2018年4月17日
YAMAHA XMAX試乗 『250“ビッグスクーター” の本質的なユーティリティーの良さはかわらず。ならば、無駄な豪華さ、装備を省けばいい』
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗
■協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
一時的なブームは去ったけれど、トランクを備えたビッグスクーターという気軽に便利に使える乗り物の魅力は衰えない。XMAXはその原点に戻りつつ、走ることをさらに見つめ直している。見た目ほど特別な部分はない、と思わせるほど良くまとまっている。
走り出して最初に感じたのはカチッっと剛性感だった。インナーチューブ径33mmの正立型フロントフォークは、ビッグスクーターとして一般的である、アンダーブラケット部分で終わる自由長が短いものではく、普通のオートバイのようにアンダーブラケットを貫通しトップブリッジまで繋がった構造になっている。これはヤマハを代表するスポーツスクーターであるTMAXと同じやり方だ。このおかげもあってか、特にフロント周りのしっかり感は頼もしい。
交通量が少ない場所で後方を確認して、60km/hほどで走っているところから、わざとABSが効くまで急制動をかけてみたが、車体が大きくよれるような動きはほとんどなく、一体感を伴い何事もなかったように停止までもっていけた。ブレーキの制動力は250スクーターの中でも強力。フロントタイヤがグリップしているのが手に取るように伝わってきた。車体後端に取り付けられた2本リアショックと合わせた乗り味は、スポーツ車的で沈み込むほど硬質。しかし初期の動きが良くて、減衰も効いているから、巡航している時の乗り心地が意外なほど良い。急にある小さい凸凹などを高い速度で通過すると、バスっと音が出てサスペンションが入るけれど、揺り戻すようなふわふわする動きはない。整備された舗装路で普通にあるような段差などは足だけで衝撃を吸収してくれる。前後に揺すられるようなピッチングモーションが少なく、車体をフラットに保つ。
純正で履いていたタイヤはDUNLOPのSCOOTER SMART。スポーツ系ではなく、ストリートでの快適性なども重視したバランス型のバイアスタイヤで、剛性とグリップ力はそれほど高くはないけれど、接地が手に取るように分かる足周りのおかげもあって、かなり荷重をかけるような走りをしても不安にならない。このコントロール出来ている感じは、’80年代のビッグスクーター創世記からライダーをやっている者からすると「ここまできたんだな」と感嘆してしまう。味付けは同じヤマハMAXシリーズスクーターのTMAXの流れを汲むもので、今まであったマジェスティシリーズもスポーツ度を高めながら進化していったが、それとは違うものだ。
ビッグスクーターは、その進化の過程で、走りだけでなく利便性と快適性など装備面の充実化、豪華さに拍車がかかり、高級感を感じさせる仕上げの装飾的な外装や、トランスミッションにマニュアル変速できる機能など盛りだくさんになっていった。それを否定はしない。魅力的な乗り物としてビッグスクーターブームを作った要素の1つだった。ただ、その結果として車体が少しずつ重くなっていったことは否めない。このXMAXは、そういうてんこ盛りをしていない。だから軽いのである。走っている時だけでなく、ちょっと車体を斜めにしながら前後に押している時なども含めて、その軽さを実感した。
積んでいるエンジンは水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒249cc。最終のマジェスティよりショートストロークで最高出力、トルクも上回ったスペック。より高回転タイプになっていて、備え付けられているタコメーターに目をやりながら運転していると、5千回転くらいからの加速の伸びが気持いい。レッドゾーンは8千回転の終盤からだが、実質、7千回転を若干上回ったところを保ってスルスルっと速度が伸びていく。そのエンジンによる加速、速度に、車体と足周りがへこたれないので、スロットルを大きく開けながら思ったように動きをコントロールして走れるのが気持いい。
そこもさることながら、特に好感を持ったのは、俊足感を演出するようにゼロ発進からの加速を急にしていないところだ。出だしで「そんなに速くないかな」と思う人がいるかもしれない。しかし、このおかげで、街中でよくあるノロノロと歩くような速度域での加減速をする場面で、スロットル操作に神経質になることがない。だから実に楽ちん。Uターンでもまった気を使うことがなかった。コミューターとしての実力は充分。ビッグスクーターブームの時は、前述のようにケレンとまでいかないが、いろんな要素が詰め込まれていた。このXMAXは、攻撃的で凝ったカタチの見た目とは裏腹に、あまり余分なものを入れずにビッグスクーターの利便性、機能、走りをまじめに作り込んでいるという印象だ。
これに、四輪自動車も含め今や当たり前となっている便利なスマートキーを採用し、普通のオートバイより小径ホイールを履いているスクーターが苦手とされてきた滑りやすい路面で、より使いやすく安全にするためにトラクションコントロールが装備されている。
唯一、気になる部分は、高いシート。身長170cmで足が短めの私で、シートの前寄りに座って、両足なら曲げた指の付け根が届くくらい。通常運転する時の位置にお尻があると、両足同時接地はきびしい。個人的に片方ステップボードに置いた状態で、もう片足さえ届けば足つきはまったく気にならないので、もっと低くした方がいいと試乗中思ったことは一度もない。先に述べたように極低速での走行が容易で、車体をバランスさせやすいのも味方して、足を地面につく回数が少なくてすむ。ちゃんと両足を届かせたければ、シート前方に身を乗り出せばいい。ただ、これはあくまでも個人の感想である。オートバイはバランスで乗るもので、足つき至上主義のような現代の流れを好ましく思っていないが、だからと言って、シートが高いことが、どんなライダーでも不都合にならないと断言できない。事実として、信号待ちなどでは、オフロード車までとはいかないが、意識せずに地面に足を伸ばす方へお尻をずらしてしまっていた。
高速道路走行でのスタビリティは素晴らしいものがある。うねるようなワダチがあっても、継ぎ目があっても、スロットルは開けたまま気にすることなる車体を前へ進ませられた。地面の凹凸を上手にいなす。視線より下ながら大きなスクリーンもあり、長時間の移動するグランドツーリングも得意そうだ。ライダーのおへそよりハンドルバー1本分高い位置にあるグリップを握り、シートストップにお尻が当たるところがしっくりくるポジション。その時でも腕の長さに余裕はあり、足も遠くなく、近すぎず、踏ん張れる膝の曲がり。
高速域で左右に切り返す場面では普通のオートバイのような俊敏な動きにならないけれど、逆に、そこで「もうちょっと俊敏に」と贅沢に思わせるところが、XMAXの素晴らしいところ。ビッグスクーターのプリミティブな快適性、機能性をしっかり担保しながら、スポーティーな味付け。一時的なブームは去ったけれど、トランクを備えたビッグスクーターという気軽に便利に使える乗り物の魅力は衰えない。この機種はその原点に戻りつつ走ることをさらに見つめ直している。見た目ほど特別な部分はない、と思わせるほど良くまとまっている。
(試乗・文:濱矢文夫)
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