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展示されているという噂を現場で聞いたものの、EICMAの展示車両についてホンダが発行する日本語のプレスリリースにはその案内は含まれていないし、ホンダブースに行っても最初は展示車両を見つけられず“ガセか?”と疑っていました。やっと展示車を見つけ、近くにアンケートボードを持って立つスタッフに色々と話を聞くことができました。その人は、2台のデザインスタディモデルを発表したホンダR&Dヨーロッパの社員。日本のプレスリリースにはこの車両のことが含まれてなかったんだけどと聞くと「当たり前だよ。これはホンダR&Dヨーロッパが手掛けたもので、日本のホンダは関係ないから」と。なるほど……欧州マーケットのためのEICMAですから、欧州中心のプロモーションが行われて然るべきなのですが、そのときはちょっと不思議な感じがしました。それ以外のニューモデルやコンセプトモデルは、リリース内に表記されていましたから。
 
またデザインスタディとは言え、ホンダが既存モデルをベースに(両車はCB650F or CBR650Fがベース)カスタムバイク的な手法をとってくるとは驚いたと伝えると「そうだね。やっとヨーロピアンスタイルにチャレンジできたって感じかな」。この返事は、ちょっと面白いなぁ、と感じました。

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このヨーロピアンスタイルというのは、ご存じの通り、ヤマハ・ヨーロッパやBMWを筆頭に、ドゥカティやモトグッツィなど、欧州ではメーカーがカスタムビルダーと組みカスタムバイクを製作するというトレンドのこと。そのトレンドを内包する欧州のカスタムシーンは、いまや欧州二輪マーケットを動かすほどの勢いを持っています。いままでホンダはそのトレンドになびくことなく、我が道を貫いていたのですが、その勢いをもろに感じていた欧州のR&D部門が、しびれを切らしたのではないかと想像したわけです。欧州に吹き荒れるトレンドを、ホンダ的に解釈するとこうなりますよ、と。

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いま欧州で二輪メーカーがカスタムシーンと密接な関係を築こうとしているのは、単にカスタムシーンが盛り上がっているからではありません。このネタについて僕はいたるところで書いているのですでに皆さんのお耳に入っているかも知れませんが、欧州二輪マーケットはいま、日本と同じ問題を抱えています。ライダーの高齢化、若者のバイク離れ、先鋭化する機能を敬遠する動き……MotoGPで勝とうがスーパーバイク選手権で勝とうが、スーパースポーツ選手権で勝とうが、それが理由でバイクが売れたりしないのです。
 
そこで新たな価値を創造するために二輪メーカーが見いだしたのがカスタムシーンというわけです。カスタムとは究極のパーソナライズでありますが、カスタムシーンの周りには音楽やファッションと言った、バイクとは異なる小宇宙が無数に&密接にリンクしています。カスタムシーンに飛び込むことで、その異なるシーンへの広がりを期待できる。そこで満足度を高めるためにはマスプロダクトで追求してきたいままでの価値観とは一線を画し、パーソナライズによってバイクの価値の深度を深める。二輪メーカーが考えていることは、ココなのではないかと思います。

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またそのシーンで深くバイクと関わっているオトナたちは“旧車”に乗っていることが多く、しかし新しくこのシーンに入ってきた人たちにとって“旧車”は、それを維持するのも乗りこなすにもハードルが高い。ならば、そのシーンのなかでも違和感が無く、しかし最新の機能を持ったニューモデルがあれば楽しいのに。近年、各メーカーが取り組むネオスタンダードバイクの開発は、そういった思考が働いているのではないかと想像するのです。
 
話が大きく逸れてしまいましたが、ホンダのデザインスタディモデル、カフェスタイルの「CB4」とスクランブラースタイルの「CB Six50」に話を戻しましょう。個人的には、同じくEICMAで発表されたコンセプトモデル「CITY ADVENTURE」よりは、この2台のデザインスタディモデルが市場投入されることを望みます。「CITY ADVENTURE」は非常に魅力的なのですがエッジが立ちすぎて、これをどこで乗って良いのか分からない。あくまでも個人的な意見ですが……

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それにEICMA前に開催された東京モーターショーや、2016年年明け早々に開催された東京オートサロンのホンダブースでは、CB1100をベースにした「Concept CB」が発表されています。そのConcept CBとEICMAのデザインコンセプトバイクは、その目論見が違うのはよく理解しているのですが、でもいままでのホンダとは違うカタチであちこちから狼煙が上がっているような気がして、これを続けていけば二輪マーケットをひっくり返すようなモデルがホンダから出るのではないか、と期待してしまうのです。本気になったホンダは、凄いですから。

