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ピレリジャパン

 ピレリは2002年にプレミアムラジアルタイヤを求めるユーザーに向け、ディアブロシリーズをリリースした。「ディアブロ」はファミリーの中ではボトムレンジとなるが、ロードスポーツユースばかりでなく、プラス、サーキットまで充分な性能が与えられた。ハンドリング、グリップはもちろんウエット性能、マイレージ、という要素をバランス良くまとめ上げたこのタイヤは、多くのメーカーにOEM採用され、マイレージを求めるスーパースポーツユーザーから、スポーツネイキッド、ラジアルユーザーのリプレイス需要にも応えてきた。
 翌2003年にはスーパースポーツ向け、ハイグリップタイヤ、ディアブロ・コルサを、2005年にはサーキットレンジとなるディアブロSBKをリリース。以後、それぞれのレンジを進化させ、ディアブロファミリーがピレリのロードスポーツタイヤの顔となっているのはご存じのとおり。
 
 中でも、ネイキッド、ハイパーネイキッド、そしてスーパースポーツまで、幅広い需要をカバーするディアブロは、2008年に二代目となるディアブロ・ロッソへとモデルチェンジ。キープコンセプトながら各方面の性能をアップ。イタリアンレーシングレッドからインスパイアされた名を冠したタイヤは、その後、2011年にはディアブロ・ロッソⅡへと進化した。
 そして、今回、その最新版として登場したのが、ディアブロ・ロッソⅢである。
 

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ターゲットセグメントはそのまま。ただし、
ウエット性能、ハンドリング、耐久性を30%アップ!

 
 ロッソⅡの後継モデルとしながら、ピレリはロッソⅢの設計に高いハードルを自ら課している。性能を表すレーダーチャートを見るとロッソⅡ比で……、
ハイスピードスタビリティー 15%UP
マイレージ         30%UP
一般道ハンドリング     30%UP
レースハンドリング     15%UP
ウエットグリップ      30%UP
ウエットハンドリング    30%UP
 
等となっている。進化したコンパウンド素材、タイヤのケース形状、トレッドパタンの効率化など、これまでSBKのレーシングタイヤサプライヤーとして、OEMサプライヤーとして培った技術の上に成り立っているという。
 
 ディアブロ・ロッソⅢを開発した技術陣が紹介した一つのエピソードが面白かった。それはドゥカティ・ディアベル用OEMタイヤの開発秘話である。
 2010年に登場したこのバイク、ご存じの通り、ドゥカティが手がけたクルーザーだ。このバイクのタイヤ製作に複数のタイヤサプライヤーが参加したコンペが行われたという。現在、ドゥカティのOEMはピレリタイヤが一手に収めているから、それは形式ばったもの、と想像したし、そんな事実があったのか、とちょっと驚いた。
 見た目はクルーザーだが、ハンドリングにはスポーツ性も持たせている。「走らない」直線バイクなど、要らない、とは開発陣は言わなかったが、つまりそういうことなのだろう。デザイン要素として特徴となる極太後輪を、運動性とバランスさせるのは大きな難関だったという。
 前輪は120/70ZR17、後輪は240/45ZR17。前輪の2倍の太さの後輪でハンドリングの整合性を取る。両立させドゥカティらしく走る事。これが重要課題だった。
 ドゥカティの要求は高く諦めるメーカーもあったという。最後に満足の行くタイヤを造ったのがピレリだった。その手法は、240/45ZR17のディアベル用タイヤは、ハイトを高めた形状とし、旋回時、前輪が持つハンドリングに追従するようなバイクのロールスピードやグリップ感、接地感のスムーズな移行を実現し、安心感を整えていったという。しかもスポーティーで楽しめるハンドリングとして。
 ディアブロ・ロッソⅡのシリーズに加えたそのタイヤは、もちろん、ライフもウエットグリップも、快適性も求められた。
 
 そこで得た経験がディアブロ・ロッソⅢのプロファイルデザインにも活かされた、というのだ。事実、ハイトはディアブロ・ロッソⅡより高く、サイドエッジを下げることでトレッド傾斜と接地面を増やし、コーナーでバイクを寝かした時に路面と接地する面積を増やしハンドリングの切れも良くする、というもの。その形状はむしろ、スーパースポーツ用ハイグリップタイヤ、ディアブロ・スーパーコルサに近くなったという。その開発要素を次に紹介する。
 

