──BEST BUY BIG BIKE──『ビッグバイクの奨め』DUCATI SCRAMBLER FLAT TRACK PRO

この仕事をしていると、久しぶりにバイク選びをするセンパイ、後輩や
次のバイクに悩む友人から、本当によく聞かれる。
「最近、おもしろいバイクってなーに?」
去年くらいから、僕はこう答えている。
それなら、スクランブラーだよ、って。
今のところ、僕のお勧めで3人、スクランブラーを買った。
これ、すごくない?
もうひとり、現在進行形で迷っているみたいで
幸い買った新オーナーからも、まだクレームは受けていない。

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ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。

 こういうバイクに乗ると、本当にいいバイク、楽しいバイクってなんだろうな、と考え込んでしまう。それがドゥカティ・スクランブラー“フラット・トラック・プロ”だ。新しいものは何もない、馬力だって大したことないし、驚くほど軽いわけでもない。けれど僕が今いちばん楽しいと思うモデルだ。そして今いちばん欲しい!(笑)
 車両のパッケージは、実に簡単なものだ。空冷800ccエンジンをシンプルなトレリスフレームに搭載し、オーソドックスな足周り、スタイリングパーツを組み合わせている。スクランブラーというコンセプトだって、そう目新しいものじゃないし、新しいびっくりどっきりメカニズムが搭載されているわけでもない。なのに実にイイ! それが実にイイ!
 エンジンを始動した瞬間、やっぱりコレはドゥカティだ、とわかる。おなじみのLツインで振動は少なく、ピックアップも鋭い。ドドドド、って必要以上にツインを主張してこない、これまで何度も好きになったことがある、あのドゥカティのLツインだ。
 ただし、重要なのはこのLツインが空冷だってこと。それも、性能を狙いすぎていないのがいい。性能を狙っていないっていうのは、つまり低回転から自然にトルクがあるってことで、常用スピードですごくアクセルのオンオフにツイてくる特性だからだ。だれも、スクランブラーで200km/h巡航しようとは考えないでしょう? こういうバイクは、100km/hまでヒュッと出る、これでいいのだ。もちろん、ホントはもっとスピード出ます。

 走り出しは、いかにも軽い。車両重量は186kg、これは同じような排気量でいうと、ヤマハMT-09に近いんだけれど、MTだって軽く感じるのに、スクランブラーはさらに軽い。これは重心位置やライディングポジションが効いているんです。ハンドルバーは高く感じるけれど、それはステアリングヘッドの位置が低いからそう思うんであって、決してやりすぎじゃない。幅広すぎに見えるけれど、この形に添ったグリップ位置が良いんです。ライディングポジションの写真を見てもらえばわかるように、ハンドルはそんなに大アップじゃない。少しも前傾ポジションじゃない、由緒正しいロードスポーツの位置だ。

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 クラッチをつなぐと、スーッと前に出る。800ccのLツインといえば、ちょっと考えたら結構な大排気量ツインなんだけれど、そんな「ドン!」ってイメージのトルクじゃない。けれど、そこからアクセルを開けていくと、とたんにタカタカタカタカ、ってダッシュする。意識してガバッと開けると、フワッとフロントが軽くなって、それでもサオ立ちになる怖さはなく、ダッシュする。これが気持ちいいんだ。その時のサウンドは歯切れよく、バラバラバラッって不整音が聞こえてくる。これは純正装着のテルミニョーニ製2本出しマフラーが効いているからで、1本出しのスクランブラー・アイコンやクラシックはこんな音、しないもの。
 街乗りをしていると、バーグラフのタコメーターが動いているのは4000rpm近辺。このへんのトルクがきれいに出ていて、使いやすい。使いやすいっていうのは、同じギアのまま引っ張っても、ひとつシフトアップやシフトダウンしてもいいってこと。ズボラに走ってもいいし、各ギアちゃんと引っ張ってもいい、ひとつ上のギアを選んで低回転で流してもいい。静かに走りたいね、ジェントルに。それが似合うバイクだなぁ。
 もちろん高回転まで回すと速い! ただ、速さの質が、たとえばパニガーレのような、目がついて行かないようなスッ飛んで行き方じゃなくて、ちゃんと人間の感覚に合う加速をする。これが空冷の良さだよね。燃費も、常識的な走り方をすれば20km/Lをクリアするし、こんなドゥカティ、なかなかないよ。モンスターよりもカジュアル、そういうポジショニングなんだと思う。

