2018年4月4日
Kawasaki Ninja H2 SX試乗 『どうかしてるよ、この加速。 新旧、両方の意味で ホントにヤバい、エッチツー!』
■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
Ninja H2 SXは
スーパーチャージドモンスターNinja H2の
いわばツーリングバージョン。
Ninja H2がさらに進化して
もっとスーパーチャージャーが身近になった。
……とはいえ200psの野獣は健在!
まったくH2って、どうかしてる!
刺激度世界ナンバー1の地位、ゆるぎない!
スーパーチャージャー搭載の200psエンジン搭載で世界のド肝を抜いたNinja H2/H2R登場から2年、カワサキがまたまた世界を驚かせた! それが、このNinja H2 SX。あのNinja H2のツーリングバイクバージョンである。とはいえ、スーパーチャージャー搭載の200psスポーツ、こ、これのどこがツーリングなんだ、と思ったけれど、その予想は正解半分、不正解半分。さすがカワサキ、軽々と僕の予想のナナメ上を行く。
Ninja H2 SXに搭載されるスーパーチャージドエンジンは、Ninja H2のそれそのものではなく「バランス型」スーパーチャージャー。これは、パワーだけを追い求めるより、燃費性能や、より低回転域での扱いやすさを考えられた専用エンジン。圧縮比を高め、吸気量を減らし、インジェクションのスロットルバルブを小型化。バルブのオーバーラップを減らした専用カムや専用形状の吸排気ポートなど、総じて常用回転域のトルクアップ、扱いやすさの向上を目指している。すごく大雑把に言うと、キャブレター時代のキャブレターメインボア口径を小さくして、よりストリート向けに出力特性をリファインした――そんな印象。
車体のパッケージはNinja H2のフルカウルバージョンで、Ninja H2よりもハンドルは高く、シートは低く、ステップは前方にセットされている。さらにホイールベースが伸ばされ、リアフレームの剛性を上げた新フレームを採用。リアフレームの剛性アップは、タンデムやオプションのパニアケース装着を考えてのことで、これもNinja H2のツーリングバイク適正を上げている、と見て取れる。ちなみに車両積載重量は、Ninja H2の105kgから195kgにアップ。タンデムしてパニアケースに荷物をたくさん積んでの旅までカバーする、という意味だ。
ハンドル位置が高く、ハンドル切れ角も27度から30度に広げられているからか、またがった時、走り始めたときの緊張感がNinja H2ほどではなかった。もうこれだけで、少しだけスーパーチャージャーに近づける、といった感じかな。それにしても、試乗したNinja H2 SXの上級モデル「SE」は、フルカラーTFT液晶スクリーンのメーターパネルと、ひと目では何を調整するのか理解不能なハンドルスイッチが、いやおうなく緊張感を強いてくる。
走り始めは、ごく普通。やはり、スーパーチャージャー200psの初乗りということで、スロットル開度は抑え目のソロソロした発進。緊張の甲斐なく、Ninja H2 SXはあっけなくスタートする。ごく低回転域はエンジンノイズがあって「ジャーッ」という手応えとざらざらした振動が感じられるが、タコメーターの針が3000rpmに差し掛かるときれいに消える。
この時点で、メーターパネルに示された「BST」のバーグラフが少しずつ上昇。そうか、これはブーストメーター! 4000rpmくらいから、ハッキリ体感できるほどのスーパーチャージ劇場が始まるのだ。
少しずつ慣れてきて、4000rpmあたりにわざと踏み入れながら、スロットル開度やスピードを調整してみる。すると、まるで第2の動力が発動したように、ギュイィン、とトルクが乗ってくる。これ、Ninja H2よりも明らかに低回転からブーストがかかり始めているのがよくわかる。かかり始めの加速も、Ninja H2よりもやや控えめ。ただし、あくまでも「やや」だから、うっかりスロットル開度を大きくすると、まるで車体を前からグイン、と引っ張られたかのような加速を味わうことになる。しばらくは、身体が慣れない加速の仕方なのだ。
たとえばNinja ZX-14Rといった大排気量の大パワーエンジンならば、このあたりの回転域から、こんなかんじでパワーが盛り上がってきて……っていう手応えを体が覚えてるんだけれど、Ninja H2とSXは、その心の準備を吹き飛ばしちゃう。おっとっとっと、そうかそうか、ってアクションを繰り返すことになる。
パワー特性は、ひとことでいえば柔軟そのもの。ゼロ発進からの3000rpmあたりまでは、上に書いたジャーッというノイズが目立つんだけれど、その上はいたって従順。回転を上げてひとつずつシフトアップしていくと、4000rpmあたりからスーパーチャージャーが効いてきて、知らない間にとんでもないスピード域になってるんだけれど、早め早めにトントンとシフトアップしていくと、すごくジェントルなパワーフィーリングを味わえる。
ちなみに6速1500rpmといった、アイドリングすれすれの回転域だって、Ninja H2 SXはノッキングひとつなく、スーッと加速態勢に入る。この時のスピードは40km/hといったあたりで、事実Ninja H2 SXは、6速でのゼロ発進こそ不可能だけれど、ある程度のスピードが出ている状態からならば、40km/hから300km/hまで(ってこれは試してはいないけれどw)6速ひとつでカバーできるってことになる。これは、スーパーチャージャー装着以前に、元エンジンの「素」が良くできていることに他ならない。
クルージングでは、80km/hが6速3100rpm、100km/hが4000rpmあたり。この時、スーパーチャージャーの過給をし始めているエンジンは、どんどん、もっともっとスピードを出したくてウズウズしている状態。一定スピードをキープする、それも100km/hといったスピード域では、それが難しい。アクセルほんの数mmの開け閉めで、すぐにスピードが増減してしまうからだ。