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ウエット+寒冷時の即暖性能向上で
安心感を新たなレベルに引き上げる。

 
 構造部分ではさらにセンターからショルダーに向けて剛性を効果的に変化させる事で、理想的なトレッドの接地形状とし、前輪のトレッドは100%シリカ(含有飽和率)ラバーを用い、後輪にはマイレージを意識し、センター部分とサイドのベース部分にライフに定評のある70%シリカ(含有飽和率)ラバーを使っている。センター以外、エッジまでトレッドの接地面には100%シリカ(含有飽和率)ラバーを用いている。雨天時、寒冷時にもシリカが持つ優れたグリップ性能、温度に左右されにくい特性を活かしたもの。
 また、センタートレッドからサイドのベース部分までを一体化することで、トレッド面に熱伝導体のような役割を持たせた後輪など、既存の技術も余すことなく用いている。
 
 これにより、冬から夏のトラックデイまで頼りになる一本が出来上がった、というわけだ。しかもハンドリングが良くてマイレージまで伸ばして。
 
 今回、アジアパシフィック向けのプレスローンチが行われたのはクアラルンプール近郊のグランプリコース、セパン・インターナショナルサーキットである。常夏のマレーシア、しかもスーパースポーツからネイキッドまで。全開で走ればわかります、というのが彼らの自信のようだ。
 

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雨かよ……。
ウエットパッチも超安心な乗り味。

 
 実はセパンのコースは10年前に一度だけ走ったことがあるが、あのとき以来……。F1用に開発されたこのサーキットは、全周にわたりエスケープが広く飛び出しても大丈夫そうなのだがその分、各コーナーの景色が似ていて複合コーナーへのキッカケが掴み難い。さらに起伏で見えいくいカーブや複合コーナーも多い。エントリーよりも奥が回り込むため、旋回ブレーキや、ためを造ってフルバンクに持ち込むなど、慣れとテクニックも要求される。
 
 しかも近年の改修で最終コーナーにはマヂかよ!と声が出るほど逆カントが奢られているではないか。しかも、クアラルンプールのホテルを出た時、天候は雨。サーキットで走行準備をする間に雨は止んだものの、走行時間になっても雲間から顔を出した太陽は路面を乾かしきれていない。
 
 最初はコース確認のつもりで走り出す。跨がったのはモンスター1200だ。フロント120・70ZR17、リア190/55ZR17という組み合わせだ。プレステで復習してきた事もあり、コースは最初のラップで確認できた。それ以上にディアブロ・ロッソⅢの安心感に助けられた。タイヤのプロファイルからすると、旋回初期にタイヤからパタっと寝てゆくロールスピードが速いのか、と思ったが、ブレーキングでは前輪のグリップと踏ん張り感は安心感を広げてくれた。バイクが寝て行く、前輪に舵角が付くというコーナリングの一連がなるほどスムーズにつなげて行く。その時、タイヤの接地感は潤沢。ピレリらしいさらっとした接地感で、ベタベタしたまとわりつきやもたもたした印象がない。
 ハンドリングは軽快かつ軽すぎない。ワイドなハンドルバーを持つモンスターでも、ハンドルグリップを抑えるなどの無駄な入力をしたくなる部分がみじんも無い。素直で狙った通りに走れる。攻めてはいないがサーキットだ。下見でもバンク角は深く、長いストレートではすぐに200キロぐらい速度が出る。そんな中、ウエットパッチに旋回中に乗っても、ラインが大きくずれたり、急激に切れ込んだり、というグリップバランスの過渡特性も凄くマイルド。
 
 様子見のつもりの最初のセッションから複合以外のカーブは想像以上に楽しめる。これは気分の良いタイヤだ。少しペースを上げると、そのハンドリング特性が絶妙なことも伝わってくる。ハンドリングの生み出し方が感性に先んじること無く、それでいて切れ味の良さを楽しませる。僅か数周で僕は10年振りのセパンを楽しんでいた。
 
