ステキな「大人の習いごと」、トスカーナで冒険バイクを嗜む。

YAMAHA

ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス、略してDRE。これはドゥカティが展開する公式ライディングアカデミーの名称だ。これまでストリート編、サーキット編で充実のコンテンツを展開してきた彼らが、2016年、ムルティストラーダ1200エンデューロを発売したのに合わせ、アドベンチャーバイクをダートで走らせるのに必要なカリキュラムを新たに加えた。その名もDREエンデューロ。さっそく開催されるドゥカティのお膝元、イタリア、トスカーナに飛び、DREエンデューロを体験してきたのである。

●レポートー松井 勉
●取材協力ードゥカティジャパン http://www.ducati.co.jp
●ウエア協力ーSPIDI: http://www.motorimoda.com/onlineshop/lineup.do?maker=SPIDI

 ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス(以下DRE)のWEBを見るとこうある。
「情熱のアカデミー。DREはあなたを主役として、もっとライディングを楽しむ。あなたの経験に合わせその夢を叶えます。
 最高のトラック(最高のトラックとは、WEBを見る限りグランプリコースサーキットだ。)、最高のインストラクターを用意し、バイクや高機能なライディングギアも用意して。」
 自車での参加はもちろん、スクールが用意するバイクを使うのでもアレンジしますよ、というのだ。そして初級、中級のストリートライディング向けはもちろん、サーキットでもビギナー、中級、上級、そしてワークスライダーや世界チャンピオンの経験者を講師に迎えた超上級コースまである。受講者のレベルや嗜好、ドゥカティが発売するプロダクトのキャラクターに合わせたプログラムが準備されているのだ。

 レベルアップとともに受講料も高くなるが、コース占有や、限られた人数で行うこと、ゲストインストラクターなど、それらエンターテインメント性を考えたら決して高くない。

 そしてDREエンデューロ(http://dreenduro.ducati.it/en/)だ。こちらのテーマは、舗装路だけで世界を回るのに満足ですか? オフロードに踏み出してみませんか? 的に誘う。そう、ムルティストラーダ1200エンデューロが目指したオフロードでの走破性を体験、会得し、何処でもこのバイクで出かける準備をして下さい、というもの。

 講習は2日間(実質は1.5日)、その受講料は680ユーロ。これには保険と宿泊費は含まれない。宿泊場所は近所のホテルを予算に合わせてリコメンドしてくれる。この価格、現段階の為替だと8万円弱。1日半のカリキュラムとしては高い、と感じるかもしれない。この価格にムルティストラーダ1200エンデューロのレンタル(国内でドゥカティ・ムルティストラーダ1200エンデューロを2日間レンタルすると45,000円程度する)と、講習料、講習中に待機する救急車やドクターなどメディカルアシスタンス、そして講習中の2回のランチと1回のディナーも含まれる。 
 ウエアなどのライディングギアのレンタルも受け付けてくれるから、事前に予約をすれば手ぶらで参加も可能だろう。

 そして何より、会場が素晴らしかった。トスカーナの丘陵に立つニッポツァーノという古城を基地として行われるアカデミー、丘を見下ろすこの城は古い部分では築1000年を越すという。名所でもあり、トスカーナを訪れた海外の要人も観光に立ち寄るという。周囲の風景がとにかく美しい。
 この古城で戴くランチやディナーは、それだけで特別な体験となる。アカデミーのあと、ワイナリーでもあるニッポツァーノのセラーを巡るガイドツアーもプログラムに入っている。
 嬉しいのは、参加者の同行者も140ユーロでランチ2回、ディナー1回を共有できるオプションプランがあること。つまり、恋人、夫婦、友人とも参加が可能(ディナーのみならば60ユーロだ)。

 ニッポツァーノでのランチ、ディナーをするだけで「これは最高の海外ツーリングではないか」と頭をよぎった。これで上質な思い出とウデの上達という二つを得られると思えば、DREエンデューロの巧妙なホスピタリティーにジワジワ満たされる自分がいた。その体験してきたカリキュラムをここに紹介していこう。



ニッポツァーノ城
成田からパリ経由でフィレンツェ、フローレンス・ペレトーラ空港へ。フィレンツェの市街地を横切り、東へおよそ50キロ。トスカーナの丘陵地帯にニッポツァーノ城はあった。ワイナリーでもある古城の周りはブドウ畑やオリーブ畑が。風景の美し過ぎて目はハートに。


カラーがそれぞれ用意


車体はノーマル
車寄せへと進み、玉砂利を踏むタイヤがその音を奏で終えた時、目に入るのがこの凜と並んだムルティストラーダ1200 エンデューロ軍団。これまた美し過ぎる・・・・・!


