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東京、高円寺の朝は、生まれ育った九州の実家よりもかなり早く明るくなります。寝ぼけ眼のまま起きだし、薄い緑色をしたカーテンを開けると、いつも乗っている愛車の隣に、真っ黒で細身のバイクが停まっているのが見えました。 カワサキのZ250ABS。今回の実走体験レポートのために、お借りしているのです。
返却は明日なので、あまり遠くへは行けません。パラパラと占いの本をめくっていたら、今月の吉方は「西」と出ていました。 とりあえず西に向かうことにしてキーを回すと、メーターのデジタル画面がアニメのような動きをするので楽しくなってきます。 ショートタイプのマフラーから流れ出す軽やかな排気音は、まるでこれからの楽しい旅を予感させるBGMのように聞こえてくるから不思議です。 アクセルを回すとそろそろと動き出しました。普段は400ccのバイクに乗っているので、いつもの感覚だとスタートがやや緩慢なカンジです。今日はやや強めに回さねばと……念じます。
いったんカンナナ(環状七号線)を南に走り、その後、西へと延びる甲州街道へ。渋滞気味でなかなか前に進まなかったのですが、八王子を過ぎ、高尾あたりまで来ると快適な走りとなりました。 大垂水峠を越えていく道は次々に襲ってくるカーブの連続で注意が必要なのですが、普段はあまりスピードを出すことはないのに、なぜか今日はスムーズな走りができています。カーブを前にして、ほんのちょっと体をズラしたり傾けたりしただけで、クルンクルンと気持ちよく回っていくのです。まるで自分のテクニックが上達したかのようなカンジ? これはいったい何なんザマしょ? 設計段階から人間工学に基づいて作られているらしいのですが、やっぱりそのせいなんでしょうか? 完全にバイクと一体化したような感覚があって、とにかく楽な運転ができているのです。こんな感じって初めてです。
猿橋を過ぎ、大月からは国道139号線に入ります。途中にはリニアモーターカーの実験線があり、見学もできるのですが、目の前を500km/hで走り去るその姿には、ただただ唖然として声も出ませんでしたよ。
富士吉田からはそのまま国道139号線を西へ。晴れたり曇ったりなので、富士山も見えたり見えなかったり。 そして、本栖湖から国道300号線、通称本栖みちへ。この道は以前走ったことがあるのですが、ものすごい下りヘアピンカーブの連続で、怖かった思い出があるんですよね。でも今日は心強い相棒がいるので安心です。 さすがにステップをガリガリと削りながら曲がることは無理なのですが、とにかく不安なく坂を下っていきます。
ブレーキは前後ともシングルディスクがついていて、フロントは290mm、リアは220mm。それぞれ放熱性に優れたもので、これに2ピストン式のキャリパーを組み合わせることで、自然で安定したブレーキングができるのだそうです。 また、小型軽量の二輪専用ABS制御ユニットを搭載していて、これにより正確なブレーキコントロールができるようになっているみたいです。 実際ワタシも、ワザと強めに、ロックさせるようにブレーキペダルを踏んでみたのですが、何かスッとリアブレーキの力が抜けるような感覚があっておもしろかったですよ。これなら急ブレーキが必要な場面があっても安心して運転ができますよね。 ちなみにブレーキパッドも耐摩耗性に優れた、耐久性のよいものを採用しているそうですよ。
JR身延線の踏切を渡り、一度泊まったことのある下部温泉を過ぎ、富士川に架かる長い橋を渡ると、ここからは県道37号線に入ります。この道は南アルプス街道と言いまして、長野県の伊那市まで延びています。途中には何箇所も温泉があるのですが、今日は一番奥の「奈良田」にある温泉を目指すことにしましょう。 信号もなく、所々に温泉や民家があるだけの田舎道なので、快適に飛ばせるのですが、あちこちで工事をやっているしトラックがひんぱんに走っているので、注意が必要です。 このあたりは、日本列島の中央部を東北と西南に分断している、いわゆる「フォッサマグナ(Fossamagna=大き溝)」が路頭している場所が何箇所もあります。そのなかでも有名なのが「新倉断層」で、崖の左右がまったく別の地層になっているのがハッキリとわかり、太古の昔の地球のすさまじいエネルギーを感じることができますよ。
