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第102回 第9戦ドイツGP Wind of Change


 刻々と変化する路面コンディションとフラッグトゥフラッグのピットイン戦略、そして複雑なタイヤ選択といういくつもの要素が絡み合って、第9戦ドイツGPは、マンガや映画でもあり得ないくらいのドラマチックな結末になった。
 まずはレースの流れを簡単に整理しておきましょう。
 ポールポジションスタートのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、ウェットコンディションのタイヤ選択に失敗して序盤で大きく順位を下げたものの、路面が少しずつ乾いてフラッグトゥフラッグの展開になると、前後ともスリックタイヤのマシンに乗り換えて30秒近くあった差を一気に追い上げてトップに立ち、その勢いで今度は逆に20秒の差を開く独走モードに持ち込んで優勝、というあり得ない展開を実現してみせた。
 一方、マルケスがはるか後方で苦戦しているときに激しいトップ争いを繰り広げていた先頭集団は、互いのピットインタイミングをにらみ合うチキンレースのような様相も呈していた。アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)がフロント−インターミディエイト、リア−スリック、という組み合わせのマシンに乗り換え、カル・クラッチロー(LCRホンダ)は前後スリックのマシン、バレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は前後インターミディエイト装着のバイクで再コースイン。クラッチローが2位。ドヴィツィオーゾは、同じドゥカティ勢のスコット・レディング(前後ともインターミディエイト)と最後まで息詰まるバトルを繰り広げ、ゴールラインを僅差で制して3位表彰台。さて、残るロッシはどうなったかというと、前後インターミディエイトのバイクで再コースインしたものの、アウトラップからまったくタイムを上げることができず、最後は8位に沈んでレースを終えた。そしてそのずっとずっと遠く離れた後方で、ロッシと同じタイヤ選択のホルヘ・ロレンソが15位でチェッカーを受けて、かろうじて1ポイントを獲得、という惨憺たる状態のレースを終えた。ちなみに、マーヴェリック・ヴィニャーレスとアレイシ・エスパルガロのチーム・スズキ・エクスター勢は12位と14位でゴールしている。


#93
出遅れ→コースアウト→追い上げ→独走、の「全部盛り」状態。
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 というわけで、フラッグトゥフラッグのピットインタイミングと乗り換え後のタイヤ選択などが明暗を大きく分けたのであろうことは以上の説明からもおおかたおわかりいただけたと思うが、細かい話に入る前に、まずはインターミディエイトなるタイヤについて、若干説明をしておこう。
 レース用のタイヤには、ドライコンディション用のスリックタイヤと、ウェットコンディション用タイヤの2種類があることは多くの方がご存じだろう。今年から公式サプライヤーとしてタイヤを供給するミシュランは、その中間の微妙な路面コンディションに対応するような「インターミディエイト」を導入した。スリックのようなまったくツルツルのタイヤではなく、表面に排水用の溝が刻まれているけれどもレインタイヤほど本数が多くない、という、文字どおり〈中間〉の機能を持ったタイヤだ。
 ブリヂストン時代から、今回の決勝レースのような生乾きの路面コンディションになったときなどには、インターミディエイトを導入する可能性が話題に上ったことは何度かあった。だが、インターミディエイトを使用できる条件は非常に限定的であるため、あまり現実的な選択肢にはならないだろう、という結論に落ち着いていた。
 今年からタイヤサプライヤーが変わったことで、ミシュランはそのインターミディエイトを導入したわけだが、このインターミディエイトは前後1種類のみで、コンパウンド違いによるソフト側、ハード側などの区分はない。スリックやウェットタイヤにはその区分があって、今回のレースで使用されたウェットタイヤについていえば、フロントのコンパウンドはエクストラソフト(柔らかめ選択肢)とソフト(硬め選択肢)の2種類が使用されている。一見したところ非常にややこしくも見えるのだが、ソフトコンパウンドという名称でも、さらに一段柔らかいコンパウンドも供給されているため、今回のレースで言えばソフトコンパウンドがハード側(硬め)のオプションになる、というわけだ。


