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ライダーの身長は186cm。写真の上でクリックすると両足時の足着き性が見られます。 |
雨かよ。と、最初はみんな思うことだろう。この文を読む人も、動画を見る人も、そして試乗した自分も思った。好き好んで雨の中走る人はそうそういないだろうし、ましてやサーキットを走る人はさらに少ないはずだ。楽しめる要素よりもリスクの方が高い、と判断するライダーがほとんどかと思う。これがスーパースポーツモデルの試乗であったならば、潔く諦めてツナギに腕を通さなかったかもしれない。
しかし今日の試乗は特にヨーロッパで高い評価を得続けてきたミドルVツイン、SV650である。元となったグラディウス650に対してよりパワフルな高回転型エンジンへと進化したそうだが、それでもあの素性の良さは健在のハズだ。ならばこんな極悪コンディションでもとりあえず走ってみようか、なんてもったいぶるような立場にはなくどっちにしても走るわけなのだが。
正直言えば、やはり嫌々である。しかし実車にまたがると、不安が一段階和らいだ。足つきがとても良く、スリムなタンクやナチュラルなハンドル位置により250ccと間違えそうなほどコンパクトでありそれが自信につながる。サスペンションも座っただけで適度に沈み込み、車体や路面からのフィードバックを感じる上でシビアさはなさそうだとこの時点で確信できた。
エンジン始動。聞き慣れたスズキのVツインエンジンなのは、自分がVストローム650のオーナーだからである。程よく消音されておりここでもライダーを身構えさせるようなことはない。トゥルルルゥとアイドリングする様は本当に250ccのように無害であり恐怖心をあおるような演出とは無縁だ。ミッションを入れると、予想以上にスムーズにスルリと1速に入った。というのは、自分のVストロームではミッションがわりと「ガコン!」と入るような印象があるのだ。その後のシフトフィーリングもシルキーだったためミッションに何かアップデートがなされたのか伺ったが、変更はないとのこと。であるならばシフトリンケージなどの設定が良いのだろう。
フルウェットのピットロードからコースへと加速していく頃には、当初ほど嫌々ではなくなっていた。もちろんドライに対して高い転倒リスクに対する恐怖心はあるものの、SVの軽さや素直さ、馴染みやすさに勇気づけられ、この走り慣れた筑波サーキットのコース1000を少し楽しめそうな予感がしてきていたのだ。
入念に慣らしていくはずだったが、サスペンションが良く動くおかげかタイヤの温まりをほどなく感じることが出来、無理のないペースアップができた。エンジンは高回転化したとはいえ低回転域からツインらしいパルスとトルクがあり、全回転域をフルに使わなくとも無理なく車体を進ませる。また開発テストライダーの言っていたパーシャル域、そしてそこからのジワリ開けの領域の作り込みはこのコンディションだからこそありがたみを感じることができた。長く、回り込むようなコーナーで、特にこのようなコンディションではパーシャル領域を使うことが多く、またそこから開けた時に突然パワーが立ち上がるようでは容易に滑り出して横を向いてしまう。しかしSVにそのような怖さはなく、コーナー進入をミスしてしまってもパーシャルで我慢することが簡単だった。これは先の道路状況がわからない公道において大きな安心感を提供するだろう。
高回転域は数値通りのパワー感であり十分に楽しめた。ポジティブな意味で、全域において「必要十分」だと思う力量なのだ。クラッチを繋いだばかりの極低回転域でもゴツゴツせずに4気筒よりも力強く走ることができるし、サーキットのように状況が許せば高回転域も回し切って楽しめるちょうどよいパワーがあった。
車体は跨った時の好印象そのままだ。フィードバックを得やすいしなやかさはサスペンションだけでなく鉄フレームの設定によるものでもあるだろう。こんなフルウェットでもけっこう楽しめてしまっているのは動画を観ていただいてもわかるはずだ。車体全体の吸収性もさることながら、キャスターやトレールといった各部ディメンションの設定も数値を見るとコンベンショナルで安定志向なものであることがわかり、事実何も予想外の挙動が起きない。ライバルの中には味付けのためか過激な設定のものもあり、こういったコンディションでは怖さも想像できたが、SVはいい意味で普通であり、普通に良い。こういう部分で奇をてらわないのはスズキらしくて好きだ。
