロジェクトリーダーを務めたユルゲン・シュトッフェルゲン氏は「フロント加重を増やしすぎないこと、またスイングアームを長く採り、リア周りの反応を穏やかにすることが快適な走りを産み、同時にバイク初心者にとってもフレンドリーなバイクになる」と語った。
筆者は身長170cm。同グループに身長185cmくらいのイタリア人ジャーナリストがいたのでポジションについて聞いてみたが、少し後ろに座ればそれほど窮屈ではないと語っていた。 |
BMWは2015年に、「G 310 GS」の兄弟モデルであるG 310 Rを発表した。約60年ぶりに排気量400cc以下の市販モデルとなるロードスポーツモデルであること、インドの二輪車メーカー/TVSモーターカンパニーで生産を行うこと、それによって低価格での販売が可能になることなどなど、BMWにとっては新しいことづくめのニューモデルであり、それは停滞する&高齢化が進む日本やヨーロッパを中心としたバイク先進国市場の活性化を狙う起爆剤になるとともに、東南アジアや中南米という新興市場でのシェア拡大を狙う次世代BMWのスタンダードモデルであった。
これはあくまでも想像の範囲を出ないが、2015年11月にG 310 R発表したのち2016年夏頃にG 310 Rを市場投入→2016年11月「G 310 GS」発表→2017年夏頃に「G 310 GS」を市場投入、というタイムスケジュールをBMWは予定していたのではないだろうか。でも車両開発と品質管理はドイツ本国で行ったものの、バイク大国とは言え文化も国民性も異なるインド企業とタッグを組み、BMWとしては初めてのインドでの生産ライン稼働には相当な苦労があったのではないか、と。その結果、G 310 Rの市場投入が大幅に遅れ、日本上陸は2017年6月からとなった、と。
しかし前述の開発プロジェクトリーダー/ユルゲン・シュトッフェルゲン氏は「TVSモーターカンパニーは以前、永年にわたり日本企業と協力関係にあり、品質管理システムを含むあらゆる生産体制が整っていた。その後BMWとの協力関係を構築したのだ。もちろん苦労したこともあったが、いまは問題ない。自信を持って、世界中のライダーに新しいBMWワールドを提供できると確信している」と述べた。
今回の試乗コースに組み込まれたオフロードのルートはごく僅かだったが、そこでの印象はなかなか良かった。試乗時の車両は、前後にメッツラー製タイヤ/ツアランスを装着していた。 |
この原稿を書く直前に、BMWが持つYouTubeオフィシャルチャンネルに、「G 310 GS」を題材にした動画がアップされた。それは”Everyday Adventures/エブリデイ・アドベンチャーズ”と題し、アドベンチャーライディングに必要な、簡単なライディングテクニックや荷物のパッキング方法などのアドバイスが動画で綴られている(字幕機能で日本語を選べば内容を十分理解できるので是非)。内容は極々初歩的なものだが、BMWはあらゆる手段を使いアドベンチャーなライディング(オフロードライディングではない)に出かけるきっかけを創造しているのだ。そしてライテクのアドバイス動画の最後に、インストラクターが言った言葉が、BMW関係者がみな口を揃えて呼んでいた”Baby GS”という愛称の「G 310 GS」をよく表現している。
世の中で舗装された道路の占める割合はほんの数%です。だからこそダートを快適に走行できるようになると新しい世界が開き、いままで見たことが無いような場所を冒険できるようになります。
新たに造り上げた小排気量カテゴリーでも、十八番のGSワールド/アドベンチャー・ワールドの展開を試みるBMW。今回の試乗では、その可能性を大いに高めたと言える。「G 310 GS」の日本での発売は11月1日から。希望小売価格は66万9900円だ。
(試乗・文:河野正士)
GSシリーズに踏襲される、躍動感溢れるボディラインが継承されている。またGSシリーズのアイコンでもある、前に長く伸びたフロントカウルも踏襲されている。G 310 Rから外装類は一新されているが、インナータンクは共通パーツとなる。 |
ライダーは身長170cm。車両は、シート高835mmの標準シートを装着している。両足のカカトが少し浮くくらいの足つきだ。 |
レーシングレッド。 | パールホワイトメタリック(7500円アップ)。 | コスミックブラック。 |
●BMW G 310 GS 主要諸元 ■全長×全幅:2,075×880mm、ホイールベース:1,420mm、シート高:835mm、車両重量:169.5kg■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC単気筒、総排気量:313cm3、ボア×ストローク:80×62.1mm、圧縮比:10.6、最高出力:25kw(34PS)/9,500rpm、最大トルク:28N・m/7,500rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:11L、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:チューブラーフレーム、キャスター角:63.3°、トレール:98mm、ブレーキ(前×後):φ300mm油圧式シングルディスク × φ240mm油圧式シングルディスク、懸架方式(前×後):φ41㎜倒立フォーク × キャストアルミダブルスイングアーム■メーカー希望小売価格:669,900円(消費税込) |