MBHCC E-1

第103回 第10戦オーストリアGP Resurgence


 19年ぶりのオーストリアGPである。前回の開催は1997年6月1日。名称も現在のようなレッドブルリンクではなく、A-1リンク、と呼ばれていた時代だ。大人のファンにしてみれば、ついこの間、というくらいの時間感覚かもしれないが、19年という月日は長い(あたりまえだが)。どれくらい長いかというと、現在Moto3クラスに参戦する鈴木竜生が「そのころのことは、まだ生まれてないから全然わからないっす」というくらい昔の出来事なわけだ。
 ちなみに、19年前のオーストリアGPのリザルトは、最高峰500ccクラスの優勝がミック・ドゥーハン、2位に岡田忠之、3位はルカ・カダローラという順位。250ccクラスはオリビエ・ジャック、ラルフ・ヴァルドマン、マックス・ビアッジ、125ccは上田昇、バレンティーノ・ロッシ、眞子智実、という顔ぶれのトップスリーだった。こうやって見てみると、時代を感じさせる名前が並ぶなか、未だに現役で、しかもトップレベルの競技水準を維持しているロッシの凄みがあらためてくっきりと浮き彫りになる。
 で、19年後の今回の決勝レースはというと、ロッシは最後まで表彰台圏内に迫る走りを見せたものの4位でフィニッシュ。優勝を飾ったのは、最高峰クラス初勝利のアンドレア・イアンノーネ(ドゥカティ・チーム)で、僅差の2位にチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾ、3位はホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)という面子。 ドゥカティにとっては、2010年オーストラリアGPでケーシー・ストーナーが優勝して以来6年ぶりの優勝。三顧の礼でアプリリアから2014年に迎え入れたジェネラルマネージャーのジジ・ダッリーニャが地道に続けてきた組織改革とマシン開発がようやく結果を出した、という意味でも、彼らにとっては非常に感慨ぶかい勝利だろう。


#29&04

#29

#04
イアンノーネは2015年ムジェロ以来のポールポジション。ドビは今回がGP250戦目、という節目のレースでもあった。

#ケーシー

#レッドブルリンク
おとなの社会見学。 シン・ウシラ。

#レッドブルリンク

#レッドブルリンク
地下のトンネルにはレジェンドの写真がズラリ。 一階ホールにはこんな名車もさりげなく展示。
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 今回のレースでドゥカティの2台が図抜けていた様子は、3位を獲得したロレンソが「今日の彼らは別世界だった」「普通にレースが進めば手の届きそうな最上位は3位だったので、とにかくそれを目指した」という言葉にもよくあらわれている。
 目標にしていたその結果を獲得できたことを、ロレンソは「勝利と同様の意義ある3位」と評した。第7戦カタルーニャGPでイアンノーネにやっつけられて以来、ウェットがらみの第8戦と第9戦はさんざんな内容で、レース後に話す言葉の端々に、自分の走りに対する自信が揺らぎかけているような危うさも漂わせていた。それだけに、この3位は彼本来の自信を取り戻す充実したレースになったようだ。
「厳しい結果になるといつでも、『ロレンソはもう終わりか』と言われるけれど、これまでに何度もそういうことはあった。レースをしていると、ベストの結果を得られないときもあるよ。そんなときはひたすら我慢して、怪我しないように注意しながら頑張り続けるしかない。今回もそうやって努力を続けてきたし、自分には勝てる力があることを示すこともできた。ぼくは常に自分を信じて、厳しい局面でもさらに強くなって戻ってきた。思いどおりの結果を得られないときはえてしてヘコんでしまうものだけど、ぼくは自分の過去の経験から、ここを乗り越えればさらに強くなれるとわかっているから、そうやって今回も努力を続けてきたんだ」
 まさに、<艱難汝を玉にす>を地で行く選手である。


