Nine Lives

MBHCC E-1

第110回 第17戦マレーシアGP Nine Lives 


 悲運の人、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)がついに、今シーズン9人目の優勝者となった。開幕戦のカタールで2位表彰台を獲得した次のアルゼンチンGPでは、ゴール直前にチームメイトのイアンノーネにイン側からやっつけられて表彰台を逃し、気を取り直して臨んだ翌週のオースティンでもまたもやイン側からヒットされて転倒。仕切り直しのヨーロッパラウンド緒戦、ヘレスではウォーターポンプが破損、と、まさに<不幸のつかみ取り>状態でチャンピオン争いから早々に脱落した。
 しかもサマーブレイク明けのレッドブルリンクでは、久々のドゥカティ優勝という大きな話題をイアンノーネに持って行かれて自分は2位でゴール(このときはさすがに、非常に悔しかったようだ)。以後も肉体的にかなりのスタミナを要求されるデスモセディチを押さえつけるように乗りこなしがら、厳しいレースを戦ってきた彼の姿を見てきた人なら誰もが、今回の優勝を心から祝う気持ちになったのではないだろうか。
「良いレベルで戦えているけど、まだ充分じゃない。(ドゥカティに移籍してきた)四年前は非常に厳しかったけれども、今はそのときからだいぶ進歩を遂げた。何度も表彰台に上がっているし、そのことをとても誇りにも思う。ライダーとしても経験を重ねているので、それらが合わさって、今の自分たちに至っているのだと思う。でも、まだまだまだ良くできる余地がある」
 はい。さらに高みを目指し、今後も一意専心の姿勢でさらなる前進を続けてくれることを期待しております。 


#04

#04
あの3戦さえなければ、今ごろはランキング2位争いをしていたはず。

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 2位にはバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。序盤からガンガン攻めてトップ争いを繰り広げたが、終盤のドヴィツィオーゾとのバトルの際に1コーナー進入でオーバーランを喫してしまい、これで勝負が決した。とはいえ、この結果により20ポイントを加算して年間ランキング2位を確定させた。
「序盤は特に良いレースをできた。トップ集団でイアンノーネとの激しいバトルになった。何度かの抜きあいになった後、トップに立ってからは勝てると思った。路面の水量が減ってくるとタイヤへの負荷が大きくなり、特にフロントの右側が厳しくなった。少しミスをしてしまい、ドビのようなペースを維持できなかった。何度か転びそうになったけれども、2位で終われて良かった」
 とレースを振り返った。年間総合2位を確定させたことに関しては、こんなふうに話している。
「ランキング2位はとてもハッピー。決めることができる可能性があるなら、そこで決めるためにトライするべきだしね。もし、今日のレースでホルヘが2位だったら点数が詰まってバレンシアでの勝負になっていた。ホルヘはバレンシアでとても強いから、ここで決めることができてよかったよ」
 厳しい緊張関係の続くロレンソに対して、ファーストネームで呼んでいるところにも、年間2位を確定させた安堵がよくあらわれているようにも思うのだが、いかがでしょう。
 そのロレンソは3位でゴール。レースでは、トップ争いの集団から引き離されながらも、クラッチロー、マルケス、イアンノーネ、と続々と前が潰れたことで順位が繰り上がり、3位表彰台を獲得した。ラッキーな結果であることは正直に認めながらも、
「雨の中で3位で終えられたのは、自信の面でも良かった。最高の結果ではないけれども、良いリザルトになったと思う」
 と話した。今年のロレンソは、ウェットコンディションで厳しい戦いを強いられることが多く、難しいコンディションになった初日金曜午後のFP2では総合16番手。何が厳しかったのか彼に訊ねてみたところ、
「いやいや、全然悪くなかったし苦戦もしていないよ。ウェットでは、ドライみたいに非常によく走れた。でも、路面がどんどん乾いてくるので様子を見ているうちに、皆がどんどん順位を上げていった結果、この位置になっただけのことなんだ」
 とこちらをガン見しながらの返答がかえってきた。じっさい、ウェットセッションになった土曜のFP4と予選では非常に良い走りだったので、まあ確かにロレンソの言うとおりなのかな、と思っていると、決勝レースではトップグループから少しずつ離れていき、7周目にはトップと約3秒の差が開いていた。このようなコンディションでは、彼が好むようなフロントの作動性がやはり課題になっているのかもしれない。知らんけど。
 来シーズンは、ドゥカティに移籍したときに、あるいはミシュランの来年のタイヤ開発で、そのあたりの今の彼の課題がどんなふうに克服されていくのか、というところにも注目をしておきたい。 


