2018年3月28日

サーキットも楽しみたいスポーティライダーに贈る『帰ってきたロッソコルサ』

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■ピレリ・ジャパン https://www.pirelli.com/tyres/ja-jp/motorcycle/homepage

オールラウンドな高性能スポーツタイヤとして支持を得ている、新作ロッソIIIだが、さらにもう一つ上の領域、サーキットも積極的に楽しみたいというライダー御用達だったのはロッソコルサだったハズ。そのロッソコルサがIIになって帰ってきた。7年ぶりのアップデートを確認すべく、雪の舞う富士ショートコースでテストライド。


 
 ワールドスーパーバイク選手権のオフィシャルタイヤサプライヤーであり、「レースで使用するタイヤを販売し、販売するタイヤでレースする」と掲げるピレリ。公道を走る市販車をベースとしたこのレースに参戦を続けることで、公道へのフィードバックを重視した開発を続けている、というわけだ。そして今回発表となった新作ロッソコルサIIはこのスローガンを象徴するタイヤとしてデビューした。

 ピレリブランドと言えば、やはりスポーティなイメージが強いだろう。特にサンデーレーサーや、サーキット走行会を楽しむライダーにとっては、ピレリの頂点モデル、ディアブロスーパーコルサは強い味方であり、タイムを出せるタイヤである。一方でツーリングライダーはエンジェルGTやスコーピオントレイルといったタイヤを使用するだろうが、それらにもピレリらしいスポーティな思想がしっかりと感じられる。

 ピレリのスポーツ向けタイヤと言えば、頂点が先ほどのスーパーコルサ、そしてより公道向けであるもののツーリングタイヤよりはスポーツ寄りというのが最近新作となったロッソIII。今回のロッソコルサはその2ブランドの中間に位置するもので、スーパーコルサほど温度に敏感にならずに済むしライフも比較的確保されているが、ロッソIIIよりはかなりスポーティ、という欲張りなタイヤだ。ちなみにロッソコルサブランドが新しくなるのは実に7年ぶりのことであり、その間の技術の進化によってロッソIIIが旧作ロッソコルサの性能を追い越しているのではないか、などと言われていた。しかしロッソコルサIIは再びその立ち位置を明確にした。

 新作のロッソコルサの技術的なことを少し話しておこう。旧モデルに対して、まずはプロフィールがアップデートされた。新作は表記タイヤサイズは同様でもより大きなプロファイルをしており、レーシングタイヤ並みの安定した接地面を追求。全体的に少し大きくなったと言える形状だ。リアタイヤも同様のアプローチで変更が加えられている。
 トレッドパターンはロッソコルサの立ち位置を象徴するかのように、まさにスーパーコルサとロッソIIIの中間といったイメージ。フルバンク領域にはパターンを配置せずにスリックとすることでレーシングスリックタイヤに匹敵する絶対グリップ性能を追求。これによりフルバンクからの力強い加速時には強大なグリップが発生し、これに対応するためにリアタイヤはショルダー部分の構造を強化。一方で公道での使用も重視し、ウェット走行時に多用するリーンアングルにはグルーブを増加。これにより迅速なウォームアップと優れた排水性を確保している。
 コンパウンドは、フロントタイヤのセンター部にドライ、ウェット両方の路面で良いバランスを発揮する100%シリカコンパウンドを採用し、30°以上のリーンアングルで接地を始めるショルダー部にはスーパーコルサと同じ配合の100%ブラックカーボンコンパウンドを使用。
 
 リアタイヤはこれに加えて5つのゾーンにコンパウンドを分けることでフロントとのシンクロを追求。センター部は70%シリカコンパウンドで性能とライフを両立、ショルダー部はフロント同様にブラックカーボンコンパウンド、そしてその二つを繋ぐ中間バンク角には二つを安定してつなげていく、剛性の高い100%シリカコンパウンドを採用することでライン取りの正確性を追求している。
 これら変更により新作ロッソコルサIIはあらゆる領域で旧型を凌駕し、進化してきた。惜しむらくは試乗日が雪だったことだけである。
 

