あれは2007年、このモデルがまだZZR1400と呼ばれていた頃、まったく新しい時代のメガスポーツが登場した、とさんざん乗りまくった。一般道は渋滞路、高速道路、ちょっと地方のバイパスにワインディング、サーキットも走った。スゴい時代になったな、非の打ち所がないじゃんか――そう思ったのを覚えている。
そのZX-14Rの2016年モデル、試乗したモデルはハイグレード仕様という、ブレンボキャリパー、オーリンズリアサスが標準装備されているものだったけれど「非の打ち所がないじゃんか」って印象が、少しも揺るがない。じつはこの試乗と前後して、カワサキの誇る200PSモデルであるH2、ZX-10Rにも乗ったんだけれど、ZX14Rの完成度ばかりが光る結果となったのである。そのあたりは、発売中の月刊オートバイをご覧ください♪
相変わらずイカツいルックスで、少し離れて見ると、やっぱり巨大だ。またがるとズッシリ重いのは間違いないけれど、それでも重心が低く、車重を安定性に振っているのもわかる。走り出すと、低回転のトルクを(おそらく意識して)削っているのだろう、ラフな扱いでも粗暴な動きをしていない。1400ccのトルクをそのまま出してしまうと、もっとドンと車体が出るし、アクセルのオンオフでぎくしゃくしてしまう。14Rにはそれがないのだ。
トルクの盛り上がりも然り。ちょっとオーバーにアクセルを開けてみても、回転の上昇は人間の感覚から離れてはいてもかけ離れすぎていないし、ビッグバイクのキャリアがある人ならば、苦もなく使えるはずだ。その時のパワーの出方もジェントルで、決して凶暴じゃないのが14Rなのだ。
もちろん、その気になったら劇的に速い。なんだろう、気持ちのスイッチを入れたら14Rにもスイッチが入るというか、よーし、そろそろ!と思ったら、14Rも応えてくれる。
残念ながら、日本の法定速度なんてローギアで出ちゃうけど、この14Rの本領は5000回転を越えたあたりから。アクセルを開けていくとグングン加速して、まさに上半身が置いて行かれるような、そんなヘビー級な加速感なのだ。これは、H2やZX-10Rの加速感とも全く違うね。重量物をグイグイ引っ張るトルクはさすが1400ccで、タコメーターの針の動きも速くなるような感じだ。
いちど旧型だけれど、サーキットで高速周回したことがある。その時のZZR1400は、180km/hで巡航するのもぜんぜんラクだった! 法定速度ではわからないようなスピード域でウインドプロテクションがよくて、車体は路面に吸い付くように安定。しかも、レーンチェンジのような動きの時には、サッと左右の動きに対応してくれる。これは車体のサイズ設定と車体剛性が上手くできているからで、たとえば現実的なスピードだと、100km/hで3時間走り続けたって平気、ってことにつながるのだ。
Ninja ZX-14R。ライダーの身長は178cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
現代スポーツモデルとしては当たり前の装備と言えるトラクションコントロールも装備されていて、3段階に調節可能。介入強/介入弱/介入オフで、真冬の冷えた路面の日や雨の日には介入「強」にしておくのがいいよね。心の安心というか(笑)
パワーモードはフルパワーとローパワーの2モード。ローモードにすると、レスポンスが穏やかになって、パワーもフルパワーの75%ほどに抑えられるらしい。これは、さほど必要だとは思わなかったかな。ライダーのアクセル開けをジワッとやれば済む話だ。
車体の動きも安定そのもの。重量をきちんとタイヤのグリップに使っていて、特にフロントタイヤがべたっと路面に吸い付いているかのような接地感がある。ハンドリングも、あくまでフロントタイヤを軸にした安定性があって、これが14Rなんだな、と気づかされる。
つまり、エンジンは大馬力だけどジワッとパワーを出し、ハンドリングだってヘビー級の車重だけれど、それを安定性に振っている――つまり、1400cc/200PSで車重は260kgというスーパーヘビー級であっても、そう持て余さない、とんでもないジャジャ馬、ってわけではないのだ。これが人気の秘密なんだろうと思う。
やはりZX-14Rの本領はGT=グラン・ツーリスモなんだと思う。長い距離、長時間を移動するのも、速くて快適、というグランドツーリングバイク。900ニンジャは別としても、1000RX以降のカワサキ・フラッグシップは、こういうスタイルだよね。
高速道路に乗り入れて、トントンとトップギアに入れてクルージング。6速80km/hは2600回転、100km/hは3300回転、120km/hが4000回転。わかる? 日本の法定速度なんて、ほんのアイドリング+αでしかない(笑)。
エンジンはスーッとフリクションなく回って、無振動というより、エンジンが回っている手応えがちゃんとある。これもカワサキ・フラッグシップのいい伝統だよね。
ワインディングでも、キレるハンドリングというより、これも安定感を武器にベターッと寝る。寝かしこみも重量感があって、バンク中もしっとり、起きるのもズッシリ。切り返しもちゃんと重量感があって、決してクイックなハンドリングじゃない。もちろん「鈍」ではないから、クイックに動かしたいならば、ライダーが入力を増やしてやればいい。それでも、それ相当のオツリがくるからね、ハイペースでワインディングやサーキットを走りたいならば、そこは覚悟しておくといい。そういう走りがしたい人は、ZX-10Rを選べばいいのだ。
今回、ちょっと強調しておきたいのは、16年モデルからハンドルポジションがやや高く、ライダーに近く設定されているから、上半身がかなりラクになっていること。試乗したハイグレード仕様は、オーリンズの乗り心地が際立ってイイ。この乗り心地のよさっていうのは、スプリングがソフトで、それでも減衰がきちんと効いているようなフィーリング。ブレンボは、まさにローターをパッドがはさむのを見ているように感じられるほどジワーッと効いて、コントロールしやすい。ブレーキやサスペンションって、サーキットでガンガンにタイム出しをするときだけじゃなく、50km/hで街を流していたって良さを感じられるからね。いいナ、これ。スタンダードとの価格差(税別17万円)だけでよく収めていると思う。
カワサキ・フラッグシップ、メガスポーツ、GTってカテゴライズされていたって、14Rはオールラウンドに使いやすいスポーツバイクだ。まぁ、通勤通学に使うバイク選びには向かないけれど、街乗りからショートツーリング、ロングツーリングまで苦もなくこなしてしまう懐の深さを持っているバイクなんです。
6速3000回転なんかで流していると「いまエコライディングしてますよ」というECOランプが点灯してくれる。カワサキ・フラッグシップには不似合な感じはしたけれど、これが現代のGTなんだね。
(試乗:中村浩史)
シート下にはスプリング格納式の荷掛けフックが標準装備される。GPZ1000RXあたりから、収納式バンジーフックが装備されていたけれど、こういう伝統はカワサキ・フラッグシップのいいところ! フック下のシルバーのグリップはセンタースタンド用グリップ。 | シートは硬めで、これは柔らさよりも長時間ライディングの快適さを考えてのもの。シート下左にはヘルメットホルダー、右にはヘルメットフックが装備される。 |
メインスイッチをONにすると、液晶デザインが変化するおしゃれ演出。まずヘッドライトデザインのイラストが表示されて、カワサキエンブレムが出現した後に通常デザインが表示される。スイッチオフ時にはKマークが現われてから表示オフになるのだ。 |
中央の液晶表示部は、ギアポジション、外気温、水温や時刻、ガソリン量と、パワー/トラクションコントロールのモードを表示。さらにオド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、残ガス走行距離も表示する。16年モデルから、液晶表示は背景色を白と黒に選択できる。 |
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