#46

#99
三年連続ランキング2位。 うーん、マンダム。

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 彼らとトップ争いを途中まで続けていたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、12周目に転倒。その後レースに復帰して順位を回復し、11位でゴール。
「今日は、(前回の)フィリップアイランドとまったく違うミスをしてしまった。落ち着いて、シーズン中と同じようなレースをしようと心がけながら様子を見ていたけど、自分たちの問題は2本の長い直線の加速でかなり損をしてしまうことで、そこを埋め合わせるためにブレーキでかなり突っ込んでいた」
 と転倒に至る背景を説明。その結果、フロントタイヤが過熱して、転倒の要因になってしまったのだとか。ところで、今回のレースでマルケスはウェットレースにもかかわらず、カーボンブレーキディスクでレースに臨み、皆を驚かせた。スチールではなく、あえてカーボンディスクで決勝に臨んだことが転倒に関係していたのかどうか。そこはやはり気になるところなのでストレートに訊いてみた。すると
「いや、それは関係ないよ」
 と言下に否定。
「転んだのは(旋回からスロットルの)開け口でフロントが切れてしまったから。カーボンディスクはレース序盤に気をつけていたけど、後半に水量が減ってくると、だいぶよくなってきた」
 とのこと。また、転倒しなければ2位を狙えていただろう、とも話した。
「ドビは速かったし、バレンティーノも攻めていたけど、2位か3位の表彰台は狙えたと思う。転倒しちゃったけどね。でもまあ、すでにチャンピオンを決めているので深刻ではないよ」
 さらにそのドヴィツィオーゾの優勝について感想を問われると
「勝つにふさわしい走りだったし、彼はドゥカティにとってとても重要なライダーだと思う。どのプレスカンファレンスだったか覚えてないけど、『次の優勝者は?』と訊かれて皆がドビと答えていたよね。次のバレンシアは、エスパルガロかな? アレイシもポルも、どっちもありえるだろうね。勝つといいよね」
 と、そこまで言ってから
「ちがうちがう、勝つのは僕なんだってば」
 と慌てて付け足して、周囲を笑わせた。 


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 さて、そのアレイシ・エスパルガロ(チーム・スズキ・エクスター)だが、じつは彼もウェット路面でカーボンブレーキを装着して走行している。彼が試したのは土曜午後の走行だったのだが、その際の使用感を訊ねると、以下のように説明をした。
「そもそもフィーリングがスチールよりも良いし、進入で深く突っ込める。さらにスチールだとブレーキ入力時に振動も大きくなってしまう。だから、土曜の比較的雨量の少ないときに試してみた。そのときは良い感じで走れたけれども、決勝レースではけっこうな雨が降っていたし、(雨の影響でカーボンディスクが作動せず)止まれなくなって誰かに当たってしまうといけないので、使わなかった」 


#93

#41
レースを楽しむ余裕のあるチャンピオン。 最終戦で表彰台獲得なるか。

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 今回のレースでは、負傷欠場中のダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)の代役としてテストライダーの青山博一が参戦した。第15戦のもてぎでは、ペドロサの負傷をうけて急遽土曜からの慌ただしい走行になったが、今回はあらかじめかなりの割合で代役参戦するであろうことを知らされていたので、気持ちの面でも準備をできた、とレース前に話した。
「ウィンターテストのときとはタイヤのキャラクターが変わっているので、テストのときのように走り出せるかどうかはわからないけれども、トップテンを目指し、最低限でもポイントを獲りたい」
 と目標を述べた。その際に、現役選手とテストライダーの精神面の差について話したことも、非常に興味深かった。
「このあいだもてぎで急遽、レースに出るようにと言われて本来のパフォーマンスを出せなかったときに……なんだろう、『レースに出ていないことって影響するのかな』と思いました。針の穴を通すようなギリギリの精神状態でいつも走っていたところから、わずか一年少々ブランクがあるだけで、こんなにも変わるのか、と。それだけずっと、いつもギリギリの精神状態で戦っていた、ということなんですよね」
 結果は惜しくも16位。狙っていたポイント獲得とはならなかったが、テストライダーとして実戦に参戦した今回の成果は、来年の開発に大いに役立つことだろう。
 さて、次戦はいよいよ最終戦。現陣営で最後のレースを迎える選手も多く、さまざまなドラマが待っているでありましょう。では、バレンシアで。


#7

#7
35歳になりました。

#99

#99
この来場者数は(→)。 (←)KIP効果の影響大。

#Phillip Island

#Phillip Island
また来年。 マレーシアライダー揃い踏み。

 



■2016年 第17戦 マレーシアGP セパンサーキット

9月25日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


2 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


3 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


5 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


6 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


7 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


8 #43 Jack MILLER Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


9 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


10 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


11 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


12 #50 Eugene LAVERTY Pull & Bear Aspar Team DUCATI


13 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


14 #38 Bradley SMITHl Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


15 #45 Scott REDDING OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


16 #7 Hiroshi AOYAMA Repsol Honda Team HONDA


17 #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


18 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


Not Classified #29 Andrea IANNONE Ducati Team DUCATI


Not Classified #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


Not Classified #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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