#93
選手たちの最終的なタイヤ選択はこの一覧でご確認ください。

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日曜日は朝からこんな天気。 世界各地で頻発する暴力行為の犠牲者に対して黙祷が捧げられた。

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 さて、このウェットタイヤで始まった決勝レースは、ロッシ、ロレンソ、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)たちがフロント用にエクストラソフトを装着しており、ソフトを装着していたマルケスはそれを見て、スタート直前に自分もエクストラソフトへ交換した。これが裏目に出て、ポールポジションスタートにもかかわらず「自分の乗り方に合わず、ものすごく苦労した」と本人が話すとおり、序盤から大きく順位を落とし、さらにはグラベルにコースアウトして大きくタイムロスをしてしまう。トップ集団からは一時期30秒ほどの差がついてしまうのだが、結果的にはこれが後半の劇的な猛追を演出することになるのだから、レースというのはなんとも予測不可能なものである。マルケスが10周目の8コーナーでコースアウトしたときには、そこから復帰してザクセンリンク7連勝を飾ると確信できた人は、おそらくいなかったのではないだろうか。
「バレンティーノにポイント差を詰められないように、彼の順位に気をつけていたけれども、これで完全に見失ってどこにいるのかわからなくなってしまった」とレースを振り返ったマルケスは、「これでもう自分のレースをしようと割り切り、これはおそらくフラッグトゥフラッグになるだろうと思った」とそのときの状況を話す。
 ピットインするタイミングや段取りについては、「2013年オーストラリアでの失敗(ピットインのタイミングを逸して失格処分を受けたレース)以来、こういう状況に備えて皆でしっかり話し合って準備を進めてきた」のだという。意思伝達がうまく運び、ピットインして乗り換えたマシンは、上述のとおり前後スリックタイヤ。これもあらかじめ、打ち合わせて決めておいたことなのだとか。
「インターミディエイトは当初から選択する可能性がなくて、ウェットかドライの二択だった。インターミディは試したことがなかったし限界もわからない。ドライのラインは非常に狭く、まだ濡れているコーナーもいくつかあったのでリスクは大きかったけど、うまく走りきって勝つことができた」と話すこれらのコメントを総合して判断すると、今回の勝利はマルケスとチームの入念な戦略プランで勝ち取った勝利であるとともに、インターミディエイトという〈状況を複雑にする要素〉を最初から排除しておいた、おそらくはホンダ陣営全体の合理的で適切な戦術による勝利、ともいえるだろう。
 じっさい、マルケスにかぎらず、ホンダ勢は全員が乗り換え後のマシンは前後ともスリックタイヤで走行した。2位のクラッチローはレース後に「正直、インターミディが入っていると思っていた。それが役に立つときもあると思っていたしね。アウトラップではインターミディのドビが5秒ほど速かったけれども、コンディション変化もあってスリックでどんどん追いついてゆくことができた。通常なら、チームは自分に対して好みを訊ねるものだけれども、彼らもモニターで路面変化やラインの状況を確認しているから、豊かな経験と知識を活かしてうまく対応してくれた」と話している。
 クラッチローと3位のドヴィツィオーゾはともに、「もう少し早めにピットインしておくべきだったかもしれない」と、マシン交換のタイミングが遅くなってしまったことを認める反面、それはあくまで結果論にすぎない、ともドヴィツィオーゾは言う。
「何周目に路面がどう変わっていくかは予測がつかないし、濡れている路面をスリックタイヤで走るのはかなり危険だからね。外からレースを見ていると『スリックが正しい選択だ』とわかるかもしれないけど、走っているのと外から見ているのとでは全然違う。去年のミザノでバレンティーノがなかなかピットインしなかったのも、おそらくそういう事情だと思う」