カラーがそれぞれ用意


車体はノーマル
このモデルにあるカラーがそれぞれ用意されている。純正のパッケージオプションから、エンデューロパックを選び、クラッシュバーを装備する。スクリーンはロープロファイルのものに交換されている。 車体はノーマル。タイヤはピレリと共同開発したピレリ・スコーピオン・ラリーを履いていた。オンオフ共に旅するツアラーであるムルティストラーダ。そのキャラクターをオフロードによせたエンデューロだけに、このタイヤがとても似合う。エア圧もしっかり管理されていた。


古城入り口で受け付け


城内に入る
古城入り口で受け付け。名前、運転免許証などを確認する。 城内に入る。1時間の座学が行われる会場。生徒の椅子はDREエンデューロのスポンサーでもあるスポーツ用品メーカーからのバランスボール。


座学の部屋から見下ろして


細部に神が宿る
座学の部屋から見下ろしてもステキな風景とバイク。VWのトラックはオフィシャルカー。隅々までカッコ良い、それがイタリア流だ。このピックアップ、日本でも売らないかな。このVW、南米ではよく見かけました。 細部に神が宿る、を実践する・・・・。


講師が使うと思われるシゴキ棒


主任講師、ベッペ・グアリーニ先生

主任講師、ベッペ・グアリーニ先生
そして講師が使うと思われるシゴキ棒と、ロープで腰に結び、グランドを走るためのタイヤ、か・・・・・・ ではなくDREエンデューロの主任講師、ベッペ・グアリーニ先生がハンドルの持ち方、ライディングポジションの取り方など、基本を語りながらその大切さを説くためのハンドルバー。あえて木の棒。プロジェクター投影画面を指すのにも活用。座学ではオフロード走行の基本的な事が語られる。


講座が1時間続く


居眠りする人ゼロ
その他、ムルティストラーダ1200エンデューロに関するレクチャーや、カジバ時代を含むオフロードへのドゥカティの取り組みの歴史、数多くのライディングティップの講座が1時間続く。実はこの間、生徒達はバランスボールでじんわり体幹がいじめられている。 なので、居眠りする人ゼロです。みんな真剣。というか、眠れません、ボールの上だと。


参加者全員でランチタイム


参加者全員でランチタイム


ランチは1時間程度
大きなテーブルをかこみ参加者全員でランチタイム。トスカーナ風の料理。サラダ、パスタ、ラザニア風のもの、香草焼きされた鶏肉、デザート、コーヒー・・・・、どれも美味しい。 ランチは1時間程度、たっぷりと時間をとった食事がイタリア流。となりの部屋に用意された料理を自ら皿にとってくるスタイルだ。


隣にあるラウンジ


隣にあるラウンジ


隣にあるラウンジ
その部屋の隣にあるラウンジ。壁の絵画、調度品など、素晴らしい・・・・。国賓級ゲストがニッポツァーノを訪れた歴史が写真で飾られていた。


いよいよバイクの元へ


いよいよバイクの元へ


いよいよバイクの元へ
ランチ後、ライディングウエアに着替え、いよいよバイクの元へ。まずはフィジカルトレーナー氏に従ってストレッチング(走行前と走行後も行った)。鳥の鳴き声、そよぐ風、軽く出る汗。走行を前に期待と興奮が入り交じる。


16名の参加者を2グループに分ける


今回の講師
16名の参加者を2グループに分ける。そのグループのリーダーについて、最後まで同じグループで走るよう指示される。座学もトレーニング中のブリーフィングも基本的に英語で進められる。 ベッペはじめ、今回の講師はこの面々。


出発
さあ、出発だ!


城の回りはこんな風景が広がる


舗装路をゆっくり
古城の回りはこんな風景が広がる。ああ、こんな風景を楽しめるとは、いわゆるライテク道場的なイメージはすっかり消え、良質なツーリングを楽しんでいる自分がいた。 舗装路をゆっくりと移動しながらも、スラローム、体重移動の予行演習開開始。


トレーニングの最初はスラローム


トレーニングの最初はスラローム
トレーニングの最初はスラローム。ブドウ畑の中を行く砂利道に置かれたパイロンを使い、スタンディングポジションで左右に切り返し、バイクをコントロールする。バイクを寝かす、切り返す。この一連に重みを感じるようであれば、体重移動が足りない証拠。いわゆるリーンアウトなのだが、ガソリン満タンで260キロを越えるアドベンチャーバイクを体力ではなく、自分の体重とバイクの重さをバランスさせる事で、軽く扱う練習なのだ。念入りに行った。


