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第97回 開幕戦カタールGP FromDuskTillDawn

 電子制御やタイヤやいろんな要素が一度に大きく変わって、それが各陣営の勢力関係に果たしてどのような影響を及ぼすのか、大きな注目の集まった2016年開幕戦……だったが、終わってみれば、強い人があいかわらず強い、言ってしまえばまあ<いつもどおり>で<ふつう>のレース結果だった。
 優勝はホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。ポールポジションからスタートしてトップ争いを経て中盤で前に出て、最後は大きく引き離してチェッカー。2位はずば抜けたトップスピードにさらに磨きがかかったドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾ。3位はプレシーズンの不調から見事に帳尻を合わせてきたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。表彰台を逃したものの、僅差の4位には、このレースウィークにヤマハとの2年契約を更改したばかりのバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。やはり彼らが今年もチャンピオン争いを繰り広げてゆくのだろう。
 とはいえ、その<いつもどおり>のチャンピオン争いを実現するために、各陣営は不眠不休で並々ならぬ努力を続けているのだろうし、その努力を掬い上げもせず<ふつう>などとほざいていると、「上っ面しか見てなくて内側の苦労を知りもしないくせに、なあにが<ふつう>だよ」という苦言がどこかから聞こえてきそうである。
 ごめんなさい。


#99

#04
やはり、今年もチャンピオン候補筆頭か。 レース中の最高速度は349.8km/h。

#46

#93
39歳までは現役を続行、ということです。 今年は王座奪還、なるか。

 さて、今回の開幕戦で<ふつう>でなかったことといえば、スズキの躍進が挙げられるだろう。2015年にMotoGPへの復帰を果たしたチーム・エクスター・スズキは、昨年のレースでもフロントローを獲得してポテンシャルを少しずつ発揮しつつあったが、レースになるとなかなか高い結果を残せないでいた。
 今年は開幕前のテストからマーヴェリック・ヴィニャーレスが好調で、将来のMotoGPを担う一翼と世評の高いこの若者がようやく本来の才能を少しずつ開花させつつあるという、そんな印象があった。今回の開幕戦でも、土曜の予選を終えてフロントロー3番グリッドを確保。それに先立つ初日の走行では、セッション中にロッシがヴィニャーレスの背後で走行しながら走りを観察する、というひと幕もあった。この日、ロッシはヴィニャーレスの走りについて
「うまく乗っているね。ライン取りもいいし、MotoGPにうまく順応している。才能もあるから勝てる逸材だろうね。しかも、クソ若いし(笑)。スズキはだいぶ良くなってるよ。レースでも、マーヴェリックは絡んでくるんじゃないかな」
 と評した。
 その決勝レースでは、序盤からトップグループにしっかりついて行ったものの、途中から少しずつ引き離される展開で、最後は6位。
「正直、もっと走れると思っていたんだけどね」
 と、やや悔しそうな笑みをうかべながらレースを振り返った。
「トップ争いをしたかった、ってのが本音だよ。バイクのフィーリングが途中からはあまりよくなかったかな。立ち上がりのグリップがいまひとつで加速もないし、ブレーキングでもリアが滑っていた」
 ところで、今回のレースウィークでは、ヴィニャーレスは2015年仕様の車体で走行し、チームメイトのアレイシ・エスパルガロは2016年型でセッションを進めていた。ヴィニャーレスと比較すると総じて苦戦気味だった兄エスパルガロは、2016年仕様では充分なフロントのフィーリングを得られなかったことから、ウォームアップ後には賭けに出て2015仕様の車体へとビッグチェンジ。リザルトは11位、と厳しいものだったが、
「バレンシアからほぼ乗ってない車体だったけど、レース序盤はフィーリングよく走ることができた」
 と賭けに出ただけの成果と手応えは掴んだようだ。なので、次戦のアルゼンチンもこの車体で走るつもりなのか、と訊ねてみた。
「これからチームと相談するつもりだけどね。現状、なんでこういうことになっているのかを、まず理解しなきゃならないし。アルゼンチンでは、2015年の車体を使った方がいいんじゃないかと思う。去年はエンジンが遅かったけど、その状態でもアルゼンチンではいいレースをできた。今年はエンジンがすごく良くなっているので、去年の車体に新しいエンジンを乗せれば、きっとトップに近いところで走れるんじゃないかと思う」
 さて、次戦で彼らは、ヤマハ・ホンダ・ドゥカティのビッグ3を脅かす存在に果たしてなれるのかどうか。ホントに健闘を期待しています。


