Honda CB650F 長期テストレポート『生活バイクとともに』2014年の春に発表されたときから、これぞ通勤快速マシン、としてとても気になっていたCB650F。そこで長期テストを始めたのは2015年の春。前回の報告からさらにほぼ1年に渡って生活を共にして思ったことは…。

ホンダ
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ライダーの身長は176cm。自然なライディングポジションが安全ライディングをバックアップ。

 CB650Fとともに過ごしてきた長期テストですがあっという間に1年半が過ぎ、オドメーターも14,000㎞を超えました。で、いったん締めくくりとして、これまでのレポートを兼ねて、今や絶滅危惧種となりつつある“生活バイク”について考えてみました。
 
 いつの頃から巷ではバイクが“生活の相棒”から“趣味の愛人”に変わってしまったのでしょうか。’80年代のバイクブーム? いやいやビッグスクーターブーム以降? 今や生活バイクといえば原付二種のスクーター一色で、普通二輪や大型二輪は大人の趣味の乗り物に様変わりです。
 
 それに合わせて、市場で売れているバイクも、外国のブランド物だったり、超目立つスタイルの国産高級モデルだったりと、明らかにサービスエリアやワインディングの休憩所などで“見劣り”のしないであろうモデルが主流となっています。
 
 それはそれで、もちろん何も言う筋合いは無いのですが、全部が全部そっちに行ってしまうこともないだろうと思うのですね、天邪鬼としては。バイクの需要の激減以上に、どんどん多様性も失われてきてしまっている気がします。まあ、確かに少数派のユーザーに向けたバイクまでラインナップし続けるのは、このご時世ではなかなか難しいことです。売れるバイク、人気のバイクにさらに力が入ってしまうのはもちろん致し方のないこと。需要と供給が市場の原理ですから。その一番の責任、というか市場を左右しているのはもちろんわれわれユーザーです。つまり今は、多くのバイク乗りがそれを望んでいるということもまた事実なわけですね。
 
 わずかに原付二種だけでも、若者が“生活バイク”として使ってくれているのが救いです。ただ、そこからバイク乗りへと発展することはほとんどなく、それはそれで完結してしまっているかに見えるのがちょっと残念ではあります。生活の道具としては、原付二種のスクーターの利便性に普通二輪や大型二輪はまったく対抗できません。
 
 そんな時代に“普通”のバイクにこだわるのはなかなか難しくなってしまいました。“普通”って何だよ? えっ、普通ですか…。

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 どんなに気に入ったモデルでも、ほとんどの場合、数年経つとモデルチェンジされます。昨今の技術の進歩は目覚ましく、数年というサイクルは進化を促すには十分長いのは確かで、それに合わせてモデルチェンジをするべきなのは理解できます。でも、同時にデザインまで変える必要があるのでしょうか。モデルチェンジまでの期間に開発された新技術を導入するだけ、という発想はないのでしょうか。「デザインも技術と同様進化するモノなんですよ」といわれれば返す言葉はないのですが、ホントに?
 
 一番の典型がヘッドライト周りのデザインですね。モデルチェンジのたびにケバケバしくなっていく、いや失礼、派手になっていく。何としても個性的な顔つきにして目立たなければ、と思っているかのように。シンプルな丸目ではいけないのですか。
 
 今や超高速で走る機会はどんどんなくなってきてしまっているのに…、こんな狭い日本でたいそうなフェアリングが本当に必要ですか。モデルチェンジするごとに車重も重くなってませんか。
 
 生活バイク乗りとして望む理想のモデルチェンジは、その時点での先進技術は妥協無く取り入れる、同等装備のままなら重量を削減していただいて、耐久性も1割以上向上させる。その一方でデザインは、技術的な変更に合わせた部分以外は手を付けない。営業的観点からすれば、「そんなもの、売り物になりません!」と却下されてしまうのでしょうか。
 