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まず「MT-10」のリリース。まさか4気筒エンジンで、しかも2015年モデルのYZF-R1をベースに、MTシリーズを拡充するとは思ってもみませんでした。しかし“MT=マスター・オブ・トルク”であることを考えると、シリンダー内で生まれた純粋な爆発トルクを抽出するクロスプレーンコンセプトの最高峰モデルであるYZF-R1エンジンにフォーカスすることは、ごく当たり前のことという話を聞いたときには、そりゃそうだと、思いっきり膝を打ったのでありました。

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しかしヤマハはこれで、250cc2気筒から1000cc4気筒まで、すべてのカデゴリーにMTシリーズを配置したことになります(アジアマーケットにはさらにレンジの広いMTシリーズが存在していたような…)。これはヤマハのスタンダードモデルが、新しい技術とビジュアル、そしてコンセプトによって貫かれたニュージェネレーションに入れ替わったと言えるのではないでしょうか。そしてそれによって、日本メーカーが苦手としてきた、自らを端的に表現できる記号をもったのではないかと思います。ヤマハと言えばMT、みたいな。すでにリリースされているMT-09&07は、世界的にも販売は好調なようなので、MT-10のリリースで市場がどう反応するか、大いに楽しみです。
 
つぎに「XSR900」です。2015年7月に「Faster Sons」コンセプトのもと、MT-07のプラットフォームを用いたネオクラシックマシン“XSR700”が発表されました。そのXSR700はいまのところ、ヤマハの逆輸入モデルを扱うプレストコーポレーションでも取り扱いがないのでいかなるフィーリングのマシンかは分からないのですが、欧州ではすでにプレス向けの試乗会も終わり市場導入されています。そこでの話をまとめると非常に評判が良い。ビジュアルはもちろんのこと、乗り味においてもMT-07とは違う世界が構築されていると。でEICMAではMT-09のプラットフォームを使った「XSR900」がリリースされたわけです。この原稿書いている段階で、スペインでプレス向けの国際試乗会も行われているようで、欧州導入も間近と言えるでしょう。

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しかし、まさか“XSRシリーズ”を拡充してくるとは思ってもみませんでした。900がラインナップされちゃうってことは、MT-10ベースの“XSR1000”だってありってことになっちゃいますから……このあたりは自分のなかでは答えが出ていません。そこで違う角度から“XSRシリーズ”を見てみると、ふと気になったのが欧州のラインナップカテゴリーである“スポーツヘリテイジ”です。スポーツヘリテイジカデゴリーにはSR400やXJR1300、VMAXやXV950(日本のBOLT)がラインナップされています。要するに“ちょっとレトロなモデル”がここに居るわけです。しかしSRとXJRはこのカデゴリーを牽引するモデルであると同時に、設計が古い。もしかして騒音規制や排出ガス規制が厳しくなる欧州マーケットにおいて、このカデゴリーにおいても抜本的なモデル入れ替えが必要なのでは?と想像したわけです。

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最初、この“スポーツヘリテイジ”に取って変わるのが“MT”だと思っていたのですが、MTは独立したカデゴリーになった。そしてスポーツヘリテイジは役目を終えたわけではなく、XSRシリーズを加えることで新たな価値を生み出すことができるモデルカデゴリーになるのではないでしょうか?あ、そう考えると4気筒モデルがあったって良い。“XSR1000”も、あるかも知れませんねぇ。そうなると、このカデゴリーはさらに面白くなると思います。
 
最後はカスタムシーンにおける存在感の強さです。今回ヤマハはニューモデルを展示するヤマハブースのほかに、カスタムバイクが集まるエリアのど真ん中にヤマハ・ヨーロッパのカスタムプロジェクト「YARD Build/ヤードビルド」ブースをドーンと出展していました。そこが人気だったのはもちろんですが、EICMAの前後も様々なモデルを使った新しいYARD Buildカスタムが世界中で進行&発表していて、いまやYARD BuildやFaster Sonsというキーワードは、“ヤマハ”という枕詞を取り外したところで一人歩きしていると感じるほど。EICMAウィーク中にミラノ市内で開催された“Faster Sons”パーティには、会場に入りきれないほどの人が押し寄せたというし……バイクを通して、こういった新しいコミュニティを造り上げているのもヤマハだけなのです。

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こんな感じでとても勢いを感じたEICMAのヤマハ関連ネタでした。



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