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 ハンドリングは、軽さをベースにして、きちんと接地感がある。それも、タイヤを地面に押し付けてるんじゃなくて、自然にグリップしてる。これは、車体づくりが上手いんだと思う。前後17インチのタイヤは、ピレリのMT60というオンオフパターンで、アスファルトでもちゃんとグリップしてる。動きは軽いわけじゃないけれど、車重が軽いから、結果的にハンドリングは軽い。安定感があって軽いのは、ライダーを選ばないバイクの特徴だよね。軽すぎるのはフラフラして危なっかしいし、重いのは乗っていてシンドい。このバランスがすごく上手い車体設定なんだと思う。
 タイヤのグリップは、もちろんロードタイヤのようにはいかないから、サイドグリップはそれなり。だって、誰もスクランブラーでフルバンクしようとは思わないでしょう?
 ちょっと気になったのは、フロントフォークの感触で、ちょっと路面のゴツゴツを拾っている感じがすること。これは、バネが固いのかな、出荷時よりもオイルの番手を柔らかめにしたり、油面を調整すれば改善するはずで、調整機構なんてなくたっていいのだ。実はこれ、400ccバージョンの「Sixty2」には正立フォークが使われていて、その感触が良かったから、なおさら800をちょっとゴツゴツに感じちゃうのかもしれない。ついでに言うとSixty2はリアタイヤが4.5インチリム幅の160/60サイズで、5.5インチリム幅180/55サイズの800よりさらに軽快だったりする。これは排気量が変わったからの変更なのかもしれないけれど、Sixty2のハンドリングもすごくいいんです。

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 スクランブラーっていうのは、もともとオフロードモデルを指す言葉で、60年代くらいまでは日本でもオフロードモデル=スクランブラーだった。それが転じて、今はオンオフ両用モデルみたいなイメージなのかな、だからアスファルトだけしか走れないわけじゃなくて、スクランブラーはフラットダートならまったく平気に入って行ける。これはツーリングに出かけて、目的地の駐輪場が砂利敷きだったり、ちょっとダートを走れば見晴らしのいい場所まで行けるのに……なんて時にすごく心強い。シート高も低くて足つきもいいから、ひょいひょい行けるんだよね。
 試しにダートも走ってみたけれど、デコボコ道をスタンディングで入っていくのはまったく平気で、そこからパッとアクセルを開けてみると、アララたいへん、リアタイヤが盛大に横むいちゃう(笑)。本格オフロードモデルじゃないから、このへんで。でも、このタイヤいいね、アスファルトでもダートでもそこそこ行けるもの。パニガーレはオン:オフが10:0、モンスターは9:1、スクランブラーは6:4、そんなイメージ。行動範囲がより広くなるね、このバイクは!
 
 取材用にスクランブラーをお借りして、編集部のガレージにしまっておいたり、自宅の駐輪スペースに停めておいたりしたけれど、借りている間、本当に出動回数が多かったバイクだった。コンビニ行こうかな、よしスクランブラーで行こう。郵便局と銀行にそろそろ行かなきゃだな、そうだスクランブラーでいま行こう。ご飯食べに行こうかな、おぉ、ちょっと遠くの店まで行ってみよう。友達に自慢したいし、嫁さん後ろに乗せたくなる、そんなバイク。スクラブラーと暮らしてた1週間ほど、楽しかったなぁ!
 最近、バイク乗ってますか? ガレージから出すの、おっくうになってない? または、自分のバイクに乗っていて、楽しい? または最近バイクに乗っていて、あんまりトキメかないな、昔みたいに楽しくないな、と思ったら、こういうバイクに乗ればいい。遠くまで行かなくたって、ワインディングを走らなくたって、バイクの楽しさはわかるからね!