総じて、走行性能については一生懸命探したものの不満点は見つけられなかった。エンジン・車体共にあらゆるシチュエーションで懐深くライダーをサポートしつつ、積極的に走らせようと思えばエキサイティングな経験もさせてくれるはずだ。今回のようにサーキットだって楽しめてしまうのだから、ヨーロッパで行われているようにこの良きスタンダード車によるワンメイクレース「SVカップ」など開催してほしいと願うほどである。
このような万能車であるからこそ、スタイルや装備面にも目を向けよう。きっとこのバイクは付き合い易さゆえに、ちょっとした買い物や短距離の用足しだってするはずなのだ。
スタイルで素敵だと思うのはとにかくシンプルであること。このプラスチックのパーツはいったい何?という部品が見当たらず普遍的な魅力があるように思う。また無粋なホーンをラジエターの裏側に隠すなど細かい所までスマートな車体づくりに気が配られている。
装備では軽量化も果たしているメーターが大きな進化だろう。燃料計や航続可能距離の表示など使い勝手が大きく向上しているだけでなく、タコメーターの最高回転数保持モードなど遊び心も盛り込まれている。
新機能として紹介されたイージースタート(セルボタンを押し続けなくとも一度押せばエンジンが始動する機能)や、ローRPMアシスト(クラッチを繋いだ時の回転数の落ち込みを補正する機能)は、個人的には必要性を感じることはなかったが、特に後者は初心者には嬉しいのかもしれない。もっとも、SVの非常にトルクフルでフレキシブルなエンジンはストールしづらいが。
あえて注文を付けるならば、グラディウス比で座面積が少なくなったシートは長距離で尻が痛くなりそうな印象を受けたのと、ヘルメットホルダーがないことが残念なことだろうか。シート下にフックするような簡易的なものすらなく、ちょっと買い物などという時にもいちいちヘルメットを持ち歩かなくてはならないのは、SVの使い方の幅を狭めてしまうだろう。驚くほどの低価格は大歓迎だが、イージースタートやローRPMアシストよりもヘルメットホルダーが欲しかった……。
ヨーロッパではかねてよりこういったミドルクラスのモデルは高い人気を誇ってきたが、近年では日本でも大型至上主義は薄れ、このクラスが注目を浴びているのはライバル機種の好調からも明らかだ。そこへスズキが投入する新SV、スズキらしい質実剛健な作りとシンプルでモダンなスタイリングなどにより広く受け入れられることだろう。エキサイティングだとか、革新的だとか、そういうことではなく、本当の意味での「良いバイク」。そんなSVを応援したいと思わされた土砂降りの試乗だった。
(試乗・文:ノアセレン)
オプションパーツ装着車。メーターバイザー、サイドカウル(左右)は近日発売予定。タックロールシート、34,560円。 |
●SV650 ABS(2BL-VP55B)主要諸元 ■全長×全幅×全高:2,140×760×1,090mm、ホイールベース:1,450mm、最低地上高:135mm、シート高:785mm、最小回転半径:3.0m、装備重量:196kg、燃料消費率:国土交通省届出値・定地燃費 37.5km/L(60㎞/h、2名乗車時)、WMTCモード値 26.6km/L(クラス3、サブクラス3-2)■エンジン種類(P511):水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ、総排気量:645cm3、ボア×ストローク:81.0×62.6mm、圧縮比:11.2、最高出力:56kw(76.1PS)/8,500rpm、最大トルク:64N・m(6.6kgf・m)/8,100rpm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、始動方式:セルフ式、点火方式:フルトランジスタ、潤滑油容量:3.0L、燃料タンク容量:13.8L、クラッチ形式:湿式多版コイルスプリング、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:ダイヤモンドフレーム、キャスター:25°、トレール:106mm、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク(ABS)、タイヤ(前×後):120/70R17M/C 58W × 160/60R17M/C 69W、懸架方式(前×後):テレスコピックフォーク × リンクタイプサス。平成28年国内排出ガス規制対応 ■8月11日発売 メーカー希望小売価格:738,720円(税込) |
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