「カフェレーサー」って言葉の意味は諸説あるけれど、見ているだけでかっこいい、仲間に見せびらかしたくなるようなチューニングバイク、ってニュアンスだろう。お気に入りのカフェにみんなで乗りつけて、あーだこーだと自分の愛車を自慢しあう、そんな楽しみは、今も昔も、イギリスだろうが日本だろうが、ずっと変わらないバイク乗りの楽しみだ。
XJR1300Cは、まさにそんなバイク。元となったXJR1300が、その前身の1200を含めると、もうデビューから20年もたつ大ベテランモデルだけに、ここらでちょっと手を加えてみよう、なんてタイミングなのだろう。しかし20年、1300になってからも17年か……これはちょっと放っておきすぎだけどね(笑)。
開発をリードしたのはヤマハ・ヨーロッパで、そう多くの台数を作る予定でもない少量生産モデル。もともと走りには定評のあるロードスポーツなんだから、スタイリングをちょっとお色直しして、ファンの反応を探ってみよう、それから本社にかけあってニューモデルでも出しましょうよ、なんて流れもあるのかもしれない。
その1300Cはパッと見、タンクシートやヘッドライト、それに特徴的なサイドカバーと、スタイリングパーツが大きく変わっている。やはり目を引くのは、プレーンな丸型サイドカバー。ちょっとクラシックな草レーサーをイメージしているのだろう。
タンクはちょっとエッジが立てられて、ボトムラインを大きくえぐっている。シートはかなり思い切ったなぁ、このショートなフォルムは、なかなか本社製の量産モデルでは提案しづらいからこその少量生産モデルなのだろう。ヘッドライトが小径化されて、タンクとシートを大きくモディファイ。横から見たシルエットで、バイクの上半分をいじっていくという、まさにカフェレーサーの定番の手法なのだ。
でも、この変更は走りに大きく変化を与えている。数字でいうとほんの5kgしか(245kg→240kg)軽量化されてはいないけれど、この5kgが意外に効いているのだ。特にショートシートと小径ヘッドライトとなって、重心から遠い場所が軽くなっていることも、数字以上の効果を感じさせるのだろう。
XJR1300C。ライダーの身長は178cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
またがってみると、あのXJRのズッシリ感がやや薄れている。XJRだけじゃない、ビッグネイキッドのあのズッシリ感。XJRに試乗するのは数年ぶり、きっと1年以上は間が空いているから、最初は「あれ?こんな感じだっけ」っていう違和感。それがしばらくすると「あぁ、リアが軽いんだ」って気づかされる。特に左右にパッと振った瞬間の動きがずいぶん違う。おぉ、XJRって軽くなるとこんなかんじなのか。イイじゃん!
しばらく走り回っていると、やっぱりXJRはXJR。いまや国産モデルで絶対的な少数派となった空冷4気筒のフィーリングが気持ちいい。速すぎない感、インジェクションなんだけれど、ちょっとキャブレター風味な吹けあがり、ライダーとシンクロしているというか、やっぱりこれは空冷エンジンなのだ。速く走ろうとすると、ドンと速いんじゃなくて、徐々に速くなっていくし、軽量すぎないことが安定性という、きちんとメリットになっているアナログ感。原稿を書いていて、なんだか「感」が多いけれど、まさにXJRはそういうバイクなのだ。人間の感覚と一緒に走る、置いて行かれない、あの感じだ。
ただし、久しぶりに乗って「あれ?」と思ったこともある。まずは、ファイナルってこんなにショートだっけ? 5速ミッションだから、トップ5速で80km/hで走ると、2900rpmほど回っているし、100km/hだと3400rpm。ついつい、もう1速ほしいし、オーバードライブレシオでクルージングしたくなる。これなら、もう少しドリブンスプロケットを小さくして、もう少しロングレシオにすると気持ちいいのに。
燃費もあまりよくない。エンジン冷却のために、燃料噴射を濃い目にしているのだろう、そんなにカンカン走ったつもりはないのに、300kmくらい走っての燃費は13.0km/Lほど。う~ん、このペースなら15~18km/hくらい行くと思ったのに。さらにちょっと小型のプラスティックタンクになって、スタンダードのタンク容量21Lから1300Cで14.5Lになっているから、残量がまだあっても、120km走行くらいで燃料警告灯がついてしまう。スタンダードも、XJRの燃料警告はアテにならなかったけど、そこも健在しちゃダメじゃん(笑)。
つまり「空冷」の役割が、XJRがデビューした頃とは大きく違っているのだ。
あの頃は、CB1000SF、CB1300SFなんかと「快速ネイキッド」の座をめぐって、XJRもどんどん高性能化を目指していた。1200から1300になったのもそんな理由があったはず。でも、ホンダがCB1100で目指しているように、いま空冷を選びたい人は、もう少しのんびり感をほしいんじゃないか、と思うのだ。XJRをもっと軽く、ミッションはもうすこしハイギアードにして、クルージングの回転数は落とす、そうすると燃費もよくなる。そういう空冷4気筒を求めている人はまだまだ多いだろうし、このエンジンってやっぱり日本のオートバイの財産なんだから、やめちゃわないでね! 空冷エンジン、残してください!
ホンダがCB1300とCB1100を両立しているように、ヤマハもXJRをもっと「のんびり感」に振るための別の快速ネイキッド4気筒があるといいのに……と思ったら、おぉ、EICMAでMT-10を発表しているじゃない! あれはかなりイカツいけど、これで快速とのんびりの2本立てにできますね!
XJR1300は、間違いなく歴史に残るオートバイになる。ラインアップがなくなってから「あぁ買っておけばよかった」って、中古車価格が高騰するタイプの、ね。
(試乗:中村浩史)
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