<試乗・文:中村浩史>

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エンジンは他のスクランブラーシリーズと同じ、803ccの空冷2バルブLツイン。最高出力は72psと、数字的にはそう大きな数字ではないが、186kgの車両重量には十分すぎるパワー。意識してラフにアクセルを開けると、フロントがぽんぽん浮きます、これが楽しい。 スクランブラー・フルスロットルと同じ、テルミニョーニ製2本出しサイレンサーを装着。これが、適度にサウンドをバラつかせていて、いかにも気持ちがいい。他バージョンの右1本出しと比べてパワー感は大差ないが、この気分アゲアゲのサウンドの差は大きいかも。
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軽量な車体を強烈に止めるブレーキまわりは、φ330mmローター+ブレンボ製4ピストンキャリパー。フォークはKYB製倒立で、アルミ鋳造ホイールに、スクランブラー専用のトリムラインをあしらう。フロントフェンダーもショートタイプ、泥ハネは多いけど(笑)。 スクランブラー・フルスロットルやアイコンと同じホイールフェンダー+ナンバープレートを装着。タイヤはスクランブラー専用のピレリMT60RSで、これが多少のダートなら入って行けるし、アスファルトのグリップも必要十分。ブレーキは前後ともABSを標準装備。 プリロードのみ調節可能のリアショックは、左側にオフセットしてレイダウンされる。ゼッケンプレートはフラットトラックプロだけの装備で、もう少し大きくて不格好の方が競技車っぽかったかも。シートキーはこのゼッケンプレート裏、シート真下のあたりにある。
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この厚みあるシートによる乗り心地もスクランブラーシリーズのおおらかな魅力。フラットトラックプロは専用表皮で、タックロール入りの、ほぼシングルシート。タンデムスペースはやや狭い。シートはキーで取り外し式で、シート下にはUSBソケットが装着されている。車載工具はツールポーチに収納されていて、専用スペースに搭載されている。
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フューエルタンクは、サイドパネルなしの一体式で、カラーは初代スクランブラーにもあったレーシングイエロー×シルバーのツートーン。このスポーティなカラーもフラットトラックプロ人気の秘密だと思う。容量は13.5Lで、試乗時の平均燃費は約23km/Lでした。 スクランブラーシリーズ唯一のミニカウルは、必要最小限の大きさのスタイリングアイコン。ウインドプロテクションはゼロではないが、それ用のパーツではないことをお忘れなく。メーターはシリーズ共通にオフセットされ、ヘッドライトはLEDのリングライトつきだ。 液晶表示の丸一眼メーター。デジタルスピード表示、タコメーターは時計の3時あたりの位置から円周方向右回りに伸びるバーグラフで、時計の常時表示の下に、左ハンドルスイッチにある表示切替えスイッチによりオド&ツイントリップ、外気温などを表示する。
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アルミ削り出しのミラーボディとマスターシリンダーキャップ、さらに黒×黄色のハンドルグリップもスクランブラー・フラットトラックプロの専用パーツ。グリップにはライダーから見える側に「フラットトラックプロ」のロゴが入る、ちょっとしたおしゃれ。 クランクケースカバー後方のドライブスプロケットカバーも、フラットトラックプロ専用に、切削加工入りのアルミカバー。ステップも車名のイメージっぽくダートトラックタイプで、これがフラットソールのブーツやライディングシューズによく食いつくのだ。 リアフェンダーはクラシックやSIXTY2のようにシートエンドから伸びるタイプではなく、スイングアームエンドから伸びるホイールフェンダー。フロントのショートフェンダーと同じく泥ハネは多いが、気にしない、雰囲気雰囲気。テールランプはシートエンドに。
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●DUCATI SCRAMBLER FLAT TRUCK PRO 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,100-2,165×845×1,150mm、ホイールベース:1,445mm、シート高:770mm(オプションローシート)、装備重量:186kg、■エンジン種類:空冷4ストロークL型2気筒デスモドロミック2バルブ、総排気量:803cm3、ボア×ストローク:88×66mm、圧縮比:11、最高出力:54kW(72HP)/8,250rpm、最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/5,750rpm(日本仕様)、燃料供給装置:φ50㎜フューエルインジェクション、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:13.5L、クラッチ形式:APTC湿式多板、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:トレリスフレーム、キャスター:24°、トレール:112mm、ブレーキ(前×後)φ330mm油圧式ダブルディスク × φ245mm油圧式シングルディスク(ABS)、タイヤ(前×後):110/80R18 × 180/55R17、懸架方式(前×後):KYBφ41㎜倒立フォーク × プリロードアジャスタブルリアショック。
■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,354,000円。

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