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指定空気圧でワインディングのつもりで乗っていると転がり抵抗も少なくバンキングも早く、気軽に乗ってもスポーティさを味わうことができる。しかしCBではタイヤの性能が勝っているようなイメージも。CBのような今やクラシカルなバイクに装着しサーキットを走ろうと思ったら、サスのセットアップをしていった方がよりタイヤの性能を引き出せ、楽しめることだろう。


 
 プレス向け試乗会が用意されたのは富士スピードウェイのショートコース。今回のモデルチェンジの柱となったのは、軽量ハイパワー化が著しいスーパースポーツバイクに対応するという事であり、そのため用意された試乗車の多くは当然スーパースポーツモデルだった。気温0℃で雪がチラつく中で乗りたい車種ではないというのが正直な気持ちだが、スーパースポーツ系として新型のGSX-R1000RとBMWのアップハンスーパースポーツS1000R、そしてネイキッドとのマッチングも確認する意味でCB1300SFに試乗した。タイヤ空気圧はそれぞれ冷間で2.5ほどに設定されていたため、温まれば公道での指定空気圧といったあたりだ。

 まずはCB1300SFから走り出す。良きオールラウンダーではあるものの、スーパースポーツ系と比べると大きく重たい車種ではある。しかしロッソコルサは軽快で、巨体を軽々とバンクさせていくことができた。特に切り返しがスパッと決まる感じはピレリらしいスポーツ性が感じられて印象が良い。温まり性も良いようで、CBの限られたバンク角ならば2周目ぐらいにはすでにステップを擦るほどに寝かし込むことができていた。
 軽快な操作性とコロコロとフリクションなく転がっていく感覚を楽しんだのち今度はもう少し攻め込んでみたのだが、しかし不思議とマッチングがぼやけてきてしまった。サーキットを走るには空気圧が高いという関係もあるかもしれないが、タイヤばかりが先走ろうとするイメージで、サスが柔らかく車体が重たいCBでは積極的なサーキット走行は難しい印象も。CBで走るならサスペンションをもっとしっかりとセットアップしていく必要がありそうだな、という印象で試乗を終えた。もっとも、公道ワインディングレベルではこのピレリらしい軽快感を十分楽しめるだろう。

 続いてGSX-Rである。CBに比べると圧倒的にコンパクトで軽く、パワーも倍ほどある。走り出すと、やはりこのタイヤはこのようなモデルのために作られたのだな、と感じられるよきマッチングだった。軽く走れてそれでいてこの気温でも接地感があって安心できるのは印象が良く、すぐに深いバンク角に持ち込むことができた。しかし指定空気圧でサーキットを走るのは無理がある。特にこの気温ではタイヤ全体をしっかりと温めることが難しいため、まずは空気圧を温間で2.4まで落としてみた。ピレリ関係者は劇的に落とすことを躊躇していたが、個人的にはもっと落としても良さそうな印象だ。
 温間2.4で走り出すと、さっき以上に豊富なインフォメーションが伝わってくる。特にフロントタイヤはしっかりと路面を掴んでいる感覚が出てきて、これまでのコロコロと表面的に乗るのではなく、しっかりとブレーキを握り込んでいき接地面が変形して路面に張り付いているのが感じられる。この感覚はスーパーコルサ的であり、これらスーパースポーツをサーキットで走らせるのも十分楽しめるネットリとした接地感だ。雪という厳しい条件下で、しかもタイヤウォーマーもないこの状況でもこれだけの好印象を得られたのは嬉しい。
 
