幻立喰・ソ

第66回「ああ、よかった!(前編)」

 
 国営放送の大河ドラマ、昨年は視聴率がはかんばしくなかったそうです。悪ければ悪いで話題になるのですから、さすが大河。でも、そろそろ時代をシフトして明治後期から昭和初期にスポットを当てていただけないものかと思います。まだまだ生臭すぎて日曜8時にはダメでしょうか? 

 今年の大河の舞台は信州は上田、誰でも名前くらいは知っている六文銭の真田さん。もちろん広之ではなく、昌幸の息子さんの幸村さんです。六文といえば黄色い看板の立喰・ソですが、ドラマにはたぶん、いや間違いなく出てこないでしょう。残念です。やはり信州と切っても切れないソです。相乗効果によって地元おそば屋さんも特需にあやかれますようにとソ神様に願いつつも、特需が来る前の2013年11月30日、残念ながら幻立喰・ソになってしまったのが、ひしやです。

「あれ? なんか本題に入るの早くね?」と思われた貴方、だらだら無駄話するほど、いつまでも私だってヒマではないのです。2016年は違うのです。きっとなにか(希望的観測)。

 今ではあまり見かけなくなった車内持ち込み用のどんぶりもありました(写真をクリックすると出てくるお品書きにある持込丼がそれです。知らない人は「持込丼20円? 安っ! 小諸名物なのか」と驚くでしょう。そして注文したら出てくるのは、あのぺなぺなの白いどんぶり……驚いたことでしょう。

 ひしやで10回くらいは食べたと思いますが、いつもおばちゃんが不機嫌で「ありがとうございます」どころか一言も口をきいてもらった記憶がありません。きっと私のことが嫌いだったのでしょう。そういう人は世の中にたくさんいすぎますから、いまさら驚きません。
 
 駅前には、信州手打ちそば處ひしやというりっぱなおそば屋さんがあります。ちょこっと調べてみたら、立喰・ソのひしやはひしや弁当店の出店のようで、駅前のこのおそば屋さんも関連会社みたいです。



ひしや


ひしや
ホームの中央にあったひしや。ご覧のようにカウンターのみの吹きっさらしで、お菓子や菓子パンにカップ酒、自家製の駅弁も売っていて、さらに無愛想なおばちゃんもいて、絶滅寸前な国鉄時代地方型昭和立喰・ソでした。(2009年8月撮影)

 
 小諸止まりで乗り換えたり、JR小海線との接続駅だったりで、そこそこ乗降客のありそうな小諸駅ですが、新幹線開業前に比べれば人影もまばら。お隣の上田は新幹線も停まるし、大河ドラマがやってくるしで、ウハウハなのと対照的です。こんなことなら新幹線通過反対しなければよかった……と、当時反対した市長さんは思っているのかいないのか。

  
 ウの大チェーン店、丸○製麺が丸亀にないように、富士に名代富○そばがないように、小諸にはあの小○そばはありません。
 小諸駅からしなの鉄道、北陸新幹線、上越新幹線、東北新幹線、津軽海峡線と乗り継ぎ、はるばる来たぜ函館〜よりももっと先、北海道ツーリングに初めて行った人が、「え〜!? 函館から札幌ってこんなに遠いの!」とたいてい驚く国道5号線を走り、せっかくだから小樽にも寄りたいねと、中山峠越えではなく国道393号を経由してやっと到着した札幌のさらに先、函館本線を疾走する特急スーパーカムイで、札幌から30分ほどの岩見沢。駅前には第53回でご紹介させていただいた、げそ丼発祥の地といわれた小もろがありました。
 が、今回はさらに函館本線に乗り続け、第34回でご紹介させていただいたTHE立喰・ソシティの滝川から根室本線に乗り換え、「JUN!」でおなじみ大観光地富良野、駅ソががんばる新得、ワイン城で有名な池田を経てたどり着いたのが帯広です(結局、いつもよりヨタ話が長いんじゃないの)。