#99

#99
マルケスまでは43ポイント差。

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 今回の結果に満足、という意味では、チャンピオンシップをリードするマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)も同様のようだ。
 土曜の予選を終えて5番グリッドからのスタートとなったマルケスは、「金曜から一貫してドゥカティのふたりが速い。ヤマハも速い。似たようなペースで走れると思うのでがんばりたいが、どこまで食い下がれるか……」と話していたとおりのレース内容で、5位チェッカー。
「もちろんもっと前でゴールしたかったけど、順位よりもチャンピオンシップ全体を考えると、ロレンソからはポイント差を5点削られ、バレンティーノからは2点削られるだけで済んだので、この結果はまあ悪くはない。好材料は、(チャンピオンを争う)ヤマハふたりの前でドゥカティが1−2フィニッシュをしたこと」
 と、今回のレース結果を総括した。
 ヤマハ2台に大きくポイント差を詰められずにすんだ、という意味では、マルケスが話すとおりポジティブに捉えることもできるだろうが、その反面、今後ドゥカティ2台が毎戦の優勝争いに絡んでくる可能性も考えると、マルケスにとっても、油断は禁物、といえそうだ。
「ドゥカティは前半戦のカタールでとても速かった。今回はもっと速かった。次のブルノでも速いだろうね。自分たちの直近の敵はヤマハだけど、ドゥカティも忘れてはいけない。(自分とヤマハ2名の)間に割って入ってくるとなれば、彼らもまた大きなライバルになる可能性があるわけだから」
 そのマルケスに対して2ポイントを詰めて57点差としたロッシは、「あと100戦あれば、年間総合優勝できるかもね」とジョークを交えながら「表彰台を獲得できなかったのはすごく悔しいけど、マルケスの前で終われたのは良かった。コースが変われば事情も変わってくるだろうし、これからもできるだけ得点を稼ぐように努力するよ。マルケスから点を削り取るのは厳しいけど、まだシーズンは先があるので今後もがんばりたい」と今後の戦いに期待をつないだ。


#93

#46
3度目の王座獲得は安泰、とはやはりいかなさそう。 1997年と2016年ともに現役で走った唯一の選手。

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 スズキ陣営は、序盤から中盤まで上位陣に食らいついていたマーヴェリック・ヴィニャーレスが、最後は少し離されながらも6位。金曜の午後に転倒して左手中指を骨折した兄エスパルガロは、24周目にピットへ戻ってリタイアした。
 ヴィニャーレスは、真冬のような寒さの金曜は快調なペースで走行していたが、温度条件が上昇するといつものようにグリップに問題を抱えてしまい、レースでもハイペースの維持が難しくなっていったようだ。土曜の予選を終えて6番グリッドを獲得した際には「明日は雨じゃなくて、むしろ寒くなってほしい。ガンガン冷えてほしいよ」と笑っていたが、天候だけはやはり思惑通りにはいかないものである。
 兄エスパルガロは、金曜の転倒により、左手中指基骨骨折および右手親指付け根の靱帯挫傷と診断。土曜のセッションには、左手中指を人差し指に添える状態でテーピングし、右親指の負傷部位にもテーピングを施して臨んだ。走行後に指を見せてもらったところ、腫れはさほど大きくなかったものの、その段階でも痛みはかなり強かったようだ。
「ストレートでハンドルバーを押さえ込むのがとても厳しい。(右も痛めているけれども)ブレーキは問題ないと思う。(左指が不自由で)クラッチを握れないので、スタートがかなり厳しいかもしれないけど、変速ではクラッチレバーを握らなくて良いので、それが助かるよ。クリニカモビレがしっかり対応してくれているし、鎮痛剤もずっと使用しているので、明日は最後まで走りきれると思う」
 決勝のスタートは、本人が不安に感じていた以上にスムーズで、その後もしばらく安定したペースで走行していたので完走を果たすかとも見えたのだが、怪我の具合はやはりキツかったようで、残念ながらリタイア。次のブルノでは、今回よりも良い体調で臨んでほしいものである。
 


#25

#99
トップ争いに迫れそうで迫れないこの歯がゆさ。 次も連戦なので、無理を控えた様子。

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 ところで、今回のオーストリアGPと次戦のチェコGPは2週連続開催である。今回は19年ぶりの開催ということも集客効果につながったのか、三日間総計で21万5850人を動員した。
 一方、チェコGPの開催地ブルノサーキットは、毎年シーズン屈指の観客動員力を誇る会場で、昨年は24万8434人という実績を残した。オーストリアとチェコは隣国同士で、この連戦スケジュールが果たしてブルノの動員にどんな影響を及ぼすのか……、いうことなども含めて、第11戦も見どころはあれやこれやと盛りだくさんである。
 というわけで、また来週お会いいたしましょう。   


 



■2016年 第10戦 オーストリアGP レッドブルリンクサーキット

8月14日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


2 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


3 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


6 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


7 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


8 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


9 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


10 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


11 #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


12 #51 Michele PIRRO OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


13 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


14 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


15 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


16 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


17 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


18 #50 Eugene LAVERTY Aspar Team MotoGP DUCATI


19 #6 Stefan Bradl Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


Not Classified #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


Not Classified #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


 


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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