 周りのジャーナリストが最初からペースを上げて行くことでも同じような印象とコンフィデンスを感じとっているにちがいない。
 このあと、モンスター821も試す。1200よりトルクとパワーが少ないが、回転の上がり方はスポーツネイキッドに相応しい走りを楽しませるバイクだ。フロントは1200と同様、リアは180/55ZR17とワンサイズ細い。
 821はパワーが少ない分、慣れると脱出加速が物足りなくなってくる。だからツッコミ速度を上げたくなる。旋回ブレーキを強めに掛けながらの旋回性は素直で掴みやすく、自信をもって曲がれている。このコンディションで何食わぬ顔をして走らせていられるのは、このタイヤの恩恵だ。まだウエットパッチがあるが、旋回ブレーキすら恐くないし、そこからの寝かし込みも安心感がある。同様に狙ったラインを描ける安心感と面白さ。
 
 これね、ネクスト・レベル! ご機嫌になってくる。
 

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 その後、ウエットパッチが減少したので、BMWのS1000RRに乗り換えた。このバイクは個人的に近年の走りの基準としているモデルなので、タイヤの違いも理解しやすい。
 
 さすがに速度、旋回性、ブレーキなど走りのパフォーマンスはネイキッドの比ではない。
 スタビリティーコントロールやABSのワーニングが頻繁に点滅し、路面との状況を伝えてくれる。200馬力近いバイクだとドライでもトラコンが入るから、当たり前ではあるのだが。このバイク自分なりにハイペースを保ってもモンスターで味わったような安心感が豊富。さすがにハイグリップのトラック向けタイヤよりも、前輪の舵の入り、旋回性は穏やか。クルリと縁石の上を体が回る、というよりは、クリップをとって走るような乗り方が求められる。
 それでも、脱出加速時にリアタイヤから味わう、エッジ部分が路面をよじれながらつかみ続けるグリップは秀逸。さらりとしたエッジのタッチ感ながら、旋回力もなかなか。だからアクセルを開ける瞬間を早めにできる。バックストレート、メインストレートの260キロ以上からタイトターンに飛び込むようなブレーキングでも、フロントのシッカリ感と、グリップは充分で、旋回ブレーキを残しながら深く寝かすまでの所作も「いいね! ディアブロ・ロッソⅢ!」と思わず唸る。低速S字の1、2コーナーを抜け、ワイドオープン、フルバンクで抜ける3コーナーでも、クリップから安心してアウトの縁石一杯まで開けて行ける。その先、タイミングを取りにくい90度コーナーもバイクの旋回性を邪魔しない旋回力が確認できた。不慣れで多少タイミングを外しても「大丈夫、曲がれる」と寝かした瞬間に自信を持てた。
 
 その先に控える180度ターンへのアプローチでクリップまでの付き方、開けてからぐいぐい曲がる感触、その先、鈴鹿のデグナー似のカーブへといたるまでの速度の乗った右コーナーへの切り返しも含め、馴染みのサーキットのように楽しめた。
 
 機内誌で見た広告がディアブロ・ロッソ系にしては過激だろ、と思った事をちょっと反省した。イケル。このタイヤ。
 
 今回、テストはサーキットに限られたので、いわゆる公道テストはしてない。しかし、走行した3本連続で印象が一貫していて、なによりも楽しめたことは収穫だった。もちろん、サーキットでS1000RRのようなスーパースポーツを楽しむにはもっと相応しいタイヤがある。が、自宅から一般道を走ってトラックデイに参加する、サーキットを楽しみに、自宅に戻る、という使い方や、普段はツーリングが主体、雨でも走る(ココ大事)というライダーなら、試してみる価値はありそうだ。
 連続でサーキットに駆り出されるテスト車達。トレッド面を観察しても、コンタクトパッチ(接地面)の造り方が絶妙なのか、ひどく荒れてしまっているものがない。ネイキッドだとむしろ峠を攻めたレベルのさらっとしたフェイスだった。

 
 ロッソⅡの後継モデルということなので、これから多くのバイクに採用される、リプレイスとして交換をする、という人が増えるだろう。ピレリの新・定番プレミアムラジアルとして、なるほど納得のネクスト・レベル。幅広いファンを楽しませるタイヤとなりそうだ。
 
(レポート:松井 勉)

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