2018年5月2日
第14回チキチキVMX猛レース
「宝は飾らず、しまわず、甦らせて走らせる! 250台が激走」
ビンテージモトクロスのビッグイベント、チキチキVMX猛レースがモトクロスヴィレッジで開催された。今回はヤマハDT-1発売50周年記念の特別イベントも開催され、半世紀前にヤマハワークスで日本グランプリ2年連続優勝を飾ったレジェンド鈴木忠男氏が来場し、マシンもウェアも当時を再現してパレードラップをおこなった。これには往年のファンから若いエントラントまで大感激!
パドックの隅から隅まで、果てしないお宝の山である。誰もがこの日のために仕上げてきた。「勝てるように」というよりも「ちゃんと走るように」だ。前回走って壊れたところはきちんと直してきた。だが今度はどこがどう壊れるかは走ってみないとわからない。そして本当に壊れてしまったとしても誰も驚かない。まいったなーと言いながら、ハイまた直しますよと笑う。
お宝たちは、国産車も外車も、かつて存在した今はなきメーカーもいて、旧くは60年代前半のスクランブラーから、ビンテージ界では「新しいほう」と言われる80年代のモトクロッサーやトレール車まで、排気量も幅広く50ccから650ccまで、とてもきれいなものからかなりヨレているのまで実に色々だ。これは! という希少車やオリジナルマシンも多数。どんなお宝も飾って眺めているだけなんてもったいない、走ってこそ、この姿、この振動、この音が今また甦る、それがVMXの魅力だ。
レースは年式や仕様で細かくクラス分けされ、同様のカテゴリー同士で走るわけだが、解りやすくは「ダウンチャンバー時代」とか「黒シート時代」「正立フォーク時代」といったくくり表記も楽しい。すでにお馴染みとなったWGPクラスや日本GP神鍋クラスに加え、新設の日本GP浅間クラスには、YA6、DT-1、AT-1といった多くのヤマハ車がエントリーした。もちろんほとんどのライダーが、忠さんリスペクトゆえのマシンセレクトだ。
いよいよレースが始まると朝までの雨もやみ、路面は急速にベストコンディションになっていった。1クラスにエントリーすると午前と午後に計2レース走ることができ、当然ダブルエントリーなら計4レース、なかなか忙しいことになるのだが、かなりの人がダブルエントリー、中にはトリプルエントリーもいる。その間には90分耐久レースもおこなわれ、ライダーもマシンもとにかく目一杯走った。
スプリント、耐久レース合わせエントリーは延べ250台越え。各レースともフルグリッドスタートからの大接戦だ。
コバヤシさん+スズキRN400(1973)
得意の溶接テクで希少車を仕上げるコバヤシさんは当時のあれこれをよく知る大ベテラン。『WGP~’76』クラスでみごと優勝を飾る実力には後輩ライダーたちもタジタジ。
ヨシトモさん+ヤマハAT125(1973)
クマガイさん+ホンダCR250M(1973)
『日本GP神鍋’72』クラスで華麗なトップバトルを披露するレジェンドのお2人。
アベさん+ヤマハYA6改(1964)
YA6といえば忠さんのヤマハワークスデビューマシンで活躍した銘車。「手に入れて3年になりますが、この頃パワーが出てきてエンジンがよくまわるんですよ」と嬉しそう。日本GP浅間クラス、エキスパートクラシッククラスのダブルエントリーで力走。
オオヤマさん+スズキAC90(1968)
隅々までピカピカに輝く、フルキットパーツを組み込んだスクランブラーAC90が日本GP浅間70クラスを快走。革のパンツやブーツもいぶし銀です。
ワカバヤシさん+トライアンフ・メティス500cc(1969)
メティスはイギリスのフレーム&シャシーキットのブランド。ブリティッシュ・クラシックファンには堪らない1台、そんな希少車を雰囲気いっぱい乗りこなす。
アサガさん+ドゥカティ スクランブラー450(1968)
「今日の僕はイタリア車代表! だよ」 かつてドゥカティがアメリカで販売し大人気だったスクランブラー。それにしてもこのタイヤで土の上を疾駆する浅賀敏則さんはさすが国際ラリースト、珠玉のライテク。痛めていた肩も最先端医療の力によってサイボーグに復活、大好きなテニスも再開。
