フルモデルチェンジしたHarley-Davidson新ソフテイルのBREAKOUTとLOW RIDERに乗ってきた。新型の予備知識を持っていなかったら、「おいおい、LOW RIDERはソフテイルじゃなくダイナだろ」と突っ込まれるかもしれない。でも間違いじゃない。ファンの間で大きな話題になっているように、コンベンショナルな2本ショックのダイナグライドフレームを使ったダイナファミリーはなくなり、ソフテイルと統合したのである。
■文/濱矢文夫 ■撮影/富樫秀明
■ハーレーダビッドソンジャパン http://www.harley-davidson.co.jp/
従来通りソフテイルという呼び名を使ってはいるけれど、新ソフテイルはフレーム、エンジン、足周りとすべてが替わっているので「ダイナがソフテイルに吸収された」というより、旧ソフテイルともまるで違うから、ソフテイルという名だが「まったく新しいものが誕生した」という表現がより正確だ。新ソフテイルは8機種。これは2011年から開発がスタートしたそうだ。3千人以上のライダーにHarley-Davidsonに何を求めているかとマーケットリサーチをして、それを反映したキャラクターの違う8機種が出来たという説明。ブランド的に自分たちのカッコイイスタイルを追求したプロダクトアウトなイメージを持っていたが、市場の声を重要視するマーケットインしているところが興味深い。
Harley-Davidson BREAKOUT
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
BREAKOUTはロー&ロングでフロントに大径、リアに太いタイヤを履いた、ドラッグスタイルのスタイリッシュなモデル。新しいLEDヘッドライトに、伸びやかなラインの新しいカタチをした燃料タンク、メーターはライザーの上に設けられた小さいデジタル画面だけ。クラシックな印象が小さくなり、かなりモダンなルックスになった。
665mmと低いシートに腰をおろして、低いバーハンドルに腕を伸ばし、フォワードコントロールのペグに足を伸ばしたライディングポジション。身長170cm、体重68kgで足が長いとは言えない私だと、ペダルまでがやや遠く感じるが、ブレーキやシフト操作はなんとか問題なくやれる。気持ち的には全体的にもう少し近いほうが嬉しいけれど、ハンドルフルロックで外側の腕が届かなくなることもないし問題はない。背筋を丸め、ちょいといかり肩にして頭を低くし、足を前に投げ出すように乗る姿とバイクの雰囲気がぴったり。停止時の足着きは良い。けれど足が短いからもっと前にあるベターな位置には出せず、真横に足が伸びる状態。気を抜くと右足はマフラー、左足はプライマリーケースの出っ張りにふくらはぎが触れてしまうので、やけどするようではなかったが停止すると常にちょっと熱い。
2018 BREAKOUTに積まれるミルウォーキーエイトエンジンは107cu.in.(1745cc)と114 cu.in(1867cc)の2種類があり、試乗したのは107cu.in.版。前のツインカム103Bと違い、シングルカムになり、排気バルブ付近にオイルを通し冷却する空油冷を採用している。
バランサーが入った新しいエンジンで走りだすと振動が低減したのがすぐに分かった。それと低速のトルクが厚くなったことが明確。開けていくと怒涛のトルクで蹴り出すように前に進む。感心したのはそれでいてスロットル操作に対するギクシャク感が気にならないこと。信号のある街中でノロノロ動く時にも神経質にならずにすんで、心に余裕が持てる。トルクフルで扱いやすい。この表現がぴったり。シフトチェンジした時の入り方も、今までより節度が増した。これぞ次世代のビッグツインと思わせる進化が普通に流していても感じられた。独特のテイストと、イージーさが両立している。
タコメーターはないので具体的な数値を認識できないが、そのままスロットルを開けて高回転域まで引っ張ると、スムーズに回りながらも、やや早めにパワーの伸び感がなくなり頭打ち状態になるので、引っ張るより早めにシフトアップして、とても美味しい低中速を楽しみながら走るのが気持ちいい。重量のある鉄球がとても滑らかに転がるようなフィーリングだ。
これまでのソフテイルは、2本のリアショックユニットをエンジン下、厳密にはミッションケース下に水平に配置していたが、今度のシャシーは、スイングアーム上部に配置。昔のRZなどヤマハ車にあったカンチレバータイプのモノクロスサスペンションと似たものになった。剛性を34%高め、15~20%の軽量化。ミルウォーキーエイトエンジンはリジッドマウントされて剛性メンバーとしての役割をなしている。
これに合わせるようにフロントフォークはリニアな減衰力を発揮する正立のデュアルベンディングバルブを採用(FAT BOBだけは違って倒立型フォーク)。リアショックユニットは長さが2種類あり、このBREAKOUTは短い方を使っている。長いのはよりスポーティーなFAT BOBと、HERITAGE CLASSICの2機種のみ。
