■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗 ■協力:Honda http://www.honda.co.jp/motor/
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日本仕様のカラーバリエーション3台が並んでいるのを眺めている時から、これまでの250フルカウルスポーツとは明らかに違う存在感があった。発進加速、追い越し加速、最高速でクラスNO.1を追求したという走りの性能を味わう前に、まずこれに感心していた。デザインやカラーは個人の好みがあるので多くは言及しないけれど、エヴァンゲリオンっぽい配色のマットガンパウダーブラックメタリックと名付けられた、マットブラックに赤の差し色が入ったものと、他とは雰囲気が違うソードシルバー、そして車両価格が2万円ほど高いスーパースポーツらしさが強まったヴィクトリーレッド、個性的で凝った造形とディテールによるクラスレス感がある。それがライバルより際立つ。まだ2ストロークも沢山あった、’80年代を知っている人の中には、「昔は良かった」と言う人がいて、その意見を少なからず耳にすることもあるけれど、私には、こんなカッコイイ250に乗ることが出来る現代の方がいい。
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
外装などを外したストリップ状態のものも置いてあり、鋼管トラスフレームに積まれる新開発された水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンのコンパクトさに驚く。試乗前の技術説明時に公表されたLPLの人が描いた初期のアイデアスケッチには既にトラスフレームが描かれていた。その説明で、2気筒のCBRは、日本よりマーケットが大きいインドネシアからの「圧倒的な製品が欲しい」という要望がきっかけとなり誕生したとも聞いた。それもあって先にインドネシアで販売されているが、バイアスタイヤを履いたインドネシア仕様と違い、日本仕様はラジアルタイヤ(DUNLOP GPR-300)を履き、それに合わせてフロントフォークはバネレートを上げ減衰力を高め、リアサスペンションもセッティング変更を受けている。エンジンも最高出力はほぼ一緒ながら、ちょっと違う味付け。
ものすごくお尻を跳ね上げたスパルタンなスタイルに見えるけれど、跨ると想像したより良好な足つき。シート高790mmという数値よりも体感的には足が届く。人間が乗るところに大きなくびれを持ったスリムな車体と、前を細くしたシート形状が効いている。セパレートハンドルはトップブリッジ下にクランプしていながら、手前の絞りも適度でハンドルグリップ位置は遠くなく、手首や肘に負担がかからない。体の前傾は強すぎない適度なもの。ライディング中は、身長170cmライダーでヘソの位置より気持ち下側に手の位置がくる。ステップ位置はお尻の中心の下、後ろすぎず、上すぎず、窮屈なライディングポジションにはならない。ニーグリップがしやすいタンク形状で体とのフィット感は良好。いかついルックスとは裏腹に乗ってみると意外なほど優しい乗車姿勢だった。人と同じで見た目で判断してはいけないのである。個人的な小さい不満は、指が短いからグリップを掴んだままウインカースイッチを親指で操作しづらいこと。もう少し高い位置が嬉しい。長時間乗れば慣れそうだが、最初から違和感がないとは言いにくい。
気を使わず、極低回転でクラッチを繋いでもスルスルっと発進。1万4千回転からレッドゾーンという高回転型だが、低中速のトルクは過不足ない。開ければ開けるほどトルクが湧き出て、スポーツライディングするなら1万回転から1万3千回転までに入れておくと、間違いなくクラス最強と言えるパワーを味わえる。エンジンの振動はバランサーも入っていて上手くおさえられていながら、高回転になるほどビート感があって、排気の音も迫力が増し、NO.1を目指したのはだてじゃないと感じるほどちゃんと速い。このCBR250RRの特筆すべきところは多くあるけれど、その中でも重要なのは電子制御スロットルを導入したことだ。これにより、『Comfort』『Sport』『Sport+』という3段階のライディングモードを設けた。この3つは微妙な違いではなく明確に違う。
『Comfort』にすると、スロットルを素早く大きく開けても、エンジンの反応が穏やかで、高回転域になるまで待つくらい時間がかかる。『Sport+』はリニアに右手に反応して最もスポーティー。『Sport』はその中間といったところ。試乗をスタートしていきなりワインディングに持っていったから、ずっと『Sport+』モードのままが楽しすぎて、「他のモードは必要なの?」と思っていたけれど、一呼吸をおいて流すように走る時には『Sport+』だとスロットル操作による車体の動きが機敏すぎた。スロットルをオフにすれば走行中もモードが変更できるので、左の人差し指で『Comfort』に変更すると、スロットル操作に気を使わずにスルスルっと快適にクルージングができるじゃないか。このままストップ・アンド・ゴーがある街中に入ると、発進や加速でモタモタ。そこでちょうどいいのが『Sport』だった。最初は懐疑的に思っていたけれど、これはありだ。大きく特性が変わるので使い方に迷いも出ない。電子制御スロットルになったおかげはライディングモードだけでなく、出て来るパワーの角を取っているのがちゃんと実感できて、パワフルで速いけれど乗りやすさがあり、これが安全性にも繋がる。採用は正解だと思う。
車体、サスペンション、タイヤ、ブレーキからなるしっかり感が素晴らしく、良く効くブレーキを強くかけてもへこたれず、思うように制御できる。コーナー進入は軽快な身のこなしで、リーンしてからの自由度と安定感は高い。とくにフロントフォークはこのクラスでトップクラスのものだと感じた。リアサスペンションと合わせてノーズダイブが小さく、ダンピングが効いて路面に追従。常にタイヤが接地していることが伝わってきて、沈ませてからの旋回がとにかく気持ちいいのである。軽快なんだけど、軽快すぎないのも好きだ。トリッキーな動きがまったくない。これなら幅広い技量のライダーがスポーティーなコーナーリングを楽しめるだろう。走りのレベルが高い故に、贅沢な気持ちになって、もうちょっとリアショックのダンピング(特に伸び)を強くしたら私好みになるのに、なんて思ったくらい。
速さを含むスポーツ性能において、このCBR250RRは頭ひとつ抜け出た。メーカーの主張と前評判通りの走行性能だった。それは走る楽しさに直結しているけれど、オートバイの魅力はそれだけでないのが面白いところ。今や各社からいろんな機種が出ている。横並びではなく、価格の違いや個性がはっきりしてきた。どれが、どれより上とか下、良い悪いではなく、違う魅力を持っている並行した世界。ホンダの巻き返しを体感しながら、このカテゴリーが成熟してきたことの面白さを実感した。
(試乗:濱矢文夫)
硬質で塊感のある面構成で「力強さ」を、キレのあるエッジにより「速さ」を表現したというスタイリング。 | 液晶エリアを取り囲む枠を極力薄くデザインし、液晶部を大型化して視認性を向上させたフルデジタルメーターを採用。ラップタイマーやギアポジションインジケーターも採用。 | タンク後端からシート先端部を絞り込むことでニーグリップのしやすさと良好な足付き性を実現。 |
開発スタッフの皆さん。写真中央がCBR250RRの開発責任者、本田技術研究所二輪R&Dセンターの河合健児さん。 | 車体は新設計の鋼管トラス構造を採用。強さとしなやかさを併せ持つとともに、高出力のパワーユニットに対応。 | デュアルヘッドライトをLED化。常時点灯するテールランプはライトガイド構造によるライン発光を採用。制動時に点灯するストップランプはリフレクター構造による煌めきのある発光を表現。 |
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