 でも、ここまで“外車”に市場を席巻されて、かといってその外車のように趣味性に割り切ったモデルが作れない以上、国産車の大きな利点である“絶対的な信頼性”、“使いやすさ”を前面に出した究極の実用品、生活バイクとして勝負できるモデルが一台くらいあってもいいのではないでしょうか。究極の“普通”のバイクです。
 
 丸目ヘッドライト、正立フォーク、シンプルな2眼メーター周り、タンク&シート。そしてシンプルなリア周り。かといってエンジンは趣味性を狙った空冷ではなく実用的な水冷で…。とここまで見ると何やらあるモデルの存在に気が付きますよね。そう、CB400SUPER FOURやCB1300SUPER FOURです。売れましたよね。いやいまだ売れ筋のバイクとして頑張ってますよね。
 
 これぞ日本車の“スタンダード”。今後は、モデルチェンジするたびに10%ずつ軽くして、耐久性は国産四輪車のように世界が認めるダントツのレベルに、そして無意味なデザイン変更は一切なし。どうしても手を加えたいなら、よりシンプルに。デザインのためのデザインはいりません。メカニズムをデザインとしましょう。
 
 CBR250RCB400F、そしてCB650Fと付き合ってきて確信しました。国内の“ヨンヒャク”、“ナナハン”って実に日本の道路事情に合ったクラス分けだと思ってましたが、今や、技術の進歩でそれは“ニヒャクゴジュー”、“ロッピャク”になったのだと。コンプライアンス世代の若者たちは爆走とは無縁です。制限速度にせいぜいプラスαで十分楽しむことができます。リッターバイクというスペックの幻影にしがみついているのは、かつて憧れるばかりで手が出なかった記憶を持つ中高年の皆さんが多く、外国ブランドへの憧れも同様でしょう。
 
 国内のメーカーさんはもっと“日本車”のあるべき姿に自信を持ってください。そこからが復活への第一歩です。

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 CB650Fは、完全新設計の4気筒エンジンが搭載されました。個人的にはCBR600RRのエンジンでも良かった気がしますが(いやむしろそんなネイキッドにも乗ってみたかった)、そこは海外向けが主体の“ミドルクラス”ですから、きちんと使いわけを狙ったということ。それと後ほど触れますが、ヨーロッパでのネイキッドマシンの役割にきちんと照準をあわせた、ということなのだと思います。
 
 CB400Fでの“通勤マシン”レポートの時にも触れましたが、最新技術をもってすれば無理して4気筒にしなくても、2気筒で十分力強く、それでいて気分良く回せるエンジンができるようになりました。ただそれは400だからであって、600、650クラスになると話はまた別。ツインの性格がより強調されて出てきてしまうことでしょう。個性派マシンならそれは逆にウリになる要素ですが“生活マシン”としては不要です。
 
 ただ、4気筒としてもそれはそれで“生活バイク”としては、唯一の不満というか、願望というか、なんとかしたいな~の車体の重さに繋がってしまっているわけで。こればかりは致しかたないところでしょうか。一応念のため、カタログの車重は208kgとなっています。国産車としては特別重いわけでもないのですが、無理の効かない年寄りには、200kgというのは心理的にもひとつの境目になってますね。
 
 その点を除けばCB650Fは、まさに理想の生活バイクです。無理に前傾することなく、これしかないというぐらいジャストなライディングポジション。信号スタートで、追い抜きで、と小気味よく吹け上がるエンジン。国内の道路事情の中での圧倒的な加速感。まさに“ナナハン”の現代版です。
 
 かつての4気筒といえば、気合を入れなければ使い切れないほどの高回転を誇り、その上、レッドまでストレスなく吹け上がることに命を懸けていたかのような時代がありました。が、時代は変わりました。実用速度域内できっちり使い切るエンジンこそが、現在の国産車のエンジンに求められているトレンドです。ちなみにCB650Fは、わずか11,300回転あたりからレッドゾーンとされてます。まさに時代、なんです。
 
●CB650Fの燃費データ
全テスト期間:2015年3月11日~2016年8月9日、オドメーター:17,525㎞、期間走行距離:14,483km、期間使用燃料:712.64リッター、期間平均燃費:20.32km/リッター(満タン法による概算)。