フロントに21インチ、リアは240mmという太さで扁平率40という18インチタイヤを履いて、長いホイールベース。新ソフテイルのキャスター角は3種類あって、BREAKOUTは最も寝ている。ある意味で特殊なレイアウトだ。重心が低く、大きいフロントホイールがグッと倒れ込むように舵が入って、極太ロープロファイルのリアタイヤ特有のリーンさせるときの粘るようなハンドリング。新しいシャシーと、足周りの変化が分かりにくいのでは、と思いながら乗ったけれど、杞憂だった。白と黒のようにコントラストがつくほど変化しているわけではないが、快適性と操作性に違いが出ている。
スロットルを大きく開けドンっと加速して急停止した時に、より車体全体が塊になったようなかっちり感が出た。ブレーキ性能が向上しているのもあるが、タイヤグリップを把握しながら減速する時の感覚がダイレクトに伝わる。フロントフォークは、高速走行時だけでなく、低速走行時でも動きながら減衰がしっかり効いて(特に伸びが)、路面追従性がいい。これは安全に走れることだけでなく、快適性の向上にもつながっている。
BREAKOUTのリアショックは車体右側のダイヤルで遠隔調節可能。私の走り方や体重ではいちばん柔らかい方がフロントフォークの動きとのバランスが良く好みだった。今回試乗できたのは東京郊外の街中のみ。速度域が低いけれど、直進のスタビリティは問題なく安定していた。
速度を上げて小さく曲がると、一般的なバイクの感覚だと早めにペグが地面と接触するけれど、このロー&ロングのドラッグスタイルということを考慮すると充分なリーンアングルを持っているという感想。普通に乗って困るとは思わなかった。狭めの2車線幅で、スーッと大きめにハンドルが内側に倒れて、苦手そうなUターンがさっと出来てしまうのには驚いた。
フロントに21インチ、リアは240mmという太さで扁平率40という18インチタイヤを履く。 | ミルウォーキーエイトエンジンはリジッドマウントされて剛性メンバーとしての役割をなしている。 | 極太ロープロファイルのリアタイヤ特有のリーンさせるときの粘るようなハンドリング。 |
新しいLEDヘッドライト。 | メーターはライザーの上に設けられた小さいデジタル画面だけ。 | 伸びやかなラインの新しいカタチをした燃料タンク。 |
665mmと低いシートに腰をおろして、低いバーハンドルに腕を伸ばし、フォワードコントロールのペグに足を伸ばすライディングポジション。 | 2018 BREAKOUTに積まれるミルウォーキーエイトエンジンは107cu.in.(1745cc)と114 cu.in(1867cc)の2種類がある。 | リアショックは車体右側のダイヤルで遠隔調節可能(タンデムステップ上)。 |
Harley-Davidson LOW RIDER
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
BREAKOUTからLOW RIDERに乗り換えると、上着を1枚脱いだような気持ちになった。スロットルを開けて、タイヤが駆動して、サスペンションが沈み前に進む、車体を寝かせてコーナーリングする、ブレーキレバーを握ってノーズダイブする、こういう一連の動作がより普通のバイク感覚だ。Harley-Davidsonにこれまで乗ったことがない人でも違和感なく操作できるだろう。
ハンドルグリップ位置は近く、上半身は垂直に起きて楽だし、ミッドコントロールのペグは椅子に腰掛けるようで疲れにくい。フォワードコントロールより車体コントロールする時にステップを踏み込みやすいのもいい。フロント19インチ、リア16インチで太すぎないタイヤサイズ(細すぎでもないけれど)、重心がより高いのもあってフットワークが軽い。ただ軽いだけでなく、どの動作でも安定感もある。快適なロングツーリングから、ショートディスタンスの日常使いまで便利に使えそうな走りだ。
こうなると同じミルウォーキーエイト107エンジンなのに印象が変わってくるから面白い。1745ccで車両重量300kgというスペックを意識しないで乗れる万能感。ダイナグライドフレームだった頃より低速でのピッチングも小さく快適、かつ走りはレベルアップしている。熱狂的なダイナファンにしてみれば、違和感があるかもしれないが、バイクとしてはまっとうな進化であり、個人的には手放しで容認できる。
2モデルしか新しいソフテイルに乗れなかったけれど、より広い幅のライダーが違和感なく乗れるようになった。ひとつだけ、BREAKOUTとLOW RIDERに乗って気になった些細なことを上げると、ギアポジションがメーターに表示されるが、クラッチを握ると表示が消えること。信号で停止してクラッチを握っていたら現状で何速に入っているかを知ることができない。せっかく素晴らしく便利な機能だから、そこだけ改善してくれるとさらに嬉しい。ミルウォーキーエイト114エンジンに乗れなかったことは残念だったが、それは次回の楽しみに取っておこう。
(試乗・文:濱矢文夫)
軽量化に合わせてレーシングスペックイメージのカートリッジフォークを採用。 | Milwaukee-Eight 107エンジンで鋭いレスポンスとスムーズでピュアな鼓動感を提供。 | より軽量、そして強固なフレームを採用。ハードルックはそのまま。調整可能なリアのモノショックサス。 |
ヘッドライトからエキゾーストまで、クロームメッキ化。 | “クラシッククローム”をイメージ。 | ’70年代風グラフィックのタンク上にはデュアルゲージ。 |