2018年4月27日
Honda CB1000R試乗 「このCB1000Rから新たなCBシリーズをスタートさせる!」 ホンダの新世代CB戦略車に乗ってみた
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
その昔、CBの名はホンダを代表するスポーツモデルに使われていた。その原点を尊重して「スポーツバイクの根源的な楽しさ」を深める。その一歩をCB250R、CB125Rを含めたこのシリーズで踏み出すと主張。だからスポーツライディングを強く意識したモデルだということが乗る前から窺い知れる。
スーパースポーツCBR1000RRのエンジンを使ったネイキッドのCB1000Rは以前にもあった。欧州名CB900F(日本ではCB900ホーネット)の後を継ぐように2007年から販売した。「えっ、知らない?」と思う人がいてもおかしくない。それは正式に日本では発売されなかったからだ。
前のCB1000Rは、イタリアのホンダ(HONDA ITALIA INDUSTRIALE SPA)が製造した、ターゲットを欧州市場に絞ったものだった。エンジンは3代目CBR1000RRのSC57型がベースで、ストリートファイター的な尖ったルックスに、プロアームのリアサスペンションを採用していた。過去に並行輸入されたものに乗ったことがあるが、パワフルなエンジンとフットワークが軽い走りがとても魅力的で、「日本でも販売すればいいのに」と、そうならなかったことを不思議に思ったものだ。
そう、国内で発売されたばかりのCB1000Rは、完全な新種ではなく、名前が同じ前モデルの後継機。エンジンは同じSC57 型から進化したもので、後ろのサスペンションもプロアームと同じ。ただ、ルックスはまったく違うものになっている。2017年の東京モーターショーに飾られていた“Neo Sports Cafe”と名の付いたコンセプトモデルでチラ見せしたスタイルそのままという感じ。
燃料タンク、シート、エンジン、ヘッドランプなど各要素が独立して見えるトラディショナルな要素を持ちながら、新鮮なディテール。例えば極限まで薄くして飛び出ないようにしたヘッドランプや、ショートテールの処理など。これは流行しているネオレトロには入らないと思う。鉄の馬と呼ばれていた時代のオートバイらしさを軸にした新しいスタイルだ。
金属感を大切にしており、ラジエターシュラウド部分はアルミ板をプレス成形してヘアライン仕上げにしたもの。特徴的な燃料タンク部分の塗り分けが少し長めのタンクを短く見せている。前後のホイールアクスル間を下底、燃料タンクが上底とし、フロントフォークとリアショックを繋げた台形スタイルにするために、リアショックの傾きの延長線になるよう燃料タンクのシルバー部分を入れたそうだ。その台形がどうのこうのは言われないと気が付かなかったけれど、この塗り分けは斬新で新しく、個性があって気に入った。シルバーはなるべく金属の色に近づけた新色だという。
いろいろ興味深いデザインだったので前置きが長くなったが、やっと乗った話に入ろう。残念なことに、試乗日は朝から雨模様だった。日常的景色に置かれたCB1000Rは、燃料タンクのボリュームに目がいって大きめに見えるけれど、近づくと意外なほど短くコンパクトだと気づいた。ホイールベースは1455mmと、排気量にしては短かったCB900 ホーネットと同じだ。エンジンを中心に外側になるほど余分なものがないカタマリ感がある。
シート高は830mmと数値だけ見ると、最近の流れの中では高い方。前を絞ったシートということもあり、身長170cm、昭和体型で短い私の足で、両足では拇指球まで届く。アルミテーパーハンドル両端のグリップ位置は、肩幅より広く、ライダーのおへそより高い位置。手前に適度な絞りがある形状だけれど、第一印象では遠目に感じた。胴体はやや前傾。ハンドルを大きく切る時に外側の腕が伸び、肩を大きく回すようになるかもと思いながら、乗車してフルロックまで左右にハンドルを切ってみてそれが杞憂だと分かった。ハンドルの切れ角は想像したよりあり、結果として山道での2車線Uターンがやりにくいなんてなかった。
平均身長が高い欧州市場がメインだからか、下半身のポジションも含めポジションには余裕がある。それでもぶかぶかではなく、股ぐら部分は細くキュッと締まった感じ。少し気になったのは、その締まった感じの中でも、燃料タンクの下にあるエアクリーナーBOXサイドに設けられた凸面カバーと、凹面になった燃料タンクのニーグリップ部分との境目に足がくることだ。このままでもホールドするのに不都合ないけれど、せっかく細くて股ではさみやすい燃料タンク形状の美味しいところを使えていない気がした。少なくとも私より足が短いライダーは、エアクリーナーBOXの凸面カバーの方をニーグリップしている感覚になるかもしれない。こんな些細なことを先に書いたのは、走りがとても良くできていたからである。