しかし、そこは最新ツーリングバイク。Ninja H2 SXにはクルーズコントロールが標準装備されていて、巡航スピードを設定すれば、スロットル開度を一定に保つという大仕事をする必要がなく、一定スピードをキープすることができる。クルーズコントロール自体、もはや珍しい装備ではないが、国産モデル(それも国内市販モデル)ではまだまだ数少ない。今回の試乗では、このクルーズコントロールを駆使して、すごく楽にクルージングすることができた。
Ninja H2 SXのような最高速度250km/hオーバーのハイスピードモデルとなると、スピードを一定に保つのはかなりキツい。スロットルのリターンスプリングの力に抗って、スロットル開度を一定にするのは、案外に力がいるものだから、自然と右手に力が入って、手首は痛くなるしシビれるし……。クルーズコントロール自体、設定した速度は、ブレーキレバーやブレーキペダル入力、クラッチやシフトペダル操作、さらにスロットルを閉じ方向に力を入れるだけで設定解除されるので、危険さよりも、すぐに慣れる。クルーズコントロール、もっともっと普及してもいいと思います。
ハンドリングは、どっしりとした安定感に裏打ちされたしっとりしたツーリングバイク風味。これはNinja ZX-14Rのような低重心のドッシリさとは違って、サスペンションがしっとりと動いて路面に吸い付いているような動き。ホイールベースはNinja ZX-14Rと同じ数値だが、重心が高い分、動きはクイックで、運動性はより高い。切り返しも軽く、倒しこみもNinja ZX-14Rより軽い。このあたりはスポーツバイク的動きに感じられた。少しワインディングも走ってみたけれど、この時の動きはNinja ZX-14RでもNinja H2でもNinja ZX-10Rでもない、Ninja1000に似ているかな。
この時、少し気をつけたいのは、やはりスーパーチャージャーの存在。ワインディングで加速→減速→バンク→スロットルオン→立ち上がり、という流れの中、スロットルオンの段階でスーパーチャージャー過給が立ち上がり始めると、いわゆるドンツキが現われて、ドンとライン一本分持っていかれるような、そんなコーナリング中加速が現れてしまうのだ。
スーパースポーツだってラフなスロットル操作は厳禁だけれど、Ninja H2 SXではもっと慎重にスロットルを開けなくちゃならない。もちろん、このコーナリングドカン(笑)を食らって車体がグンと前に進もうとしても、タイヤのグリップを越えるようなレベルになると、きちんとトラクションコントロールが介入してくれるので、危険なレベルには達しない。
このダッシュ力をきちんと手なづけられたら、これはスーパースポーツにも劣らない立ち上がりを見せられる。もちろん、Ninja H2 SXはそんなバイクじゃないよ、って言われたらそれまでなんだけどね。
ツーリングバイクの平和なクルージングが味わえて、お化けのような加速感。Ninja H2 SXはただのツーリングバイクじゃない、スーパーチャージド・スーパーツーリングバイクなのだ。Ninja H2 SXにはパワーモードがF/M/L(=フル/ミドル/ロー)と3段階に用意されているから、Mにして走っていると、まったく普通の「よくできた1000ccマルチシリンダー」なパワー特性で走ることができる。でも、やっぱFで走りたいしねw。
それにしても、やはりNinja H2 SXの真骨頂は、ハイスピードクルージング。今回の試乗では、少しでもクルージングスピードを上げようと、新東名高速道路の110km/h制限区間を走ってみたけれど、6速110km/hは4400rpmくらいで、その時の車体はビタッと安定していた。少し路面のキックバックがある感じがしたから、フロントフォークとリアサスを調整してみたけれど、こういう重量車は、サスペンションの調整機構を上手く使うと、より快適に走ることができる。手首や頭の高さはそのまま、タイヤは路面をきちんと追従して、サスペンションが絶え間なく上下運動を繰り返しているような、そんな印象。
クルージングしていて、前車の追い越しや混雑を避ける意味で瞬間的にスロットルを開けることはあるけれど、Ninja H2 SXは、その時がホントにスゴい! 速度が低くて、エンジン音が耳に入るような局面では、ヒョウゥゥ、とかキョパパパッ、ドヒョオォォォ、っていう摩訶不思議なサウンドを発生しながら、Ninja H2 SXはグングンと加速してくれる。
ハッキリ言って、この加速、どうかしてるね(笑)。いちどテストコースも走ったんだけれど、6速100km/h=4000rpmくらいからスロットルひと開けで、アッという間に200km/hの世界! 実際に数える余裕はなかったんだけれど、いーち、にーい、さーん、で100km/hが200km/h突入じゃないかなぁ……。本来なら、ここから加速したいとなると、コンコンとひとつふたつシフトダウンしてからスロットルをカパ開けするんだけれど、Ninja H2 SXにはそれ不要。このままストレートが続いたら、本当にアッという間にサンビャッキロなんだろうなぁ……。
しかも、200km/hで走っている時だって、車体はピタッと安定していて、スピード感がないくらい。感覚的にはNinja H2 SX での200km/hは、GPZ900R Ninjaの130km/hくらいの感じなのだ。やや大げさかな、いや、それほど圧倒的に平和な超高速域だ。これは、ハヤブサやZX-14Rの存在意義が危うくなっちゃうかも……。
ヤバい――。これって最近は「スゴい」とか「カッコいい」、「魅力的」って意味に使われるけれど、もともとは「危ない」とか「とんでもない」、「ワケわかんない」って意味だった。
いま、あらためてNinja H2、そしてNinja H2 SXを評すると、ホントにヤバい、チョーヤバい! いや、新旧両方の意味でねw。
(試乗・文:中村浩史)
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