私もみっちり繰り返しました


最初の頃
私もみっちり繰り返しました。思いの外パイロンの間隔は狭く、頭で考えすぎると曲がりきれません。経験者も軽く追い込む(いえ、楽しめる)設定です。 最初の頃、なんとなくポージングに専念しすぎて旋回を引き出せていない自分(汗)。


本人はがっちり掴みました


本人はがっちり掴みました
寝かす、前輪が切れる、曲がる、バイクの旋回方向に寝よう、倒れようとするモーメントと自分の体重をバランスさせる。旋回性を引き出すためハンドルバーから力を抜きつつ、バイクを起こすのにアクセルを開ける・・・・。この循環がジャリ道パイロン攻略の秘密だった。え、変わらない? 本人はがっちり掴みました、そのコツを。


トスカーナ


適宜休息
風景は何処を見ても最高。トスカーナ、美しい。 その中、DREエンデューロで低速旋回バランスをたたき込まれつつ、適宜休息を取る。僕が受講したクラスは各国から集まった体験取材のジャーナリスト達。腕自慢も多いが、なるほど得るモノが多い。


東屋の下


次なるトレーニング
東屋の下で感覚と操作にまだズレのようなものがあるよ、とベッペ先生が説いて回る。バイクを寝かし、体でバランスを取る。ハンドルを切って曲がろうとしてはダメ。とたんにバイクが言うことを聞かなくなるだろ。寝かして前輪の向きを変えるんだ、と。 次なるトレーニングは減速。後輪ブレーキを思い切り踏み、ロックさせる。その時、バイクを直立させて乗っていないと後輪が左右にスライドを始めてしまう。腰を引き、バイクを直立させる事に集中せよ、と先生。


直線で加速


日本で言えば林道のようなルート
直線で加速、一機にブレーキング、腰を引きすぎると、ブレーキペダルをギュっと踏めない。その臨界点を自分で探してベストを探る。ムルティストラーダ1200エンデューロのリアブレーキペダルは踏面の高さが変えられる。こんな場面で使い勝手抜群。オフロードバイクだ、これ。反復練習、いまさらながら大切です。 日本で言えば林道のようなルートが古城周辺には多くあるようで、人家のある集落から奥に入ると森の中へと道が吸い込まれ、山を巡るルートは特上のファンライドだった。


楽しませた者、楽しんだ者勝ち


楽しませた者、楽しんだ者勝ち
ホテルでシャワーを浴び、さっぱりしてから再びクルマで古城へ。夜9時から始まったディナーはランチと同じダイニングで。夕食は全てサーブされる。ティピカルなトスカーナの食事のフルコース。どれも美味しかった。本文でも触れたが受講する同行者は140ユーロでランチ、ディナー、古城のガイドツアーに参加できる。夕食だけなら60ユーロだ。


河野正士さん


DAY2
楽しい初日を振り返り、仕事忘れてます、この顔。左は一緒に参加した河野正士さん。 DAY2。愛知の友人、太郎さんが「そのインストラクター、僕の知り合いです」とメッセージがあり、急遽、写メ撮影中、それを撮影されました。


昨日と同じバイクに乗るように
昨日と同じバイクに乗るように。クラッチやアクセルのフィーリングが同じものを使うことで、バイクと自分のコンビを崩さず2日目の講習を受けられるように、という配慮からだ。


トスカーナの丘に造られたトレーニングコース


まずは丸太波状路
トスカーナの丘に造られたトレーニングコース。丘陵を使うため、旋回中に路面の傾き(カント)が変わるという仕掛け付き。。オモシロイのは、ゆっくり走ると意外と走れて、ペースを上げるとどんどん難しさが顔を出すという見た目とは裏腹にチョイ悪な設定だ。 初日はスラローム、ブレーキングのトレーニング後、林道ファンライドに出た。雨でグラストラックの練習コースが滑りやすかったからだ。2日目、丘陵の牧草地の中に造られたコースでまずは丸太波状路。走破する事は簡単だが、膝、腕、ライディングポジションでこのギャップから来る衝撃を緩和する事を学ぶ。腕、肩、膝に力が入ると、ライダーが揺れる。揺れないよう、スムーズに吸収しバイクを走らせる、という基本の見直し練習。