跨って、小さくスロットルを開けて雨の中へ出ていった。アイドリングに近い回転数で、人が歩くのと同じくらいか、それより遅い速度でそろそろと走っても、エンジンが急にストップすることなくそろそろと苦もなく動く。その部分でも不足のないトルクが出ているが、スロットルを動かしてもギクシャクする動きにならない。オフロードバイクでゆっくり走っているような粘り。急に開けても顕著なドンツキはなく、力強さがシームレスだ。スロットル・バイ・ワイヤ化の本領発揮といったところか。
日本で売られなかった旧モデルより圧縮比を上げ、最高出力=123.4hp〔92kW〕/10000rpm→145ps〔107kW〕 /10500rpmで、最大トルク=100Nm/8000rpm→104Nm/8250rpmと強力になっていると思えないほど制御がきめ細かくて、どの回転域でもスムーズ。6000回転を超えたあたりから一段とトルクが盛り上がって胸のすく加速を体感できる。このパワーだからあっという間にとんでもない速度が出てしまった。もっとパワフルで軽いスーパースポーツほどではないけれど、公道モデルとしてまったく不満ないほど速く走れる。
欧州の公道でトルクが盛り上がる部分を味わいやすいよう、旧モデル比較で4%ローレシオ化されたとプレスインフォメーションには書かれていたけれど、気になるほどローレシオに感じることもなく、日本の道でも使いやすい。富士山が見えるところの低中高と三拍子そろったワインディングを走ったが、各ギアの繋がりが良くて、どの回転域からでも、スロットルだけでぐんぐん加速するから面白い。ちなみに、オーバードライブになっていないトップ6速ギアで60km/hは2300回転くらいだった。この状態で普通に巡航できて、そのまま変速しなくても適度に加速する。
スロットル・バイ・ワイヤ化により、『RAIN』『STANDARD』『SPORT』、そして好みのセットが作れる『USER』の4つのライディングモードを搭載。途中で小雨に変わったけれど、路面はフルウェットだったこともあり、はじめは『STANDARD』で走り出した。リンクのないリアサスペンションは、体重69kgの私が跨っただけでも軽く入り当たりに硬さがなく、走っても標準のセットのまま良く動いているのを感じられた。右手をひねると、さらにぐっと入り、その奥でぐぐぐぐっと抑制され、ダンピングも含め、いろんな路面状況がある公道ではちょうどいい。速度を高めて積極的に走っても突っ張ることもなく、しなやか。SHOWA製のSFF-FBフォークを採用したフロントも剛性がありながら、初期の当たりはソフト、でもダンピングが程よく効いて、タイヤがしっかり路面をとらえている。乗り心地も上質だ。固いクッションだと最初に思ったシートも、1時間乗ったくらいでは違和感はなく、逆に適度に腰があって良いあんばいだ。
そのしなやかさのある足周りもあって、『STANDARD』モードをフルに使っても路面をしっかりとらえ不安を覚えず。だから、すぐにフルパワーの『SPORT』モードへ変更した。どのギアでもフルパワーになり、さらに高レスポンスなのは流石に気持ちいい。特筆すべき所は、そこでもコントロールしやすい扱いさすさは失わなかったこと。ウェット路面で危なくて使いづらいなんて1度も感じなかった。ブレーキもダイレクトに効いて、いつの間にか高くなっているスピードを減速させるのも楽だ。アップだけでなくダウンでも使える標準装備のクイックシフターを便利に使ってワインディングを堪能できた。『SPORT』モードではHondaセレクタブルトルクコントロールの制御の介入が小さくなるけれど、それを気にせず、思ったように、そしてスポーティーに走れた。
総じて完成度が高く、パワフルでフレンドリーな楽しい走り。乗りながら、重箱の隅をつつくようにアラを探したけれど、これといったマイナス要素が見当たらない。駆け抜ける魅力がちゃんとある。車重も動きもさらに軽く、と贅沢を言うならば、スーパースポーツを選べばいい。ネイキッドスタイルのパワフルなロードスポーツというカテゴリーで、この仕上がりは素直に賞賛したい。
他にETCとグリップヒーターも付いていて装備は充実していることもあり、それなりの価格になっている。価値観は人それぞれだが、“魅せる、昇る、大人のためのEMOTIONAL SPORT ROADSTER”という開発の狙いは実車からも伝わってきて、この存在感と上手くまとめられた走りに「値が高い」とは思わなかった。もう1度言うけれど、これはネオレトロではない。若々しくやんちゃなストリートファイターとも違う。もっと作り込まれた本物感がある。スポーツライディングが大好きだけど、ゆっくり流したい時もあり、急かせるようなものは疲れる。子供っぽいのもイヤ。忙しい日々をこなした後の休日に、さっと気軽に走りに行きたい。そんな人にハマりそうだ、と走りながら想像した。試乗を終えて、ヘルメットを取り、思わず出た言葉は「いいねぇ」だった。私もハマる側の人のようだ。次回は完全なドライでもっと長時間乗って、この印象が変わらないかを確かめたい。
(試乗・文:濱矢文夫)
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