#4

#35
開幕戦以来の表彰台。 MotoGP自己ベスト記録。

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 クラッチローやドヴィツィオーゾとトップ争いを繰り広げながら、彼らと同時にピットインしたロッシは、前後にインターミディエイトのバイクに乗り換えたものの、ペースをまったく上げることができず、それどころか一方的に差を開かれていった。ピットインのタイミングについては「作戦上ではもう数周早く入ることもできたけど、そうしていたとしても結果に大差はなかっただろう。おそらく6位くらいだったのでは」と、そこが問題だったわけではないと話し、「最大の問題は、レース後半に路面が乾いてきたときのインターミディですごく遅かったこと」だと述べた。
「(決勝レースのようなコンディションになったら)インターミディで行こうと金曜日にチームと相談して決めた。それが失敗だったのかどうかはわからない。理屈の上でも、スリックだったらさらにもっと厳しかったのではないか」というのだが、その理由は「金曜のドライコンディションの走行では、フロントはソフト側コンパウンドでも自分たちには硬すぎたし、なかなかタイヤに熱を入れることができなかった。だから、インターミディにしようと決めた。スリックで行ったとしても、きっと悪かっただろう」
 ロッシ以外もヤマハ勢は全員が、乗り換え後のタイヤは前後ともインターミディエイトで苦戦しており、さらに彼らは金曜の低温度条件で苦戦していたことも考え合わせると、タイヤ選択と路面条件の兼ね合いというよりも、タイヤを有効な作動温度域へ迅速に持って行くための制御やセットアップの妥協点などにも、ひょっとしたら課題を抱えているのかもしれない。
 それはおそらくライダー自身がもっとも痛切に感じていることでもあるだろう。15位で終えたロレンソは「とにかくこのコンディションで、ミシュランをうまく使うようにならないと……」とレース後に語っている。ロレンソはどちらかといえばこのザクセンリンクをもともと得意としていないとはいえ、それにしても、今回は初日から惨憺たる内容で、まったく良いところのないレースウィークだった。ここまで徹底的に苦戦を強いられるのも珍しい。
「自信を取り戻して走れるようにならない限り、自分のライディングでこのタイヤをうまく走らせるのは容易ではない。なんとかしないと……。朝のウォームアップでは、トップから4秒落ちというひどい状態だったし、レースではスピードを少し回復して序盤はダニやポルとそこそこ争えたけど、路面が乾いてくるとフロントのフィーリングなくなって全然ペースを維持できなくなった。今失っている自信と良い結果を取り戻さなければならないので、後半戦はなんとかして巻き返したい」
 こういう正直な心情の吐露も含めて非常にロレンソらしい言葉だが、シーズンを盛り上げてもらうためにも、後半戦にはなんとしてでも復調してほしいところである。とはいえ、前半9戦を終えて、ランキング首位のマルケスと2位ロレンソは48ポイント差。理屈の上では、マルケスは毎戦2位で終えればチャンピオンを獲得出来る計算だが、物事はえてしてそう思惑どおりには運ばないのも、また、世の常である。さて、どうなりますやら。では、この続きはレッドブルリンクで(たぶん)。


#46

#99
ヤマハ最上位ながら8位と苦戦。 今回はまったく良いところナシ……。

#30

#89
PPスタートから雨で転倒。残念。復帰後は11位ゴール。 まさに「水を得た魚」で2勝目のSuper KIP。

 



■2016年 第9戦 ドイツGP ザクセンリンクサーキット

7月17日 

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


2 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


3 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


4 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


5 #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


6 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


7 #43 Jack Miller Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


8 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


9 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


10 #19 Alvaro BAUTISTA Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


11 #50 Eugene LAVERTY Aspar Team MotoGP DUCATI


12 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


13 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


14 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


15 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


16 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


17 #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


18 #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


Not Classified #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


Not Classified #9 Danilo PETRUCCI OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


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