ようやく今日の目的地、奈良田にある温泉に到着。実はずいぶん前、一度来たことがあるのですが、何とその日は定休日で、入れなかった思い出があるのです。 正式には「秘境の霊場、女帝の湯。奈良田の里温泉」と言いまして、第46代の孝謙天皇(女帝)が、病弱の身を嘆いていたところ、夢の中に老人が現れ、ここの温泉を奨めたのだそうです。それで奈良の吉野からこの地に一時移り住み、静養したらお元気なられた……という伝承があるんだそうですよ。 550円を払い、さっそく入浴。総檜作りの浴槽は雰囲気がよくてグッドであります。しかし、湯船に入ろうとしたとき、浴槽の底板がヌルヌルになっていて、危うくコケそうになっちゃいましたよ。とにかくお湯そのものがものすごいヌルヌルなんです。そのためお肌もつるつるになるし、本当に体によさそうな温泉でしたよ。こんなの毎日浸かっていたら、そりゃあ病気も治るってば。
一時間ほどのんびりとし、すぐ裏手にある孝謙天皇をお祀りした奈良王神社へ参拝。実は元の奈良田の集落は目の前にあるダム湖の底に眠っています。そのため(!?)この建物も鉄筋でできた味気ないものなので、ちょっと残念です。 境内にある手水舎は別名「御符水」といい、天皇もお召し上がりなられた霊験あらたかな水で、どんなに日照りが続いても枯れたり濁ったりすることなく、しかも飲めば病気にも効能があるということらしいですよ。
さて、と、そろそろ帰りましょうか。本当はこのまま南アルプス林道を伊那市まで行きたいのですが、この奈良田から先はマイカー進入禁止となっているので入れません。甲府方面へ行く丸山林道というのもあるのですが、地図で見るとごにょごにょしてて走るのが大変そうだし、同じ道を通って帰ることにしました。 県道37号線を走り、富士川を渡ると、また例の本栖みちへ。次から次に激しいヘアピンカーブが襲ってきます。下りよりかは上りの方がまだ運転は楽ですよね。 車両重量は170kgとかなりスリムだし、ハンドル形状やシートの座り心地、ステップの位置などが、本当によく作られていてライディングポジションが楽だし、運転してて辛いことが一つもないのです。なので、右へ左へひらりひらりとまるでダンスをするような気分で、手ごわいカーブをこなしていけるのです。 さすがにいつも乗っている400ccの愛車と比べればパワーはやや落ちるようですが、かといって坂を上がるのに難儀する、なんてことはまったくありませんよ。 昼間でも薄暗くて怖い青木ヶ原樹海の中を必死で駆け抜け、夕方4時半過ぎ、道の駅富士吉田に到着。今日は朝食べただけなのでかなりお腹が減っています。レストランのラストオーダーは16時45分なので滑り込みセーフ。ここ富士吉田の名物「吉田のうどん」をいただきます。地元福岡の博多のうどんはまったくコシが無いタイプなのですが、ここのはかなりゴワゴワしてて、食べ応えがあります。元々は、忙しい農作業の間に食べるので腹持ちがいいように、硬めに茹でているのだそうですよ。 食後は少し走ったところにある山中湖畔で、ただボケッと暮れていく夕日をしばらく眺め、「道志みち」こと国道413号線を使って相模原まで走ります。 この道は、休日ともなると走り屋達がムチャクチャな運転をするので本当に怖いのですが、今日は平日なので安心です。 ここも急カーブが続く狭い道。しかも日がとっぷり暮れ、走りづらいのですが、マルチリフレクターを採用した強烈な顔つきのデュアルヘッドライトが照らし出す強い明かりのためとても見やすく感じています。 そして八王子からは高速に乗っかって高井戸まで走り、その後はカンパチ(環状八号線)から青梅街道に入って高円寺まで戻ってきたのでありました。
昨日今日とずっといっしょに過ごした、このカワサキZ250ABSの「Zくん」なのですが、「感想は?」と聞かれれば、無責任のようですが、やっぱし一言、「ものすごく乗りやすい」しか思いつきません。 軽量で足着き性がよく、取り回しがしやすく、燃費もいい。ブレーキもABSの機能があるからロックの心配もないし、クラッチも「アシスト&スリッパークラッチシステム」で軽い操作ができるうえにシフトミスにも対応できる。オマケに真夏の熱いエンジン熱を感じずに走ることができるしね。 無理して欠点を探すとすれば、大量のキャンプ道具を積んで長距離を走るタイプではない、ということかなぁ〜? シート下にはETCやU字ロックを積めるスペースはあるけどさ。 あとはシートのアンコがもうちょっと多いのが好みかな。最後に一つだけ。ヘルメットホルダーが欲しいな。引っ掛ける場所はあるけどカギが掛からないもんね。 でもでも、ホントに楽しい旅ができましたよ。明日は編集部に伺って「Zくん」を返したら代わりに「Ninja250SL」を貸していただく予定です。 今度の相棒はどんなヤツなのか、今からワクワクしています。