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 限られた試乗時間を終えGSX-Rを降りると、もっと空気圧を落としても良さそうだな、という感想だった。公道も考慮したタイヤでありサーキットでの空気圧セッティングを追求するような試乗会でもなかったのだが、しかしポテンシャルの高さを感じるからこそベストの空気圧を探りたくなったのだ。
 次の試乗枠はS1000Rで、温間フロント2.2、リア2.4でスタートしてみた。アップハンという事もあり少し印象は違うが、とても好感触のS1000R。十分以上のパワーとSS車由来のシャープなハンドリングや正確さで、しかもショートコースではむしろ見渡すことができて余裕も生まれるポジションにすぐに体が馴染む。空気圧を落としたタイヤも印象が良くすぐにペースが上がった。しかし特にフロントについてはもっと落としても大丈夫そうな印象。すぐにピットインし、温間でフロント2.0、リア2.2まで下げてリスタートした。最初はフロント周りに重さがあったため「少し落としすぎたかな?」とも思ったが、ペースが上がるほどに重さはなくなり、フロントのコンタクトパッチが非常に冷たい路面にギューッと押し付けられてグイグイと内側に曲がっていく感覚が明確になってきた。これは癖もなく非常に使いやすいと共に、まさにスーパーコルサのような信頼感やグリップ感だ。
 
 嬉々として走り回ったのち、ピットインしてすぐにまた空気圧を計ったところ、フロントは2.2、リアは2.4へと上昇していた。空気圧を抜いたことでタイヤ全体が良く動くようになり、そのおかげでゴムが揉まれて発熱しさらに内圧が上がったのだろう、タイヤはウォーマーをかけたかのようにトレッド面だけでなく全体的に熱くなっていた。この温間2.2/2.4が気温0℃のこの日では一番印象の良いセットとなった。ロッソコルサIIは公道での使い勝手も重視したタイヤのため、公道では特に無理のない空気圧を維持してほしいが、サーキット走行のように公道ではありえない負荷や熱がかかる場面ではぜひこのように様々な空気圧を試していただきたいと思う。今回は気温やサーキットが特殊ではあったものの、そのスポーツ性はワンランク上のスーパーコルサに肉薄するものだと確認できたように思う。

 好調のロッソIIIに引き続き待望ともいえる登場を果たしたロッソコルサ。ワインディングライダーや走行会を楽しむライダーからは「ロッコル」などと親しまれているのも耳にするが、このアップデートはそれらファンの心をまた掴むことだろう。使う人のイメージとしては、保安部品がついたままのバイクでサーキットも楽しむ人、という感じだろうか。カウルなどもレース用にしてしまった完全サーキット仕様のバイクを持っている人だったらスーパーコルサだろうけれど、公道も走る、ワインディングも楽しみたい、という人にぴったりに思う。ナンバー付スーパースポーツなどのハイパワーなバイクに乗っていて、シーズン中に複数回サーキットを走るようなライダーには、是非選択肢に加えていただきたいタイヤである。
 

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最近のスーパースポーツの進化に対応したアップデート、と言われた通り、やはりスーパースポーツモデルとのマッチングは非常に良い。分割コンパウンドや熱が入りやすいグルーブ配置のおかげで雪の舞うコースでも楽しく走ることができた。サーキット走行時は空気圧の調整も忘れずに。空気圧によりかなり違った表情(と性能)が引き出せるタイヤだ。


 
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●サイズラインナップ
フロント
120/70ZR17

リア
160/60ZR17
180/55ZR17
180/60ZR17
190/50ZR17
190/55ZR17
200/55ZR17


 
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今回初採用した分割コンパウンドのイメージ図である。フロントはセンターと両サイドで違うコンパウンドを用いる3分割、リアはさらに細分化した5分割を採用。ショルダー部のコンパウンドはスーパーコルサと同じ100%ブラックカーボンを採用しスポーツライディングをサポートしてくれる一方、センター部のコンパウンドは公道での使いやすさや耐摩耗性を確保している。


 
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スーパーコルサとロッソIIIの中間ともいえるイメージをもつ新グルーブデザイン。公道で使う領域ではむしろグルーブを増やすことで温まり性や排水性を向上させると共に、ブルバンク領域では全くグルーブを配さずにスリックとしている。もっと暖かい状況で思いっきり走らせてみたいものだ。


 


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