タカヒラさん+ヤマハTT225(1986)
VMX歴10年、エンデューロ歴35年の実力派だけに、トレール耐久モノショッククラスの本命どおりのトップフィニッシュ。「和気あいあいな雰囲気が大好きです!」
ニシノさん+スズキRM250(1978)
「78年のRMは足周りがいい!」モトクロス歴40年、あれから40年! さらにTM125でダブルエントリー。「スズキ党? んー、そんな感じだね」と至ってクール。
ムラタさん+スズキGS750(1979)
このGSでモトクロス、それどころかホールショットを披露するスピードとテクニック。ストレートでのバックファイヤー炸裂にギャラリーからは大声援の大人気。
ハラグチさん+ヤマハSRV250(1992)
アップマフラーと前後フェンダーでクールなスクランブラー仕様が完成したSRV、これがまた速かった。こういうシーンが見られるのもチキチキの醍醐味。
ミハヤシさん+ブルタコ FRONTERA MK5 360cc(1975)。
走って楽しむプラス、その旧車が放つ空気感や、まつわる物語や、浸りたい気分といったことのすべてを満喫する日なのです。
マナベさん+ヤマハDT-1(1968)
忠さんリスペクトのあまり、睡眠時間を削りまくってタンクやマフラーを自作したDT-1ベースのYX26レプリカ。「忠さんに見てもらっただけで満足!」と感無量。
PPG RACINGの皆さん
茨城県のクラブチームは平均年齢も若く、クールなジャージで決める。リーダーのフジキさんはクラス優勝の活躍だ。
外車勢が走るWGPクラスではTR5T、T20SS、T90、T100、T120などトライアンフ率が高い。キレイなのからゴリゴリのまで、観ているほうも楽しい。
スタート前のウェイティングで、隣り合わせたライダーとバイク談義。何やらツボにハマる内容らしく笑顔また笑顔のリラックスムード、チキチキだからこそ。
表彰式は全クラスがバンザイ三唱でにぎやかに。キッズもレディスも元気に走りました。
レジェンド忠さんとDT-1スペシャル
半世紀のタイムスリップにファン感涙
特別企画 『ヤマハトレールDT-1発売50周年と“逆ハンで全開! 豪快の忠”』は、チキチキVMXと翌週末のMFJ全日本モトクロス選手権シリーズ会場で、連続して開催された。
忠さんこと鈴木忠男氏はヤマハファクトリーで1969年全日本モトクロス セニア250チャンピオンを獲得、ヨーロッパでも活躍した超レジェンドだ。その忠さんが今再び、マシンもウェアも当時を再現してパレードラップをおこなうという夢のようなシーンをひと目見ようと、チキチキVMXではエントラント全員が、全日本会場では6000人の観客全員が注目した。
いよいよワークスDT-1改レプリカのエンジン音が響き渡り、忠さんがスタート。珠玉のアクセルコントロールからフロントを浮かせながらの加速、迫力のコーナリングに舞い上がる土煙。誰もが圧倒され、息を呑んで見つめ、モトクロスの半世紀を遡る瞬間に魅せられた。そして会場は拍手と歓声に沸いた。
走行終了後は大勢のファンに囲まれ、握手や写真撮影に笑顔一杯で応える忠さん。何もかもあまりの懐かしさに涙を抑えきれない中高年ファンの姿が印象的だった。
逆ハンの忠、豪快の忠、当時のファンはそう呼んで憧れた。そして現在73歳の忠さん、走り出せば年齢を超越したキレのあるライディングはさすが。
ピットには有名どころが続々と忠さんを表敬訪問に。SP忠男レーシング出身の中野真矢氏に初期の目玉マークを見せる忠さん、嬉しそう。
特設ブースではDT-1スペシャル鈴木忠男レプリカ、DT-1 GYTキット装着車、AT2ノグチスペシャルの3台と当時のレース写真が展示された。
この特別企画の実現に尽力したのは奈良県のVMXワークスショップ『ホーリーエクイップ』の堀口社長(右から2人目)とスタッフの皆さん。
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