24時間も走るのに、事前の走行は、驚くほど短く、火曜日のフリー走行があり、木曜日と金曜日の予選は、各ライダー20分しか走る機会はなく、短時間でコースの特徴を掴み、マシンセッティングを導き出さなければなりません。おまけに金曜日は雨が降りました。最終グリッドは木曜日のタイムで決まり、予選1番手はGMT94。2番手にはSuzuki Endurance Racing Team(SERT)。3番手SRC Kawasaki。4番手にTSRが食い込みます。5番手はHonda Endurance Racing Team、6番手にはYART Yamaha Official Team。7番手にTRICK STAR。EWCで15回ものタイトルを獲得しているSERTのドミニク・メイアン監督(70)は「トップ10にいるチームには優勝の可能性がある」と語りました。またクリストフ監督は「鈴鹿8耐には鈴鹿8耐の、24時間には24時間の難しさがある」と……。
決勝日には青空が広がり少しだけ秋の風を感じますが、強い陽差しを浴びてライダーたちはグリッドに付きます。急遽参戦の決まったTSRの伊藤真一は2年ぶりのレース、それも24時間という無謀とも言える挑戦です。ロードレースの最高峰世界選手権(WGP)で活躍していた伊藤はレジェンドライダーで世界チャンピオンのバンサン・フィリップが挨拶に訪れました。欧州ではレース人気は高く伊藤の活躍を覚えている人がたくさんいるのです。TRICK STARの井筒もワールドスーパーバイク選手権(WSB)で活躍しており、ふたりを知るファンが多くいます。また参戦ライダーもWGPやWSB経験者が多数いて、ライダーのレベルはとても高い。そして耐久スペシャリストと呼ばれる強者たちが顔を揃えています。
決勝のスタートは15:00。スタートからトップに立ったSERTは、夕暮れから暗闇が訪れ、3度もペースカーが入り、20℃から12℃と冷え込んだ夜間走行でも、朝焼けの眩しい陽射しの中でも、一度も首位を明け渡すことなく687周を走り圧巻の開幕勝利を飾ります。678周を走ったSRCはSERTに負けない俊足を誇りますが2度のアクシデントで後退、その度に迅速なマシン修復を行い、追い上げ順位を挽回、これぞ耐久という走りを貫いて2位を獲得します。
TRICK STAR はスタートライダーを務めたエルワンがトップ争いを繰り広げ3番手で出口にバトンを繋ぎ、井筒へと交代、そのローテーションを繰り返し走り続けます。ポジションは4番手に後退から2番手に浮上、3番手キープと変動しましたが、それはライバルたちの動向によるものでTRICK STARは、常に一定のペースを守りました。オイル漏れのトラブルがあり、ピットでは、その処理で他チームよりもピットストップ時間が長くなってしまいますが、それを、確実な作業とライダーの頑張りで補って行きました。スタッフは不眠不休の作業をこなし、乱れることのないピットワークを繰り返すのです。エルワンは耐久ライダーの貫禄を示しチームを根底から支えました。出口は走る毎にタイムアップ、本来の力を示します。井筒は走りだけでなく、鶴田監督のサポートもこなし、ライダーをまとめ上げました。鶴田監督は全ての動きに目を配り指示を出し続けました。そして676周を走り3位を獲得するのです。
決勝日の夕焼け、ミストラルストレートは長く、起伏があります。
TSRの伊藤は、左目を痛め、右目だけを頼りに走行を重ね、その無理がたたり、夜間走行時に身体が動かなくなり渡辺が連続走行しました。しかし交代はその1度だけで、49歳は走り切りました。TSRもトラブルがあり、それを修復するためにピットストップが長くなることがありましたが、ダメージを最小限に留め、674周を走り5位でチェッカーを受けました。藤井監督は「走り切れた充実感は大きい。5位はいいスタート」だと語りました。GMT94はアクシデントから追い上げ9位となります。Honda Endurance Racing Team、YART Yamaha Official Teamは上位に顔を出しますが、転倒やトラブルなどでリタイヤとなりました。55台がスタートし、22台がリタイヤの激しく厳しい戦いでした。