 帯広駅付近に3軒の立喰・ソがあるらしいのは、ネットで検索すればわかります(そのうち1軒はすでに幻立喰・ソのようです)が、東京からだと坂崎師匠の名著のように「ちょっとそばでも」と簡単に行けません。と、安易に言うと帯広の方に「ふざけんなよ! チェーン店の小○そばに行く方がどんだけ遠いんだよ」と怒られそうです。だから怒られる前に行ってきました。もちろん前々回ご紹介した49禁の大休を使い倒して。
 東京18時20分発の東北新幹線はやぶさ31号、青森からお友達にはなれない大きなお友達がたくさん乗っている急行はまなす、札幌で特急スーパーおおぞら1号と乗り継げば翌日の朝9時25分にはもう帯広です。



みどりと風のシンフォニー


こもろ
りっぱな帯広駅に到着。1月なのにごらんのように雪は少なめ。でも、やっぱり北海道、キンキンに寒かったです。(2016年1月撮影) 惜しくも2014年2月16日をもって幻立喰・ソになってしまった岩見沢駅前の小もろ。帯広の小もろとの関係はあったのでしょうか?(2012年4月撮影)

 
 帯広駅から5分ほど歩けば、昭和テイストあふれる小さなお店が詰まった飲食店ビルや、いかにもな小路が並ぶ夜の町です。午前中はがら〜んとしていますが、85,910世帯、168,539人(2015年末現在)が暮らす帯広市ですから、日が落ちると華やかでしょう。
 その一角、飲食店が入るビル1階に小もろはありまし……ない! ええええ! まさかすでに……おろおろうろうろするうち無事発見。当たりをつけた場所ではなく一本裏の路地でした。「ああ、よかった」(←この言葉、憶えておいてください)。お休みだったり、食べ○グの地図と場所が違っていたり、すでに幻立喰・ソだったり、今までさんざん痛い目に遭い続けていますから、「立喰い」とある立派な看板にのれんを見ると嬉しさもひとしお。思わず「ああ、よかった」と口から出るのです。



小もろ

 わくわくのれんをかき分け、がらがら引き戸を開けると、いい香りがストマックを刺激します。見回せばゆったり余裕の店内。逆への字型に配置されたカウンター、奥にはもうひとつ入口があります。左手には簡易テーブルとパイプ椅子、その横にはストーブが赤々と燃えている居心地の良さそうな座敷まで配置。未だかつて見たことのないスーパーハイブリッドな店内です。
 そんな複雑な店内フォーメーション(というほどではないけれど)と相反するように、お品書きに目を移せば、お値段はかけとざる系を除き、ほとんどが370円均一というシンプルな北海道仕様(除く札幌)です。
 と、その横になにやら貼り紙が。

閉店の御案内
1月31日をもって閉店致します
長年にわたり多くの
お客様に御愛顧いただき
有難うございました
店主

「ああ、よかった!」
 この貼り紙を見て私が発した第一声です。閉店の悲しい貼り紙を前にして、ド一見の客の第一声としては不謹慎すぎて、立喰・ソ神もお口あんぐりです。

 このあと、何があったのか。
 現在、私の目の前に美しいどんぶりが鎮座している。それは、まごうことなき事実です。

(後編につづく。たぶん)



小もろ


小もろ
はるばる帯広までやってきて、いきなりこの貼り紙を見たら……言っちゃいますよね。(2016年1月撮影) なぜ小もろのどんぶりが手元にあるのか? 乞うご期待! することなく以下次号で。(2016年2月撮影)

●立喰・ソNEWS 2016

北海道新幹線開業を3月26日に控えて盛り上がる函館ですが、肝心の新幹線は函館駅には入らず、18kmほど離れた新函館北斗駅(現在の渡島大野駅)にやって来ます。ということで、今までは本州からやってくる特急と札幌に向かう特急の乗り継ぎ駅として賑わっていた函館ですが、新幹線開業以降の乗り継ぎは新函館北斗駅になることを見越してか、まったく別の理由からか、この春を待たずといいますか、冬も待たず昨年9月27日、函館駅5-6番ホームにあったみかどは幻立喰・ソになっていました。急行はまなすも廃止になるし、楽しみがどんどんなくなっていくような。せめて新函館北斗駅に立喰・ソが出来れば……3月26日をお楽しみに。



みかど

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


[第65回|第66回|第67回]
[幻立喰・ソバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]