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●CB650F(EBL-RC83) 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,110×775×1,120mm、ホイールベース:1,450mm、最低地上高:150mm、シート高:810mm、車両重量:208kg、燃料消費率:国土交通量届出値、定地燃費値31.5km/L(60km/h)、WMTCモード値22.2km/L(クラス3-2)、燃料タンク容量:17L■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、総排気量:648cm3、ボア×ストローク:67.0×46.0mm、圧縮比:11.4、燃料供給装置:フューエルインジェクション(PGM-FI)、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セルフ式、最高出力:61kw[83PS]/9,500rpm、最大トルク:63N・m[6.4kgf]/8,000rpm、変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前+後):油圧式ダブルディスク + 油圧式シングルディスク、タイヤ(前+後):120/70ZR17 M/C 58W + 180/55ZR17M/C 73W、懸架方式(前+後):テレスコピック + スイングアーム、フレーム:ダブルクレードル
■車体色:アトモスフィアブルーメタリック、マットガンパウダーブラックメタリック
■メーカー希望小売価格:923,400円(本体価格855,000円)
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中空断面構造のアルミキャストホイール。外側から巻き込むように造形したY字型6本のキャストスポーク。生活バイクに今更スポークホイールの贅沢は望みません。というより、スポークを磨くのって大変でしたよね。ご同輩。 ショートタイプのマフラー内部には“400セルキャタライザー”を装備してEURO3排出ガス規制に対応。昔懐かしい“ヨンフォア”を彷彿とさせる集合マフラー。ここは数少ないこのバイクの個性的な部分。 ABSを標準装備。国産大型マシンから順次ABSが標準装備されてきていますが、反射神経が怪しくなってきているジジイライダーには必需装備。フロントサスは、インナーチューブ径41mm、ストローク120mmの正立式テレスコピック。
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55/60WのH4ハロゲンバルブを採用したマルチリフレクターヘッドライトユニット。一昔前のバイクには想像できない明るさ。その左右上方にあるLEDのポジションランプがアクセント。 左にタコとスピードの複合メーター。右は燃料計と時計の他、瞬間燃費計や平均燃費計、燃料消費量表示機能も表示。キーはウェーブキーを採用。試乗車はオプションのETCを装備。インジケーターランプが左端に見える。 「低く構えたプロポーションを表現することに寄与する」というラジエターシュラウド。個人的には必要最小限に小さくしていただくか、無くてもいいような気が…。

◎試乗車に追加装備されているアクセサリー用品

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○ETC
Honda 二輪ETC車載器キット:アンテナ別体タイプ
■価格:41,472円(税込)
取付アタッチメント同梱。(車載器本体、アンテナ、表示器)
適用号機:14M/RC83-1000001~
別途必要費用:取付費用とセットアップ費用が必要となります。
取付時間:0.8H
取扱店:Honda二輪車ETC車載器セットアップ店
その他:決済用のETCカードが必要です。
※本体はシート下、アンテナと表示器は左グリップホルダー横に設置。
 
●ホンダモーターサイクルジャパンお客様窓口 TEL03-5993-8667
○リアキャリア
■価格:24,840円(現在は37,800円)
許容積載量:5.0kg
材質:アルミダイキャスト
別途必要取付パーツ:キャリアブラケット(08L73-MJE-D00ZA)
装着価格:37,800円(税込)
取付時間:0.2H
取扱店:Honda二輪車正規取扱店
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最後に、こんな“生活バイク”があったらいいのですが、と遊んでみました。コラージュする技術が未熟で、タンクサイドとラジエターカバー部分はそのままになりました。本来ならスッキリ取り外してしまいたかったのですが、お粗末様。「ホーネット650」いや、やはり名称もシンプルに「CB650F」のままでいいですね。それにしても車名ステッカーの奥ゆかしいこと。この”分かる人が分かってくれればいい”的な感覚、好きです。


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