#25

#41
次戦は表彰台争いをするかな!? とにかくフロントの信頼感が問題なのだとか。
*   *   *   *   *

 今回のレースでは、ウィングレットにも大きな注目が集まった。ドゥカティ陣営は昨年もすでに、マジンガーZに出てくるジェットスクランダーのようなでかいウィングを使用しており、今ではヤマハやホンダもその流れに追随する傾向にある。
 ただ、このドゥカティのジェットスクランダーは乱気流も発生させるサイドエフェクトがあるようで、近くを走るライダーはその影響を受けがちなのだともいう。
 たとえばダニ・ペドロサは、
「フロントが振られて、接地感に影響が出てしまう」
 と話している。装着することの効果や有効性に関しては、バレンティーノ・ロッシは
「乗っていてもあまり影響は感じないんだけどね。それに、見た目がそもそも不格好だからあまり好きじゃない」
 と述べ、実際に決勝レースでも彼のマシンにはウィングレットは装着されていなかった。
 では、それを付けている当事者はどうなのかというと、ドヴィツィオーゾによると
「さあ、どうだろう。自分自身は他のドゥカティからそういう影響を受けたことはないし、特に問題じゃないとは思うんだけど……、どうなんだろうね、わからない」
 とのことである。


DUCATI
ミシュラン二輪モータースポーツグループのボス、ニコラ・グベール氏と、なにやらヒソヒソ話。

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 2016年は、多くの選手が契約更改の節目を迎える年でもある。シーズン中盤あたりにはこの話題でかなり盛り上がるのだろうなと思っていた矢先、バレンティーノ・ロッシが早速、ヤマハとの2年更新を発表。2月のセパンテストなどの際には「シーズン序盤数戦を戦って、自分がまだ現役を続けられそうかどうかを確認してから、交渉を詰めたい」と話していたが、開幕戦であっさりと契約をリニューアル。「ヤマハが提示してくれて、自分にも否やはなかったので早々にサインした」のだとか。
 チームメイトのロレンソとは、レースウィークのFP4でラインを邪魔したのしないのでまたひと悶着があり、そっち方向でも相変わらずゴシップネタの提供は続きそうだ。
 一方のロレンソはというと、ドゥカティと交渉しているという話が今回もお約束のように流れているけれども、じっさいのところは、移籍する可能性はかなり低いのではないだろうか、というのが現状での個人的な印象ではある。チャンピオンチームで今年も優勝争い筆頭のパッケージを手放してまで、わざわざ外様としてイタリアメーカーに積極的に転身するリスクを取る理由がどこまであるのだろうか、と考えると、ちょっと、ねえ。
 ヤマハのリン・ジャーヴィスは「ホルヘの性格からするとおそらく、いろんな条件をすべて検討したうえで、最終的な結論を下したいと考えているのだろう。我々としてはもちろん、彼に残ってほしいと思っている」と話している。
 あ、あと、ヤマハサテライトのブラッドリー・スミスが、来季にMotoGP参戦を果たすKTMファクトリーと2017/2018年の契約を締結したことも発表された。これは正直、ちょっと驚きました。


DUCATI
来季は、オレンジ色に染まるわけですな。

*   *   *   *   *

 というわけで、そんなこんながありつつ、2016年の開幕戦カタールGPでした。次回は、第4戦ヘレスあたりにお届けします。では。


 



■2016年 第1戦 カタールGP バレンシアサーキット

3月20日 


順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge Lorenzo Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


2 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


3 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


4 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


6 #25 Maverick Viñales Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


7 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


8 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


9 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


10 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich HONDA


11 #41 Aleix Espargaro Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


12 #50 Eugene Laverty Aspar MotoGP Team HONDA


13 #19 Alvaro Bautista Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


14 #43 Jack Miller Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


15 #53 Tito RABAT Estrella Galicia 0,0 Marc VDS HONDA


Not Classified #6 Stefan Bradl AAprilia Racing Team Gresini Aprilia


Not Classified #76 Loris Baz Avintia Racing DUCATI


Not Classified #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


Not Classified #29 Andrea Iannone Ducati Team DUCATI


Not Classified #68 Yonny Hernandez Aspar Team MotoGP DUCATI


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