丸太コースB


次は一本橋
丸太コースB。こちらではあえてホイールベースがすっぽりはまる間隔で丸太が間引かれた設定。スピードは抑えて通過せよ、推進力を殺さず、クラッチでエンジンがぐずるのも抑える・・・。距離は短いがこれも考えすぎると体と操作がちぐはぐに動く。典型的な基礎練習にスパイスを利かせただけで手応えと攻略欲がムクムク出てくる設定だ。 次は一本橋。落ちたら戻ろうとするな、戻ろうとすると転ぶぞ、とベッペ先生。見て下さいこの幅。教習所の一本橋がレインボーブリッジに思えるほど狭い。基本を忘れて下を見てしまうと、2秒後には橋から落ちます。先を見て、ステップへの左右の荷重バランスでバイクの直進を保つ。肩、腕に力が入ってもバイクは簡単に進行方向が乱れる・・・・。基本の見直し練習。慣れるとこれ、行けます。


グラストラックの周回コースへ


そして5周目以降
そしてグラストラックの周回コースへ。まず、楽しいです。こんな場所を走れるなんて! 1周目、全周低速でゆっくり走りなさい、2周目、カーブはゆっくり、直線で少しアクセルを開けなさい、3周目、直線では2周目よりアクセルを開け加速し、しっかりとブレーキで減速してカーブに入りなさい、4周目、ブレーキをもっと掛けるように直線スピードをマネージメントしなさい、と段階を追って走るように指示された。 そして5周目以降、下りではトライアルのように止まったり動いたりをしながらバランスを取りつつ、走りなさい。このグラストラックの風景の中、この大型アドベンチャーバイクで楽しんで走る。低速バランスを会得するとこの大型アドベンチャーバイクもすでに友達だ。


シーソー


シーソー


シーソー
そしてシーソーも。シーソーの中心まで意外と急な上り、そこを越えると板は地面に向けて動き、下りに。板がゆったりと動くようバイクをコントロールする。上りでエンストしたら、クラッチを離し、両足を着いて板の上で転ばないよう安定を保ちなさい、と先生。全長がさほど無いので、最初はびびったが、一度出来ると何度もやりたい不思議なトレーニング。


横から見ると


そして5周目以降
横から見るとこの角度ですから・・・・ 救護システムの確立もしっかりしている。ファンライドに出た時は、先回りしてドクターカーがちゃんと待っている。ランドローバーと普通の救急車2台が常に待機していた。


の丘陵を最新のムルティストラーダ1200エンデューロでトレーニングをしながら走れるなんて


の丘陵を最新のムルティストラーダ1200エンデューロでトレーニングをしながら走れるなんて
この丘陵を最新のムルティストラーダ1200エンデューロでトレーニングをしながら走れるなんて。ドゥカティは新たにこのセグメントに深くコンタクトをしてきた。ただプロダクトを出すだけではなく、デビュー初年度、発売から数ヶ月後にこうしたアクションを起こすのは、どれだけ本気かの証左。2016年のDREエンデューロはすでに終了した。2017年のスケジュールはまだ出ていないが、イタリアだけではなく、スペインなど需要がある場所で行いたい、とベッペ・グアリーニさんは語っていた。


2日目は昼で終了
とにかく楽しい。2日目は昼で終了。あっという間の2日間だった。内容の濃さ、ライディングフィールドの美しさ、そしてDREエンデューロというパッケージの良さを含め、海外ツーリングの気分でこのアカデミーに参加する、というのもいいのではないか。2日間だから弾丸でも、と言いたい所だが、時差ぼけに強い方以外、前日程に余裕をもって出かける事をオススメします。


古城巡り


古城巡り


古城巡り


古城巡り


古城巡り


古城巡り
 DREエンデューロは週末を使い、金土日の3日間で2ローテーションで行われていた。その入れ替えのタイミングで行われた古城巡り。お城の深部にあるセラーは真夏でも室温が16〜17度程度に保たれるとか。樽が並ぶ大きなセラーはちょっとカビ臭くもあり、それでも樽から滲みだすワインの香りが混ざり歴史ある空間に心が泳ぎだす。一緒に巡ったのは僕達の後のグループのライダーと共にきた奥様、ガールフレンドのみなさん。愛犬も一緒にこのツアーを回っていた。
 この城主の家族に子どもが生まれると、その人の人生の場面場面で必要になるお祝い用の宴用ワイン500本をキープするのが慣わしだったとか。セラーのラックに瓶詰めワインがあった。生まれた年の前に仕込んだワインだそうだ。城の一番古いのが写真にある塔だという。10世紀前の建物。京都と鎌倉と軽井沢があわさったような場所、と書きながらそれも違うトスカーナ。ここは奥深い。こんな場所でバイクのスクールイベントが行われること、ホスピタリティーは本当に羨ましい。やるな、ドゥカティ。バイク、クルマの名産地、我が国も、ガンバレ、ニッポン!

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